※この作品はR-18です。

獣吼の咎者   作:凰太郎

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銀弾吼える! Chapter.5

 

【挿絵表示】

 

 外界を染める夜闇から黒月(こくげつ)が覗(のぞ)く。

 これから起きる悲劇を享楽(きょうらく)に味(あじ)わわんと……。

 石造りの部屋であった。

 その面積は、教会内の人数が入れば限界ではある。

 もはや立ち入る者など存在しないが……。

 埃(ほこり)塗(まみ)れの室内は帷(とばり)の如(ごと)き暗闇に呑まれ、連なる天窓から射(さ)す月光が淡い光源であった。

 石床へと雑多に積まれた荷物の中身は、毛布や衣類といった日用品。簡易的な調理道具や防寒具も有(あ)る。

 奥に据えられた簡素な木棚にもダンボール箱が陳列されている。中身は非常食だ。とはいえ、闇暦(あんれき)に於(お)いて既製品は入手しづらい。全(すべ)て自家製である。

 そんな一室(いっしつ)に、罪人は隠れていた。

 償(つぐな)えぬ黒い重圧に、嗚咽(おえつ)を零(こぼ)して……。

「ぅぅ……ぅぅぅ……どう……して……こんな…………」

 シスタージュリザは、ひたすらに泣き濡れた。

 青い瞳から大粒の涙が落ちる。

 麗しい美貌を自責の糾弾に歪(ゆが)め、垂(しだ)れる金糸(きんし)は罪悪の羞恥(しゅうち)を隠すベールの如(ごと)く……。

「何で……あの子達を……私は…………」

 血肉の味──吐きたくても吐けなかった。

 卑(いや)しい本能(・・)が拒否した。

 その理不尽な苦痛は如何程(いかほど)か……。

 おぞましかった。

 憎かった。

 哀しかった。

 悔しかった。

 情けなかった。

 その内に潜む〈獣〉が……。

「な~るへそ、隠し部屋が在(あ)ったか?」

「ッ!」

 慄然と振り向く!

 聞き慣れた声へと!

「冴……子?」

「はぁ~い★」

 驚愕の瞳孔に映り込む揚々。

 扉の前に立つ処刑人は、ヒラヒラと掌(てのひら)を振る。

 その弛緩(しかん)した笑顔は、普段と何ら変わらない。

 処刑直前の対面だというのに……。

 さりとも自然体のおおらかさは、闇暦(あんれき)の地に降り立った〈太陽〉にも思えた。

 罪人の自分には優しすぎる。

「マザーの部屋に在(あ)る柱時計……まさか、それが隠し通路になっていたなんてね」

「殺しに……来てくれたのですか?」

「……うん」

 憐憫(れんびん)を染めた〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉の愁(うれ)いに、ジュリザは感謝を微笑(ほほえ)んだ。

 頬を伝う雫を拭う事も無く……。

「……ありがとう」

 嗚呼、慈悲を授(さず)けられる。

 殺してもらえる(・・・・・・・)という慈悲を……。

「……いつ(・・)知った?」

 一転して引き締まった抑揚が、尋問(じんもん)を投げ掛ける。

「先日〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉の人質とされていた時に……」

「ヤツラから教えられた?」

「……はい」

「此処で覚醒した時には?」

「自覚は、ありませんでした」

「私に依頼した時にも?」

「はい」

「……そっか」

 気まずい間を持て余すかのように、夜神冴子は銀銃の具合を再チェックした。

 もうじき使う。

「あと二(ふた)つ、訊(き)いてもいいかな?」

「はい」

「この部屋は、何(・)?」

「避難部屋ですよ。万(まん)ヶ一(いち)〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉等の強襲を受けた際に、子供達を匿(かくま)えるように……」

「ふぅん?」

 軽い相槌(あいづち)を置いて、周囲を見渡す。

「掃除(・・)は下手みたいね」

「掃除は何年もしていません。着手途中で放置されたままでしたから」

「そ」

 ジュリザの説明を流しつつ、冴子は胸中に確信を噛んでいた。

 違う。

 此処は避難部屋などではない。

 晩餐室(ばんさんしつ)だ。

 周期的な飢餓感に於(お)いて、誰にも気付かれず貪(むさぼ)る為(ため)の……。

 縦(よ)しんば、教会の子供でなくても好(よ)い。

 適当に拐(さら)った贄(エサ)で好(よ)い。

 そうして、ヤツ(・・)は欲望を満たしてきた。

 そうして、ヤツ(・・)は獣性を抑制(コントロール)してきた。

 荒れ猛る衝動を……。

 事実、此処(・・)は使われている。

 縁(へり)や目地(めじ)へと微(かす)かにこびりついた黒いシミが物語っている。

 アレは血痕だ。

「もうひとついい?」

「はい」

「〈ベート〉は、何処?」

 乾いた苦笑に、愁(うれ)いが首を横に振る。

 嘘ではないだろう。

 彼女(・・)を知っている。

 良心の前に於(お)いて、嘘はつかない。

 憐れなほどに愚直過ぎる。

「私からも、ひとついいですか?」

 ジュリザからの訊(と)い掛(か)けであった。

「……あの子達は、やはり私を怨(うら)んでいるのでしょうか」

「知んない」

 興味皆無とばかりに弾数を確認して、装填弾層(マガジン)を再セットする。

「……だけど、ひとつだけ分かった事もある」

「…………」

「あの子は……アニス達は〈獣(・)〉を激しく憎んでいる」

「そう……ですか」

 当然だ。

 憎まれて当然。

 怨(うら)まれて当然。

 無自覚だったとはいえ、自分は偽善の大罪人。

 それを今更(いまさら)、思慕(しぼ)へ逃避しようなどと……免罪符(めんざいふ)を得ようなどと……虫が良過ぎる。

 噛み締める罪悪感。

 そんな自責へ、変わらぬ抑揚が続ける。

「だけど、アンタ(・・・)の事は慕っている……母のように」

「……え?」

 夜神冴子は、そう感受していた。

 明言されたワケではないが……。

 あの〈獣〉を討(う)って……敵を取って──と。

 そして、ジュリザ(・・・・)を救って──と。

 はたして、それは〈巫女〉としての素質に依(よ)るものであろうか。

 それとも、利己的な自己弁護が作り出した幻聴であろうか。

 どちらでもいい。

 為すべき事(・・・・・)は変わらない。

「ジュリザ、ひとつ謝っておく」

「……何でしょう」

「私は、戻す方法(・・・・)を知らない」

「……はい」

 死刑執行を前に麗女が辞世(じせい)としたのは、儚(はかな)くも優しい微笑(ほほえ)みであった。

 覚悟は定(さだ)まっている。

 せめて〝人間〟の内に死ねるのなら──

 彼女(・・)に裁かれるのであれば──

 これほど温情的な刑罰は無い。

「……さよなら」

 簡潔に告げて〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉は銃口(じゅうこう)を定めた。

 呪われし聖女の左胸へと……。

(ありがとう……)

 受け入れた表情は静かに瞼(まぶた)を綴(と)じ、虚空を仰いだ。

 執行の数秒──ドクン──鼓動!

 ジュリザの内に胎動(たいどう)を刻み始める邪心!

 

 死にたい──

 

 ──死なぬ!

 

 もう充分──

 

 ──まだ足りぬ!

 

 私は罪人──

 

 ──我(われ)こそは真理!

 

 私は──

 我(われ)は──

 ──喰らう側(・・・・)だ!

 

 呑まれた!

 狡猾(こうかつ)なる潜在意思は、砂粒程度の〝弱さ〟を糸口(いとぐち)と利用した!

 生きる者ならば万人が持ち合わせる「死にたくない」という深層意識を!

「か……ぁぁァァァアアーーーーッ!」

 美しき肢体が醜い獣毛に覆われ始める!

 しなやかな女体は筋肉を増し、繊細な骨は強靭(きょうじん)な支柱と育った!

「ジュリザ!」

 悲痛な想いを叫び、冴子は白き閃花を轟かせる!

 獣化はさせない!

 未完了な段階で射止(いと)める!

 が──「跳んだ?」──避(か)わされた!

 まさかの対応であった!

 自(みずか)らの獣化途中で跳躍するなど!

 基本的に〈獣人〉が変身中に即興対応する事は無い!

 こんな大胆な奇策は初めて体験する!

「並(・)じゃないって事か!」

 続け様の発砲!

 獣の爪は天井隅を足場と噛んでいる!

 またも跳躍!

 今度は冴子(・・)を目掛けて!

「クッ?」

 寸(すん)でに右へと逸(そ)れて、軌道から外(はず)れる!

 鋭い爪が裂く空気流動を左頬に体感した!

「洒落(シャレ)にならないっつーの!」

 連鎖的に左肩が疼(うず)く!

 トラウマに再発する傷(いた)み!

 獣弾は、そのまま荷物の雪崩(なだれ)へと呑まれた!

 すかさず銀銃を向け構える冴子!

 一息(ひといき)の間すら無く、咆哮が姿を現(あらわ)す!

「ゥオオオォォォーーーーン!」

 狩りの邪魔と云(い)わんばかりに切り裂かれる毛布!

 その端切(はぎ)れが、祝福喚声の如(ごと)く舞い降った!

 獣化は……完了していた!

 

 

 

 いつの間にか教会前へと構える武装集団。

 爆弾処理服(ボムスーツ)に防弾ジャケット、肩にはライフル銃を携える。科学感をディティールとしたフルフェイスは、おそらく多機能的な役割を果たすのであろう。

 見るからに〈特殊部隊〉である事は明白であった。

 それが二〇人前後集っている。

 やがて部隊長と思われる者が整列陣形の前へと進み出た。

 毅然(きぜん)たる口調(くちょう)が、作戦指揮を誇示する。

「いいか! 情報によれば〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉は、この施設内へと潜伏している。目標(ターゲット)は、未(ま)だ我々の動向を察知してはいない。速やかに発見し、連絡を取れ。連携にて確実に仕止める。尚、やむなく発見された場合は、発砲及(およ)び交戦を許可する。これは、我々(われわれ)〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉の沽券(こけん)に関わる一戦(いっせん)だ。ヤツの遺体を以(もっ)て、失墜(しっつい)しかけた威厳を──ぐわぁ!」

 予想外の奇襲に殴り飛ばされた!

 不敵な襲撃者は、臆する事も無く自然体に警告する。

「あんま無粋な真似(マネ)すんなよなぁ? いま、アイツは決着(ケジメ)に向かい合ってんだよ……自分自身(・・・・)と」

「キ……キサマは!」

 風にそよぐ揉(も)み上(あ)げの黒房。

 鹿革のジャケットから露出を覗(のぞ)かせる褐色の肢体。

 アメリカン・インディアンの娘〝ラリィガ〟であった!

「ホントはさ、アタシ(・・・)の方が加勢したいんだよ……アンタ等なんかよりも。だけど、我慢してる。この決着(・・)だけは、アイツ自身(・・・・・)で決めなきゃいけない……〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉として。だから、誰も邪魔しちゃならないんだ……アタシも……オマエ達も」

 一斉に構えられるライフル銃!

「撃て! ヤツも指定ターゲットだ!」

「我に繋がる総てのものよ(ミタクエ・オヤシン)!」

 憑霊(ひょうれい)!

 頭上を〈雷鳥(ワキンヤン)〉の獣精が舞飛び、霊翼が雷撃の猛雨を降らせる!

 その無差別攻撃に銃撃が足踏(あしぶ)む隙に、少女の身体へと〈シュンカマニトゥ〉が駆け込んだ!

 完了する獣化!

「一匹(いっぴき)足(た)りとも、冴子(・・)には近付けさせない。生憎(あいにく)、露払(つゆはら)いは慣れてるんでな」

 

 

 

 人狼──否(いな)〈金狼(きんろう)〉であった!

 二足歩行(にそくほこう)に直立する金色(こんじき)の狼!

 それが〝ジュリザ〟と呼ばれし者の本性!

「ウォォォーーーーン!」

 煌(きら)めく獣毛をサワ立たせる遠吠えは、神々しくさえ映るも哀しい。

 同時に冴子は覚(さと)るのだ……。

「……もう伝わらない(・・・・・)んでしょうね」

 眼前の獣へと注ぐ憐憫(れんびん)。

 野性へと染まった姿からは、人間的な知性は感じられない。

 或(ある)いは、ジュリザ自身が〈現実〉を拒絶した。

 自(みずか)ら、自身を殺した(・・・)。

 冴子の想いを切り刻む悲嘆。

 すぐに封殺したが……。

「これ以上は奪わせない(・・・・・)!」

 発砲!

 またも横跳びに回避する金獣!

 しかし〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉とて無駄弾を消費したワケではない!

「ギャウ!」

 獣の右肩から血飛沫(ちしぶき)が噴いた!

「跳弾(ちょうだん)──アンタ自身が避(よ)けようと、背後の壁を利用した跳ね返りで一手(いって)先(さき)を撃つ。ま、後は先読みの化かし合いよね」

「グルル……」

 忌々(いまいま)しさのままに睨(にら)み据(す)える獣瞳(じゅうどう)。

「だけど、アンタの不利には違いない。避(よ)ければ何処から来るか判らない跳弾、正面からの正攻法では格好の的(マト)」

「グオオオーーッ!」

 憤怒(ふんぬ)に溺(おぼ)れて特攻して来る!

 間髪入れずに左腿を撃ち抜いた!

「ギャフ!」

「間合いは詰めさせない」

 非情な声音による宣言。

 が、この魔獣は知恵がある。

 戦況を分析して考察する知能が……。

 ジリジリと後退(あとずさ)る獣。

 処刑具を警戒しながら、ゆっくりと距離を開いた。

 数歩……数歩と、にじり足が擦(す)る。

 そして、目的(・・)へと辿り着いた!

 背後の木棚から鷲掴(わしづか)みに投擲(とうてき)するは、非常食と備蓄された太缶!

 それを次々と投げつけた!

「悪足掻(わるあが)きを!」

 迎撃に総(すべ)て射抜(いぬ)く!

 が、それは、らしからぬ失態であった!

 中空で破裂した缶は、濛々(もうもう)たる白煙を拡散した!

「粉ミルク?」

 甘い煙幕が視界を殺す!

 次の瞬間には殺気が急接近した!

「こ……ンの!」

 鋭敏に察知した〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉は、咄嗟(とっさ)に後方跳躍!

 間合いを保(たも)たんと試(こころ)みる!

 しかし、敵の小賢(こざか)しさは、冴子を上回(うわまわ)っていた!

「毛布? うわっと!」

 着地と同時に足を取られ、無様に引っくり返る!

 足首を引っ掛ける障害物をも計算に入れていた!

 自(みずか)ら強(し)いた好機を逃すはずも無い!

 すぐさま襲い来る餓狼!

「狭(せま)いのよ! この部屋!」

 癇癪(かんしゃく)の毒に、銀を鳴かせる!

 埋もれたままの即行では、さすがに捕捉が甘い!

 微々たる体勢推移に避(か)わしつつ、金狼は距離を詰めた!

 瞬発力(しゅんぱつりょく)は殺さぬ!

 冴子の傍(かたわ)らで、霊気が蠢(うごめ)いた!

 弱々しく減衰した霊気が!

 それでも〈戌守(いぬもり)〉は、決心を固める!

 護る(・・)!

 この娘を護る(・・・・・・)!

 弱者の希望(・・・・・)を!

 例え己(おのれ)が消滅しようとも(・・・・・・・)!

 だが──(ダメ!)──夜神冴子の意志が、それを制止した。

(もしも〈戌守(いぬもり)さま〉がいなくなったら、私は本当に独(ひと)りになっちゃう……そんなのはイヤ)

 ──しかし、冴子よ。

(私、独(ひと)りぼっちじゃ生きられないよ? この世界を……これからも独(ひと)りきりでなんて…………)

 ──…………。

(傍(そば)に居(い)てよね? ずっと……ずっと……)

 柔らかくも温かい思慕(しぼ)に当てられ、霊気は鎮まる事とした。

 こうなれば信じてみよう……己(おのれ)が見初(みそ)めた〈巫女〉の力(ちから)を。

 

 頭上へと振(ふ)り翳(かざ)す鋭爪(えいそう)!

 毛布に埋(うず)もれた贄(にえ)は、その柔軟な波間に囚(とら)われて起き上がる事も儘(まま)ならない!

 獣の本能が、ほくそ笑む──殺れる(・・・)!

「ほいっと」

 冴子は飄々(ひょうひょう)と瞼(まぶた)を綴(と)じ、掌(てのひら)サイズのカプセルを放り上げた。

 獣面の眼前に舞う異物──と、次の瞬間、眩(まばゆ)い閃光を吐いた!

「ギャウ!」

 視界が白に殺される!

「閃光手榴弾~★」

「グルゥ! ガウ! ガウ!」

 よろめきながらに、獣は爪を振(ふ)り凪(な)いだ!

 形振(なりふ)り構わず!

 一転した闇の世界で、見えぬ敵を仕止めんと!

 その無様さを悠(ゆう)に眺(なが)め、冴子は身を起こした。

「目潰(めつぶ)しには、目眩(めくら)ましってね」

 再び間合いが開いていく。

 猛(たけ)る殺意に反して、獣は後退を始めていた。

 脅えているのかもしれない……無自覚ながらも〝本能〟は。

 だから、再殺の標準を定めるに不都合は無かった。

 頭部に定(さだ)める──いや、心臓へと変更した。

 そうさせたのは、脳裏に浮かぶ白百合の微笑(ほほえ)み。

 せめても恩赦(おんしゃ)であった。

「さよなら、ジュリザ……」

 白銀の銃が閃火を咲かせる!

 射抜(いぬ)く銀弾!

 それは哀しき決着であった。

 夜神冴子が燻(くすぶ)らせる〝獣人(ケモノ)への憎悪〟さえも霞(かす)ませるほどに……。

 

 

 

 教会前の交戦は、程無くして沈静化していた。

 死屍(しし)累々(るいるい)と横たわる部隊兵達。

 その惨状を見渡し、ラリィガは辟易(へきえき)と零(こぼ)した。

「並の〈獣人〉が、アタシに叶うはず無いだろ」

 殺してはいない。

 必要以上の殺生は好まない。

 手近に呻(うめ)くライオンを、胸元掴みに訊問する。

「おい」

「ひぃ!」

「オマエ等、何故、此処(・・)だって特定できた?」

「そ……組織の情報網だ」

「にしては、タイムリー過ぎる。少なくともアタシ達は〈牙爪獣群(オマエたち)〉に勘づかれないように行動パターンを定めていたんだからな。それなのに、まるで発信器でも付けていたみたいじゃんか?」

「ホ……ホントだ! 我々(われわれ)〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉は──いや、盟主〈ベート〉は、腕の起(た)つ〈情報屋〉を専属に抱(かか)えている! ソイツのもたらす情報は迅速で、信用性が確かなものなんだ!」

「情報屋……ねぇ?」

 どうにも引っ掛かる。

 直感的に……。

「ソイツ、何者だ?」

「す……素性詳細は知らない! 俺達は精鋭部隊とはいえ、組織末端に過ぎない!」

「ふぅん?」

 拳を固めて、軽く振りかぶって見せた。

「ホホホホントだ! あ! だ……だが、名前は聞いた事がある! 確か〝イ──」

 そこまで口(くち)にした瞬間、喉を裂き切られる!

「──クひゃいッ?」

 奇妙な断末魔を洩(も)らした噴霧!

 赤飛沫(あかしぶき)は、貴重な情報を隠蔽(いんぺい)した。

「おい、シュンカマニトゥ! 何すんだ! せっかく情報を得られたってのに!」

 非情の裁(さば)き人(にん)へと食って掛かるラリィガ!

 さりながら、コヨーテは深刻な面持(おもも)ちに告げる。

「……危なかった」

「はぁ?」

「オマエは気付いていなかったかもしれないが……ソイツ(・・・)は後ろ手に凶器を準備していた」

 不信に遺体を見れば……なるほど、手の近くにはアーミーナイフが転げ落ちている。

 証拠を視認すれば、ラリィガとて渋々ながらに納得するしかない。

 それ(・・)が〈シュンカマニトゥ〉の転がした偽装とも疑わずに……。

 一方で〈獣精(トーテム)〉は、沈痛な想いを噛み締めるのであった──「やはり」と。

 的中してほしくない予見であった。

 

 

 

 金色(こんじき)の亡骸(なきがら)は、やがて聖女の裸身と変わり果てる。

 足下に転がる最期を虚脱に見下ろし、冴子は疲労感に包まれた。

 身体ではない。

 心が疲れ果てた。

「ジュリザ……アンタ(・・・)に罪は無い。例え黒き月が魅入(みい)ろうとも、その清廉(せいれん)なる魂には………」

 依頼は完遂(かんすい)した。

 皮肉にも〝依頼主(ジュリザ)の贖罪(しょくざい)死(し)〟を以(もっ)て……。

 …………違う。

 まだ(・・)だ。

 まだ終わってはいない(・・・・・・・・・・)。

 

 ──御願い……〈獣〉を……〈獣(・)〉を殺して……あのおぞましい(・・・・・)〈獣(・)〉を…………。

 

「……分かってるわよ、ジュリザ」

 その瞳に決意の炎を滾(たぎ)らせて〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉は寂寥(せきりょう)を後にした。

 逃がしはしない(・・・・・・・)。

 

 

 

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