※この作品はR-18です。

獣吼の咎者   作:凰太郎

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銀弾吼える! Chapter.6

 

【挿絵表示】

 

 見上げるに黒い月。

 その黄色い巨眼を見つめ返し、イクトミは〈チャヌンパ〉を蒸(ふ)かした。

 立(た)ち昇(のぼ)る紫煙が、互いの視線を燻(いぶ)し遮(さえぎ)る。

 高層ビルの屋上は、さすがに風が荒れ騒ぐ。

 乱れるのは早い。

 ふと馴染み深い気配を感じた。

「出て来いよ?」

 振り向くでもなく、イクトミは沈着な抑揚に促(うなが)す。

 応(こた)えるべく背後へと具現化したのは、やはり〈獣霊(シュンカマニトゥ)〉であった。

 予想通りの流れだ。

「訊(き)きたい事がある……って顔(ツラ)だな?」

 一瞥(いちべつ)に苦笑を浮かべる。

「ああ、山程(やまほど)な」

 獣精の表情は固い。

「ラリィガは?」

「置いてきた」

「オイラ(・・・)の事は?」

「露(つゆ)ほども疑(うたが)っちゃいない」

「オマエさんだけが胸中に仕舞うって? 相変わらずの過保護ぶりだな」

「御互いにな」

 四足は静かに歩み寄ると、隣へ腰を下ろした。

「薔薇(バラ)臭(くさ)いな?」

「ああ、チッとばかし薔薇(バラ)園(えん)で遊んで来た」

「ほう?」

「何だよ?」

「いや、珍しい事もあるもんだ……と。オマエさんには、そうした叙情が薄いと思っていたもんでな」

「いけねぇかい? オイラがセンチ(・・・)になっちゃあ?」

「いいや」

 視界の隅(すみ)に交わす苦笑(にがわら)い。

 二人(ふたり)して見下(みお)ろせば、眼下に広がるは煌々(こうこう)と点(とも)した暗色の絨毯(じゅうたん)。

「見ろよ、シュンカマニトゥ? これが白人(ワシチュー)共の生み落とした虚構だ。闇暦(あんれき)現在は〈獣人〉達による支配都市とは言え、本質は変わらねぇ」

「その〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉を構成する〈獣人〉達も、素(もと)を見れば、ほとんどが〝白人(ワシチュー)〟だからな」

「無くなったよなぁ……川も大地も……」

 虚無感を誘発する懐古(かいこ)。

「そもそも北米は〈アメリカン・インディアン〉の先住地だった。ま、旧暦に於(お)いて、各部族間の不和抗争も無論ありはしたがよ」

「一概(いちがい)に〈アメリカン・インディアン〉と称しても、実態は〈アパッチ族〉〈スー族〉〈ホピ族〉〈チェロキー族〉等の様々な部族を統括した総称に過ぎないからな。各部族間で利害の差異は生じて当然だ。〈スー族〉もまた、インディアン部族の最大勢力──〈ダコタ族〉〈ラコタ族〉〈ナコタ族〉──を統括した総称だしな」

「で、ラリィガは〈ダコタ族〉の血統……と」

「あくまでも〝血統〟でしかないが……な。闇暦に於(お)いては、インディアン自体が滅んでしまった。だからこそ、全部族の文化や概念が、アイツ一人(ひとり)に雑多混在と受け継がれている。言い換えれば、アイツは〝最後のアメリカン・インディアン〟だよ」

「違(ちげ)ぇねえ」と、苦笑に紫煙を吐く。「が、それでもよ? 仮に部族間抗争があったとしてもよ? インディアン達は、自然調和を崩壊させるという愚かしさは無かった」

「〝自然の恩恵に敷かれた牧歌的民族〟という共通概念があったからな」

「それを営利主義にブチ壊したのは、植民目的で侵入してきた欧米人種──つまり〝白人(ワシチュー)〟の介入だぜ! 悪名高き『南北戦争』は云(い)わずもがな、インディアン史上最大最悪の『セミノール戦争』等……幾多もの殺戮(さつりく)へと〈インディアン〉が巻き込まれた!」

 無自覚に興奮するイクトミを冷静に一瞥(いちべつ)するも、シュンカマニトゥに異論は無い。

 中には『ハニースプリングスの戦い』のように白人(ワシチュー)同士の争いに尖兵として動員された代理戦争的な扱いも幾多(いくた)と在(あ)った。

「或(ある)いは、ペテン同然の取引で土地の権利を奪う手口(てぐち)にも当てられたぜ? アメリカ合衆国自身が〝永遠の不可侵領土〟と保証した〈偉大なるスーの国(グレート・スー・ネイション)〉ですら、領土内〈ブラックヒルズ〉に〝金〟が発掘されるや否(いな)や易々と条約無視に侵食没収されているんだぜ? 何が『ララミー砦(とりで)条約』だ!」

「そうした背景によって〈アメリカン・インディアン〉は民俗文化衰退の憂(う)き目(め)に遭(あ)い、取り込まれた白人社会に於(お)いても異端視差別を負わされた……か」

「子供だって奪われただろうが。先祖や親が〈インディアン〉って事実を隠蔽(いんぺい)した里子制度──酷(こく)過(す)ぎるぜ」

 熱を帯び始めた親友の意気に、獣精は冷静な一瞥(いちべつ)を向けた。

 分からぬではない。

 そうでなくともイクトミは〈インディアン達の伝達者(メッセンジャー)〉だ。

 かつて旧暦では部族の壁を越えて『白人侵攻の警鐘』を伝え回った事もある。

 その努力と憂(うれ)いが実(みの)らずに、インディアン達が衰退させられた無念さは如何(いか)程(ほど)か……。

 さりとも、それ(・・)を容認してはならない。

 溺(おぼ)れてはならない。

 為(な)すべきは復讐ではない。

 教訓として繰り返さぬ事(・・・・・・)だ。

「……だからと言って白人(ワシチュー)の総(すべ)てが〈悪〉ではない。誠実な愛情を抱(いだ)いている里親や、或(ある)いは種族の壁を乗り越えようとしている者達もいる」

「そりゃあ……そうだがよォ……」

 イクトミは不服を抑えて唇(くちびる)を尖(とが)らせた。

 沈着冷静に美徳を諭(さと)されれば、彼の怨(うら)み言(ごと)など矮小(わいしょう)な種火(たねび)に過ぎない。

 況(ま)してや、親友からの宥(なだ)めなれば……。

「怨鎖(おんさ)の念に囚われては、我々とて同じ(・・)と堕ちる。忌(い)むべきは、一握(ひとにぎ)りの私欲主義者だ」

「だから(・・・)、ラリィガか?」

「闇暦に生きるアイツには、怨恨の現体験は無いからな。有るのは〝受け継がれし血の誇り〟だ。或(ある)いは……」

 口(くち)にしかけて、シュンカマニトゥは思いを呑んだ。

「何だ?」

「いや」

 同期的に思い浮かんだのは、あの女(・・・)であった。

 怪物殺しの異邦人。

 この地の歴史とは無縁の魂。

 心底には根深い私怨を燻(くすぶ)らせながらも、それに呑まれる事もない。

 仮に〈怪物〉であろうとも、肩書や大義に酔って虐殺に走る事もない。

 おそらく彼女が見ている〈人間(・・)〉とは──。

 巡る黙考を取り止め、シュンカマニトゥは再び冷静に語り掛けた。

 現状(いま)の本題(・・)は、それ(・・)ではない。

「別に歴史の長恨(ちょうこん)を愚痴(グチ)りたいワケでもあるまい?」

「ああ、まぁな……」

 改めて闇空を仰(あお)ぐ。

 ややあってから、獣精は静かに切り出した。

「いつからだ?」

 その声音は、特に怒りも糾弾も孕(はら)んではいない。

 端的(たんてき)な質問が、何(・)を指しているかは解(わか)っている。

 イクトミは取(と)り繕(つくろ)いも無く、素直に晒(さら)けた。

「もう、だいぶ前からさ。アイツら〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉が、ダコタへ攻めて来た直後頃からかねぇ……」

 紫煙が燻(くゆ)る。

「オマエこそ、いつから(・・・・)だ?」

「エンパイアステートビルで再会した時、オマエから微かに〝するはずのない獣臭〟を感じた。血肉を貪(むさぼ)る事の無いオマエから〝肉食獣〟特有の臭気が……な」

「さすがに鼻が利くねぇ? 香水でも使っておくべきだったか?」

 自嘲(じちょう)に浮かべる苦笑は、寂しく渇(かわ)いていた。

「どうしてだ?」と、今度はシュンカマニトゥが訊(と)う。

「……疲れちまった」

「疲れた?」

「旧暦も闇暦(あんれき)も、何ひとつ変わらねぇ。カスター将軍だろうが〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉だろうが〝白人(ワシチュー)〟は欲のままに侵略し、抗(あらが)う者は殺され、血が流れ、そして我が物顔に奪われる。そんな不毛なサイクルに疲れたんだよ……オイラは」

「ラリィガは、まだ負けていない」

「いずれ負ける」深く紫煙を蒸(ふ)かす。「磐石(ばんじゃく)な大勢力へ、個人一枚岩(いちまいいわ)で戦い抜けるワケ無(ね)ぇだろう? 彼(か)の英雄〝シッティング・ブル〟や〝ジェロニモ〟が立証していらぁ」

「後ろ楯には〈白牛女神(プテ・サン・ウィン)〉もいる」

「同じだよ。確かに〈白牛女神(プテ・サン・ウィン)〉は強大だ。何たって〈怪物〉じゃなく〈女神〉だからな……潜在力(せんざいりょく)の桁(けた)が違う。だが、この闇暦(あんれき)に〈神〉級(クラス)に匹敵する未知数(ヤツ)なんか、どれだけいるよ? 先頃にはドイツで〈北欧神話の悪神〉が復活したって噂すらあるぜ?」

「だから〈ベート〉へと取り入った……か?」

「ああ。結局、この闇暦(あんれき)で物を言うのは〝強大な組織力(そしきりょく)〟だ。一騎当千や象徴存在(ポカホンタス)なんかじゃねえ」

「夜神冴子は〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉を蝕(むしば)んだ……大打撃を受けるほどに」

「一過的(いっかてき)だよ。すぐに再生する。そういうものさ、組織(・・)ってヤツァな」

「ならば、また噛み付くだろうな。あの女(・・・)は」

「そして、イタチゴッコかィ? 終わりが無ぇや」

 一噴(ひとふ)きの紫煙。

 沈黙が間を刻む。

「解(げ)せないな……。ならば何故ラリィガを、この地へと送り込んだ?」

 よもや敗北を望んだワケでもあるまい──その点だけは〈シュンカマニトゥ〉も確信していた。

 自分にとっても、イクトミにとっても、ラリィガは〝かけがえの無い家族〟であり〝溺愛(できあい)する娘〟だ。

 赤子の時から見守ってきた慈(いつく)しみだ。

 売る(・・)はずが無い。

 イクトミは漠然(ばくぜん)と不定形を眺(なが)め続け、やがてようやく紡(つむ)いだ。

「……未来(・・)」

「未来?」

「それ(・・)を確定させる流れは、もう出来上がっている。覆(くつがえ)らねぇよ」

「それは〈大いなる神秘(ワカン・タンカ)〉の思(おぼ)し召(め)しか?」

 返事は無い。

 ただ飽きずに紫煙を眺(なが)めていた。

「……これから、どうするんだ?」

「ダコタには戻らねぇよ」

「では〈敵〉同士か」

「それも無(ね)ぇな……。もう〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉にも戻らねぇ」

「何?」

「夜神冴子のおかげで、オイラの信頼と価値はパァ……。幹部の座も夢物語だ。だったら協力に取り入る意味も無(ね)ぇ」

「……見えんな?」

「いっそ気儘(きまま)がいい」

「そうか」

 淡白な納得を置いて、シュンカマニトゥは立ち去る流れに乗る。

 これ以上、追及する気は無い。

 親友(とも)の選択に、無粋な横槍を入れる気は無い。

 コイツ(・・・)の気質は、よく知っている。

 両者は、そういう間柄だ。

「ラリィガには?」

「…………」

「会わんのか?」

「会わねぇ」

「そうか」

「あ……と、そうだそうだ。コイツを」

 イクトミは思い出したかのように、羊皮紙のメモを取り出した。

「何だ?」

「ラリィガに渡してやれ。オイラからの餞別(せんべつ)だ」

「そうか」銜(くわ)えて、別離(わかれ)の言葉を添える。「……達者でな」

「オマエ達もな」

 踵(きびす)を返して歩き出すシュンカマニトゥ。

 気高き誇りは明日への道程(どうてい)を見据(みす)え、裏切り者は魔月を眺(なが)めた。

 互いの瞳を交(まじ)える事は、もう無い。

 

 

 

「白人(ワシチュー)達も、ちったぁ役に立つ物(モン)を作らァな……へへ」

 腰脇へと置いていた小瓶を眺め、イクトミは苦笑へと浸る。

 薔薇(バラ)の香水。

 シュンカマニトゥからは死角になっており、見られる事は無かった。

 脇腹の出血は、未(いま)だ止まらない。

「ったく、これだから白人(ワシチュー)は……よ」

 ベートからの制裁──否(いな)、処分と言った方が正しい。

 ヤツが為(な)そうとしていた事は、概(おおむ)ねやり遂(と)げたようだ。

 もはや〝汚らわしいインディアンの情報屋〟を抱(かか)える必要など無い。

「な~にが『我(わ)が牙に懸けて』だ……糞(クソ)濡(まみ)れの牙じゃねぇか。ま、相手は冷酷にして狡猾な〈獣妃(ケモノ)〉……予想範囲内だったがな」

 赤の清水(しみず)は流れ続け、紫煙は燻(くゆ)り立つ。

「けどよ、こっち(・・・)もやる事はやったぜ?」

 ベートに従事する交換条件は『ダコタへの不可侵』『イクトミの幹部待遇』であった。

 カモフラージュ口実(こうじつ)の後者はともかくとして、最重要視項の前者は実行されている。

 毎回ダコタへと侵攻してきた〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉の軍勢は、小規模な捨て駒であった。

 出来レースというヤツである。

 そうでもなければ、今頃、ダコタは修羅地獄と化していただろう。

 毎回、小規模な軍勢を送る事によって、建前上の膠着(こうちゃく)戦況(せんきょう)を偽装させた。

 取り囲む周辺国に対しては、説得力に足(た)る抑止材料となったはずだ。

「ダコタには〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉が唾(ツバ)をつけている」「あの〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉を返り討ちにする戦力がダコタには有る」と。

 この裏工作は、ラリィガ達は疎(おろ)か、プテ・サン・ウィンですら知らない。

 イクトミとベートの間でのみ交(か)わされた密約だ。

 しかし、一番大きかった成果は……。

「夜神冴子……か」

 ソイツ(・・・)を、ラリィガへと引き合わせる事が出来た。

 闇暦(あんれき)の都市伝説〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉が渡米すると知った時、イクトミは密(ひそ)かに決心していたのだ──二人(ふたり)を引き合わせると。

「へへ……どうだった、ラリィガ? 跳ねっ返りのオマエさんにはピッタリの〝おともだち〟だったろ?」

 似通った宿星(ほし)の二人(ふたり)であった。

 とりわけ〝希望の道標(しるべ)〟としての宿命は……。

「正直、エンパイアステートビルでの助力は悩んだがな? オイラの立場(・・)も危うくなるしよォ。けど、それだけの価値(・・・・・・・)は有ったろうさ」

 この二人(ふたり)は相互的な影響で輝きを増し合う。

 そして、その輝きは周囲の種火を目覚めさせ、いずれ闇を星空へと染め上げるであろう。

 絶望の漆黒に呑み込まれた、この〈闇暦(あんれき)〉という闇を……。

 それ(・・)が〈大いなる神秘(ワカン・タンカ)〉から授けられた神託であった。

 ポツリポツリと顔を叩く冷たさ。

 雨が降ってきた。

 見上げる墨(すみ)から涙が降ってきた。

 胸中に圧(お)し殺(ころ)した慟哭(どうこく)の如(ごと)く……。

 しかし、それでもイクトミは笑うのであった。

 霞(かす)む意識に歯を見せるのであった。

「ザマァみろ〈獣妃(ワシチュー)〉……。いつまでも、奪われてばかり(・・・・・・・)じゃねぇんだよ」

 総(すべ)ては為(な)し遂(と)げた。

 後は遺されし者達が紡ぐ。

 思い残す事も無い。

 ひとつ(・・・)だけあるとすれば──。

「ラリィガよぉ……いい女(・・・)になれよ……」

 傍(そば)にいてやりたかった……いつまでも。

 もはや叶わぬ慕情(ぼじょう)だ。

「へ……へへ……白い座頭虫(ざとうむし)がやって来るぞ……」

 力(ちから)無く漏(も)れる。

 忌(い)まわしい記憶が……。

 その憤(いきどお)りを殺すかの如(ごと)く、イクトミは最後の力(ちから)で叫(さけ)び散(ち)らすのであった!

 いま一度(いちど)!

 史実さえも覆(くつがえ)さんとばかりに!

「白い座頭虫(ざとうむし)がやって来るぞーーッ! ヤツらは、嘘つきで! 強欲で! 途中の部族を食い潰して! 土地を貪(むさぼ)りながら、ゆっくりと進み! 終(しま)いにゃ、オマエ達をも踏みつけにするだろう!」

 滾(たぎ)る激情(げきじょう)任(まか)せに吐き出したのは、かつて喧伝して回った警告(メッセージ)。

 各部族の垣根を越えて〈アメリカン・インディアン〉そのものへと告げた警鐘。

 その数日後には、大虐殺の怒濤(どとう)が押し寄せた……。

「……ああ、懐かしいなァ」

 一転して、穏やかに満たされた笑(え)みを浮かべる。

 虚脱の目に映るのは遠い昔──満天に澄んだ星空のみ。

 現実は無情を刻むというのに……。

 そして、やがて緩(ゆる)やかな眠りへと就(つ)いた。

 

 

 

 白牛の背に揺られ、プテ・サン・ウィンは荒野を巡る。

 目的は無い。

 ただ習慣化した気晴らしだ。

 見上げる夜空には、魔の闇に喘ぐか細い光点。

 闇暦(あんれき)とはいえ、星光は瞬(またた)く。

 ただ旧暦のように鮮明な息吹に無いだけだ。

 それは汚泥に混在する砂金のようなもの……。

 元凶となる黄色い単眼と目が合った。

「ふむ?」

 口癖(くちぐせ)に予感を乗せる。

 蒸かす〈チャヌンパ〉の紫煙がくゆり、星々と透過に重なった。

 空から流れ落ちる一条。

 その光に示された。

「……嗚呼、イクトミ」

 覚悟が現実となったようだ。

「分かっていたのです……この未来(・・)は。〈大いなる神秘(ワカン・タンカ)〉の啓示を受けていたのは、貴方(あなた)だけではない。貴方(あなた)がラリィガを〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉の支配地へ送り出そうとした時から、私(わたし)は同じもの(・・・・)を見ていたのです……」

 沸き起こる哀しみを呑(の)み堪(こら)え、女神はせめてもの福音を捧げる。

「我に繋がる総てのものよ(ミタクエ・オヤシン)……」

 

 

 歴史のうねりに、またひとつ〈魂〉が消えてしまった……。

 

 

 

 

 

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