傾いた陽が差し込む廊下を歩く。目的は文芸部の部室に向かうためだ。
廊下に人影はほとんどない。文芸部室は旧校舎に位置していて、もともと人通りが少ないのだ。
慣れたいつも通りのこと。だが、今日は一つだけ違った。
「なあ、さつき。今日はどうしたんだ?」
「ん? 何が?」
隣にいるさつきが首を傾げる。
部活に所属していないさつきは、普段ならもう帰っている。だが今日は、なぜか俺と一緒に部室に向かっていた。
「いや、なんで俺と一緒に来てるのかなって」
「兄さんと一緒にいたいから。それだけだよ」
平然とさつきは答えた。
「大丈夫だよ。部室まで行ったら帰るからさ」
さつきはそう言うと、俺の手を握ってきた。しかも恋人繋ぎ。誰も見てないから構わないが。
そのまま、部室の前まで来た時だった。
「あ、先輩」
ちょうど向かい側から黒木がやってきたところだった。よう、と軽く返事をする。
「──と、さつき? どしたの」
当然、俺の隣にいるさつきに疑問を抱いた。
「ううん、特に。たまには一緒に来ようかなって」
「ふーん……そっか。部活一緒にやってく? 本読むだけだけど」
「いや、遠慮しとくよ。帰って洗濯とかしないといけないしさ」
さつきはそう言うと、じゃあね、と手を振ってもと来た廊下を引き返していった。
「昨日なにかあったんですか? 今日のさつき、やけに元気でしたけど」
その姿を見送りながら、黒木が尋ねてくる。
確かに、今朝からさつきは前のように──いや、以前より笑顔が多い。それは、昨夜俺に全部話したからなのか、それとも俺としたからなのか。
「ああ……まあ、色々」
迷ったが言葉を濁した。さすがに正直に話すのはためらわれる。
「へぇ。話せないようなことなんですか」
「いや。そういうわけじゃ……」
「ま、なんでもいいですけど」
諦めたような口調で言って、黒木は部室のドアに手をかけた。そのまま開けると思いきや、彼女の手はそこで止まった。
「先輩」
「ん?」
「今日部活サボりませんか?」
突拍子もなく、黒木はそんなことを言い出した。
「え、どうしたんだよ急に。お前部活だけは真面目にやってるのに」
「そういう気分なんですよ。ほら、いきますよ」
一方的にそう言い放つと、踵を返してすたすたと歩き始めてしまった。慌てて俺も彼女を追いかける。
「いきますよ、って俺もかよ」
「一人でサボっても楽しくないじゃないですか。デートだと思って来てくださいよ」
黒木は、がし、と俺の手を強引に握ると、早足で俺を引っ張っていった。
「で、どこ行くんだよ」
日が沈みかけた駅前の街並みを黒木と二人で歩く。買い物帰りの主婦、俺たちぐらいのカップルなんかがすれ違っていく。
学校からこっち、黒木にはずっと俺の手を握られている。傍目には俺たちも一緒に帰ってるカップルに見えるのだろうか。
「特に決めてません。暇潰せればなんでも。先輩はどっか行きたいところあります?」
「いや、急に言われても」
黒木は俺の返答に、はぁ、とあからさまなため息を吐いた。
「気が利かないですねえー、先輩。こういう時はすっと女の子が喜ぶ場所を提案しなきゃじゃないですか。モテませんよ?」
「う、うっさいな。彼女とかできたことないんだから仕方ないだろ」
「でも後輩と妹には手を出す、と」
こそ、と俺にだけ聞こえる声で黒木は言った。
「なっ、そ、それは……」
うろたえる俺の姿が面白いのか、くすくす、と意地悪い笑みを浮かべている。
「なに動揺してるんですかぁ? ほんっと先輩はからかいがいがありますね」
「お、お前なぁ……」
はったおしてやりたい気持ちをぐっとこらえる。手を出したら完全にこっちの負けだ。
「じゃ、ゲーセンでもいきますか」
一通り俺をいじって気が済んだのか、黒木は急に言い出した。
「え、俺あんまり金持ってないけど」
以前から俺の財布は寂しかったが、父さんの一件からさらに厳しくなった。母方の叔母の援助を受けてなんとか暮らしてるのが現状だ。
「いいですよ。あたしが出すんで」
「いや、それはちょっと申し訳ないっていうか、情けないっていうか……」
後輩の金でゲーセンデートとはさすがに先輩としての面目丸つぶれだ。
「お金のない先輩に拒否権はありませーん。ほら、いきましょう!」
ぐい、と握られた手を引っ張られる。強引な黒木にはほとほと手を焼くが、楽しそうな笑顔を浮かべる彼女に、仕方ないな、と思ってついていった。
ゲーセンに連れていかれた俺は、デートらしくクレーンゲームでもやるのかと思っていた。だが、のんきにそんなことを考えていた俺は、気が付くと格ゲーの筐体の前に座らされていた。
「この前は散々やられましたから今日は先輩のことボッコボコにしてあげます」
どうやら匿ってもらったときに、俺とさつきに十連敗したのを根に持っていたらしい。よほど自信があるのか、ふふん、とすでに勝ち誇った顔をしていた。
だが結果はといえば──
「なんで……なんで一勝もできないんですか……」
二時間以上も付き合わされ、何試合目か数えるのをやめた頃にやっと俺は解放された。
ゲーセンの自動ドアをくぐると吹き込んでくる冷たい風がとても新鮮に思えた。しかし隣にいる黒木はそんなの関係なさそうにうなだれている。
「だってお前馬鹿正直に突っ込んでくるから」
「あーっ! 腹立つー! ちょっとくらい手加減してくださいよー!!」
「手加減したらお前怒るだろ」
「そりゃそうですけど!」
なんだこいつ。面倒くさくなった俺はまともに対応するのをやめた。ちかちかと光るディスプレイを休憩なしに見続けたせいで疲れているのだ。
「んでこの後はどうするんだ? もう夜だし帰るか?」
とっくに陽は落ちて、星空が見える時間になっていた。
「先輩は帰りたいんですか?」
「まあ正直疲れたし、さつきも夕飯作ってるだろうから帰りたいけど──。まだどっか行きたいなら付き合うよ」
「じゃあ、先輩」
黒木はおもむろに俺に体を寄せると、また手を握ってきた。そして、一段階声のボリュームを落として言った。
「うち、来ませんか」
「え──」
思わず彼女の顔を見る。その表情に目立った変化は見られない。俺には目をくれず、まっすぐ前を見ている。
ただ、寒さのせいか、少しだけ頬が赤いような気がした。
「料理。練習してるんです。だから、よかったら味見してほしいんです」
「あ……そ、そうか。そういうことなら構わない、けど」
決まりですね、と短く呟く。また手を引っ張られる。
が、今日はずっとそうやって彼女の後ろを歩いている。俺は少しだけ足を早めて、黒木の隣に並んだ。
黒木は一瞬だけ俺のほう見たが、すぐに前を向いて歩き始めた。
「──ああ、だから悪いんだけど夕飯は必要ない。──うん、頼む。それじゃ」
さつきとの電話を切る。一人にするのは少しだけ心配だが、電話の声が元気そうだったから大丈夫だろう。
俺と黒木は、県で一番広い川にかかる橋を歩いていた。黒木の家にはまだ距離があるが、そびえたつ彼女のタワーマンションはここからでもよく見えた。
びゅお、と冷たい風が頬を撫でる。まだ冬前とはいえ、河川の上の橋は肌寒い。
「寒くないか? 黒木」
コート類を身に着けていない彼女は寒そうに見えた。男の俺と違ってスカートだし。
「いえ、平気です」
短く答える黒木。学校からゲーセンへの道中とは打って変わって、先ほどから彼女は珍しく静かだった。
「先輩」
「ん?」
「今日はありがとうございました。ゲーセンでは負けちゃいましたけど、楽しかったです」
橋の中腹に差し掛かったころ、黒木が口を開いた。
「どうしたんだよ急に。らしくないな」
「あたしだってたまには礼くらい言いますよ。……最近は学校もつまらないですし」
一瞬、俺の足が止まる。だがすぐに悟らせないように歩き出す。
つまらない、そんな程度ではないだろう。陰口を叩かれて、ひどく居心地の悪い学校生活が続いてしまっているのだろう。俺のせいで。
「黒木──」
すまない、という言葉を飲み込む。
黒木はそんな俺の気持ちを見透かしたのか、さらに言葉を続ける。
「先輩が気に病む必要なんかないですよ。言ったじゃないですか。後悔なんかしてないって」
ぎゅ、と少しだけ強く俺の手が握られる。温かくて、柔らかい黒木の手。
心地いいその感触が、罪悪感を締め付ける。
「……黒木。お前、なんでそんなに優しくしてくれるんだ。ただの部活の先輩と後輩だろ、俺たち」
ぴた、と黒木の足が止まる。そのまま俺の問いには答えずに、握っていた手を離した。
そして、ゆっくりと俺の前に立った。少しだけ離れた距離。
「先輩」
黒木は肩にかけていたバッグから何かを取り出して俺に見せた。
「これ、わかります?」
「え、ハンカチ、に見えるけど」
白地に、メーカーのロゴのワンポイントがあしらわれたハンカチ。新品なのか、汚れ一つも見つからない綺麗なものだった。
「そうです。ただのハンカチです。……これ、見覚えありませんか?」
「見覚え、って言われても──」
正直、どこにでも売っているようなハンカチだ。見たこともあるような気もするし、全く知らないような気も──
「いや、そうだ。昔、それと同じようなハンカチを持ってたような、気もする」
だいぶ前。まだ母さんが生きていた頃に使っていたと思う。だが、なぜそれを黒木が知っているのだろうか。
「これ、あたしが先輩から借りたものなんです。ちょうどこの場所で」
「え……そ、そうなのか?」
はい、と黒木は頷いた。その目は真剣で、いつものようにからかったり冗談を言っているわけではないのだろう。
だけど俺は、彼女にそのハンカチを渡したことを思い出せなかった。
「二年くらい前です。あたし、ここから飛び降りようとしてたんです」
橋の下を流れる川の流れを見つめながら、黒木は言った。
「え、飛び降りるって──その、自殺しようとしてたのか……?」
耳を疑った。明るい彼女がそんなことを考えたことがあったなんて。しかもたった二年前。
「そうです。──あたし、親に捨てられたんですよ。『お前はもういらない』って言われて。それでなんかもうどうでもよくなっちゃって」
自嘲するように笑って黒木は言った。
「あたしの両親、どっちも国家公務員のエリートなんです。それであたしも小さい頃から私立のレベル高い学校通わされて、めちゃくちゃ厳しく育てられてました。……でも、中二くらいから段々成績が落ち始めて、それで……」
嫌な記憶なのだろう。目を伏せて、絞り出すような声で彼女は語る。
「両親はあたしを放置するようになりました。口も聞かなくなって、あたしはいないものになったんです。……すごく辛くて、寂しくて──でも話せるような友達もいなくて。進学校だから周りの生徒はみんなライバルだったんです。友達なんて作れなかった」
「……それで、死のうとしたのか」
はい、と僅かに潤んだ瞳を俺に向けた。
「真冬の、すごく寒い夜でした。ここで、こうして飛び降りようって思ったんです」
黒木は手すりに両手をかけて、冷たい水が流れる川を見下ろした。その姿は、本当に今から飛び降りてしまうんじゃないかと不安になった。
「でも、いざ死のうって思ったらすごく怖くて。それできっとあたし、泣いてたんでしょうね。……そしたら、あたしより少し年上っぽい男の子が声をかけてきたんです。『大丈夫ですか?』って。でもあたしは何も答えられなくて、そしたら『良かったら使ってください』ってこれを渡してきたんです」
黒木は手に持ったハンカチを大事そうに握りながら言った。
そこまで言われて、ようやく埋もれていた記憶が掘り起こされた。
「──そうだ。思い出した。二月なのにコートも着ないですごく寒そうな女の子がいて、それで心配で話しかけたことがあった」
「ええ。それがあたしです。やっと思い出したんですか?」
呆れたような顔を浮かべながら、でもどこか嬉しそうに黒木は言った。さっきまで陰のある表情をしていた彼女のその様子に、少しほっとした。
「で、その男の子はあたしにハンカチ渡してすぐ、妹らしき女の子に呼ばれて行っちゃいましたけど。それがさつきだったんでしょうね」
あの頃は母さんが亡くなって間もなく、泣いてばかりのさつきといつも一緒にいた。あの時、寂しそうに涙を流す黒木の姿を見て、俺はきっとさつきと重ねたのだろう。それで声をかけた。
「本当にすごく些細なことでした。でもあたしはそれがすごく嬉しかったんです。こんなあたしのことをちゃんと見てくれる人がいるんだ、って」
彼女の言う通り、とても些細なことだ。だけど、それくらい彼女は親に、環境に追い詰められていたのだろう。そして、一人ぼっちで悩んでいた。
「だからいつかこのハンカチを返そうって思ってました。それで高校生になって先輩を見つけた時は、やっと返せる、お礼を言えるってすごく嬉しかった。……でもなかなか渡せなかったんです。先輩は私のこと覚えてなかったですし、人違いだったのかもって迷ってるうちに時間が過ぎてしまって」
「そう、だったのか。すまない。そんな大事なこと忘れてて」
謝った俺に、いいんですよ、と黒木は優しく声をかけた。
「あたしの茶髪、あの時は親の言いつけで黒く染めてましたし、もっと真面目そうな髪型でしたし」
そうか。あの時の女の子とやけに印象が違うと思ったらそういうことか。
「先輩」
黒木は言葉を区切るように俺を呼んだ。そうして、俺の目の前に立つ。
視線はまっすぐ俺を見つめて、口を開いた。
「これ、お返しします。これのおかげであたしは今ここにいます。──先輩はあたしの命の恩人です。本当に、ありがとうございます」
深々と礼儀正しく頭を下げられる。そして顔を上げて、ハンカチをすっと差し出してきた。
なんだか緊張してしまって、受け取るのに少し躊躇してしまう。だけど、彼女が二年前からずっと抱き続けてくれた思いだ。ならばしっかりと受け取ろう。
「──ああ、ありがとう。確かに受け取った」
差し出されたハンカチを受け取る。近くで見ても、本当に汚れ一つない。とても大事にしてくれたのであろうことが伝わる。
「それで、先輩。『なんでそんなに優しくしてくれるんだ』って言ってましたけど、理由、ちゃんとわかりましたよね」
もちろん、と頷く。そしてそれと同時に気付いた。
黒木が俺たちを匿うと言ってくれた時、彼女は俺に借りがあると言っていたが、それがこのことだったのだろう。だがそれを口にするのは野暮というものだ。
「それじゃ、いきましょうか」
黒木は再び俺の隣に来ると、冷えた俺の手を握った。彼女のも冷たいが、俺にはそれがととても心地のいいものに感じられた。
「ほら、どうぞ」
ドアを開けた黒木に中に招き入れられる。……というか、握られた手で引っ張られて中に入れられた。
なんだか今日は彼女に手を引かれてばっかりな気がする。ちょっと男として情けない。
「……なあ」
「なんです?」
「なんで手、繋ぎっぱなしなんだ?」
靴を脱いで上がっても、彼女は俺の手を離そうとしなかった。あったかいし、手触りいいし全く嫌ではないのだけれど。
「……どうしてそういう野暮なこと聞きますかねえ」
黒木はあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「いや、だっていつも俺と手繋いだりしないだろ。なのに今日はずっとこうだから」
はあ、とため息をつくと、黒木は指と指を絡めてきた。所謂、恋人繋ぎ。
そして俺に寄りかかるように身を寄せてきた。制服越しに伝わる彼女の熱にどきりとする。
「そんなの、先輩に触れてたいからに決まってるじゃないですか」
蠱惑的な囁き声。背筋を撫でるようなそれに、どくんと心臓が跳ねる。
「黒木、それって──」
「ほんと、鈍感ですね」
呆れるようにくすりと笑って、ちゅ、と唇を押し付けられた。
「ん──っ」
一気に彼女の体重が押し付けられて、受け止めきれずに壁にもたれかかる。女らしい、柔らかい黒木の感触が全身にのしかかる。
特に、胸板に押し付けられる二つの大きな膨らみの感触が、劣情を焚きつける。一気に鼓動は速まって、いつかの彼女との交わりが頭の中を駆け巡った。
「ん、む……っ、ぅ、ん……」
俺の唇に奉仕するような黒木の接触。果実のように甘くて、チョコレートのように溶けてしまいそうなその感触を、何度も何度も味合わされる。
はむ、と優しく啄まれたり、ちゅく、と軽く吸われたり。俺を飽きさせないように工夫してくれている。心からの親愛を感じさせるような接吻。
「ん、は……せん、ぱい──」
ひとしきり唇での戯れを楽しんだあと、彼女のほうから唇を離した。だけど顔の距離は近いまま。はあ、と漏れる悩ましげな吐息が恐ろしいほど心地いい。
「ベッド、行きましょ……」
切なさを押し殺したような声に、自然と頷く。俺もさっきのキスで完全に火がついてしまっていた。
俺たちは手を繋いで密着したまま彼女の寝室に向かった。
「んっ……! ちゅ、ん、ぁ、は……っ、せん、ぱいっ……!」
電灯が落とされ、薄い月明かりが差し込む部屋。俺たちはベッドに並んで腰かけて、激しい接吻をしていた。
唇だけのキスはとうに通り過ぎ、舌と口内を貪りあうディープキスに切り替わっていた。いやらしい唾液の音が響くのなんか気にせず、快楽と熱を貪りあう行為に没頭する。
「ん、はぁ……っ、先輩……っ、あの、今日はあたしのこと、先輩の好きなようにしてください──」
ひどく興奮した様子で黒木は口にした。言葉を発する口からは、どちらのものかもわからない唾液が垂れていてひどく煽情的だった。
そんな状態での誘惑。暴れだしそうな獣欲が内側で湧き上がるのがわかる。
「好きに、って……」
「なんでもいいですよ……ん、その、あんまし変態的なのじゃなければ」
もじ、と少し恥ずかしそうに言った。可愛らしい仕草に、思わず心奪われてしまう。
「じゃあ、その、口でしてもらえるか?」
「フェラですか? いいですよ」
任せてください、と嬉しそうに言って、黒木は俺の前にしゃがみ込んだ。
ぐい、と脚を広げられ、制服のベルトとジッパーを外される。そして、ずる、と下着ごと下ろされる。
すると、びん、と固くなった俺の陰茎が顔を出した。黒木はその先端に挨拶するように口づけた。
「あの、先輩。よかったらあたしの頭、好きに動かしてください」
そっと俺のものを両手で包みながら、黒木はそんなことを言い出した。
「え、いやでも、いいのか?」
さすがに躊躇する。俺は気持ちいいかもしれないが、黒木はきっと苦しいだろう。
「いいですよ。あたし、先輩になら……その、レイプ、するみたいなことされても、いいですから……」
目を伏せながら黒木は小さな声で言った。さすがに恥ずかしいのか、頬が興奮とは別の色で染まっている。
「くろ、き……」
ごく、と唾を飲み込む。そんなこと言われたら、本当に我慢できなくなってしまう。
「いいん、だな? その、苦しかったらすぐに言ってくれ」
「わかってますよ。……それよりほら、早くヤってくださいよ」
俺を見上げながら、彼女はもどかしそうに言った。必然的に上目遣いになるその表情がとても魅力的だった。
わかった、と返事をして、彼女の頭を両手でつかむ。そしてそのまま、自らの生殖器へ近づけていく。
そして、先端に柔らかな唇が触れるその瞬間。
「あ、ま、待ってください、先輩」
「ん、どうした? その、やっぱりやめとくか?」
「いえ、違くて……」
黒木はその先を言い淀んだ。そして、言いかけてはやめて、というのを何度か繰り返す。
しかししばらくしたあと、ようやく一呼吸おいて口にしてくれた。
「名前……呼んでください。黒木じゃなくて、冬香、って」
瞬間、固まった。頬を赤く染め、視線を泳がせている彼女が、どうしようもなく愛おしく思える。
「──ああ、わかった。冬香」
冬香は俺の言葉を聞いた瞬間、びくん、と体を震わせた。そして俺を見つめて、小さな微笑みを見せてくれた。
そうして、彼女は自らを差し出すように口を開いた。生殖器が入るように、大きく。
「んっ……ぐ……っ」
ずぶぶ、と冬香の頭を股間に押し付けて挿入していく。
熱い口内の感触が肉棒全体を包んでいく。舌で貪るだけでも気持ちがいい彼女の口腔。
それを性感帯である陰茎で味わっている。むわりとした熱、ぬめった唾液、柔らかな舌。すべてが生殖器を快楽に染める。
「ん、っん……く、ン……」
そうして喉奥まで挿入し終えた。さすがに苦しいのか、冬香は鼻で荒い呼吸を繰り返している。だけど俺を見つめる瞳に苦痛の色はない。
ならばと、俺はその顔を前後に動かし始めた。途端、性器に走る熱い快楽。
冬香のぬるりとした感触が肉棒を擦っていくのがたまらない。膣内とは違う感触。初めて知るその感覚に、もう射精感が昇ってきてしまう。
「んっ、ん、ぶっ……ンぐ、んんっ……!」
じゅぶ、じゅぶ、といやらしい唾液の音が響く。冬香のきれいで小さい唇に、俺の肉棒が出たり入ったりと、その光景だけでも快楽が増幅される。
彼女の頭をつかんで、口で好き勝手に性器を慰めるその行為は、すごくいけないことをしている気分になる。だけどその背徳感が気持ちいい。冬香がいやな顔一つしないのもそれに拍車をかける
「んっ、ンぐっ──! んっ、ぶ、ぢゅっ、んんっ……ん、ぶ……っ!」
加速していく欲望で、頭を動かす速さもともに速くなっていく。すると必然的に高まる快楽。
先走りが勝手に漏れ出し、とろとろと彼女の喉奥に流し込まれていく。もう少しもしないうちにそこに精液を吐き出すのだと思うと、どろどろの欲望がせりあがってくるのがわかる。
「冬香っ、もう、出る──っ!」
ぞくぞくとした快感が背筋を駆け上る。このまま出したい。突き入れるたびに締め付けてくる喉奥に精液を吐き出したい。
冬香は俺の言葉に、目を細めて微笑んだ。それは、いいですよ、と言っているように見えた。
最後の枷を外して、思うがままに快楽を貪る。顔をつかんでいる手だけじゃなくて、腰も動かして冬香の口を犯す。
そして、焼けるようなその快感が一番高まった瞬間、最奥で精液を吐き出した。
「んんっ!! ん、っん、く……っ、ふ、ン……」
びちゃん、と喉の奥を精液で打ち抜く感覚。それが二度三度ととめどなく続く。
狭い喉の中で射精する感覚は、犯罪的なまでに気持ちがいい。ぎゅう、と締め付けてくるそこで、搾り取られるように吐き出す。
「ん、んぁ……ん、は……んく──」
冬香は吐き出される精液を、ゆっくりと嚥下している。そのたびに舌や喉がうごめくのが、心地よい刺激になる。
その感覚に浸りながら、性器の脈動のまま射精を続けた。
「んっ……っ、んは、あ、ふ……」
吐精が終わった後、冬香はゆっくりと唇を離した。ずるん、と少し萎えたものが引き抜かれる。
それは、精液と唾液が混ざったものでどろどろに汚れていた。冷静になった頭が、自分のしたことに軽い恐怖を覚える。
「いっぱい、出しましたね……先輩──」
ちゅく、と濡れたものにキスを繰り返しながら冬香は言った。そのうっとりとした声と瞳が、消えかかった情欲を刺激する。
「冬香……挿れたい」
自然と口にする。興奮でぼうっとした頭や、彼女の「好きにして」という言葉が、俺の中のブレーキを壊す。
「いい、ですよ──もちろん。先輩の好きなように、あたしのこと犯してください」
少しも拒まない冬香。彼女も俺に口を犯されていたことで興奮しているようだった。
彼女の以前からの言動を見る限り、冬香はマゾ気質があるのかもしれない。
俺は彼女に、ベッドの上で四つん這いになるよう促した。冬香はそれに素直に従った。ご丁寧にパンツを脱いで。
「ん……はや、く……先輩──っ、挿れて……ください……」
ふる、と煽るようにこちらに尻を振って、冬香がねだってくる。それに頷きながらベッドに上がる。
そして、突き出されたスカートをめくりあげる。肉付きがよくて、汚れ一つもない尻肉に、反り返った俺のものが反応する。
「んっ……」
その肉棒を、尻の割れ目に添わせてみる。それだけで軽い電流が走る。
ゆっくりと陰茎をずらして、彼女の一番大事なところに先端を触れさせる。
ぬちゅ、と濡れた互いのものが音を立てる。
「ふゆ、か……」
膨らんだ亀頭が、つぷ、と彼女の中に入る。ぶる、と共鳴するように震える互いの身体。
その快楽をさらに得るために挿入を深くしていく。絡みつく膣肉を肉棒でえぐりながら、ずぶずぶと奥へと入っていく。
「んっ、あっ、ア、あ……っ! すご、っ……いっかい、出したのにっ、おっきいっ……あっ、んっ、や……っ、はぁっ……!」
奥へ行くほど熱くなっていく冬香の声。それと同時に強くなる締め付けが、強制的に欲望を燃え上がらせていく。
それに抗うように、一気に最後まで突き入れた。
「あうっ……!」
どちゅん、と子宮口を押す感覚が、ある種の達成感をもたらす。
冬香は急に全部入ったことに体がびくびくと反応している。それが収まるまで待とうと考えたが、冬香はこちらに顔を向けて言った。
「ん、んっ、あっ、せん、ぱいっ──動いて、ください……っ、あたしの、からだ、先輩のものに、んっ、してください……っ」
奥から切なさとともに絞り出すような声で懇願される。
それに返事をする代わりに、ぱん、と腰を叩きつけた。ぶるん、と尻の肉が波打つとともに、体全体に大きな快感が走る。
膣肉は俺の動きに反応するようにその形を変えて、ぴったりと密着してくる。その締め付けとともに肉棒がこすれるのだからたまらない。
「んっ、あっ、あんっ、先輩、おっ、ぁ、はっ、アっ……! ん、あっ、きもち、いいっ……も、っと、もっと、ぱんぱんっ、って、あっ、シてください──!!」
もう理性が性欲に支配されているのか、はしたない声を余すことなく俺に聞かせてくれる。
その言葉に従い、尻をがっしりと鷲掴みにして、そこへ激しく腰を叩きつける。まるでさっきのイラマチオのように、冬香の体を道具扱いして犯す。
だが相変わらず冬香は嬉しそうな嬌声をあげる。綺麗な茶髪を振り乱して、こすれ合う粘膜からの快感によがっている。
その姿をもっと見たい。もっと冬香を淫らに狂わせたかった。
「冬香っ──!」
「ひゃあっ! あっ、ァ、あんっ、おっ、ぁ、はぁっ、アっ……! んっ、おっ、これ、あっ、ダメッ、あたし、ばかに、なるっ──!!」
後ろから冬香の体を抱きしめて引き寄せた。そうして彼女を膝立ちにしてぱんぱんと後ろから突く。
体をがっしりと抱きしめて、快楽の逃げ場をなくしたまま抜き差しを繰り返す。すると面白いくらい彼女は乱れた。
体は常に痙攣しっぱなしで、口からは下品な喘ぎも漏れ出している。もう何度も軽くイっているようで、膣肉もきゅんきゅんと締め付けてくる。
「ふゆ、かっ……冬香、もうすぐ、いきそうだ……!」
「んっ、あんっ、おっ、あっ、んぁっ……! あた、しっ、あっ、アんっ、あたし、もう、ずっと、ん、おっ、イって、ます、からっ……! だし、てっ……、あっ、あンっ、だしてください、せんぱいっ──!!」
きゅう、とすぼまる冬香の膣。俺の生殖器を逃がすまいとがっしりと捉えられ、中で吐き出せと請われているよう。
その思いに応えるように、最後の力をふり絞って腰を振る。乾いた音が絶え間なく響き、さながらカウントダウンのように絶頂が迫ってくる。
「あっ、ア、ぁあっ、あっ……!! イっく、イクっ、せん、ぱぁいっ!!!」
びくん、と大きく冬香の体がのけぞる。それに合わせて一番奥で精液を吐き出した。
びゅくん、びゅくん、と何度も脈を打って精が注ぎ込まれていく。熱いものを求めるように締め付ける冬香に従うまま、絶頂を堪能する。
「んっ、ん……ぁ、あ、出て……」
だんだんと脱力していくお互いの体。体力は限界で、ともにベッドに倒れてしまう。
だけど絶頂は止まらない。二人でびくびくと体を痙攣させながら、子宮への射精が続く。
俺たちはあまりに気持ちのいいその感覚に身を任せ、絶頂が終わるまでしばらくそうしていた。
「で、どうですか?」
テーブルの向かいに座った冬香が目をきらきらとさせながら聞いてくる。聞いているのは彼女が作った手料理の感想。ちなみに品目は肉じゃがだ。
「うん。おいしい。この前までインスタントばっかりで済ませてたとは思えない」
素直な感想を口にする。火が通りきってなくて固い野菜なんかもないし、肉も柔らかくて美味しい。強いて言えば少し味が濃いくらいか。
「ふふ、そうでしょう? あたし、すっごい頑張ったんですから」
勝ち誇ったように胸を張って冬香は笑った。その純粋な笑顔が俺はなんだか嬉しかった。
「あ、ちなみにさつきと比べるとどっちが美味しいですか?」
「さすがにそれはさつきだな」
「うわっ、即答ですか」
満面の笑みが少し崩れる。
だが、二年前から我が家の食卓を支えているさつきと、この前料理を始めたばかりの冬香の差はそう簡単には縮まらない。それにしてもこの上達は凄いと思うが。
「じゃあまた作りますから。さつきを超えられるまで付き合ってくださいよ、先輩」
「ああ。なんなら今度うちに来てさつきと一緒に作るか?」
「んー……それはなんか敵の力を借りるみたいでシャクなんですけど。……まあ、わかりました。今度機会があったらお邪魔しますね」
おう、と返事をする。
冬香が来てくれればきっとさつきも喜ぶだろう。二人になってしまった家族だけど、三人ならきっと楽しくやれるはずだ。
俺はそんな気楽なことをぼんやりと考えながら、冬香の作ってくれた肉じゃがを口に運んだ。