「いただきます」
六畳ほどのリビングに三人分の声が響く。俺とさつき、そして家主の叔母さんのものだ。
テーブルにはお手製の唐揚げを中心に、美味しそうな夕食が並んでいる。綺麗なきつね色に揚げられたそれを一つ取って口に運んだ。
「今日もすごくおいしいです、叔母さん」
口に中に広がるジューシーな味を噛みしめながら、素直な感想を口にする。
「あら、嬉しいわぁ! たくさん食べてちょうだいね」
ぱあ、と満面の笑みを見せて叔母さんは言った。すると隣にいるさつきが口を開く。
「いつもありがとうございます。こんなに美味しいご飯作って頂いて」
「いいのよ! 二人とも美味しそうに食べてくれるから私も嬉しいのよ」
嬉しさ全開といった様子の叔母さんに、ついこちらも頬が緩む。
こっちに引っ越してきてから三か月ほど。俺たちの噂が流れることもなく、温かいこの家庭で過ごせることもあって、平凡だが幸せな日常が続いている。
ただ一つ気がかりなことがあるとすれば、彼女がいないことだろうか。引っ越す俺たちの見送りに唯一来てくれた彼女のことを忘れた日はない。
次の日が始業式なこともあり、その日は早めに床に就いた。
布団をかぶり目を閉じるが、意識がはっきりして眠れない。明日からいよいよ三年生となることに変に緊張してしまう。
そのままごろごろと無駄に時間を過ごしていると、部屋のふすまをとんとん、と叩く音が聞こえた。
「さつきか?」
すぐに彼女だとわかる。珍しいことではないから。
体を起こして返事をした。
「うん。入っても大丈夫?」
「いいよ」
俺が答えると、遠慮がちにふすまを開けてさつきが入ってきた。
後ろ手でふすまを閉めると、さつきはこちらに来るでもなく、そこで立ち止まった。目を伏せて、きゅ、と寝間着の裾を握りしめている。
「兄さん……その、今日、いいかな」
意を決したように俺を見ると、さつきはそう口にした。
「遠慮しなくていいよ。ほら、こっち来な」
軽く布団をめくって彼女を招き入れる。さつきは少しだけ迷うそぶりを見せた後、おずおずと俺の隣に入ってきた。
布団をかけて一緒に布団に体を寝かせる。横に感じるさつきの温もりは少しだけ震えていた。
「にい、さん……」
寝返りをうって、俺の腕にしがみついてくるさつき。それを包み込むように、俺も体をさつきに向けて抱きしめた。
びく、と一瞬震える体。そんな彼女を安心させるため、赤子をあやすように優しく頭を撫でる。
「ごめんね、兄さん……明日もあるのに」
「いいんだよ。兄貴なんだからこれくらいどうってことない」
さつきは一瞬だけ顔を上げたが、すぐに俺の胸に顔を埋めて「ごめん」と呟いた。
父さんとの関係のせいで、さつきの性に対する価値観はかなり歪んでいた。しかし、こちらに来て時間がたち、それも正常になりつつある。
だが。
「にいさん……キス──して……」
腕の中の彼女が、顔をこちらに向ける。瞼を閉じて、触れずともわかる柔らかな唇を俺に差し出すように。
さつきの感性が普通の女の子らしいものに戻るのと引き換えに、さつきは父さんとのことがトラウマになってしまったようだった。だからこうして時々、それを忘れるために俺を求めてくる。
「さつき……」
俺も今更彼女を拒むことはできなかった。「慰めてあげる」と俺に迫ったさつきを受け入れた時から、さつきを否定する資格は剥奪された。
それに俺自身、さつきを妹以上の気持ちで見ていることを自覚するようになったから。
静かな息遣いをするさつきのその肩を抱く。そのまま、俺も目を閉じて彼女を引き寄せた。
「ん……」
俺とさつきの紅い唇が触れ合う。まるでそうであることが当然であるかのように、ぴたりと密着する。
そのままさつきは甘えるように俺に抱きついてきた。それと同時に押し付けられる柔らかさ。
その唇を受け止めるように、こちらも軽く口を開けた。
「ん、ぅ、んンっ……にい、さ──」
その隙間から、するりと舌を差し込まれた。さつきの温度と濡れたものが入ってきこたことに、ぞくりと快感が走る。
くちゅり、と溶けそうな感触が舌に伝わる。そのまま一瞬のうちに絡めとられる。
「んっ……は、ん、兄さんっ……ぁ、ン、ちゅ……っ」
濡れたものが絡まるその快感を味わおうと、さつきは積極的に舌を動かしてくる。俺の感触に飢えているように、貪欲に。
唾液と唾液、吐息と吐息を交換して、混ぜ合わせるように、いやらしく舌を絡めあう。俺も次第にその行為に夢中になり、強く彼女を求めてしまう。
「ん……さつ、き……っは、ん──」
「にい、さ──あっ、ん、ン、む……ぅ、ん、ちゅっ……ふ、ぅ……っ」
ぴちゃぴちゃと情欲に塗れた舌が触れ合う音が響いて、頭の中を埋めつくす。激しいその接吻で、お互いの口の周りはどろどろだった。
唇だけじゃなく、体同士も押し付けあって熱い体温と心臓の鼓動を感じる。それだけでも一層興奮した。
「んは──っ、ぁ、にいさん……」
さつきのほうから唇を離される。濃厚なディープキスの名残で、お互いの舌の間を唾液の橋が架かっていた。
それと同時にあふれ出す彼女の吐息。さつきの女らしい匂いが脳を埋め尽くして、どくどくと鼓動が速まってしまう。
「触って、兄さん……私、兄さんじゃないと、ダメ、だから──」
だけど、俺以上にさつきのほうが昂っている様子だ。興奮が溢れ出るような吐息がそれを証明している。
こく、と頷いて彼女の寝巻に手をかける。それと同時に彼女の首に顔をうずめた。
「んっ、ぁ……っ」
ちゅ、とその首筋にキスを落とす。ぶるりとさつきの体が震えるとともに、小さな声を漏らしてくれた。
それを続けながら寝巻のボタンを外していく。一つずつゆっくりと焦らすように。
刺激は首筋だけなのに、さつきはびくびくと体を震わせる。その先の行為を想像してだろうか。
「にい、さん──はやく……っ」
お願い、とさつきの声が耳元で響く。その吐息が耳にあたって性欲を刺激する。
それに流されないようにこらえながら、寝巻きの隙間に手を入れた。
「あっ、ん……兄さん……っ」
興奮で火照った素肌の感触。これはいつものことだが、下着は身に着けていないようだった。
滑らかで、張りのある彼女の体は、ただ撫でているだけでも気持ちがよかった。そして少し手を滑らせて、女たる象徴の膨らみに触れる。
「んっ……!」
まだ性感帯に触れたわけでもないのに、必死に押し殺した声が聞こえた。相当興奮しているのだろう。
そんな彼女がどうしようもなく可愛く思えて、いたずら心に乳首をきゅう、と摘まんでみた。
「あっ、んンっ……!」
一瞬、抑えられなかった快感が唇から押し出された。やはりちょっと強すぎたか。叔母さんにばれたら大変だし、少し手加減しよう。
かりかり、と爪の先で膨らみの頂点を触ってやる。もうそれはとっくに勃起していて、弄りやすかった。
「んっ、ぁ、ン、ふぁ、あっ……にい、さん、んっ、ぁ、あっ……」
ぶるぶると震えながら、手で口を塞いでいるさつき。抑えきれない快感が体を反応させているのだろう。
必死に声を押し殺すその姿に、俺も我慢ができなくなってくる。下着のしたの生殖器は、もう寝巻を突き破ってしまいそうなほど勃起している。
「っ……さつき──」
「あっ……にい、さんっ……だめ、ぁ、ンっ……!」
それをさつきの股間に擦り付ける。とたん、俺たちは体に流れる快感に二人で体を跳ねさせてしまった。
布が間にあったとしても、性器への刺激はたまらない。特にさつきは胸も愛撫されている状況だから、俺よりも感じているだろう。
だけどやめない。快楽に飢える互いの体を慰めるように、熱いものをさつきの一番大事なところで擦る。
「ん、ぁ、ぁう、兄さんっ……は、ぁ、んっ……にいさん──せつない、よぉっ……」
たまらなくなったのか、熱い吐息とともにそう口にした。
キスをしていた首筋から唇を離し、さつきの顔を見る。さつきは、とろんとした瞳で俺を見つめ、口からだらしなく唾液を垂らしていた。
「わかった。……じゃあ、挿れるか?」
これ以上じらすのはかわいそうだと思い、そう口にする。さつきは無言のまま、こく、と頷いた。
「ねぇ……後ろから、シて……」
恥ずかしいのか、さつきは目を伏せて俺と視線を合わせないように言った。そして俺の返事を待つことなく、うつぶせに体を寝かせた。
あとは好きにしてといわんばかりのその姿に、ごく、と唾を飲み込む。
「じゃあ、脱がすから……」
はやる気持ちを抑えながら下の寝巻に手をかける。それをするすると降ろすと、美しい白い肌がさらされた。
下着は履いていない。肉付きのいい尻肉がすべて俺の目に映される。
俺も同じように下に履いているものを脱ぎ捨てて、枕元の箱を手に取った。中の袋を一個取り出して破く。
あっちにいたころは生で中出しばかりしていたが、さすがに最近は避妊するようにしている。慣れた手つきでゴムを着けて、さつきの上に覆いかぶさった。
「ぁ、ん……あっつい……」
ぴと、と尻に肉棒が触れる。敏感になった生殖器にはそれだけでも大きな刺激。
そこから少し位置をずらして、彼女の濡れた場所と触れ合わせた。
「さつき、挿れるぞ」
「うん……お願い──」
吐息交じりに口にするさつき。肩で息をするその姿を見下ろしながら、腰を突き動かした。
ぬぷん、と飲み込まれる感触。弄らなくても中まで濡れているソコは、先端だけの挿入でも気持ちがよかった。
「あっ……ん、入ってきて──にいさん、おくまで、いれて……っ」
俺に顔を向けて、もうたまらないといった様子でさつきは言った。
俺はその言葉に頷くと同時に、一気に奥まで生殖器を突き入れた。
「あうっ!」
びくん、とのけぞる体。それと同時に肉棒を突き入れている膣肉が痙攣する。
「さつき、イった?」
「ん、ぁ、うん……っ、あ、ア、ん……ねぇ、っもう、動いて……っ」
甘い嬌声を漏らしながらも、さつきはそう懇願した。それで俺も我慢ができなくなった。
浅く引き抜いて、ばん、と尻の肉に腰を叩きつける。どちゅん、とさつきの奥まで一気に生殖器が入っていき、のけぞりそうなほどの快楽が走った。
でも一度で終わらせるなんてできない。彼女の感触を貪るように、それを何度も繰り返す。
「んっ、ぁ、あぅ、ふ、んンっ……ぁ、はげ、しっ……ぁ、あんっ……!」
枕をぎゅう、と抱きしめて、さつきは必死に声を押し殺している。だが、抑えきれないものがこぼれ出ている。
あまり激しくすると一階で寝ている叔母さんに聞こえてしまうかもしれない。だけどその背徳感が一層興奮する。
愛液でどろどろになったものを引き抜き、子宮口をまで一思いに突き刺す。そうして動かすたびに幾つもの肉ひだが生殖器全体を愛撫してきて、あっという間に射精欲を燃え上がらせてくる。
「ぅあっ、ん……っ、あっ、にい、さんっ……ん、おっ、アっ、すご、いっ……あっ、きもちいいっ……!」
だんだんとさつきの声の熱が高まっていく。さすがに聞こえてしまうかもしれないと思い、布団をかばりとかぶった。
だがそのせいで、密閉された空間にいやらしい匂いが充満してしまう。汗と愛液の混ざったそれに、さつきの女の子らしい匂いまで合わさって、興奮は最高潮に達する。
ぱん、ぱん、という尻肉を犯す音も中で響いて、布団の中は俺とさつきだけの淫靡な巣になっていた。
「ん、ぁ、あっ、ん、オっ……あ、わたし、ぁ、イっちゃい、そう……っ、あ、兄さんっ、あ、だし、てっ……あっつい、のっ……一緒に、イって……!」
ぎゅう、と締め付けてくるさつきの膣内。俺も限界が近かっただけに、一気に精液が昇ってきた。
それを絞り出すように、腰の動きを速める。ぱんぱんと乾いた音を絶え間なく響かせ、俺とさつきの生殖器を限界まで擦り合わせる。
少しもせずに、どくどくと熱い欲望が尿道を駆け上ってくる。それが頂点に達した瞬間、ずぶりと子宮を亀頭で突き刺した。
「あっ、イク、イく、にい、さぁん!」
「さつ、き……出るっ……!」
どびゅん、と滝のような快楽が迸る。全身の力を抜いて、流れのままにそれを何度も味わう。
どぶ、どぶ、と白く濁った欲望は先端から出ていくその快感は、死んでしまいそうなほどの気持ちよさ。
「ぁ……っ、あ、お……っ、ぁ、でて……ぁは、どくどくいってるの、わかるよ……っ」
恍惚とした声を漏らしながら、さつきも絶頂に浸っている。快楽に体を震わせながら俺の射精を受け止めてくれている。
後ろからその体を抱きしめて、より腰を密着させる。それでまた奥から昇ってきた。
「さつき──また……っ」
「ん、いい、よ……っ! んぁ、アっ……!」
どぷん、と大きな白濁の塊をまた吐き出す。ゴムを突き破ってしまいそうな程の勢いのそれに、二人で体を震わせる。
そのあとも短い射精が長く続く。それが終わるまで、お互いの体の熱を感じながら重なっていた。
翌日。始業式や諸々を終えた俺は下校のため玄関に向かっていた。
午前中で終わったため、日はまだ高い。
「なあ、知ってるか? 今日二年に転校生が来たらしいぜ。しかも女子!」
隣を歩いている男子生徒がうきうきした様子で話しかけてきた。
彼は俺が転校してきたときに隣の席だった青山だ。新しい環境で不安だった俺に最初に話しかけてくれたやつで、今はいい友人となっている。
「転校生? へぇ、そうなんだ」
「『そうなんだ』って、お前ノリ悪いなー! 女の子だぜ? しかも巨乳だってよ! 興味あるだろ?」
「いや、別に──」
「そうだよな! 興味あるよな! じゃあ早速見に行こうぜ!」
俺が何か言う前に進路を玄関から二年の教室に変更される。
正直、今日は寝不足で早く帰って寝たいのだが、どうやら付き合うしかないらしい。
「えーっと……何組かなぁ」
二年の教室がある三階にやってくる。廊下はまだ下校前の生徒で賑わっていた。
きょろきょろと件の転校生を探している青山にならって俺も廊下を見渡してみる。が、そもそも三か月前に転校してきたばかりの俺にとって、二年生なんて知らないやつばかりだ。
そう思って探すのをやめようとしたときだった。
「さつき」
こちらから見て一番奥の教室から見慣れた女子生徒が出てきたのをとらえた。遠目だが、誰かと楽しそうに話している様子だ。
「え──」
その話し相手に目を凝らす。癖のある茶髪と、目を引くスタイルの良さ。それは、よく見慣れた、忘れるはずのない姿だった。
考える前に走り出していた。隣にいた青山が何か言っていたような気がするがどうでもいい。
廊下にいる一年たちをよけながら走り抜けて、彼女たちの前にたどり着く。
「あ、兄さん」
さつきが俺に気づいて軽く挨拶をする。だが今はそれに構っていられなかった。
「冬香……」
その隣。バッグを肩にかけて、俺を見上げている。それは間違いなく、黒木冬香だった。
なんと言ったらいいかわからず立ち尽くすこと数秒。先に口を開いたのは冬香だった。
「あ、さつきのお兄さんですか? 初めまして。あたし黒木冬香って言います」
「え──」
ぺこり、と軽く頭を下げられる。
予想と違う反応。そんな、『初めまして』なんていう間柄じゃなかったはずだ。
まさか、似てるだけで別人──
そんなことを考えたときだった。
「……ぷ」
目の前の冬香は、口に手を当てて吹き出した。
「あっははははは! なんですかその顔!」
俺の顔を指さして、そいつは腹を抱えて笑い出した。よほど間抜けな顔をしていたんだろうか。
その、人を馬鹿にした態度はまぎれもなく黒木冬香だ。
「なっ……お前っ、お前なぁ! びっくりしただろ!」
「だまされるほうが悪いんですぅー!」
見慣れた、だけど久方ぶりの意地悪な笑みを浮かべて彼女は言った。生意気な態度は相変わらずだが、その様子に安心している俺がいた。
「……まあいいや。その、お前……冬香、だよな?」
「なんですか? あたしのこと忘れちゃったんですかぁ?」
「真面目に答えてくれ」
少しだけ語気を強くしてしまう。冬香は少し驚いたように姿勢をただすと、まっすぐに俺を見つめ返して答えた。
「はい。──間違いなくあたしは、黒木冬香ですよ。お久しぶりです、先輩」
そして、滅多に見せてくれなかった、純粋な笑顔を俺に向けた。
その顔に、思わず見惚れる。三か月以上話すことも会うこともしなかった彼女がここにいる。それがたまらなくうれしくて。
「えっ!? ちょ、ちょっと、先輩!」
気が付けば、その体を抱きしめていた。腕の中の冬香がわめくが、そんなことは些末事だった。
温かい体温、やわらかい体。何も変わっていないことに心底安堵する。
「兄さん」
俺がそうやって冬香との抱擁に浸っていると、横からさつきの声が聞こえた。目を開けてそちらを見ると、どこか気まずそうな顔をしていた。
「みんな見てるんだけど」
「え」
その言葉に、慌ててあたりを見回すと、近くにいる生徒全員がこちらを見ていた。遠くにいる青山も唖然とした表情を向けていた。
一気に恥ずかしくなって、腕の中の冬香を解放した。
「……行きましょう」
彼女も恥ずかしかったのか、俺とさつきは彼女に手を引かれて連れていかれた。
「はぁ、まったく先輩は何考えてるんですか」
「だから悪いって言ってるだろ?」
一年生徒達の視線から逃げてきて、今はちょうど校門を出るところだった。よほど恥ずかしかったようで、ずっと恨み言を言われている。
「まあまあいいじゃん。その辺で許してあげてよ、冬香」
「えー? ……はあ、しょうがないですねぇ」
さつきに言われて、しぶしぶ冬香は引き下がってくれた。その冬香にばれないように、目で「すまない」とさつきに伝えた。
「それで、なんでこっち転校してきたんだ?」
ふと、最初に聞くべきことを思い出して冬香に投げかける。
「え? え……っとそれは」
だが彼女は言いづらそうに目を泳がせるばかりだ。見かねたさつきがため息を吐いて口委する。
「私と兄さんに会いたかったんだって」
「あー!! ちょっと、なんで言っちゃうのさつきー!」
ばふ、とバッグでさつきを叩きながら冬香がわめきたてる。さつきはそれを「はいはい」と軽くいなしている。
「え、そうなのか? 冬香」
「……まあ、そうですけど」
俺に聞かれた冬香は、俺から目をそらしてぽつりと呟いた。ぎゅ、と俺の手を強く握りしめながら。
それに俺もなんだか照れてしまって、何も言えなくなってしまう。その沈黙が少し続いた後、冬香は「とにかく」と区切りをつけるように口にした。
「またこっちでも二人と一緒にいるんで。……その、これからもよろしくお願いします」
恥じらいの残る声で、冬香はそう言った。
俺とさつきはその言葉に少しだけ足を止めた。また三人でいられることが、どうしようもなく嬉しかったから。
「──ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
「うん。これからも仲良くしていこうね、冬香」
今回の話でこの作品は完結となります。
短い間でしたが、最後までお付き合い頂き大変ありがとうございました。