※この作品はR-18です。

何時か何処かの少女達の御伽噺   作:晃条由夢名

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少女の落度~砂漠にて

ゴルド熱砂の遺跡。

土の精霊チチルヨーホを奉る為に建てられたとされるが、いつしか冒険者の観光地、騎士や兵士達の腕試し用の修練場となっていた。

 

だが先の異変から魔素が急増し、観光や修練など生易しいものではないダンジョンと化している。メドラウドと山犬師団の拠点にしていることもあって危険度が増していた。

 

(何度入っても迷いそう……)

 

灼熱の陽光を遮る遺跡は、急に温度を下げた別空間だ。

一定の感覚で設置された灯籠が無ければ進むのも恐ろしい。灯りがあっても闖入者には幾らの勇気と知恵が試されるだろう。

 

(最初は兎に角指輪の導きに従えばって、真っ直ぐ進んじゃったらミルワームの巣に落ちちゃったのよね……)

 

嫌な思い出がジャンヌの脳裏を過ぎ去る。無数のサンドワームの幼虫がジャンヌの太腿を這いあがって来るのを悲鳴を上げながら払い落として、必死に逃げ道を探して、排水溝ならぬ排砂溝を見つけてはそこを死に物狂いでよじ登って脱出したんだっけ。その際にまた大切なものを失ってしまった。

 

……アレからサンドワームの幼虫もといミルワームがジャンヌに狙いつけたような気がする。正確には彼女の尻の穴狙いなんだが。匂いとか覚えてしまったんだろうか。

 

だからか、此処に来るとよく足元を確認しながら進むようにしている。慣れたくはなかったけれど見慣れてしまった自分の掌より大きな芋虫らしき生物の影は、今の所見当たらない。

 

慎重に進み過ぎるのも悪手だ。姫様救出迄の旅路は順調だがこれまでの反省から油断は出来ない。気を緩めているつもりがなくても彼方は一瞬の戸惑いも躊躇も容赦なく突いてくると思い知らされた。騎士ではあるがその前に少女が一人で、仄明るく原初的で、自分しか頼れる守り手が居ない世界にうろうろしていれば、獣の形をした悪意がいつ食らおうと牙を鳴らしているかもしれない。

 

(慌てない、急ぎ過ぎない、そして、自信を持って)

 

足は止めない。道を違えない。剣は鍛えている。己自身も之迄の経験を糧にしてきた。中には心が折れても仕方ない程の辛酸を飲まされたとしても。

 

満たされた魔力によって本来の煌めきを再装填する王家の指輪。その中でまだ輝きを取り戻していない宝石が指標を示している。

 

(……今度は、勝てるかな)

 

この遺跡の最奥で精霊の力を奪い蓄えている黒騎士のことだ。彼の持つ魔剣によって、自分の剣は二度砕かれた。そして怨嗟が籠められた呪詛を、彼の精を胎の奥に注ぎ込まれた。

 

あの時のことまで思い出しては身体が、震える。けれど芯の熱から感じるのは果たして恐怖か。それとも快楽か。

 

(でも、王家の指輪の加護が守ってくれた。今度もきっと……)

 

保身に頼っては破滅への奈落と転落するだけだ。三度目はないとの黒騎士の最後通告もこの時のジャンヌは忘れていた。

 

少女はもう一つ大事なことを見落としていた。慎重に歩まれば罠にかからないという念頭も消えていた。迂闊にも立ち止まってしまった。何かが動く。

 

(……え、こんな所に、石像なんてあった?)

 

ジャンヌの横には人型の石像があった。彼女が一瞬惚けている隙を突くように、頭部の口からガスが噴き出した。

 

(しまった!!!)

 

毒と思い込み、瞬時に判断したことは呼吸を止めることだったが、それは間違いだったガスの性質が違う。対象の肌に当てられた時点で効果が発揮するものだった。

 

全身が硬直していく。なのに意識があっという間に奪われていく。ジャンヌの視界が、『目蓋を開いたまま』閉ざされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『……ンヌ…………ジャ………………ジャンヌ、ジャンヌ!』

 

何度も、強い呼びかけがして、ジャンヌは意識を取り戻した。

声の持ち主は知っていた。水の精霊ミナフルユだ。

 

(みーちゃん、起こしてくれたの?)

 

『う、うん、でも……』

 

ジャンヌの視界は殆ど閉ざされていた。何かに目を覆われている。身動ぎも殆ど出来ない。

 

(ここは何処なの……?)

『ジャンヌ、あなたが生きたまま石にされた後、マミーに遺跡から連れ出されて』

(石にされた?そっか、やっぱりさっきのは石化魔法の……)

『はい。遺跡荒らし対策のトラップで、けど命を奪うものではない、ちょっと懲らしめる程度のものだって、チチルが』

(そうなの。良かった即死罠じゃなくて……。それで、遺跡から連れ出さたってことは、此処は砂漠の方?)

『はい。砂漠の、東側に、岩山に囲まれた洞窟があって』

(それが此処……彼ら、マミーの巣窟だったのね)

 

ベルデ国内のダンジョンもとい霊地には、そこを住処とするモンスター達の群れがある。ゴルド熱砂の場合は古代の礼式の下に葬られた奴隷の怨霊モンスター・マミー。以前なら偶の目撃例しかなかった彼らも、魔素の活性化によって積極的な徘徊をしていたし、ジャンヌに襲い掛かることもあったが、まさか巣穴に連れ込まれるなんて。

 

(……っ!)

 

次に、自分の今の状態を思い知る。

 

遺跡の傍らに、忘れられた祠の残骸があった。

ぽっかり空いた天井の針金に包帯が通されている。

唯一光が差すには、少女が吊るされていた。

白い裸身にマミーと同じ包帯を巻かれている。

少女の周りを屍人の群れが囲っている。仲間にしようとしているのか、供物にしているのか。

 

全身満遍なく巻かれた訳でもない包帯だが、少女の胸元は露骨に晒されていた。屍人が懇願か怨嗟かもしれない唸り声を上げながら近寄っている。強烈な異臭に少女は顔をしかめる。

 

包帯に隠されていた中身は殆ど黒ずんでいた、生きていた頃の面影は輪郭しかなく、骸骨に黒い塵を貼り付けたようなものでしかない。そんな哀れな屍人は、本能のままに少女の豊満な乳房に吸い付いた。赤子が母親に求めるようだが、吸引自体は貪欲なものだった。

 

(~~っ!……私の、生気を、吸っている、の……?)

 

少女は噛み付かれている乳房の痛みに耐える。もし悲鳴を上げても口元を覆う包帯によって遮られるが。

 

吊るし上げられている股間にもさっきから嫌悪感と快感があった。別のマミーの頭部が少女の下部へ押し付けるように挟まっていたのだ。陰唇に口付けされている。指部分を出し入れし膣肉に刺激を与え、分泌液を啜られている。

 

二体だけではない。他にもマミーが脇下から太腿から、包帯を当てがられている所も肌身の部分も関係なく触っている。這いずるように、縋りつくように、纏わりつくように。

 

『いやあ!!ジャンヌ!!!』

(大丈夫みーちゃん!じっとして!!!)

 

悲鳴を上げたのは王家の指輪に潜んでいる水の精霊の少女だった。包帯に拘束されマミーに嬲られている少女の凌辱に堪え切れなくなったのもあるが、それ以上に深刻な問題が発生している。少女の肌が、黒紫へ変色し始めていた。死者の穢れを直に浴びせられているのだ。つい飛び出してしまいそうな精霊を一喝した少女も内心焦っていた。

 

(……このまま成り行きに任せたら、彼らの仲間になっちゃいそうね……)

 

彼らはあくまでも生者への執着から少女の生命力を求めている。獣【ケダモノ】の肉欲を満たすだけだったならば、嵐が過ぎるのを待とう。悲しいけどこの少女は諦観した選択肢が出来る程度には慣れてしまった。然しあくまで生き残る為の選択肢だ。今回は、そうはいかない。彼らが満足するまで好きにさせていたら、こちらが屍人になってしまったらとんだ笑い種だ。幸い、マミー達には視えない同行者が付いている。

 

(みーちゃん、実体化しなくても、魔法は使えるよね?)

『は、はい!ほんのちょっとずつなら』

(うん、じゃあ私に癒しの水をかけ続けて、絶対に、実体化しちゃ駄目だよ)

 

水の精霊は慌てずに活路を探る少女の言う通りにした。

 

 

 

 

 

静かに、雫は滴っている。

包帯に巻かれた屍人の群れは妄執的な声を荒げていても、その音はちゃんと少女の耳に届いている。

 

少女自身の体液とは別の、魔力を取り込んだ慈愛の水が、精霊と王家の指輪を通してジャンヌへと流れ込んでいく。こうして死の穢れに浸食されかけた肌も留まっていた。

 

(声が少なくなってきたわね……)

『は、はい、何故か分かりませんが、段々マミーが大人しくなってて』

(まだ積極的に動いているのは幾つ?)

『1、2、3、……4……5、これだけ、かもしれません』

 

視界は閉ざされているが、気配で周囲の状況はそれとなく知れた。

ミナフルユのおかげで数も正確に把握出来た。

 

おそらく、生気を吸い過ぎたマミーが消化不良を起こしたのだろう。普通の冒険者辺りなら肉を齧り取られ血を啜られていく過程を経るか、ジャンヌのような女性なら分泌液を啜り上げながら穢れで腐蝕させることによって、彼らの同族と化していく。

 

しかしジャンヌの異様な自己修復力(癒しの水の補正含めて)と幾ら吸っても空にならない魔力がマミーらの容量を超えていた。ジャンヌ自身も気付いてないが、彼女の魔力は死に近い者や虫など矮小な生物程にとっては高濃度の果実だ。彼女の心身を食らい尽くすより先に満腹感を得てしまう。

 

という訳で、持久戦に挑んだ結果、数十体近くのマミーは半数が既に活動を休止させていた。あと数時間もすれば拘束する包帯だけ解いて逃げ果せられるだろうが。

 

(そろそろ、いいわね)

 

正直、こんな所にもう一分でも長くは居たくない。

ミナフルユのおかげで、気分は最悪だが体調は最良のままだ。

だからジャンヌは行動を起こした。

 

全身を包帯で縛られていたといっても、やはり巻き方が雑だった。脚部分だって適当に巻いていただけで拘束具としてはすっかり緩くなっている。癒しの水やジャンヌ自身の蜜や汗でふやけてもいた。

 

だから、力と勢いで引き破ればそのまま下腹部を弄っていたマミーの頭部を蹴り飛ばした。

 

マミー達はきょとんとしていただろう。今まで大人しかった供物が急に動いたのだから。

 

ジャンヌは勢いを維持したまま、自らを振り子にした。自分を釣っている包帯を揺さぶり、負担を与える。それと今自分の乳房を揉んだりしてこれから吸い上げようとしていたマミーの体を自分の下半身で捕まえた。ただ挟むだけじゃない。釣らされている状態を利用した上の遠心力を駆使し、全身を使ってマミーを投げ飛ばした。

 

これで二体。僅かな視界から視えたまだ活動している三体目が近寄って来る。力ずくで押さえつけようとするのだろう。

 

その前にジャンヌは腕の筋肉だけで、自分の全身を持ちあげた。

 

かなり丈夫な包帯だったろう、けれど長い時間それなりの重量のものを吊ってて、軋ませながらかつ、こっそり水の魔法で湿らせておけば……破れる。

 

よし。狙い通りのタイミングで破り切れた包帯に合わせて、襲い掛かるマミーの肩に乗っかった。マミーは無造作に伸ばした両腕が空ぶって、供物の少女が自ら乗っている状況に空の脳では最早処理し切れなかった。

 

ジャンヌは自由になった両手は縛られた時の体勢のまま、それより固く合わせた両拳を作って屍人を強く叩く。続け様に両太腿で頭部をがっしり挟んだまま勢いよく仰け反った。一緒に倒れる為ではない、ジャンヌは受け身を取りながらしっかり地面に手を付けて、マミーは頭を直に地面へと投げ叩き付けられた。

 

「ミナフルユ、剣は?!」

『あっちです!』

 

石化魔法のせいで装備もとい服が全壊してしまったが、幸い剣は無事だった。しかもこの離れ遺跡の中に落ちていた。

 

拘束から解放され颯爽と動くジャンヌは、水の精霊が既に目星を付けていた個所へ走り出す。その前に四体目のマミーが立ち塞がっていたがもう彼女は石になっていた訳でも包帯に縛られていた訳でもない。自由の身の騎士は鈍い腕をあっさり見切っては掻い潜り、目的の剣を拾い直した。

 

四体目のマミーが振り返り、追いすがる五体目が来たと同時にジャンヌは剣で一閃する。

両足と両腕を切り付けられた屍人から悲鳴が上がり、斬られた箇所から塵と化していく。死者が本来あるべき所へ帰還していく。

 

ちなみに、剣の近くにローブがあったのでそれも拾った。遠い昔の犠牲者で、マミーと化してしまった旅人の物だったか。お借りします。と失礼を内心で詫びながらローブを即座に羽織った。流石に雑に巻かれた包帯だけでは心許ないのだ。

 

まだ動けるマミーが視えたがこれ以上彼らに構っている暇なんてない。丁度入り口が見えていた。ジャンヌは迷いなくそちらへ走った。こうなったら、マミーはもう彼女を捕まえられない。元より彼らとジャンヌとの機動力が違い過ぎる。

 

休止していたマミーらも騒然に気が付いたが、彼らがのろのろと身を起こした時にはジャンヌはとうに巣窟から脱出していたのであった。

 

 

 

 

すっかり夜になっていた。

砂漠の砂は昼は熱く、夜は氷のように冷たい。

裸足には堪える。

 

「良かった……無事に逃げれて……」

 

実体化したミナフルユが安堵に肩を落とす。

彼女にも随分怖い思いもさせてしまった。涙目になっていた優しい水の精霊の少女の頭を撫でるジャンヌは、もう心配ないよと告げようとして、蹲った。

 

「う、っくう……」

「じゃ、ジャンヌ!?」

「ああ、もう!」

 

また悲壮な声を出す水の精霊に申し訳なさを感じながら、目下まだあった問題の処理に取り掛かる。ジャンヌは、腹を押し込めながら自ら下肢を触れた。尻穴に指を差し入れる。自慰行為みたいな真似を精霊の前で晒してしまったが、仕方ない。

 

「いい、加減、出て、行って!!」

 

ガニ股に近いうつ伏せになり、腹を抑えながら尻を突き出すような体勢になって、尻にあったものを捻り出した。

 

幾らかの体液と共にジャンヌの尻から出した排泄物の正体は、芋虫だった。

 

大小の差がある三匹が、うぞうぞのたり捻って、砂漠の中へ自ら埋もれて消えてった。

 

消えてった虫たちを、なんともいえない目で見送ったジャンヌはそれから溜息を吐いた。

「ごめんね、汚いもの見せちゃって……ハハ」

「……うう……」

 

途中から腹部への異常さに気付いた。ミルワームがマミーの巣窟に侵入してはちゃっかりジャンヌの内部にまた入り浸っていた。尻穴から腸内まで入り込んでた異物を抱えながらあの大立ち回りをしていたのである。ジャンヌ的にもマミーに生気を吸われるよりミルワームにいつ腹を食い破られないかの方が気が気でなかった。

 

水の精霊の少女は先までの凌辱の光景をなるべく見ないようにしていた、癒しの水でジャンヌの体力維持に集中してたので虫の侵入に気が付かなかったが、ジャンヌはそのことを責めるような人ではない。逆になんで謝るのと思ってしまう。

 

「んん……?」

 

だから、騎士の少女の頭を撫でた。さっき自分がされたみたいに。下手な言葉よりも、こちらの方が伝わると思う。

 

ジャンヌはというと、精霊に頭を撫でられていた件に不思議に首を傾げた。慰めるつもりが、気が付いたら慰められてしまったので。

 

……まあ、何はともあれ、今日の反省の結論。

 

「仕切り直し。ということにしましょう」

 

迷ってたから、今回の事が起きたんだ。あのままメドラウドまで進んでいたら、きっとまた敗北していた。他に気になることとか、指輪の駕籠という保険に頼っていては駄目だ。先ず、彼に確実に勝てる程の鍛錬を積まないと。

 

結果は敗走だけど全然次に活かせる余裕はあったのに、帰宅してみたらで、とんでもない事態になっていた。

 

 

 

 

ただいま。との第一声はすっかり消えた。ジャンヌは慌てふためきながらダイアナに近寄っていく。

 

「ダイアナ!?どうしたのその傷!」

「ジャンヌ様、お帰りなさいませ」

「ただいま。けどそれより質問に答えて!」

「これは、ちょっと…………転びまして」

「転んだ……?!」

 

ダイアナの姿は、一言で表せば負傷者だった。

 

いつもの小綺麗なメイドの正装の下に、包帯がある。それも腕の一つどころではない。両腕から首にも巻かれていた。顔にも大きな絆創膏が貼られている。なのにダイアナ自身はいつもの真面目さを描いたようなすまし顔でジャンヌを見つめている。

 

「とてもそうは見えないけど」

「あの、スカートを捲るのは……」

「ほら、脚まで怪我しているじゃない!安静にしなさい!」

「ジャンヌ様こそ、その恰好は……体に、障ります」

「あ、ごめん。けど今回は本当に大したことじゃないよ!負けたっていうか仕切り直しだからね!!」

「はあ……湯舟は常に沸かしてあります。……お召し物もご用意します」

「うん分かった」

 

そういえば自分も包帯巻かれてたわ。ダイアナと違って怪我している訳でもない、というか理由がかなり特殊なんだけど。いやそんなことどうでもいいわ。さっさと全部取ってはまとめてゴミ箱に捨てた。

 

湯船に漬かりながらジャンヌは考えていた。あの怪我、とても転んだだけとは思えない。本当だとしても大事故に遭っているってことじゃないか。絶対に問い質さないと。

 

 

 

「お夜食も入りますか?」

「ありがとういただきます。ところでダイアナ、その怪我なんだけど」

「…………明日の装備も用意しております、ご安心を」

「うんそれはいいの。それよりね」

「……また、ハーブティーも煎じます」

「ありがとう。……それより聞きたいことがあるんだけど」

「……明日も、早いですので、……先にも安静にせよと、言われましたし、私もお休みに入ります」

「そうでしたね……って、ダイアナ、聞きたいことがあるんだけど」

「あ、そうです。……ジャンヌ様」

「はい?」

「モニと一緒に寝てあげてください。……偶にはジャンヌ様と共寝をしたいんです、この子は」

「…………うん、そだね」

 

 

結果。特にダイアナから何も聞けずに就寝。

傍らにはダイアナの次に可愛いモニが静かな寝息を立てていた。この子もジャンヌが帰って来るまで待っていてくれたんだろうか。

 

「……モニ、あなたなら何か知っているよね?」

 

犬語が介せれば尋ねてみれただろう。

しかし賢い子だから、やはりはぐらかされそうだ。

 

ダイアナの身に何が起こったのか、気になって眠れない。

 

しかし体の疲労はしっかり溜まっていたので、ジャンヌはベットについて十分もせずに熟睡していた。

 

 

 

 

「…………」

 

主人である少女の寝息を確かめて、ダイアナは二階へと踵を返す。

なるべく音を立てずに自分の部屋へ戻れば、寝台の前で蹲った。

 

(ジャンヌ様には悟られなかった……良かった、かな……)

 

眠れなかったのは彼女の方だった。自分の手足に付けられた怪我を見やる。

 

(モニと距離を取っていたこと、気付かれたかしら……?)

 

夜になってから、愛する飼い犬と触れ合っていない。昨日の今日で『あんな目に遭ったから』。

 

モニは賢い子だ。もう一人の主人とも言っていい友人の身に起こったこと、その際に染み付いた匂いも、躊躇するのに充分な材料。

 

私自身も、あの子を撫でようとした手が無意識に震えていた。吐き気もしたし、実際に医師に指摘されては痰壺の世話になってしまった。

 

(……大丈夫、モニはモニ。アレはモンスター……割り切って)

 

 

 

ダイアナは、今日、ジャンヌが出発した直後の頃から回想した。

 

 

 

 

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