ここは狭間の世界。
私が妹から貰い受けた貴重な異空間。
私と妹だけの世界。
そこは私にとってかなり過ごしやすい場所であり、何より私や妹が落ち着ける唯一無二の世界なのである。
今日はその場所に妹を呼び出していた。
「何?姉さんが私を呼び出すなんて珍しいわよね?」
いつもと同じような笑みを浮かべながら現れたのは『賢聖エルカ』。
私の妹でありこのクティル王国救った三聖人の一人だ。
...、相変わらず妹の大きい胸に嫉妬してしまうが、今はそんなことよりも大事な事を話す。
「ええ...、実は今度同僚と散歩する事になってね...」
それを聞いた妹の反応が痛い。
「えっ!?、あの姉さんが仕事の同僚と出かけるの!?」
物凄く驚かれたので、少し頭に来る。
「私だってたまにはそういう事をするわよ!」
それを聞いた妹は、はは〜ん...と何かを察したような表情を浮かべた。
「なるほど...、それで私の出番ってわけね!」
まあ、話が早くて助かる...。
「そうなのよ...、あなたには...」
そこまで言いかけると妹の言葉責めが始まった。
「大丈夫よ!姉さん!、いくら姉さんが重度の人見知りでも、毎日顔を合わせてる人の前ならきっと大丈夫よ!、私がここから応援しててあげるわ!」
「ち...ちが...」
私の意見を聞く前に一人で盛り上がる彼女。
「フレー!フレー!プ・ラ・ム!、ガンバレ!ガンバレ!プ・ラ・ム!」
「何言ってんのよ!ちょっと五月蝿いわ!あんた!!!」
思っているよりも数段五月蝿い声を発する彼女に一喝を入れると、急に小動物のように黙りこくる。
その差を見ていると本当に疲れてくる私は「はぁ...」とため息をこぼし、一度気を取り直してから本題に入った。
「カリンの特訓の事で、その日は休みにさせて貰うのだけど構わないかしら?」
「姉さんが始めて家族以外の人と能動的に交流するんだから、妹としては止める必要はないわ!、楽しんできてね!」
相変わらず自分が話す時には馬鹿でかい声で明るく振る舞う彼女を見てため息を吐く私。
「あんた...、無理しなくていいのよ?、ここにはあなたと私しかいないんだから、そんな無理して明るくしなくても...」
そう...、私には分かっている。
妹が『賢聖』である事の重責から逃れる為にこのようなあっけらかんとした態度を取っていることを...。
そんな事をしても、妹から賢聖という肩書きが外れる事などある訳がないというのに...。
全く...、弱い癖に無理に強くあろうとして...、本当に馬鹿な子...。
馬鹿な子...だからこそ彼女を放って置けないのも事実。
そう...私は妹の為だけに、このクティル王国へと舞い戻ってきたのです。
そうでなければわざわざここまで戻ってくる必要もありませんしね。
「無理なんかしてないわ!、それよりも姉さん頑張ってね!」
妹はそう言いますが、別に頑張る必要はありません。
適当に流して帰ってくるつもりですし、正直楽しむ気もないのでした。
「まあそこそこにね...」
私はそれだけ答えると、妹の分も一緒にお茶を入れました。
「とりあえず飲みましょうか、冷えちゃうと勿体無いし...」
カップを一つ渡し、一緒にお茶を嗜むこの瞬間が一番幸福感を感じます。
(うん...美味しい...)
ただこれだけのことですが、私にとってこれが一番大切な事なのでした。