「全く...、リュイラの奴は相変わらず変態なのよ...」
私が自室でくつろいでいると、部屋にノック音が響きわたりました。
「失礼します」
礼儀正しい口調で現れたのはユウカでした。
「ユウカ? 私に何か用かしら?」
「いえ、ちょっと差し入れに来ただけですから...」
そう言ってティーポットから出来立ての紅茶をカップに注ぐ彼女。
「...紅茶よね...それ...」
「そうなんですよ! 今日たまたまいいお茶葉が手に入ったので、是非プラムさんにと」
嬉しそうに注いだ紅茶を受け取る私。
「せっかくだし頂くわ」
程よい温度のお茶をゆっくりと味わう。
柔らかい食感を楽しみながら揺れる水面に視線を落とす。
「美味しいわね...、これ...」
思わず出た答えがそれでした。
「ですよね!? 私もそう思います!!」
どうやら彼女も感想は同じ様である。
いいお茶を嗜みながら少し彼女と会話していると寝る時間が来てしまった。
「あら...、もう寝る時間ね...」
「そうですか...、では私はこれで...」
「ええ、私の話に付き合わせて悪かったわね、ユウカ」
「いえいえ、プラムさんの話はどれもためになるので楽しかったですよ」
「そう?、ふふっ...嬉しいこと言ってくれるのね貴女...」
魔法使いにとって、自分の魔法の話を聞いて貰えていると言う状況はとても有意義な物なのです。
特に私の様な、皆に魔法を広めたいと志している者にとって、善悪問わずに魔法の話をできる相手は貴重でした。
確かにユウカは高位の魔法を扱える程の魔術師ではありませんが、それでも私の話を真剣に聞いてくれる様に心が動かされてしまいます。
(ふふっ...、この子ちょっとだけカリンに似てるかもしれないわね...)
私がカリンに魔法を教える理由の1つにそれがありました。
あの子は私が教えた事を素直に吸収して学びつつも、自身の魔法にアレンジとして組み込み始める柔軟な思考も合わせ持っているので本当に面白いと思います。
例えばですが、右手で回復魔法を負傷者に使いながら左手で攻撃魔法を敵であるボールに当てるという訓練において彼女が出した答えはこうでした。
『片手でしか攻撃魔法が使えないのであれば、召喚獣であるアアルに手伝って貰って魔法の威力を安定させよう!』
最初こそ私は笑ってしまいました。
『馬鹿ね、召喚したての召喚獣が使い手の意思に合わせて魔法を扱ってくれる訳が...』
その後の事は良く覚えています。
本当に召喚獣と息を合わせて風と光の複合属性を作り上げてしまったのですから...。
(これが賢聖の血筋か...)
普通は異なる属性の合体なんて出来るはずが無いのですが、彼女の場合は合体というよりも、『光』という属性を『風』という属性の強化に当てる様な形で威力の低下を補正していたのです。
これには思わず私も目を見開いてしまったのを今でも思い出す。
「ふふっ...、本当に面白い子ね...」
「えっ?」
いきなり変な事を言ってしまい彼女を困惑させてしまいまったようでした。
「ああ...、こっちの話だから気にしないで」
「そうですか? ...ちょっと気になりますが他人の事情に踏み入るのは騎士道精神に反するので、今日はもう退きましょう」
「ありがとう、おやすみなさい」
「プラムさん、おやすみなさい」
ギイっと扉を閉めるのを確認した後、私は自室の鍵を閉めました。
...あれっ? そういえばリュイラの奴が結局私の部屋に突撃して来ませんでした...。
(何を考えているのかしら?)
絶対に一回は私の部屋に入ってくると思っていたので、念のために探知魔法を張り巡らせていたのですが、引っかかった形跡がありません。
(意外ね...、あの子の事だから絶対何かしらの行為に及んでくると思ったのだけど...、私の感も鈍った物ね...)
何はともあれ、何もしてこないのであればそれに越した事はありません。
私は安心してベッドに潜り込み、スヤスヤと寝息を立てるのでした。