※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ4 -狭間に咲く蒼の華-   作:独楽 悠

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第11話_静と動の邂逅

そして土曜日を迎え、烈(レツ)と蒼矢(ソウヤ)は連れ立って件(くだん)のショッピングモールへ向かう。

小規模ではあるものの10時開店の週末の敷地内はすでに人で溢れかえり、丸くひらけた中広場のフリーマーケット会場にも売り主らの色とりどりのパラソルやレジャーシートが敷き詰められ、道行く人が次々に広場へ吸い込まれていっていた。

蒼矢でも口を半開いたままに、少し高揚した面持ちになっていたが、烈のテンションの上がり様はひとしおで、目を輝かせながら広場を食い入るように見つめていた。

「…すげー! めっちゃ色んな物ある!! どうする、どっから見る!?」

「待てって。端から順にいって、良さそうなのがあったら止まって見てみればいいだろ」

蒼矢は、興奮を抑えきれずに広場内へ走っていきそうになる烈のリュックを掴んで落ち着かせると、二人揃ってフリマ会場へと足を踏み入れていく。

「あっこれ、前中古屋で見てから欲しかったやつ…! すごい、あん時よりだいぶ安いぞ! …あぁっ、これも前から狙ってたやつだ…、ああぁっ、これも…!!」

「そんなに手に取って、予算大丈夫なのか? まだ見始めたばかりだけど」

「心配すんな、あとでちゃんと厳選するぞ! 母ちゃんからひとつ千円以内・計3つまでとお達しが出てるんだ!!」

「…おばさん、賢明だな」

二人はしばらくの間、蒼矢が烈のウィンドウショッピングに付き合う形で行動する。元々烈の要求に応える体(てい)で来ていたため、興味惹かれるものはあったものの、蒼矢はそれほど注視せず流し見して歩いていた。

が、とある売り場スペースに差しかかると、蒼矢の足が初めてぴたりと止まった。

「! どした? …おー!」

立ち止まる蒼矢に気付いて振り返った烈も、その光景に歓声をあげる。

その売り場には隅に置かれたレコードプレイヤーからの音楽が流れ、ブルーシートの上にその青地を埋め尽くす大量のアナログ盤がざらっと並べられていた。

年代物であろうレコードの数々は、普通のレコード店にあってもおかしくないくらいにどれも装丁状態が良く、シートがあるとはいえこのような地べたに雑多に並べるには勿体無い代物ばかりだった。

「すげぇ…! こんな数のレコード見たことねぇぞ…!?」

立ち尽くしたままの蒼矢の横でしゃがみ込むと、烈は一つ一つ無作為に手をのばし始め、ふと何かに気付いたように一枚を手に取ると蒼矢へ差し出した。

「ほらこれ、お前CDでよく聴いてなかったっけ?」

手渡されたクラシック盤を眺め、蒼矢は緩慢な動作で頷いた。呆けたような表情の中でほんのりと頬を染める彼を見、烈は柔らかく笑った。

「…俺もそれだけはタイトル覚えてる。お前それ聴きながら受験勉強頑張ってたもんな」

「……」

「――よぅ。お前らこんなのに興味あんのか?」

すると、ふいに奥からぬぅっと人が現れ、レコードプレイヤーの隣に並べられた折りたたみ椅子に腰かけた。

売り主らしきその男に気付き、視線をあげた蒼矢は一瞬ぎょっと目を見開いた。アロハチックな花柄シャツにラウンド型のサングラスに金髪という風体の男は、アンティークな雰囲気の漂う売り場の景色にはそぐわず、このレコードエリアとはまた別の意味で会場の空気から浮いていた。

蒼矢は思わず口をつぐんでしまったが、烈は全く気にせずに男へ人懐っこく話しかけていく。

「あんちゃん、ここの売り場の人?」

「おう、売り始めてから人っこひとり止まってくれねぇから寝落ちしそうになってたわ。やっと見てくれる渋好みが現れたと思ったら、ガキんちょだったもんで驚いてる。こんな数のアナログ盤見たことねぇだろ?」

「うん、無い。何書いてあるかもわかんねぇし」

「あー…洋曲にクラシックしかねぇからな。いやでもちったぁ読めんだろ? 授業でやってんだろ?」

「英語めちゃくちゃ苦手なんだよねー。毎度赤点ギリギリ」

「おいおい、俺かよ。お前の将来不安だわ」

「でしょ? テスト前はこいつにいっつも助けてもらってんの。英語得意なんだ」

意外と和やかに二人で会話が盛り上がる中、サングラス男は隣の蒼矢へ目を移す。

「あぁ…確かにそっちの方が出来良さげだな。どう? 洋楽もこいつより話できそうに見えるけど」

「! あ、あの…」

烈が見上げる中話を振られた蒼矢は、二人からの視線を浴びて少し動揺し、手に持っていたクラシック盤にはたと気づいてあわてて売り場に戻しかける。

「すみません、勝手に…、あ」

しかし男は手を伸ばしてそれを受け取ると、ケースを傾けてレコードを滑り出させた。

「かけてやるよ、聴きたいんだろ?」

男は蒼矢へ向けてニッと口角を上げ、慣れた手つきでレコードを傍らのプレイヤーに乗せる。針が溝に合わさり、ゆっくり回転し始めると、二人の聴き馴染みのあるピアノ曲が流れだす。

「…あぁ、これ! んー、なんかちょっと懐かしさが増すなぁ」

「どうだよ、CDの音源と全然雰囲気違うだろ? LPならではの聞き応えってか、味が出るんだよ」

「…はい、聴いてて心地が良いです」

それぞれに嬉しそうな表情を浮かべる二人を満足気に見やっていた男は、にわかに烈の肩を掴んで自分に引き寄せ、小声で囁きかけた。

「…おい、お前気ぃ利かせろよ」

「? どういうこと?」

「だからぁ、レコードの一枚くらい買ってやれっての。…ついでに売り上げにも貢献しろ!」

「えぇ、何で俺が?」

「あ? あっち彼女(・・)なんだろ? ただの女(・)友達にしては凸凹過ぎる」

「…! あぁ違うよ、あいつは…」

と、烈が言いかけた瞬間、地震とは違った感覚の地鳴りが伝わり、大きな構造物が崩れるような轟音に次いで、ショッピングモール建物中央辺りから土煙が数メートルにも膨れ上がった。

フリマ会場に溢れていた人々の動きが一瞬止まり、一斉に音のした方角へと振り返る。周囲がざわつきだす中、二人とサングラス男も売り場から顔を出す。

「? なにごとだ…っぷ」

烈は反射的に土煙があがった方へ走りだそうとするが、サングラス男の腕に止められた。

「やめとけ、ありゃなんかの事故か…下手したらテロかもしれねぇぞ」

「…テ…!?」

その言葉に、羽交い絞めにされる烈と棒立ちになっていた蒼矢が、揃って彼を見上げた。

急に固まってしまった二人の表情を見、男は緊張を和らげようとしたか、にやっと笑ってみせた。

「…まぁ、早いとこ逃げとこうぜ。安全な場所まで送ってやるからさ」

「で、でも…売り場は!?」

「あー、これはいいや放っておいて。どうせ俺のじゃねぇし」

「ん、えぇ!? いやそれにしたって――」

そう男の言い草に思わず突っ込む烈の隣で、蒼矢が鳩尾(みぞおち)辺りを押さえながら座り込む。

「? どした、蒼矢…!?」

腕から逃れ、烈はその肩に手をかけるが、蒼矢は顔を地面へうつむかせたまま動かない。

胃にこみ上げてくるような不快感と、景色が大きく揺れるような眩暈。

…この感じ…、もしかして……

「……!」

霞む視界に、淡く発光する自分の胸元が映る。

徐々に増す悪寒を覚える中、ペンダントを隠すように、シャツ越しに手をかけた。

「おい、蒼矢…!?」

「っ…大丈夫…、ちょっと…立ちくらみが…」

案じるように声をかけてくる烈へ、途切れとぎれに返答するが、簡単には立ちあがれそうにない。

…どうしよう、このままじゃ烈が危険だ…、先生と影斗(エイト)先輩に…連絡…、しなきゃ……

「――おい」

と、しゃがむ二人を囲うように、サングラス男が後ろから声をかけてきた。

男は先ほど見せた余裕のある表情からがらりと変わり、振り返った烈を真顔で見据えていた。

「お前は動けそうだな?」

「! あぁ、うん…」

「駐車場の手前にこのフリマの管理本部がある。そこ行きゃ簡単な救護所が置かれてたはずだ。この状況で、今機能してるかわからねぇが…お前、先行って話通して来い」

「えぇ…!?」

やにわに投げられた男からの指示に、烈は戸惑うように眉根を寄せた。

「っでも…俺、蒼矢を置いては…」

「心配すんな、悪いようにはしねぇよ。本部行って誰もいなかったらさっさと家に帰れ。あとでこいつから必ずお前に連絡させるようにするから」

「…、わかった」

「走ってけ。くれぐれも戻ってくんなよ」

「了解! …そいつのこと頼むな!!」

「おう、任せとけ」

男に説得された烈は意を決し、手を振りながら混乱し始める人波をするすると抜け、あっという間に消えていく。

「…ったく、前見て走れっての」

烈を見送ると、サングラス男はため息を一つつき、蒼矢のすぐ隣に腰を落とす。

「急に具合悪くなったみたいだな?」

青ざめたまま、蒼矢はゆっくりと男へ顔を向ける。サングラスを少しずらした男は鋭く射貫くような視線を投げて腕を伸ばすと、胸元を掴む蒼矢の手を上から覆った。

「――こいつ(・・・)の仕業か?」

「……!!」

突然の男の言に、うつろ気だった蒼矢の両眼が瞬時に見開かれる。咄嗟に逃れようとしたが、もう片方の腕で身体を押さえられた。

瞬きもできずに凝視してくる蒼矢を見、男は目元を少し緩めた。

「悪ぃ悪ぃ…まぁそう警戒すんなって、だいたい把握したから。ちょっと俺の中で倍(・)驚いちまっただけだ」

そう言われてもいまだ動揺したままの彼へ向けて、男はおもむろに自分の胸元を探る。アロハシャツの襟から指に絡まりながら出てきた銀色の鎖の先には、黄色に光り輝く鉱石がぶら下がっていた。

見開かれた蒼矢の視線が彼の鉱石へ移り、またすぐに男へと戻っていく。男はサングラスを外し、にやりと笑いかけた。

「…これでもう安心だろ? ――俺はお前の仲間だ」

男のハーフパンツから携帯が鳴る。画面を見て軽く舌打ちすると、蒼矢を支えながら応答した。

「おう、場所はK町のショッピングモールだ。…うるせぇ、葉月(ハヅキ)は? …まじかよ。…わーった」

手短に話を終え、男は蒼矢を再びのぞき込んだ。

「動けるか?」

「はい…なんとか」

「よし。ひとまず人の通らねぇ場所行って、待機だ。すぐもう一人合流する」

蒼矢は頷き返し、二人で場所を移動していく。ほぼ抱えられるように歩く中、蒼矢はサングラスを外した男の顔をじっと見上げていた。

…この人の顔って……

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