わずかな間隙を経て、5人は『転異空間』へ降り立つ。
前回と同じく、どこまでも無地の空と灰色の地平しか見えない空間が広がる中、変身し戦闘スーツに身を包んだセイバー一行は、銘々にその景色へと視線を送っていた。
「…来るならとっとと来やがれってんだ。こちとらそんなに暇じゃねぇんだからよ」
サルファーがそう挑発するようにつぶやくと、真平らな地面がドーム状に隆起する。無数のそれは音もなく瞬く間に広がり、やがて生え出てきた[異形]が宙に浮かんで彼らを取り囲った。
「っ……!」
前戦とは比べ物にならないその数に、アズライトの面持ちに緊張が走り、その心中を察してかエピドートが寄り添う。
円を描くように位置取り、全方位を警戒するセイバーズの頭上から、ふいに抑揚の薄い声が届いた。
「前回より手数が増えているようだが、俺には無意味だ。お前たちの手の内はほぼ割れているしな」
「そりゃお互い様だろうが。お前が従えてる思考停止ペットなんざ、俺の敵じゃねぇぜ」
[
「…どうかな」
同時に[異形]の楕円球体からおびただしい数の針状突起が生み出され、セイバーたちへ向かって一斉に放たれた。
しかし次の瞬間、突如吹き荒れた突風にさらわれ、空中へと巻き上げられていった。
暴風はセイバー達を囲い、第二陣、第三陣の攻撃もその厚い防御壁の前に粉々に散っていく。
驚いて見上げてくるアズライトへ、暴風壁を造り出したエピドートが、『雷嵐』を構えながら笑みを返した。
「今戦の防御担当は僕だよ。全面的に君への攻撃をガードする」
エピドートは目元を緩めながらも、真摯な視線を注いでいた。
「君の『索敵』にかかってる。…頼んだよ」
「…はい!」
その表情を受け、頷いたアズライトは『水面』を呼び出し、『索敵』を開始する。
「…さすがに"本業"は安定感がある。物理攻撃相手に後れを取ることはないな」
素で漏れたようなロードナイトの感想にエピドートは微笑み、ついで少しおどけてみせた。
「とはいえ、守ってばかりでも攻撃しないことにはね。頼みますよ、"本業さん"たち」
「そうだな。じゃあ、雨にでも降られてくるか」
そう軽く返すと、ロードナイトは暴風壁を飛び出していく。
片手に炎を溜め、予備動作中の[異形]へ向けて『紅蓮』で薙ぎ、体躯へ当てて爆発させる。攻撃を受けた一体がぐらりと傾き、降下していくその対角線から、ロードナイトの背後へ向けて別の[異形]が針の照準を合わせる。が、彼の身体をかすめて別方向から光弾が襲い、射出された針の横っ面から迎撃した。
「単体攻撃しかできねぇくせに、イキってんじゃねぇ」
『陽光』を構えたサルファーがにやりと笑うと、彼を見上げるロードナイトは涼しい顔で口角を上げて応える。
「お前こそ、最初からそんなに飛ばしてるとガス欠になるぞ」
「無駄撃ちはしねぇよ。つーわけで、とどめだけはお前に譲ってやるわ」
「…腑に落ちない取り引きだが、今戦限りは呑んでやってもいい」
悪態をつき合いながらも二人は見る間に息を合わせ、連携攻撃し始めた。
「……っ!」
「? アズライト、どうしたの?」
『索敵』中の微かな変化をエピドートが察し、アズライトはその呼びかけに一時逡巡するように沈黙したが、小さく口を開いた。
「…急所はまだ不明瞭なんですが…、[異形]に有効な属性が判ったかもしれません」
「…!? 弱点属性か…、そういう特定も出来るんだね」
「なんとなく空気で判るものもあるが、金属や鉱物系はあまり出くわすことがなかったから、弱点は判らずじまいのままだったな。今後の参考にもなる」
「で? 属性は何なんだよ?」
「…毒です」
彼の言に、全員が一様に表情を固まらせて沈黙する。セイバーたちのその反応にアズライトが少し戸惑いを見せる中、サルファーらのサポートに回っていたオニキスが、いち早く脳内から応答した。
「――了解。じゃ俺、適当にやっとくわ」
そう言い残すと場を離れ、暴風壁を中心にして彼らから真反対側へ跳んでいく。
「!? オニキ…」
「いいんだ、その方が彼もやり易い」
慌てて姿を目で追うアズライトへ、エピドートが声をかける。
「僕たちの使う属性攻撃は、味方である他のセイバーには何の効果も影響もない。…ただ、オニキスの使う『毒』だけは別なんだ」
「間に
そうロードナイトらが話す中、オニキスが両手の『暗虚』から霧状の粒子を滲ませはじめた。『放逐』の時とわずかに色合いの違う
その無駄のない彼の挙動に、アズライトはただただ目を見張っていた。
「…すごい…」
「すげぇのはお前だよ。…滅多に使わせてもらえねぇからな」
アズライトの感嘆の声に、オニキスは自嘲するように返した。
「技も態度も、根っから個人プレーな野郎だな。…とことん可愛げねぇよ」
鼻を鳴らしながら毒づくと、サルファーは脳内から号令をかける。
「一気に畳みかけるぞ! 新人は、引き続き急所の『索敵』だ」
「了解」
セイバーたちが応える中、エピドートはひとり口元で呟いていた。
「…[侵略者]の姿が見えないままだ。どこにいるんだ…?」