TS勇者は取り戻したい 〜 TSFのFはふたなりのF! 〜 作:亜星
「なんであんなに抑え効かなかったんだろオレ。
魔力不足の状態で闘う原因になった事件を思い返しながら、オレは
「単純に塩振って串焼きでもいいし、ちょっと手間かけられるなら香草蒸しとかもいいな。帰りは香草とか探しながら戻るか」
(じゅるり)
おっと、思わず想像してよだれが… 慌てて口元を拭う。どうやって食べようかと考えてる内に想像が膨らみすぎてしまったみたいだ。1匹からでも結構な量の肉が取れる。これなら3人で食べても充分行き渡るだろう。
(じゅるり、じゅるり、じゅるり、じゅるり、じゅるり、じゅるり、じゅるり)
(いやいや、流石に変だろ、そんなによだれ垂らしてたらおかしいだろ…)
しかし何かをすすり上げるような湿った音は止まらず、むしろ後方から複数響いてきている。なにかがおかしい、というか絶対なんかいる。オレは嫌な予感を感じて後ろを振り向いた。
(にょろ〜ん)
目に飛び込んできたのは、一本の触手だった。いかにも無害そうなにゆったりと、気軽に握手するかのような感じで差し出されていた。人間とっさの時には、素早い動きには素早く、ゆっくりのものにはゆっくりと反応するようにできている。オレはゆっくりと差し出されたそれを握り返してしまった。
(ああ、これ、すごいぬめぬめしてる。)
触手と握手した時の第一印象はそれだった。触手の生暖かい体温と表面のぬめぬめとした感触が手のひらに直接伝わってくる。触手の太さはだいたい二の腕ほどの太さ。だけどその先端は少し細くなってるようで、オレの小さな手でも握り込めばギリギリ指がつくくらいの太さだった。あーこれは間違いなく
(ってことは、あれ?当然コレの持ち主が近くにいるってことだよな?)
ふにふにと触手の先端を手癖のように強弱をつけて握るオレ。にゅるにゅるとした表皮の意外な弾力が握る手に返ってくるのが少し楽しい。触手はオレの頭上を抜けて背後の岩陰まで伸びている。その上背後に感じる生き物の気配はかなりの数だ。なんで今まで気がつかなかったのか不思議なくらいだった。
(あれ?ひょっとしてこれ、逃げないとやばいやつじゃ?!)
結局のところ、さっきの
「 とにかくこの場から離れないと… って、うわぁっ?! 」
瞬時に
(ずべしっ)
飛び出したはずだったのだが、盛大に体勢を崩して、そのままつんのめるように思い切り地面に転がってしまう。勢いづけて飛び出そうとした分、余計無様な格好だ。何者かがオレの
「ってぇ〜な、ちくしょう。なにしやがんだ!」
ちょっと涙目になりながら引っ張られた足をみる。
(いつの間にこいつ! 早いとこ振り解かないとっ!)
ずりずりと触手が
「くそっ、くそっ、このぉ、離れろっ、離れ、やがれぇっ!」
硬い
「おおぉっ?! ばかやめろ、はなせっ、はなせったらっ!たかい、たかいよ!」
ついには両足を絡め取られてぐいぐいと空中に引き上げられてしまう。地面から引き剥がされて焦るオレ。空中に釣り上げられたオレを追いかけるように何本もの触手が昇ってくる。銀の棍を振るって何とかそれ以上絡みつかれることを何とか阻止する。そうこうする間にもどんどんと地面が遠くなっていき、それにつられて視界が広がっていく。
「なん、だ、これ。 さっきまでここって水辺だったろ?」
ぐりんと吊られた身体を回されて視界が湖の方に向いた途端、オレはその光景に目を疑った。そこは綺麗な水をたたえた静かな淵だったはず。しかし今オレの目の前に広がるのは、一面に生い茂る水草だった。水面に生い茂った長めの葉が風もないのに不規則に揺れている。
「いや、まてまてまて、これって全部触手じゃねーか?!」
--触手、触手、触手、触手、触手、触手、触手、触手、触手…
半ば裏返った声はまるで悲鳴のようだった。どこを見ても触手だらけの触手の草原。うねうねと物欲しげに揺れていた。見渡す限り水面を埋め尽くすその下に一体何体の
「こんなになるまで集まるなんて、こいつらいったい何匹いやがるんだよっ」
少なくとも100匹はくだらない数がいなければこんな景色にはならないだろう。まるで風にそよぐ草原のようでに触手が揺らめいていた。少し傾いた夕刻の日差しに照らされ、ぬめる触手がキラキラと金色に輝いている。それはある意味幻想的な光景だったけど、それに心打たれて瞳を輝かせる様な心の余裕はオレにはなかった。まずはこの宙吊り状態を何とかしたかった。
「えぇい、足はなせよ! このままじゃ囲まれちまう! 」
。
【
オレは慌てる指先で、しかしきっちり正確に刻印を刻んだ。炎の矢を放つ初級の刻印に効果を倍加させる刻印を重ね合わせる。刻印が定着する間も惜しんで魔力を通すと、目の前には燃え盛る炎の矢が2本浮かび上がる。
「当たれっ!弾けてしまえ!」
炎の矢は素晴らしい勢いで触手めがけて飛んでゆき、的確に目標を捉えた。ぼんっ、と小さく弾ける爆裂音と共に、消し炭になった触手の破片がオレの目の端をパラパラと落ちていく。そして続く浮遊感。触手の拘束から解かれたオレは地面に向かって落下していった。