私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!! 作:札幌ポテト
稲妻という国がある。
モンドが『自由』、璃月が『契約』の国と呼ばれるように。
この国は『永遠』の国と呼ばれている。
それは俗世の七執政の1人、雷神が永遠を求めているからだ。だがそれは別に稲妻の民には大きく影響はしていなかった。稲妻という国が永遠にある為に生きていく事は、本望でもあったからだ。
彼らの生活に、人生に影響はなかった。
そう『目狩り令』が施行されるまでは。
「何か、策はないのか」
目狩り令はその名の通りに目を没収するのだが、あくまでも回収するのは肉眼ではない。回収するのは神の目である、それを幕府軍が強行しているのだ。
「現状、幕府軍に対して……我々は劣勢と言わざるを得ないでしょう」
その命令に対して、個人ではどうにもできない。ゆえに反幕府を誓う者たちは、珊瑚宮に集まった。
「ですが、雷電将軍の考えを改めることさえできれば……活路はあります」
彼らの長であり優秀な軍師でもある当代の現人神の巫女、珊瑚宮心海は皆を鼓舞する為に動く。幕府軍は潤沢な資材と人員、そして訓練された兵士が多くいる。
それに対して付け焼き刃の訓練と、目狩り令への反対意識のみでよく戦えているだろう。しかし、資材も人員も減っていくばかりで長期化していく内乱に、終わりが見えないのが現状だった。
撤廃するにも、順を追わなければならない。その中で絶対なのが雷神への謁見であり、それで考えを改めさせなければならない。
雷神を倒すというシンプルな目標でもないのだ。だが、仮にそれであっても、こなす事は出来ないだろう。
「ならどうやって変えるんですか!? その前に無想の一太刀を受けておしまいですよ!!」
「御三家も腐ってるんだ、何を持ってして交渉に臨めるんですか!」
しかし、誰からもその意見が出ないのは当たり前だ。雷神・雷電将軍は最強であり、その前に立つ事は死を意味するからである。
謁見するにも、正当な手順が必要だ。腹心でもある御三家を通してでなければ、それは彼女にとって戦闘行為を意味する。
皆が悲観してしまうのも仕方ない。だが一応御三家の中にも目狩り令の撤廃を目指す神里家が居る、全く希望がないわけではない。
「神里家は、我々にもう時間がない事を知らないのではないですか?」
「そんな事は……」
「向こうもこちらを信用してないんだ、アテにしてるわけでもない。こっちもアテには……」
が、その希望だけで士気を維持するには時間がかかり過ぎていた。他の御三家の影響もあり動けない状況にある事は皆分かっているが、それでも希望は失いかけている。そもそも直接的に盟約を結んでいるわけでも無いのだ、むしろ今までよく持たせた方だろう。
劣勢とは生温い、皆の願望を達するには絶望的なのが今の状況なのだ。
あまりの剣幕に心海も言葉を選んでいるのか、少しの静寂が訪れている。
鼓舞するにも、もう士気は尽きかけていた。
だがそんな時、1人が静寂を破って発言する。
「……なら、化け物には化け物。七神にはそれに匹敵する存在をぶつけるしかあるまい」
皆がそちらを見る、あたかも画期的な案を述べたかとも思うが、皆一瞬だけ納得しかけた考えを否定する。
「ふざけるのも大概にしろ!」
あり得ないのだ、そんな事が出来るなら最初から雷電将軍の考えを変えるのではなく、屈服させるという考えが出て来る。それだけ圧倒的な存在であり、彼女と御前試合を行った数多くの凄腕は『無想の一太刀』でチリとなっている。
「そんな事、出来るやつが居るわけな「いる!!」……な、なんだと?」
しかし、それを力強く否定した。
「確かに、我々にはそんな戦力はない。他の国でも、神に抗えるのはその神や過去の魔神だけだろう、それが常識だ。だが2ヶ月前……その常識は覆った」
皆が皆、急にざわつき始める。当たり前の事が当たり前でなくなる事が起こったと言われ、そんな大きな話を知らないはずはないと聞き合っているのだろう。
「璃月を襲った魔神、それを撃破した冒険者がいる」
それを聞いて何人かはその話の概略が頭の中に浮かんでくる。
渦の魔神オセル
かつて岩神によって封印された悪意であり、2ヶ月前に璃月に突如として復活を遂げた太古の怪物。その撃破は海を跨ごうとも、世界に広く知れ渡っている。
「それは俺でも聞いた事がある、あれは七星と仙人、そしてその冒険者である旅人……確か『空』とかいう男がやった事だろ。本人が、ましてや人間が単騎で行ったわけではない!」
璃月のトップに立つ七星が対処した事で、この事件は解決した。文字通り岩神を除く璃月の力を結集した事で解決した事件だ。
更にともに戦った仙人は人よりも圧倒的に優れた存在だ、それが複数人で対処したのだから、冒険者の1人や2人加わった所で変わりはないとしか思えない。
「なら、それが作り話なら?」
だが、その程度の話ならそこで終わる。
「……何が言いたい、何を知ってる?」
先程まで、士気のない者達の目には光が消えていた。仕方ない事ではある、絶望の中で前を向ける人間の方が少ないのだから。
しかし、今は目を向けている。
「錯綜している情報ではあるが、千岩軍の兵士の間であるうわさが流れている」
皆がその話に、聞き入っている。
「実際に撃破したのはたった1人の冒険者、という話だ。曰く、己の情報を隠す事を条件に、退治に名を挙げたと聞く。そう、件の旅人とは別の冒険者だ」
それを皆耳にして、数刻ほどだろうか、風の通る音すら聞こえるような静寂が現れる。しかし、徐々に頭で情報が整理できてきたのか、1人が怒号と共に掴みかかった。
「そ、そんなの出鱈目だ! 何もメリットはないし、そんな存在が一介の冒険者であってたまるか! 魔神オセルは最古の神モラクスが討ち取った怪物なんだぞ!!」
「分かっている。これは与太話である事も、あくまでも噂の中の一つでしかないことも! だが、賭けるだけの価値はある!」
「我々の命を、そんな真偽も分からん者にかけるのか!? そもそも、ここは稲妻であって璃月ではない!!」
怒りはもっともな事だった。
希望を見せたかったにしては、現実味がない。そもそも璃月で起きた事、現在鎖国下にある稲妻においては、そもそも入島する事すら難しい。
ましてや外国人の入り口である離島から最も近い稲妻本島から、幕府の力が強く出ている。
今迄はあくまでも珊瑚宮心海による現実的で画期的な策によって今の今まで抵抗ができ、戦いが続けられている。しかしあまりに荒唐無稽、信じろというのが難しく、アテにするのはあまりに危険であった。
「件の旅人も魔龍を撃破しモンドの窮地を救ったと聞く。そして、その両者が稲妻に入国したという情報が、今私の手元にある!!」
「っ!?」
瞬間、空気が変わった。
荒唐無稽な策が少しではあるが、現実的なものに近づいたからだ。
ことの真偽は不明、それを確かめる術はない。だがその力が不確かであっても現状が悪化するわけではないのだ。
「珊瑚宮様、是非とも彼等の力添えを得るべきです。それ以外に活路はございません、そう愚進させていただきます」
皆の瞳に、光が灯ってきた。
確かな希望があった。
その希望は、彼らだけを灯したわけではない。
「伝聞を、彼らの保護と助力を──要請しましょう」
抵抗軍の士気は、また高まったのであった。
☆
稲妻という国がある、ここ数年鎖国下にあるが飯が美味く、幕府の目が届く本島周辺は割と平穏に安定しているという国がある。
その稲妻に、私は来ている。
正直行きたくない理由は二つあったが、今回は目を瞑りたい。
一つは内乱中だからだ、そんなゴタゴタがある時に観光に行きたいと思う人間はいないだろう。しかし私はそこに居るより璃月やモンドにいるほうがヤバいのではないかと天秤にかけて、高跳びした。
前回、私は魔神を撃退するという自分でも正気ではないと思う事をしてしまった。ファデュイからマークされるのは必然、それがモンドや璃月に滞在し続けているのは危険過ぎる。暗殺を考えれば、命がいくつあっても足りないし、四六時中気を張り巡らせるのはいくらなんでも精神が削れていく。
それと女性関係がそろそろやばそうだし、暫く身を潜めておきたい。うん、後ろから刺されて死にたくない。これが本命ではないが、やはり高跳びするのが最適と考えての行動だ。
そしてもう一つの理由は、ある存在と確執があるからだ。その存在は稲妻人であり、ファデュイの執行官であり、本気で殺し合った仲である。
勝ち負けで言えば引き分けというのが本音ではあるが、相手の片腕と片足を奪ったので、そこを鑑みれば結果として勝利している。
だが当然、その憎悪は凄まじい物となっているだろう。私は殺したと思ったが副作用の気絶で確認はできなかった、なので義手と義足を付けて当たり前のように璃月周辺を彷徨いていると聞いた時は流石にモンド城に引き篭もった。バーバラの背中に情けなく抱きついていた。
邪眼というドーピングに元のポテンシャルも非常に高く、氷の女皇の力まで加われば、勝てたのは運が良かったと言わざるを得ない。今また戦えば前回とは違った戦いにはなるとは思うが、勝てるかどうかはさてとき死闘になる事は間違いない。
だから正直、稲妻には行きたくはなかったのだが……他の国では『博士』やら『召使』やらが動いているという情報も入っている。それらに狙われていたという情報を耳にした事があるので、迂闊には動けない。
ただ稲妻には『淑女』がくる可能性が確かな筋『地下情報網』から入っている。ただそれと確執があるわけではないので、今回は無視だ。何か私の目の前でやらかさない限りは私は動かない。目の前でやらかしたファデュイはやってる事があまりにクソだったので、衝動的に9割方ぶっ殺しては来ている。そうなる事は多いのだが今回は近寄らなければ良い。
また幸いな事に、私の顔は稲妻人として見られている。なので潜伏していてもバレないし、むしろ他の国の方が目立つ。璃月はまだしも、モンドならすぐに分かる。
なので今のうちにのんびりと半年ぐらいはここで熱りが覚めるのを待とうと滞在している、時であった。
「バ、バンパー!?」
飛んでいる奇妙なペットに見つかってしまった。
「……旅人、何で稲妻にいるんだ?」
旅人がいた、バリバリの外国人の顔をしている彼が稲妻の鳴神島に当たり前のようにいた。こっちは潜伏の為にわざわざ稲妻人の服を着て、刀まで準備したのに、彼は今の情勢を知らないのだろうか。
「そう言うバンパーこそ、どうしているんだ?」
「いや、私の顔って稲妻人ぽいから顔パスで入れたんだよな……今まで船の伝手とか無かったから来なかったけど、凝光さんが用意してくれたし」
北斗さんという船長に相乗りさせてもらい、密航してきたのだ。ちなみに凝光さんからこの話を引き出すのには1ヶ月ほどかかった、というか私のお願い事が中々できない状況だった。
まぁ璃月は大変な時期だったのだから仕方ない。ただそんな中でも彼女は初めて食事や酒に誘ってくれていたので、その雰囲気も壊したくなかった。あと私が話しかけようにも『璃月国籍の有無』とか『好きな人のタイプ』とか『好きなお酒は何か』など関係ない話が多く、時間がかかった。
だが何故彼がいるのかはわからないが、恐らく北斗さんと共に彼も来たのだろう。
「そ、そんな事より! 今はトーマの神の目が取れそうなんだぞ! 急がないと!」
「そうだった、すまないバン。行かなきゃならないんだ、来てくれ!」
「ちょ、どこ行く旅人!!」
ただ何故だろう、嫌な予感がする。腕を引っ張られて行く先は稲妻城、雷電将軍の本拠地、ファデュイとは関係が無いであろうそこに、何故か向かわされている。
厄介ごとが舞い込んでくるかと思い、意図的に城には近づいてこなかったが、そのツケが回って来る予感がした。
☆
予感は、的中した。
「あ、トーマが居たぞ!」
「(あーくそ、逃げ出すタイミング無かった。ていうか土地勘無いからどこに逃げるのかって話でもあるけど……)」
パイモンが言う先に、1人の男が拘束されて跪いている。離島で見た事がある、元はモンド人で御三家のひとつ神里家に仕える従者の1人だったと記憶している。
「……あれが、この国の神。雷電将軍か」
パイモンが神像の前に立ち明らかに異彩を放つ存在を目にする、私も初めて目にしたが、それだけで萎縮してしまいそうだ。纏われているオーラの存在感と濃さ、そして大きさが神の目を持っている人間とは遥かに違うのだ。
ありと恐竜ぐらい、一般人では差があるだろう。本物の神は初めて見たが、神と言われる意味がよく分かった気がする。
そして、その神は片手をかざすと紫電を纏う。その手へ、捕まっていたトーマという男の持つ、赤い神の目が引っ張られていった。
瞬間、隣で紫電を纏った者も目にする。
「よせ旅人!」
静止の声は、間に合わなかった。いや、仮に間に合っても彼ならば行っただろう。彼とその男の関係は知らないが、彼ならば神であろうと魔神であろうと、立ち向かって行く。
「(くそ、やっぱりだ。面倒ごとはごめんだし、さっさとズラか……っ!)」
宙に舞った神の目を奪い取り、近くの衛兵を一撃で気絶させる。いつの間にか雷元素も会得していたようだ、しかしそんな行動が見過ごされるわけではない。
そして縄解こうとする彼は、雷電将軍に半身とは言え背を向けた。馬鹿なのかと思う、明らかな格上に反抗した直後の行動とは思えない。
なぜそんな事が出来るのか、それは……。
「あー、もう。私の人の良さが最悪な方向に現れてるよ」
気付けば、体が動いていた。目の前でむざむざと、ましてや知り合いが死ぬ瞬間を見たくなかったというのもあるが、やはり前世の名残りというべきか、根っこの部分で無理と分かっていても手を貸してしまう。
そんな人間なのだ、私の属性なのだろう。それを分かってて旅人も背を預けたのだろう、生きて帰れたら私の過去の経歴とか無理難題を押し付けてやる事を硬く誓う。
「貴方達は、神の目が無くとも元素の力を扱えるようですね」
「使えたからって別に構わないだろ、ただ特殊なだけだ」
正直ここから逃げる策は思いつかないわけでは無いが、隙を作らなければならない。
「旅人、そっちは後だ。どっちみち、こっちをどうにかしないと助からんぞ」
旅人も縄を解いている最中にまた衛兵に襲われたのでまだ解けていない、流石にこの相手を背にする勇気は私には無いので仕方ないのだが。
「貴方達は例外、永遠の──敵」
彼女の迸る元素の力が、周りを覆って行く。
「この神像に、貴方達をはめ込みましょう」
確実な死が、目の前に来ていた。
☆
「本当に巻き込みやがって、疫病神だろ……後で絶対精算させるからな」
2人は今、雷電将軍と対峙している。しかしここは稲妻城ではない、彼女の作り出した謎の結果らしき世界に引き摺り込まれたのだ。逃走を止める為か、はたまたこの2人に何かしらの興味があるのか、その真意は不明だ。
「……約束するよ。でも、バンがいて心強い」
「爪楊枝が一本増えても、折る力は変わらないけどな」
2人は紫電を纏う。雷元素は速度という点においては最も優れた元素であるからだ、バンも優先して雷のエーテルを飲んでいる。しかしそれでも目の前の存在は、余裕をもって佇んでいる。
「2対1、でひっくり返る力量差じゃない。タルタルヤの時よりやばいぞ」
一応、旅人とバンは共にタルタリヤと戦った事があるので連携という点ではかなり相性も良く、動ける。その時は邪眼を使われても2人係で制圧し、タルタリヤには多少の余裕を持って勝利を収めている。
「貴方達は、私自身で見極めなければなりません」
「(こえーよ、そんな力振り撒いてヤバすぎるだろ)」
しかしアレは旅人単騎でも勝てた戦いであったので、余裕なのは当たり前だ。
今回は、そうではない。
「旅人、やれるか?」
「やらなきゃ、ここから逃げられないだろ」
2人は覚悟を決める、圧倒的強者へと挑む。
「合わせるぞ、メインはそっちで私が隙を作る。その時に全力の一撃を叩き込め」
同時に2人は駆けた、己が身を雷の速さに乗せて別方向から斬りかかった。前動作や近づいてからのフェイントや死角からの攻撃、更には時間差で襲い掛かるように配置した雷撃、そのどれもが互いの邪魔をしないように整えられていた。
作戦会議らしい会議もしていない、ただの経験値でこの動きを作り上げたという点を見れば、やはりこの2人の相性は良いのだろう。
「っ、マジか……!」
「ぐっ……!」
だが、その攻撃ですらたった一凪の攻撃で全て弾かれていた。
雷電将軍の使う武器は薙刀、リーチの長い武器であるが普通はその分取り回しが悪いという側面を持つ筈ではあるが。
「(殺す気で行ってもあしらうのかよ、戦いになるかどうかって次元じゃねーか)」
「(速い上に上手い、それにまだまだ余裕もある)」
武においても、圧倒的な力を持っている。
2人は再度、攻撃を仕掛けていく。しかし、仕留める攻撃ではない。
隙を作るとは言ったが、隙を作るには相手の情報をいかに探り、相手に悟らせないかが重要だ。
今行っている攻撃はあくまでも情報収集、彼女のデータを取るために過ぎない。故に深いところまでは踏み込まず、反撃を受けたとしても致命傷を負わないギリギリのラインで引き返している。
立体的に動き、上下左右バラバラに攻撃も仕掛けて行く。ただ雷電将軍もそれを分かっていながら、動いているように見えるが、それは好都合である。
しかし、そう単純な問題でもない。
「……動けるか?」
「まだ行ける、大丈夫」
疲労やダメージは2人へ着実に蓄積しているからだ。最高速度で動き、最高のパフォーマンスを発揮するには、どこかのタイミングで仕掛けなければならない。
「今から私のとっておきを使う、耳を貸せ」
故に、これ以上の情報収集はリターンに見合わないと見限ったのだろう。2人は雷電将軍から目を逸らさずに、バンパーは口元を隠して話す。
そして数秒ほどで策は伝え終えたのだろう、それを聞いた旅人は苦笑いをしている。
「出来なかったら?」
「来世はもっと顔の良い人間になる事を祈れ」
☆
雷電将軍が即刻、2人を元素のチリにする事は不可能では無かっただろう。1人は体質上、首を物理的に落とす事にはなるが倒す事は然程難しくは無かっただろう。
それでは何故、態々2人を招き、相手したのか。
それはあくまで、永遠の為だ。
「(こんなものですか、例外というのは)」
永遠を維持するには、例外について熟知しておく必要がある。その為に確かめていたのだ、しかしその実力はどれだけ高く見積もろうと、彼女自身と肩を並べる事はない。
「ここで終わらせましょう」
雷電将軍の薙刀に雷が迸る、次の一手で狩り取るという意思がのっているのだろう。
「いくぞ、バン!」
「言われなくても」
同時に、彼らの元素力も跳ね上がった。先ほどまでの相手の力量を測る攻撃を辞め、短期決戦で勝負をつけに来るのだろう。
「(……空気が変わった、この違和感は何でしょうか。まさか私が気圧されいるというわけでも?)」
2人は展開しつつ、先程よりも一歩踏み込んだ位置から斬撃を放ち始める。得た情報で、彼女の反応が0.1秒鈍る場所や、薙刀を振ったときに片方がやられてももう片方がやられないような、確実に攻撃を通そうとする意思を感じさせる。
しかし、その小手先で詰めるには少々実力差が大きかった。
2人は確かに実力者だ。バンパーは自身を卑下するので勘違いされがちでもあるが西風騎士団の平均よりは遥かに高い剣の腕を持ち、空もまた独自の剣術を高い精度で振るえている。
その2人がかりでも、神の力は異常だったのだ。
「(速度を上げて手数を増やした、それだけですか。甘く見られていると考えたいところですが……無策ではないようですね。こちらから仕掛けましょうか)」
故にお互いをカバーしながら攻撃を続ける、しかし急拵えの連携故に綻びがあちこちに見つかっている。
「先ずは、1人」
そして、まずは複数の元素を扱う旅人の方へその紫電を向かわせる。回避は不可能だ、しかし旅人の目は死を目前にしたそれとは違う。
瞬間、攻撃は着弾した。
「外した……!」
だが同時に、真横から旅人が切り掛かっていた。
「(超高速? いや……瞬間移動の連鎖、というよりは物質の配置転換か)」
それをあしらい紫電を向かわせた方に目を向けると、そこには元素攻撃を全て吸収するバンパーがいる。位置を入れ替えたのだろう、しかしそんな技術は少なくとも一介の冒険者程度に持ち得る能力ではないし、存在もしない。
「お互いの位置を入れ替える力、ですか。面白くはありますが……寿命が伸びただけですよ」
しかし彼らは例外、何をしてきてもおかしくはないのだ。
「(また空気が変わった、恐らく何かしら見えない結界を張ったのでしょう。そしてその範囲の中でしか互いの位置は入れ替わらない)」
そしてそんな能力が無条件で繰り出されるはずが無い。何かしらの制約があるのだろう、だが警戒は怠らない。
「奇襲は失敗したようですが……まだ抗う余裕はあるようですね」
2人は更に何度も位置を入れ替えながら攻撃を仕掛けていく。2人の体格差はそこまでない、使う剣技が異なる事やタイミングがズレること、それ以外に気をつける事はない。それ程に、位置を入れ替えるだけの能力は強いとは言えない。
「もう慣れました、次はありません」
しかし、彼女は一つ失念している。
「っ、いつの間に……!?」
誰もこれを、入れ替わる能力とは言っていないことに。
☆
背後を取った、結果だけを言えば簡単に聞こえるがそれまでに布石をいくつか打っておいた。
一つは入れ替わる能力と勘違いさせる事、残念ながらそれは違う。私の張ったこの結界を、私は自由に動き回れる。マーキングを付けた元素を持つ存在ならば入れ替わりも可能なのだ。
「っ、いつの間に……!?」
そしてこのとっておきの奇襲を失敗させたと思い込ませた事だ。もし彼女へ初手から背後を取りに行ったとしても上手くはいかないだろう、気取られて殺される、それだけ力の差があるのだ。
だからこそ、うまくいった。しかし当然ながら、この便利な能力には弱点がある。この結界は私の皮膚の上にある膜を広げたものであり、展開中の私には当然、元素攻撃が効いてしまう。更に展開中は頭で色々処理してしまい時間がかかるので無防備になるし、展開は持続できても10秒間だ。
だが、成功した。そして背後を取った私は。
「ど、どこを触って……!?」
彼女のたわわな双丘を鷲掴んでいた。柔らかい、神の胸でも人のとは変わらないらしい。ただあくまでも拘束のためだ、その為なのだから致し方ない。
でも収まりきらないものが揉みしだいても跳ね返してくるボリュームが手に広がっている。
着物越しにも分かるそれに、私は指を力を込める。
「くっ……! い、良い加減に……っぁ!?」
生きていて良かった、物凄い力で振り解かれそうだけど、今の全力の私を彼女は払い除けられない。深々と指が沈み込むこの感触は冥土の土産には十分過ぎるだろう、最高である。
しかしこれからも生きて行くために、私はここで抗うのだ。
「今だ旅人! 私ごとやれ!!」
旅人が全力の紫電を纏わせた刃を向ける、旅人には私が隙を作ると言い簡単な流れしか伝えていなかったが、失敗を演じる時に使わなかった元素をしっかりと溜めている。
逆に神の元素力は私が吸い続けているので、対応する事は出来ない。
☆
結論から言おう、私たちは神に負けた。雷電将軍へ一撃を与える事には成功したのだが、その際に残った元素力を解き放ち旅人を瞬く間に撃破、私もそのまま吹っ飛ばされた。
だがそうなる事は分かっていた。魔神があれだけの存在なのだから当たり前だ、私達だけで勝てるほど神は甘くない。問題だったのは異空間に連れ込まれて逃走が出来なかったからだ、隙を作るには闘争を選ばざるを得なかった。
私も旅人も神を殺すために戦っていたわけではない、神を倒す為でもない、あの空間から逃げる為にやられたフリをした。
そこまでが作戦の流れなのだ、ちなみに逃げるのは簡単でいつも常備している閃光球で目潰しをして逃げた。私はいつもファデュイやアビスといったやばい奴らに目をつけられているのだ、それらから逃げる時のために煙幕など色々持っている。
なので逃げれた、しかし我々はお尋ね者である。全部旅人のせいである、普通にぶち切れ案件なのだが。
そんな我々に残された道は殆どない。私としてはこの国に固執する理由もないし、さっさと逃げても良かったのだが。
「ようこそおいでくださいました、私は抵抗軍の軍師──珊瑚宮心海です」
珊瑚宮に、私は連れて来られていた。