私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!! 作:札幌ポテト
ちなみに年齢イメージは
主人公14歳に対して夜蘭19歳って感じです。
未曾有の大災害、それは人にはどうすることなできない天災である。古の時代、魔神が争い合っていた時代ならば日常的に起こっていたそれは殆どの魔神の脅威が去った現代においては、起こることすら珍しい非日常となっている。
「天権様、避難の殆どは完了しています。ですが一部の民間人が……」
そしてそれが起こってしまった。昨日の午前、突如として発生した豪雨により軽策荘やその周辺地域が水没し始めたのである。すぐに問題に対処しなければならない、だが対応したのは仙人ではない。
この問題に対応していたのは七星であった。何故ならばあくまでも現状、ただの自然災害であるからだ。岩神が出るにしてはまだ事態が小規模、そしてまた軍を展開するにも難しい状況となっていた。
「手をこまねいているな、七星」
「これは……留雲借風真君」
そんな中、仙人の1人である鶴のような体を持つ璃月の守護者が現れた。この状況を憂いているのだろう、ただ仙人を静止したのは七星である。
「既に避難がほぼ完了しています、更に豪雨の勢いから推測するに璃月に影響が起きる事は考え辛いとの結論が出ています。雨が止むのを待てば、排水も自然にされ元の碧水の原に戻る事でしょう……仙人の皆さまには、ここは事態を」
「妾が向かえば済む事、今にも降魔大聖も向かおうとしている。あのような天災、意図してでなければ起きるはずもない」
「ですが……」
留雲借風真君をはじめ、現在多くの仙人は傍観に徹している。それは避難が済むのを待つ為であり、被害を出さない為だ。しかしその上で七星は静止をしている、何故なら足並みを揃えなければならないからである。
「原因調査には既に私の信頼に足る部下を派遣しています、今回の事件……もし意図して起こされた天災なら確認を行い、次への備えが必要です」
軍を国境へ大規模に展開するのは侵略行為の前兆だ、いくらその兆候がなくともそれをされた隣国との信頼関係に大きな亀裂を生みかねない。モンド方面ではこの問題を認知はしていても、璃月国内の事なので精々避難民を一時的に預かる程度の対応に留まるだろう。
ゆえに解決を急ぐならば仙人へこの仕事を任せるのが最適だろう。しかしそれは解決はしても、仙人へ依存を続けるだけであり根本的な解決にはならない。その事例がこれから先へ延々と続いていくだけである。
確かに仙人の役目はそれだ、しかしいつか仙人の想像を超える事態が起きた時に璃月や七星、千岩軍には対処ができるはずもない。
避難はほぼ完了、時間的な猶予は出来ている。それ故に、原因の究明こそが今のこなさなければならない問題である。
「夜蘭、頼んだわよ」
その原因の調査の為、凝光は自分の部下を向かわせた。このような事態を対応出来ると信頼する、優秀な部下だ。
その報せを今は待つべきだろう。
☆
冒険者となってから4年、色々な事があった。昨日も普通にモンドのアカツキワイナリーの近くで野宿してたら何か悪さをしていたアビスの魔術師と遭遇した、私は呪われているのかもしれない。
ただそれを乗り越えて来ただけあり、それなりの自信も私にはあった。ファデュイやらアビスやらよくわかんない奴から色々な敵を相手取って来た、またやれと言われたら嫌だが、この世界においてはそれなりの強者であるのがわかって来た頃である。
「……ここって、普段からこんな感じとかじゃないよね?」
いくら自分は条件が合えばそれなりに戦えると知っていても、自発的に危ない橋を渡ろうとは思わない。今回も何故か割りのよかった手紙の配送という普通の仕事を受注してモンド側の山を登った。軽策荘に住む家族へモンドから手紙を出すという簡単な仕事であり、その筈だった。
「土砂降りにも程があるだろ、てか……届け先水没してるよな?」
軽策荘が水没している、いや水没するはずがない村が水に沈んでいたのである。視界が狭まるほどの強く激しい雨で山を登るまではっきりとわからなかったが、ここら一帯を大豪雨が襲っていたのである。
珍しい雨だとは思った、しかしそれが仕事として割が良かった理由だと解釈していた。普通に考えて、雨が止んでから届けたら良い話なのに自己解釈していたのである。
ただこんな天候や状況は私がこの世界に来てから起こってはいない、明らかな異常災害であり、何かしらの嫌な予感を既に感じている。
普通にもう帰るべき案件だろう、私が出るまでもない。というか璃月側の人間が対処すれば良い話である、一応国境にあるがモンド側はただ雨が激しいという事しか分からず手を出せる状況ではないだろう。むしろ手を出すのは越権行為だ。
となれば、噂の仙人とやらが解決をするのかもしれない。
「(帰りたいけど、一応安否確認はするか……)」
ただ、手紙の仕事が何故存在したのか。それはそこに届ける人がいるからである。ただの手紙とは違う、恐らく退去を願う為のものか安否を報せる為の手紙なのだろう、だとすればまだこんな場所に一般人がいる可能性がある。
流石に助けられる命が目の前にあったら無視する事は出来ないし、無視すれば寝覚めが悪くなる。
「っ、激し過ぎて元素生物すら居ないじゃねーか。いや全くいないのもおかしい気が……」
そして目的地の近くにある高台の民家まで走る、元素なら何でも吸ってしまう体質も今は全部弾くようにしてるので大丈夫だが、地面がぬかるんでいてかなり不安定でもある。
この調子なら、この山すら飲み込んでしまうだろう。今は天然のダムによって防がれているのかもしれないが排水は間に合っていないはずだ、いずれ決壊して未曾有の大惨事を巻き起こす可能性も高いように思える。
「あそこか……っ!?」
しかし、それをどうこうするのは私の仕事じゃない。というかこんな状態を璃月の七星や仙人が見過ごすわけないので、相応の対処をしているだろう。なので私は私の仕事だけを済ませたいのだが。
「動かないで」
いつの間にか背後から番られた矢を向けられていた。とりあえず手を上げ、万が一にも矢を放たれないようにゆっくりと向き合う。
「ここは千岩軍から避難勧告が言い渡されている軽策荘、貴方のような部外者がいるのは不気味よね」
そこには女性がいる。雰囲気からして20歳ぐらいか、いやまだそれよりも若いかもしれない。ただそういう大人の雰囲気を持っている、青い神の目を持った弓使いがいる。
「私はここに手紙を届けに来た冒険者だよ、ちょうどあそこに」
「あら、避難ならさっき全て済ましたわよ。無駄足だったわね」
「ならなんで矢を構えたまま……? 絶対誤解してますよね?」
ただなんでだろう、私ってやっぱり世の不条理を受けやすい体質なのかもしれない。
☆
「答えなさい、嘘を言えば貴方の頭に風穴が空くだけじゃ済まないわよ」
夜蘭は凝光の部下であり、信頼に足る仲間でもある。そんな彼女が今回請け負った任務は『災害の原因調査』であり、そこで避難が完了した地域に居るはずのない少年がいた。
彼が原因か、最大限に警戒を強めて一挙手一投足に眼を見張る。神の目らしきものはないが、隠していたことも考え矢に込めた元素の力はまだ抜かない。
「名前、年齢、身分を答えなさい」
「バンパー、冒険者をしてる14歳」
バンパー、名前だけは聞いた事がある。夜蘭は璃月における諜報員だ、その諜報員として様々な情報を七星の為に仕入れている。何が大局に関わるかどうか、その精査をするが物珍しいものは特に耳に入りやすい。
「なぜ、ここに来たのかしら。命知らずにも程があるわよ」
バンパー、モンド地方における最年少の冒険者。ただ目立った何かをしているわけではない、一応過去にモンドのある地域でウェルプを追い払ったという話は聞くがどの程度まで関わったかは不明である。
逆にそれを引き起こしたのが彼と考えても、おかしくはない。
「私だってこんな事になってるとは思わなかったし、善意で手紙の届け先の安否確認に向かっただけで……嘘ではないですよ?」
今のところ、本当に実力者なのかはわからない。雰囲気が普通の冒険者でしかなく、上位者としての威風がまったくない。あえて隠しているのかもしれないが。
「貴方、ここに来るまで何か見たかしら」
「雨でそれどころじゃ……いや、逆に何も見なかったか? 野生動物は隠れてるにしても、スライムとか見なかったような……」
ここの異常事態を夜蘭は既に調べている。元素生物、特に水スライムなどが活発になる筈だがその気配が一切なく、存在や痕跡を確認出来ていない。少しは調べなければ分からない事だ。
「仮に、貴方がこの天災を引き起こしたとして。その意図は、どう考えるかしら」
今回の災害、魔神の争う時代ならまだしも現代で起こるには奇怪過ぎる点が多い。このエネルギーの出所は魔神かそれに類する何かでなければ説明が出来ないだろう、それを探る意味も兼ねて矢を向ける。
「モンドとの国境だから手を出しづらくして……時間を稼いで目を引く為? もしくはそれで岩神が出ざるを得ない状況にして、それを仕留める為……とかですかね。やるとしたらアビスですけど」
概ね、理解の示せる考えだ。これが意図して起こされた災害ならば、その渦中にいる存在は限られてくる。人ではない何か、そんな事を出来る存在は夜蘭の情報網でも引っかからないわけがない。
「あら、一つ忘れてるわよ」
ただ、可能性としては他にもある。
「璃月の対応力の調査、これから何かをしでかす為の実験……それならファデュイなんかがやってもおかしく無いわよね」
アビス以外にファデュイが何かを仕掛けて来てもおかしくはない。七星や仙人の対応力、そして軍の手配とその速度など何か事を起こしたいならば欲しい情報だろう。その可能性を何故考えないのか、その理由は夜蘭なら分かるがそれを排除するのは些か奇妙である。
「一応は同盟してる筈でしょ、こんな分かりやすく仕掛けるのは奴等のやり方じゃない気もしますし。仮に私なら災害を起こすんじゃなくて、災害の予兆だけ出して警戒を散らす……って本当に私は何もしてないですからね!?」
「……えぇそうよ、ただ貴方は監視に値する存在だと改めて認識できたわ」
ただそれも認識していての解答だったようだ。ファデュイがそのような手を使うのは最後の手段、そこまで表立って事を荒立てる事は殆どない。ましてや契約を結んでいる璃月を反故にするのもリスクが高いので、首謀者と考え辛いと考えられる。
ただ、この少年そのものは危険だろう。
14歳でそんな謀略に推測がつくだけでも不気味であり、今回とは無関係であったとしても璃月の警戒対象として少なくとも夜蘭の中で警戒度は高まった。
「私は昨日までモンドにいたし、冒険者協会で確認も取れる筈ですよ。後でいくらでも調べたらいいと思いますけど」
ただ、無関係であっても何か気になる。ここまで知り、ここまで何かを推測出来るならば、何かしらの後ろ盾があってもおかしくない。それについて、彼女は諜報員として興味がある。
「なら寝ていなさい、後で相手してあげる」
そして一瞬で、彼の体に糸を巻きつけた。水の糸だ、切ろうと思っても切れるものでもない。彼自身の疑惑はまだ晴れてない、彼の言う通りなら疑惑が晴れはするが今ここで確かめる事は出来ない。
故に拘束する、逃すわけにはいかないから。
「……は?」
しかし、その糸は一瞬にしてほつれていく。
「こんな所で縛られてたら普通溺死しますよ、正気ですか!?」
「(……今のは、何をしたの?)」
しかも本人はそれを当たり前のようにこなした、直後に「あ、やべっ」と言っているあたり衝動的に体が動いてしまったのだろう。尚更、興味をそそる。しかしそうなると拘束する事が出来ない、また珍妙な術で拘束をといてくるだろう。
どうしたものかと頭を悩ませていると、それを吹き飛ばすような轟音が響いてくる。
「っ、あれは……」
振り向いてみると、水の柱が昇っている。とてつもない規模の水元素による環境への干渉だろう、そしてそんな事が目の前で起きれば今の疑惑だけに留まる彼を対応する余裕はない。
「仕方ないわね。貴方は逃げなさい、どうやら本命はあっちの方みたいだから」
万が一に民間人なら巻き込むわけにもいかない、夜蘭はその根元へと水を渡って向かった。
☆
このような大豪雨が璃月港に影響することは少ない。この地方は山岳部が多いという事もあるが、人の住む場所としてはかなり不適であり避難する人も割合として少ないので、早急な解決までは求められていない場所でもある。
またどれだけ水が溢れようと、それは海に流れるので何かからの璃月への侵攻だとしても規模に反して効果は非常に薄い。
「ついて来たのは何故かしら、やっぱり貴方が黒幕なの?」
だからこそ、夜蘭はここには別の目的で雨を降らせていると考えている。そしてその根源まで、2人は来ていた。
「私だって逃げたい所ですけど、アレは止めておかないとまずいでしょ。安全に逃げられる保証も、もうありませんし」
2人の目にしているのは巨大な水元素の塊である。スライムを超える高次元の元素生命体にして、意思すら持つと言われている水の化身、一部地域では信仰対象にもなっているそれは神の眷属ではないかとも言われている上位存在。
「あれは……純水精霊、にしては」
純水精霊、水がある限り何度でも蘇る純粋な生命体。その力や能力は熟練の冒険者ですら知るものは少ない。現に4年間冒険者をしてきたバンパーでも知識はあれどそれを目にするのも初めてである。
ただそれを見た上でこの個体が異質なことは2人とも気づいている。本来の純水精霊はそこまで巨大ではない、10分の1以下の大きさが普通でありここまで自然に純水を膨らませることはない。
そして何よりも、ここまでの豪雨を広範囲で起こせるような力を持つ存在ではないのだ。
突然変異でも起きたというにも不自然だ、見たところ意思を持った生命体である筈のそれは機械的に雨を降らせているようにしか見えない。
「ここは引くわよ、この事は七星に……!」
もはやここまでの事を知れたなら上出来だ、ここから先は仙人や七星に任せた方が良いだろう。夜蘭自身ある程度戦えはするが、水元素の化身とは相性が悪い。
だが、その退路は閉ざされていた。
「よもや、貴様がいるとはな」
2人の背後から現れたのはアビスの魔術師であった。数は3人とかなり多い、恐らくこの事件の首謀者たちだろう。純水精霊を操り、ここら一帯を水没させたのもこいつらだ。
「なんで気づいた、ヘマしたにしても速過ぎるはずだけど」
だが、それにしても動きが早い。大豪雨が起きたのは昨日の朝であり、バンパーに至ってはここに来たのが数時間前である。気づかれるにしてもこの豪雨だ、痕跡は洗い流されるしお互いに勘付くのも至難である。
それは夜蘭も同様であるが、その理由を彼らはを指を刺して話し始める。
「その剣、同胞を殺したな。死の直前に術を仕込んでいる、それで貴様の位置は分かっていたのだよ」
それを言われ、バンパーは剣を引き抜くとその刃先に触れた。すると苦々しい顔をしながら何かを拭い去る。
「泳がされていたわけね」
今まで、マーキングをつけられた事は一度もない。何故ならバンパーにつけてもそれは吸収されるか弾かれるかされ、そもそもマーキングが出来ないからである。
しかし、彼の武器はそうではない。
「貴様にはいつも辛酸を舐めさせられている、分かっているだけでここ数年で計画のうち7件も潰されているからな。どこから嗅ぎつけたのか……ただそれも今日で終わりだ」
アビスとて無能ではない、だからこそ対応したのだ。そして餌にかかったもう1人も合わせて、その命を刈り取りに行く。
気付けば機械的に動いていた純水精霊は、2人の後ろへと浮かび上がっていた。
「っ、何して……!!」
そして反射的にだろう、水の触手で攻撃してきたのに対してバンパーは夜蘭を突き飛ばして避けさせると、その水に飲み込まれた。まるでバケツで金魚を掬い取るように、水の牢獄へ代わりに捕われたのである。
規格外の存在だろう、しかし色々と不自然な所もある。
「アビス、貴方達の狙いは……岩神モラクスね」
狙いは分かった、しかし岩神はこの程度で討ち取られような存在ではない。ただここまでの力を持たせるには相応のエネルギーの燃料が必要だ、それも分からない。
「だとしたら何だ、止められるとでも? もはやこの純水は岩を飲み込む為に着々と力をつけ始めている、残る貴様さえ消せば3日程度で仙人ですら手を出せない程に育ってくれるだろう! それに、ただの純水程度で神に至るはずもないだろう」
「……なんですって?」
ただでこのまま膨らませるつもりではないようだ。
「スライムを取り込ませたが悪くない、全ての元素エネルギーを強制的に水元素へと変換して取り込ませたが……こいつはいわば不純水精霊とでも言うべきだろう、実験としてもある程度有意義なデータを取れたな」
いくつも計画の穴など見つかる上で強行したのだから、相応の準備をしたのだろう。いや、もしや神を倒すことすら何かの目的の為の試験でしかないのかもしれない。作戦が完全で無くても動いているのは、そのような理由があると考えることも出来る。
直ぐにでも知らせなければならない、今なら仙人が対応できる。ただ、そう出来ない理由がある。
「(どう助ける、息も続かないはず。時間がない……相性も悪い)」
自身を庇って捕まった14歳の子供、バンパーを見捨てられないのだ。いや見捨てるのが正解ではある、夜蘭1人でこれをどうこうするには厳しい状況だ。
ただ、そんな彼女に助言をする為か少年の口が動いている。敵の弱点でも気づいたのかと警戒しつつ目を向けるが。
「(み・す・て・ろ? 自分のせいだから逃げろって事かしら、生憎と子供を見捨てるような人でなしではないのよ)」
しかし、そうは考えても打開策は無い。少なくとも、直接的にこの怪物をどうこうする事は彼女には不可能だろう。
「(ならまぁ、頭を叩くしか無いわね)」
瞬間、彼女は駆けた。対象はアビスの魔術師3体、扱う元素は炎が2人に氷が1人。同時に水の糸を張り巡らせると、それをアビスの魔術師の展開するシールドごと結びつける。
「糸よ、交錯せよ」
次の瞬間にはアビスのシールドは破壊されていた。炎元素の魔術師に対して水元素を扱う彼女が有利なのは当然だが、氷のシールドを破壊するだけの力を込めたのである。
「早く止めなさい、彼を解放するのよ」
そして無防備な彼らを縛り上げる、殺しはしない。いや、それをする前に何とか取り戻さなければならないからだ。
しかし、そううまくは行かない。
「ちっ、人質ごと……いや関係ないのね」
純水精霊が縛り上げたアビスごと水の触手で襲ったのだ。ただ夜蘭に対しては攻撃を、アビスはそのまま掴み取ると解放する。完全にコントロールしているのだろう、でなければあんな攻撃を許すはずもない。
となれば、本当に詰みに近いのだが、そんな彼女へまた触手が向かう。水元素の攻撃だ、これを避けることは出来てもこのまま打開策のないまま居座るわけにもいかない。
ただそんな彼女の思考は、前を横切る影で吹き飛ばされる。
「貴方、どうやって」
捕まっていたはずの少年が、そこにいたのだ。しかも純水精霊の攻撃をどうやってか弾いている。
「話は後、あんなの相手してて余裕ないでしょ」
「そうね……子供に庇われるなんてね、不覚だわ」
「子供扱いしないで欲しいんですけど、あいつらから恨みを買う程度には修羅場潜ってるんです」
アビスはシールドを回復させている、そして水の奔流を荒ぶらせる純水精霊を見るに、奴等との戦いはもう避けられないだろう。だが、ここからが本当の戦いである。
「夜蘭よ、貴方のことは少しばかり誤解していたわ」
「多分まだ誤解がありそうなんで、後で解かせて貰いますけど……ちょっと耳貸してください。分かったことがあるんで」
2人は少しだけ身を寄せる、雨の音でアビスの者達には聞こえる事はないだろう。しかし、何かを納得できたようだ。
「えぇ……なるほど、分かったわ」
そして2人は同時に駆けアビスを夜蘭が、純水精霊をバンパーが相手取る。お互いにこれが適切だと判断しているのだろう、しかしそれはアビスもわかっている。
「なっ、貴様……!」
しかし、アビスは思うようにやれていない。夜蘭がアビスを締め上げていると言うのもあるが、純水精霊が機能していないのである。夜蘭へ襲い掛かる攻撃は全て、バンパーが弾いている。
「この純水精霊……操る為に頭を削ったからか元素生物を作れないよね。それに、動きがあんたらと目視で連動させてるけど、この視界の悪い雨の中で上手く行くわけもないんじゃない?」
純水精霊は人の言葉を話せるほど知能がある珍しい元素生命体だ。それを操る為には相応の代償を払って然るべきであり、それが頭を無くした事なのだろう。
ただ、その代わりとしての頭が少々お粗末であった。
少し呆気ないが、それだけ実力に差の開きがあっただけである。ただただ、2人の経験値や知識量が勝敗を決したのである。
「終わりね」
今度こそ夜蘭はアビスを無力化した。彼女も実力者ではあるが戦闘には向いていない体をしている、雨の中で体力の消耗も大きかったがそれでもアビスに対しては朝飯前だったようだ。
☆
純水精霊もアビスに呼応できなくなったのか、停止をする。
「後はこれを止めるだけですけど……お前ら、止め方くらい準備してるよね?」
そしてバンパーは縛り上げられたアビスの方に向く。兵器とはそれに対するストッパーを準幅してようやく成り立つ、自分達も滅びるような生物兵器は作った時点では兵器ではなく災害だ。そのワクチンなどがあってようやく兵器として成り立つのだ。
「バンパー、貴方なら止められるんじゃないの? どうやら元素に対して特殊な能力を持ってるみたいだし」
「ノーコメントで、諜報員にそんな事話せるわけないでしょ」
夜蘭もまたそれは分かっているが、こいつらがそんなことをするはずもない事も分かっている。だからといって放置する事も出来ない故に聞いているのだが、夜蘭の素性をおおよそ推測する彼には明かせないし出来てもしないだろう。
ただ、事態はそんな悠長には待ってくれない。
「っ、お前ら何を」
突如として、純水精霊が甲高い悲鳴のようなものをあげる。先程までは命令に従うだけの無機質な兵器であったが、今は元の元素生命体としての存在感を感じる。
そして、そんな事をしでかせるのは縛り上げられているこいつらだけだ。
「何を? 解き放ってやったのだよ、我々が態々コントロールしていた膨大な元素を術式を介さずに代行出来るとでも?」
「だからお前らは嫌いなんだよ」
バンパーは縛り上げられたアビスを消した、もはや用済みというのもあるがこれ以上何かをされてしまえばもはや対応の余裕もないからだろう。しかし、今の段階でも十分に危機に瀕している。
「水が暴走している、このままじゃ……」
そしてそれは長年の経験による勘なのか、考えに至った夜蘭の顔が青ざめる。
「このままじゃどうなるって?」
「ここら一帯が吹き飛ぶわね、山なんて関係なく抉れるわよ」
岩神を殺す為にこれを作ったと彼らはいった、しかし方法が純粋に戦わせるだけだと思考が凝り固まっていた。そんな正々堂々と戦うよりは、こっちの方が奴ららしい。
「帝君をこの程度で仕留める気だったのは理解できなかったけど、どうやら最初から自爆装置として作っていたようね……不覚だわ」
元素を暴走させた爆弾、もはや人の域でどうこうできる領域にはない。アビスが最後の手段として行使してきたのは彼らも対応できなかったからだろう、自爆に巻き込まれるのもお構い無しに使ってきたのだ。恐らく、この2人を消せるなら問題無いと判断して。
「(ダメだわ、どう考えても時間も足りないし何も出来ない。運がどうとかじゃなく、何をしても助かる可能性が見当たらない……!)」
もはや詰みだ、夜蘭は匙を投げる事しかもはや出来ない。
ただ、もう1人の少年はそうではないらしい。
「……夜蘭さん、この後私が何をしても誰にも言わないと約束して欲しいんだけど」
「何をするつもり? それ次第……と言いたいけど、生きていられるかしら」
何か腹を括ったような顔で、バンパーが前に出る。いつ爆発してもおかしくない純水精霊、それをどうにか出来るとは思えないし、そんな方法がただの人間にある筈がない。
「まぁ約束できなかったら、その口塞ぐんで覚悟して下さい」
「ちょっと貴方、まさか……!!」
しかし、彼は純水の中に向かう。なけなしの自衛本能なのか、純粋は彼を容易に捕らえると中に引き摺り込む。夜蘭も何とか止めようとするが、それは何故か彼女を覆うように展開された水のバリアで遮られる。
だがその水を突破しようと構えていた次の瞬間には、鋭く眩い光が辺りを覆っていた。
☆
純水精霊は消えた、爆発する事なくその存在そのものが消え去った。一応あれは水に宿る存在のようなものなので不滅といって差し支えのない存在であるが、それでも謎の光に貫かれて消滅した。
「まさか、こんな子供に助けられるとはね……」
それもこれも、今肩を貸している少年のした事である。気絶をしているが、そのしでかした事は人の域にない力であった。いやもはや神の目の有無でどうにか出来るのかすら怪しい、魔神と遜色ない力なのかもしれない。
それだけ、あの光は異質だった。そして自分自身がこの力を使えば警戒されると分かっていたのだろう、その上で夜蘭を助ける為に力を使った。
少年が元素の力を吸収する事は戦いの中で夜蘭は推察できている。それにより水の牢獄を抜け、逆に彼女を守る為の盾すら張った。彼だけならば爆発も耐えれたかもしれない、その可能性はある。その上で手の内を晒しても倒すという選択をしたのだ、本当に14歳の子供なのか怪しいところである。
「夜蘭さん、無事でしたか……?」
そして、起きて開口一番に他人の心配をするような子である事も分かった。
「起きたの? しぶといわね、最年少記録を持った冒険者なのも納得よ」
ただ、今回の騒動を手助けしてくれた事と警戒人物として考える事は別問題である。
「私のこと、黙っててくれます?」
「それは約束出来ないわ、貴方の力は……危険過ぎる」
噂に聞いた事がある、アビスやファデュイなど様々な裏世界の存在がある冒険者を求めていると。特異的な能力を持っていると噂には聞いていても、それが何かは皆秘匿して情報は流れていなかった。それだけ求めるもの達は独占したかったのだろう、それに納得できる。
そんな少年だ、むしろ保護した方が良いだろう。悪いようにはしない、そう彼女が口を開こうとすると。
「なら、仕方ないか」
「何……んんっ!?」
その口は、無理矢理塞がれた。
「んぁ、はぁ……ぷはっ……な、何をするのよ!?」
突如として接吻をされたのだ、いつも冷静沈着に任務にあたる夜蘭とはいえ動揺する。今は現場から離れた洞窟の中、雨はあがったが地盤の緩みが酷く仕方なく彼女が臨時の拠点としていた場所に連れてきていた。
「まさか……きゃっ!?」
そんな2人だけの洞窟の中で、夜蘭は簡単に押し倒される。彼女は戦闘のできる諜報員ではあるが、毎日戦闘が出来るほど丈夫な体ではない。厄介ごとに向けいつも身体を調整してからことに当たっており、その事が終わった後は疲労感が人よりも大きく感じられる。
「私の弱みを握られちゃったんで、逆に夜蘭さんの弱みを握っちゃえば良いかなって」
そして今、彼女は抵抗できる余裕があまりない。
「子供扱いされてましたけど、今から無茶苦茶にしますから」
耳元でそう囁くと、また彼女の口に吸い付いた。また来ると分かってはいても、避ける事も出来ない。
「んんっ!? ん……んんん!?」
そしてその口の動きで疲労感で一杯の頭が蕩け出してくる。子供にされているという事や、無理矢理にされている事、そして湧き出てくる経験した事のない感覚、その全てが彼女の自尊心をぐちゃぐちゃにし始めているからだろう。
雨なのか涙なのか、それとも火照り昂った事による発汗か、彼女の頬を滴がつたっている。
「んーん、んっ!? んんん──ー!!?」
そして、それはエスカレートしていく。最初は唇を啄むようなものであったが、彼女の口の中にまで既に侵食され、舐められ嬲られ楽しまれている。
子供の舌ではあるがそんなの忘れてしまうような扱いに、向こうがある程度の経験がある事を察せられるが、今の彼女にはそんな方を考えられる余裕はないだろう。
舌の裏を舐められ、舌を啄まれ、経験した事のない感覚が襲い続けている。
「んぁ……ぷはっ! はぁ、はぁ……」
そしてようやく、顔が離れる。だらしなく口元を涎がつたっているが、彼女には自分の意識を澱ませないように律することで精一杯だ、少しの間が経ってから拭うが、その睨む眼光はどこか弱々しい。
恥辱を受けたのだ、頬も体も既に火照らされている。
ただ、まだ彼女はこれが始まったばかりなのを分かっていなかった。
「濡れたままだと風邪を引きますよ、脱いじゃいましょうか」
すると手慣れた手つきで、彼は彼女の服に手をかけた。
「ひゃ、やめなさ……あぁっ!?」
実際、雨で濡れたままなのは良くない。しかしあまりに手慣れており、男性ならば初見では分からないような服の構造を理解しているようで、手早く彼女を下着だけにしてしまう。
そして彼も同時に下着だけになる、冒険者をしているだけあり引き締まった体をしているが、そんなに悠長に考えられる状況ではないだろう。
「言っておきますけど、手加減とかしないんで」
もはやこれは、ただの蹂躙であった。
☆
終わった、何がとは言わないが終わった。
いや炎元素の副作用とか考えてなかったわけじゃないけど、気付いたら毛布一枚で産まれた姿の夜蘭さんがいた。そしてまぁ何となくだけど、私がやったんだろうなぁ……という事が分かる。
どこまでやったのか、衣服が散乱している。ひん剥いたのか、とりあえず濡れたままなのは良くなさそうだし干しておくけど。
どうなんの? 璃月どころか世界から消されるんじゃないか、全然有り得る。14歳にして人生終了なのはちょっと笑えないのだが。
「……いや、逆に私が弱みを握れば良いのか」
頭の中に一つの妙案が浮かぶ、我ながらゲスい考えが浮かんでしまったがそれしか方法はない。
私は一枚の写真を撮るついでに書き置きもしておく。まぁコピーして一枚は書き置きの下に置いておく。
『写真を広められたくなかったら、お互い今日の事は忘れましょう』と、よしこれでOK。
あ、裸は撮ってないよ。ただ干されてる下着とか毛布一枚になってる夜蘭さんは撮ってるけど、これは私の中で保存してはおこう。
なお後日、夜蘭が私に襲いかかってくるがそれはまた別の話である。
胡桃の〆縄のスコアが合計200(攻撃→HP計算)を超えたので気持ち良く寝れる。
ちなみに短編集みたいな感じの回で夜蘭の話はまたやる予定です。
次回、未定