※この作品はR-18です。

私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!!   作:札幌ポテト

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ディルック&ガイア(ついでにコレイ)回

原神の漫画を読んだ方が分かりやすいと思う。
https://genshin.hoyoverse.com/m/ja/manga

アンバーとコレイの関係良いよね。


不遜なる魔神の器

 

 これは旅人がモンドに来る前の話、まだトワリンもモンドを襲う前の話でもある。

 

「モンドで、スメージナヤの使者が殺された。大事件だな」

 

「そんな事、騎士でもない僕に話して何になる」

 

 モンドの騎士、ガイアはアカツキワイナリーの主人の元まで会いにやって来ている。ディルックだ、彼はモンドに迫る闇との戦いに身を投じる存在であり、本来ならば優秀な騎士であったが自分の父親を蔑ろにした騎士団から離反し、終わりの見えない戦いに明け暮れている。

 

 ただ、戦っているのは彼だけではない。

 

「そりゃ、騎士じゃないからこそって奴は2人もいるからな」

 

 その該当者は2人いる。自身の事であるのをディルックは分かっているが、もう1人についても良く知っている。

 

「また彼を巻き込む気か、性悪だな」

 

「人聞きが悪いな、勝手にあいつが巻き込まれるだけだ」

 

 本来ならばただの冒険者であるが特異的な能力により神の眼が無くとも元素の力を振る存在。地下情報網においても『何も捨てずに戦える者』と言う認識をされており、捨てなければ戦えなかった者たちから畏敬の念を送られてもいる。

 

「もうある程度裏側に浸透してる。俺が触れなくても『モンドの番犬』やら『不遜なる魔神の紛い物』なんて言われてるあいつは、何かを引き付ける力がある」

 

 そして、そんな本人が聞いたらモンドから撤収しそうな情報は裏世界では知らない者は居ない。彼という個人名は知らずとも『異端児』などというファデュイの執行官のような名前を知らない者は裏世界で力を持たない者だけだろう。

 

「今回も、そうだと?」

 

「ここだけの話だが」

 

 ガイアは徐に写真を取り出す。見るにただの小さな湖があるだけの写真なのだが、それについてはディルックも知っている。

 

「少し前の地形変動の話はしたよな」

 

「あぁ、騎士団がガス溜まりに炎スライムが近づいた事による事故と判断してた奴か。僕も調べたがアビスの関わりはなかった、それらしき不穏な動きも掴めなかったが……まさか」

 

「情報通なお前でも引っかかってなかったのは、向こうは特に任務が無かったからだろうな。だがそれをあいつだけが察知して6位を倒してる。地形を歪めるような戦いをしてな」

 

 ガイアもディルックも、彼を幼少期から知っている。しかし誰よりも早く外に行き、冒険者としてファデュイやアビスと戦い続けているのだ。本人は偶々と言っているが、偶々で第六位と会う事も無ければそのまま倒す事も無い。

 

「それで、何が言いたい」

 

「あいつは俺たちみたいに体裁的にダメなやつでも『自分の敵』って認識した奴に容赦が無い。一体何人の使者を裏で始末してる事やら……

 

 今回は、そうなられたら不味い」

 

 今回起きてる事件はスネージナヤの使者がモンド城内で襲撃を受けて殺されている。騎士団としてはそれを向こうに引き渡さなければ大きな外交問題に発展しかねない、そしてそんな事情に関係なく殺されては困るのだ。

 

 ただそれを、神の目を捨てたディルックに頼む時点で何を求めているのか彼は察する。

 

「そういった役回りは、俺たちの仕事だからな」

 

「……そうだな、僕たちがやるものか」

 

 仕方なしにディルックはガイアと手を組む。乗り気ではないが、それがモンドのためであるならば。

 

 ☆

 

 モンドの氷の国使節団暗殺事件、その事件は言ってしまえば事故だった。コレイという少女はファデュイによってモルモットにされてしまい、魔神の力を体内に入れられてしまい、その憎悪に反応してスネージナヤの使者を殺してしまった。正確には、中にあった力が襲ってしまったのだ。

 

 もはや、自分はただの犯罪者で怪物だ。どうやってもマトモには死ねない、表と裏から世界を追われる。ただ、そんな中で光に出会った。

 

「アンバーと、楽しかったな……」

 

 アンバーだ。彼女と触れ、世界の明るい場所を知れた。自分の親もファデュイから取り戻そうと抗議していたのも思い出せた、自分を狂わせたファデュイの居ない世界には、暖かさがあった事を知れた。

 

「私はちゃんと、生きていいのかな……」

 

 アンバーと別れたが、その後に自分を見つめ直し荒んでいた気持ちも落ち着いてきていた。ならばここまで自分を導いてくれたアンバーの為にも、もうあの力は使えない。ファデュイへの復讐など辞めて、自分の人生を新しく踏み出す為に、それが必要だろう。

 

 ただ、人生は険しい。自分のやって来た罪の代償を払わせようと、必ずやって来る。その死神は、コレイの後ろに居た。

 

「そうだな、罪を償った後なら好きに生きるといいさ」

 

 ガイアは、優秀だ。目ぼしい存在は目をつけており、それがアンバーと行動を共にしている事も分かっていた。

 

「だ、誰だよ。あたしはアンバーの所に……っ!?」

 

 逃げようとするコレイの退路を、氷の壁を創造する事で防ぐ。気付けば街中であるのに人通りが少なく、ガイアと彼女しか居ない。

 

「やめ、やめろ。あたしは……!」

 

 今回の事件で黒い炎によってスネージナヤの使者が焼き殺された。普通の力では無い、そしてそんな事態にあるモンドに見知らぬ顔があれば少女であろうとガイアは警戒する。

 

「いつまでその仮装を続ける、お前の事を友達が見たらどう思う?」

 

「う、ぅぅ……うるさい!!」

 

 そしてその尻尾を掴んだところだった。氷で囲い追い詰め、遂にその力を顕現させる。途端に彼女の周りに生物のように黒いモヤが輪郭を持ち、炎のように力を撒き散らし始める。

 

「やっと姿を現したか。一つ目のピース、黒焔の蛇」

 

 どう出るかと、ガイアは手に込めた氷の力を真正面に放つ。どう受け流すか、どう戦って来るか、それを試す為の攻撃だ。少女は何か葛藤しているようだが、それがフェイクである事も鑑みての一撃だ。

 

「私はやっぱり、この世界じゃ生きてちゃダメだ……はは、もうここで終わった方が良いんだ

 

 ────殺せよ」

 

 ただ、それは受けようとした彼女の前で叩き落とされる。同じく氷元素による攻撃で、彼と彼女の間に誰かが横入りしてくる。絶望に目を歪ませ、氷を受け入れようとした彼女のそれを拒む。

 

「(……あの時はああ言ったものの、ここで邪魔が入るか)」

 

 何処かしらで介入して来るとは考えていたが、まさかガイアの前に立ち塞がるとは思っていなかった。コレイとしても自身を庇う存在に最初はアンバーを幻視したが、アンバーでないどころか性別も違う。そもそも彼女を助けてくれる存在など、この世界にはもう居ないと迄考えて命を経とうとしていたのだから。

 

「あんた、誰だ……?」

 

「知らなくていいけど、同類みたいなもんだよ。ほらここに書かれてる場所行け、これ見せたら貧乏な占星術師が匿ってくれるはずだから」

 

 そして何か丸めた手紙を投げ渡している。どうやら既知の知り合いではないようだが。だとすればモンドの敵と認識した存在をすべからく排除してきた────バンパーという存在は、ガイアの想像する人間像と異なる。

 

「ガイア、お前って夜に女の子に襲い掛かるような人でなしとは思わなかったんだけど。長い付き合いだし、謝ればまだ許されるかもしれないぞ」

 

「おいおい、そいつが何者かわからないお前じゃ無いだろ」

 

「今話題の関係者、いやお前が剣抜いてるなら……主犯か」

 

 しかも分かっていて前に立っている。彼女を殺す気はないようだが、彼女の方は急に知らない男が現れて逃げろと言われて納得していない様子だ。

 

「邪魔だからどっか行けよ! アレは私に用があるんだ!」

 

 渡された紙を投げ捨て、怒鳴りながらバンパーを睨みつける。バンパーが来るまでそれは死に場所を求めていたかのような目を、漸く終わりがやって来たと絶望に安堵したような目をしていたのだ。一瞬でもアンバーに光を見せられ、最後の思い出に抱かれて死にそびれたのだ。

 

 また辛い現実に戻されたくない、それでいて迷惑をかけたくないというのもあるのだろう。ただ、その感情の発露が良くないものを活性化させてしまう。

 

「っ、よせ! 逃げろ!」

 

 彼女の体から伸びる黒い力の奔流、蛇のように見えるそれがあろう事かバンパーを背後から襲ったのだ。それは突然の事だったのでガイアも対応出来ない、それは彼もだろう。

 

「あ、あぁ……!!」

 

 蛇は躊躇いなく、男の首に噛み付いた。途端に発火が始まり、その身を焦がそうと広がっていく。遂に自分の手によって関係の無い者が、それも自分を守ろうとした者に手が及んでしまった。

 

 自分がこの力を持っている限り、解放される事はない。そう考えが及んでいる時だった。

 

「良かったな。そいつが変な奴で」

 

 唐突に、炎が収まり始める。

 

 ☆

 

 モンドに帰って来た。祭りがあるからだ、一応はここの人間だし顔ぐらい出しておこうかなぐらいの軽い気持ちで帰って来たのだが、明らかにやばい雰囲気を街中から感じたので急行した。

 

 行ってみた所、ガイアが少女を殺そうとしていたのでそれを防いだのだが、次は少女の方から攻撃を受けて首筋に蛇みたいな黒い焔に噛まれている。まぁ効かないんだけど。

 

「黒い焔、やっぱり魔神の力か。勘違いなら良かったんだけどなぁ……」

 

 燃やそうと広げていた炎を吸い取り、更に噛みついている首を掴んで剥がす。どうやらかなり少女に『殺そうぜ! 俺に任せろって! 殺そうぜ!』と精神を汚染していたようだ、見た所まだ15歳程度の少女に。

 

「とりあえず、人が話してる時に邪魔すんな」

 

 なので思いっきり彼女の中に残っている力ごと引き摺り出して吸い取る。いたいけな少女の心を蝕んだのだ、軽く痛い目を見てもらった。これで暫く動く事は出来ないだろう、魔神と言っても残滓みたいなもんだし大した力は持ってない。

 

「え、力が一気に……?」

 

 少女の方は緊張の糸が途切れてへたり込んでしまったが、どうするべきか。騎士団に連れて行くのはガイアが敵対してる時点で難しそうだからモナの所にでも連れて行こうと思ってたけど、とりあえず彼女の安全の確保が最優先だろう。奪い取った黒い焔を全方位に放って氷の檻は壊しておく。

 

「この範囲の氷を一瞬で壊し尽くしたか、相変わらず底が知れないやつだ」

 

 まずはガイアだ。少女の方は後でどうにかするとして、目の前のこいつに話をつけない事には彼女は安心できないだろう。現にガイアによって何箇所か流血してる、治療もしたい所だ。

 

「バン、お前はそこまで積極的に介入してくる奴じゃない。仮にも主犯を庇うなんて考えられん、何を考えてる」

 

「タイミング悪く帰って来たのは確かだけど、そんなクソ野郎だと思ってたのか?」

 

「それは手を出して来た女の子にも言えるのか」

 

「言えないに決まってるだろ」

 

 ガイアと私は短くない付き合いだ。ガイアからしたら私がこの行動を取るのはおかしいらしい。いや私は目の前で少女が殺されたら目覚めが悪いからここに立ってるだけなんだよな、確かに厄介ごとに首を突っ込みたくないけど。

 

 残念な事に、私の目の前でそれが起きているなら介入する。

 

 あんな力を持っているんだ、裏世界の知り合い達から噂に聞く魔神の力を注射された子の1人なのだろう。なら尚更、ファデュイ以外を知らない彼女を殺させないのは当たり前だ。私じゃなくとも、ジンやバーバラでもこうやって立ち塞がる。

 

「まぁ私はどんな理由があろうと、ここを退くやつじゃないのは知ってる筈だけど。まだやるか?」

 

「人殺し、だとしてもか?」

 

 人殺し、確かにそうだ。この子は人を殺してるし、魔神の力を持ってる『明らかな地雷』だ。モンドを平和に保つ為に庇うのはあり得ないことだろう、ファデュイに渡すのが一番面倒じゃない。

 

 まぁ、そんなことするわけないけど。

 

「当然、その基準なら私とかどうにもならんだろ。柄じゃないけど、私だけは彼女の味方であり続けるよ」

 

 快楽殺人者でも、女性ならそれを後悔させる為に基本は殺さないからな。まぁ昔にそんな人を改心()させたからね、あれは良かったけどそれ以外でも全然戦うからな。それに、戦うことぐらいしか私には出来ないし。

 

 私を敵に回すなんてガイアも騎士団も絶対したくないから、少なくとも彼女と敵対する以外の方法を考えてくれるだろう。

 

 するとそんな私の思惑を察したのか、ガイアも落ち着いてきており、私の抵抗に諦めたのかようやく剣を下ろす。私も同時に肩の力を抜く。それとほぼ同時だっただろう、アンバーの声が聞こえて来たのは。

 

「ウサギ伯爵!!」

 

 気付くと、彼女の爆弾人形が私の足元に転がっていた。

 

「ん? これって、アン……って待て待て待て!!!?」

 

 急いで少女とウサギ伯爵の間に氷の壁を生やす、私は間に合わずそのまま吹っ飛ぶ。物理エネルギーの吸収は咄嗟だったので出来なかった、ただ気付くと少女もアンバーも居なかった。彼女からすれば私とガイア両方とも敵に見えてたのかもしれない。

 

「逃げられたな」

 

「追わないのか、仕事だろ」

 

「面白い答えを期待してたんだが、もういい」

 

 ガイアも完全に諦めている。正直彼女がファデュイの使者を殺したならば因果応報って奴なのだが、モンドとしては逃せない筈だ。何故なら表面上は外交関係のある国同士で、更にはその国内で起きた事件の犯人を見つけられませんでしたでは面子が潰れるだけでなく、向こうの言い分を通させてしまう。

 

 今回の件で言えば、ファデュイの執行官を常在させろとかね。更に今回は執行官の『博士』が噛んでいる、私が狙われたらやばい。

 

「彼女を捕まえてもファデュイは大して痛くないからな、むしろ利用される未来が見えるし……どうすんの騎士様?」

 

 ただそれは私よりもガイアが分かっているはずだろう、考えるのめんどくさくなって来たので丸投げしたいのだが。

 

「バン、お前に任せたい仕事があるんだが」

 

「いいぞ」

 

 なんか案はあるみたいなので二つ返事で受ける。

 

「珍しいな、内容も聞かずに受けるお前じゃ無いだろ」

 

「当たり前だろ、代わりに今から聞くこと絶対教えてもらうけど」

 

 確かに二つ返事は珍しいが、実は一刻を争う事態が起きている。あのウサギ伯爵、アンバーの炎元素の力ではなく火薬とかの炎元素の力で起爆しているのだが、それをモロに庇ったので喰らった。

 

 つまり、今副作用がやばい。

 

「ここら辺で悪さしてるファデュイ(♀)知らない?」

 

 私はガイアに教えてもらった場所に情報収集兼炎元素の副作用発散の為、向かった。とりあえずフード被ってる強気なお姉さんは色々教えてくれてよかった、今後まともな情事で満足出来ないかもしれないけど頑張ってね! 

 

 ☆

 

 星拾いの崖にて、コレイは海の先を見ていた。全てが終わり、ようやく世界を純粋に見る事が出来ていた。

 

「なぁアンバー、あいつって誰だったんだ」

 

 そして最初に気になったのは、自分を助けにわざわざやって来た誰かだ。隣に見届けにやって来たアンバーに問いかけるものの、やはり心の中は整理されていない。

 

「あいつのおかげで、私の中の化け物も大人しくなったし……あいつだけ、騎士でもないのに良く知らない私を助けてくれたし……」

 

 コレイの身体にいた何かは、封印された。リサの紹介でやって来た誰かによって、封じ込められた。封じた本人曰く魔神が弱っており、封印無しでも暫く大人しくなっていたので封印は容易に出来たらしい。

 

 逆に言えばそう言う存在が居ると認識した上で庇われたのだ、アンバーとは違った形ではあるが、コレイは彼に救われていた。

 

「あの人は、バンパーさん。ああ見えて今20歳ぐらいなんだよ」

 

「え? アンバーと同い年ぐらいに見えたんだけど、違うのか?」

 

「秘密なんだけど、いつもああやって誰かの為に戦ってるから成長が遅くなってるんだって。あの人が騎士団に入ってくれたら、副団長も助かるっていつも言ってるし……」

 

 騎士ですら無い、何なら本当にコレイの事を知らずに助けた。モンド人はみんなそうなのかもしれないが、そうだとしても落ち着いてみると平気な顔して「彼女の味方であり続ける」だとか「ここに行けば匿ってもらえる」など、自分に対して優し過ぎる言葉を吐き続けていた。思い出してみると、どこかこそばゆく感じて来る。

 

「今度会ったら、お礼を言いたい……かも」

 

 少し気恥ずかしそうに、コレイはアンバーに言う。誰も助けてくれない時に助けられただけなのだが、それが異性という事もありどこか意識しているのかもしれない。

 

「あはは、あの人いつもモンドに居ないから会えるか分かんないけど……コレイのやりたい事が見つかって良かった。あの人褒め慣れて無いから、コレイみたいな可愛い子に言われたらきっと照れちゃうよ」

 

「そ、そうかな……」

 

 コレイにアンバーは微笑むと、彼女も照れながら笑顔を返す。ようやく世界を見直して自分を見つめ直せた彼女の人生は始まったばかりであり、アンバーのような彼女の人生を変える出会いはこれから先増えてくるだろう。ようやく彼女はスタートラインに立ったのである。

 

 ただ、まだ人生に牙を向く影が近づいて来ている。

 

「おやー? これはこれは、懐かしいモルモットが居るじゃないか」

 

 この場に似つかわしく無い声を吐きながら、それは近づいて来る。コレイの中に眠っていた魔神の気配を察知し、此度の事件の原因であると見抜いた上で刃を構える。

 

「さあ騎士団よ、そいつを渡して貰おうか!」

 

 躊躇いなく、男は闇を乗せた斬撃を放つ。だがそれはアンバーが炎の矢で相殺する事で防がれるものの、アンバーは冷や汗を流す。

 

「コレイ、下がって」

 

 明らかに、やばい力を使っていると察したのだろう。神の眼とは違う、ファデュイの使う別の何かを感じ取れてしまったのである。自分だけで戦うならばまだどうにかなる相手であるが、コレイを庇いながらとなれば分は悪かった。

 

「うっ……くっ!」

 

「アンバー……!!」

 

 アンバーはコレイを庇う様に何度も攻撃を相殺し、それでいて弾き切れなかった攻撃を身体で防いでいる。炎元素で作り上げたシールドも何度も出鱈目に振り回された闇によってヒビが入って来ており、時間稼ぎにも限界があるだろう。

 

「もう辞めてくれ! 頼むから! アンバー……!!」

 

 少しずつ、傷も増えてくる。コレイを庇う為に動けないアンバーは、そのまま戦い続ける。ただそのコレイの様子に、ファデュイは何処か違和感を感じている。

 

「ふむ……通りで大人しいと思っていたが、封印などしているではないか」

 

 全くコレイから魔神の力が出てこないのだ。これだけ出せば少なからず呼応して現れると見ていたが、封じられているようでその気配すら出てこない。

 

「この力は貴様と同じだ、理解に及ばんぞ? これを扱えないなら失敗作だが、そうではない筈だ。ならばどうだ、それを使わぬと騎士の女は死ぬぞ!!」

 

 そうして、更に攻撃の波を強める。手土産としてどの程度のものかも確認しておきたいのだ、引き出してもらわなければ困る。このモルモットは数少ない成功例でもあるのだ、再利用の為にも使わせたいのだ。

 

「わ、私は……」

 

 そう言われコレイは迷う。このままではアンバーが傷付き続ける。自分のせいでだ、ファデュイとはもう離れる事が出来ないのだと教えられている。自分を見つめ直して新しい世界を見ることなど許されない、そんな現実が見えてしまう。

 

「私は……!」

 

 この封印を剥がせば、人には戻れない。そう言われた、だがそれが目の前の初めて出来た友達を見捨てる事になるならば、そう思い彼女は人を辞めようと封印のある首筋に手をやろうとすると。

 

「コレイ!!」

 

 アンバーの声で、それは止まった。今彼女が傷付いてでもコレイを守っているのは騎士だからだけではない、それを使わせない為でもあるのだ。コレイを傷付かせない、その為に騎士団にいるのだ。

 

「それは、使っちゃダメ。私が絶対、助けるから!」

 

 アンバーは弓を構え直す、コレイには手出しをさせないという意思を見せつける。敵が不気味であろうと、よく分からない力を使おうと、己と違い人を殺し慣れていても、アンバーはそのファデュイの前に立つ。

 

「絶対にあんた達みたいな奴に、コレイは渡さない!!」

 

「口だけは達者だな、モンドの騎士風情が!!」

 

 ただ状況が良くなったわけではない。アンバーとて巻き込まない様に全力で戦えていないわけであるが、それでも敵は躊躇が無い。コレイの事は逃すにしても、どう逃すかと思案しても妙案は出てこない。

 

 ただそんな時だ、アンバーは何か気配を感じる。

 

「騎士の鑑かよ、真似できんわ」

 

 どこからか、声が響いた。どこからかは分からない、ただ聞き馴染みのある声だった。それはファデュイも聞こえていた様だが、そのファデュイと2人の間の地面が突如としてひび割れて行く。

 

「へ? 崩れ……!!」

 

 アンバーは咄嗟にコレイを抱えて飛び降りる。崖が崩壊したのだ、しかし突然の事だったのでファデュイは追撃をしてこない、逃げれるだろう。いや、追う事はできない筈だ。

 

 アンバーの目には落ちる瞬間、この状況を作ったであろう黒髪の少年が見えていた。

 

 ☆

 

 今回の事件、そもそもモンドから研究に使う人間……もといモンド人を実験体として合法的に奪う為に色々と手を回しているスネージナヤ側とそれをなんとかしようとするモンド側とで色々と裏で探り合いをしていた。

 そんな中で起きたモンド側の不手際(ある意味向こうのマッチポンプ)によりその事態が不利になり始めたのだ、なのでこの問題は必ず解決しなければならない。しかし少女を渡す事は出来ない、そこで策を講じるのがガイア達だ。

 

 そして、その仕事の一部を私が受け持っている。

 

「あいつはモンドの飛行チャンピオンだからな、多少荒くしても大丈夫だろ」

 

 ここで少女ーーーーコレイは魔神を封じた。それはリサさんがしたらしいが、私の仕事はそれに関する事ではない。目の前にいるファデュイ、それが目的だ。なので説明が面倒なので今し方崖から2人は落としたが、万が一を備えて地面はふかふかの砂に前もって変えてあるし更には風元素で空域も作ってる、無事だろう。

 

 問題は目の前の愚人衆の下っ端か。

 

「貴様、何者だ」

 

 明らかに邪眼の力を使って攻撃して来たが、それは切り落として対応する。私の普段持ってる剣にはそんな力は無いが、最低限の切れ味と私の能力を使えばある程度使える。まぁ能力使わず切り落としたけど。

 

「神の目も貰えない通りすがりの一般冒険者、邪眼も持ってないよ」

 

「ふむ……あれは爆薬でも仕込んでいたか。最初から我々が狙い、だがなるほど……その程度でイキがるとはな」

 

 ただ幸いな事に勘違いしてくれている。何かしらの方法で使った魔神特有の身体能力を向上させる力で近づいて来る、赤茶けた肌色の男は躊躇なく私の首を跳ねに来る。なのでそれはギリギリで回避して踏み込ませ肘打ちをして更に蹴り飛ばす。

 私の苦手な体術や剣術にめっぽう強いタイプではない。

 

「がはっ!?」

 

 1対1でかつ敵のレベルが力に振り回されてるだけだからどうとでもできるよね。ジンやエウルアみたいな質の暴力でもないので何とかなる。

 

「く、調子に乗るなよ!」

 

 更に剣を振り回すが受け流して今度は膝で顎から吹っ飛ばす。この程度色々な騎士に扱かれまくり、更には至る所で修羅場を潜り抜けて来た私からすれば相手じゃない。執行官クラス以外じゃ多分負ける事は無いだろう、強くなったと自覚はあるけど『そのぐらい強くなっとかないと死ぬ』ような出来事が多いし、いつの間にか強くなったんだよな……なので10年前ならいざ知らず、10年も修羅場やってる私の敵じゃない。

 

 力の差は軽く見せてるがまた闇を這わせ、私に襲わせる。通りすがりの冒険者に負けたのが許せないのか、これに自信を持っているのだろう。なので敢えて受ける、更にそのまま同じ技を出して相殺する。

 

「神の目を持たない癖に、元素を扱う少年……そうか貴様がそうか!!」

 

 すると、男の首筋から力が漏れ出る。助けた少女と同じ、もしくは同系統の力だ。ただその練度は違うのだろう、男の姿が見る見るうちに変わっていき人の姿からかけ離れて行く。

 

「博士に良い手土産が出来そうだ!!」

 

 黒い獅子、そんな化け物が現れる。先程とは比べ物にならない速度と力で地面を砕き、私を叩き潰そうと躍起になる。流石にこれは剣技ではどうにもならないので回避しつつ距離を取る。この手の切り札はあるとは思ってたが、どうやら相当今回の事件に入れ込んでいる様子だ。

 

 ただ、時間稼ぎもそろそろ良いだろう。ディルックとガイアの気配も少しずつ近づいて来ている。

 

 今回の作戦はディルックを代わりの犯人として仕立て上げる必要があり、その為にこいつは口を聞けない程度にはボコボコにする必要がある。そして私の仕事は時間稼ぎ、ただ私だって今回の話を聞いて色々とイライラしている。可愛いお姉さんだったら肉欲をぶつけてるが、仕方ないので別でストレスを発散させる。

 

「実は最近になって知ったんだけどさ。魔神やら邪眼やら由来の力と無茶苦茶相性良いっぽいんだよね、副作用(リスク)も大体無いし」

 

 口から放たれた黒炎の塊を受け止めて掻き消し、私はそのまま手を翳す。そして躊躇い無しに、懐に踏み込んでそれを敵の腹にゼロ距離で放つ。

 

爆 ぜ ろ(ドルモーア)

 

 同時に、放たれた闇が爆発して獅子の巨体を吹き飛ばす。苦悶の表情を浮かべ、たった一撃で満身創痍にまで追い詰められているらしい。実際ゼロ距離であれが腹で爆発して気絶していないだけタフなのだろう、ただそれで気絶出来なかった方が可哀想だ。

 

 いや、可哀想でもない。いたいけな少女を一方的に嬲って楽しんでいた男だ、心もまるで痛まない。

 

「どうした、御自慢の神の力は出涸らしか」

 

「が、なにぃっ!? 馬鹿な、貴様の力は他者に依存するはず……この威力はどういう事だ!!」

 

 自分より上が現れた時に否定から入るあたり、自分は勝ち組であると、負けるはずがないという気持ちがわかってくる。ならば徹底的に、こいつが敗者であることを教えておこう。

 

「貴様、何者だ! 異端児、その力は何処から持って来た!!」

 

 と言うかディルックとガイア(ついでに私)を敵に回して、敗者にならないわけがない。

 

「さぁな、わからん。ただお前は先ず、人の痛みから知ってこい」

 

 私は最近練習中の技をぶつける事にする。右手に闇、左手に雷。それぞれの力を合わせて獅子を囲う、そして巻き付かせて一度に発破する。闇元素なんて勝手に呼んでるけど、それと組み合わせる機会なんて自分から作らないので、お試しで最低威力で放ってみる。

 

悔い改めて死ね(ビッグバン)

 

 轟音と閃光が起き、バチバチと帯電しながらファデュイは倒れた。人の形に戻っている、ただギリギリ意識はあるようで、本当にタフな奴だ。ただそれは奴の中身にある奴のおかげなのだろう、逆に喋る事も出来ず苦しんでいるようだが。

 

 ただそれも、空から奴を貫く鎖によって意識は飛ばされる。

 

「(遅かったけど、ようやく)」

 

 ディルックだ、何故か邪眼を持ってるがこれが私達の作戦だ。このままではコレイは捕まる、しかし逃しても代わりの犯人が必要だ、なのでディルックがわざと捕まる為に動き、ガイアが捕縛する。目の前のこいつには生き証人としてディルックを事件の主犯と勘違いしてもらうのだ。

 

 しかしまだ終わりじゃ無い、私とディルックが敵同士であるように見せる為軽く戦う。あいつは神の目を昔に捨てたから邪眼を使うらしいけど、そこまで使う事にはなってない。

 

 そう、軽く戦う手筈だ。

 

「(殺意高くない!? 普段の鬱憤とかぶつけてない!? ぶつけてないよねぇ!?)」

 

 でもディルックとのガチバトルは何故か5分ほど続いてしまった。

 

 ☆

 

 ディルックとガイア(と手助けをしてくれたリサ)により画策された策は、無事にファデュイの手からコレイを解放し、事件を丸く収めた。モンド側はディルックという偽りの犯人を引き渡し、その後に逃げられたのでお咎めは無く、スネージナヤ側だけが今回の事件を徒労に終わらせる事が出来た。

 

 ただディルックとガイアの目的はそれだけではない。真に確認したかった現状があった。

 

「それで、終わったのか」

 

「ファトゥスの執行官を相手したのは事実だろう、本気なら恐らくやれる」

 

 ディルックは軽くではあるがバンパーと手合わせをした、それは彼が自分の手札を隠すような男であるからだ。ただ、その認識を新たにする為に戦い、ガイアは観測していた。

 

「あいつは、これからどうする気なんだ」

 

 昔はあそこまで強くなかった。いや、むしろ神の目を持った騎士に比べれば簡単に押されて倒されていた。それが今では邪眼を使ったディルックと渡り合っている、はっきり言って異常だった。そこまでの力を追い求めてきた理由を、ディルックは知らない。

 

「さてな、俺も知らん」

 

 それはガイアもであり、なぜあそこまで強くなったのか見当がつかなかった。確かに経験値もあるし、修羅場も乗り越えている。ただそれ以上の理由が無ければあそこまで強くはなれない、その理由だけは今回では見切る事は出来なかった。

 

「ただ、今はモンドの敵では無いらしい」

 

 知る必要があった。あの冒険者がモンドの敵となるならば、その息の根を止めなければならないのはこの2人であるのだから。

 

 ジンやリサは情がある、エウルアやアンバーもそうだ。そもそもこの者達を含めて単騎でやり合ってもあの男は容易く逃げおおせるだろう。どうしたものかとディルックは頭を抱えるのも仕方ない。

 

 ただそんな彼に、ガイアは机を滑らすように何かを贈る。

 

「それとこれ、今回の件でのあいつからの差し入れだ」

 

 小声でガイアは「俺からもな」とは言うが、それは革製の何かだ。ただ出来はかなり良く、その皮は見間違えでなければ「璃月の鷹」やヴィシャップで作られた物のように見える。

 

「鞘袋、それも大剣用のか」

 

 これを送る意味とは何なのか。それも準備していた物のように見えるし、ガイアが何かしら付けているみたいだがそれらしきものもない。これ彼が贈る理由は、どういう意図があるのか。素直に受け取るなら、騎士に戻れという事なのかもしれないが。

 

「全く、僕に彼の考えは分からない」

 

 その鞘袋の中、赤い神の目が仕込まれているのに気付くのは後になるのだが、ディルックはこの2人が素直じゃない事を改めて知るのであった。





ディルックに鞘袋を贈った理由
→お前はさっさと騎士団に戻って働いてくれ、主に私の為に。

次回
モナorコレイor雲菫orエウルアorバーバラ
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