※この作品はR-18です。

私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!!   作:札幌ポテト

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フリーナ回②

好きなキャラなので力(前回と合わせて3万字)入ってます。
ちなみに私の好きなキャラは

1.胡桃
2.フリーナ
3.バーバラ

です、存在しない記憶で親友の方は感想ください。


誓って水神になってません

 

 フリーナは思う、自分の命と皆んなの命では釣り合うまでもなく皆の命が大切だと。

 ただの人間でしか無い自分、ただの神でもなく力の無い自分、呪いで不老なだけの自分が予言に争うには、もう1人の自分の策を生かす為に神を演じるしかない。

 

『(必ず僕が、みんなを守ってあげるから)』

 

 そんな決意を胸にし、彼女は裁判に臨んだ。仕掛けられたそれへ、争う覚悟を見せた。しかし、用意周到な旅人達には及ばなかった。

 

 神としての実績など、裏付けが薄いおかげで皆には響かず。不老であったことが呪いであった事を看破され。ただの人でしかないと『胎海の水』で証明される寸前だった。

 

 もう、勝ち目なんてなかった筈なのに────

 

『彼女を除いて、神など他に居ない』

 

 現れた彼が潮目を変えた。それどころか敵対した筈の旅人すら説得してしまったのだ、裁判によりフリーナは白と判断されるに足る状態にまで至れた。

 あの孤立無援どころか四面楚歌の状態の彼女の為に現れた彼が、フォンテーヌの全てから庇った事で救われたのである。

 最初の出会いが足腰が立たなくなっても彼の足に跨らされて接吻を交わされ続けた誰かとは思わなかったしカミングアウトされたのも普通におかしいが、救われた事の脱力感やら恥じらいで何も言えなかった。

 お礼にそれをまたする事になるのかと、少し覚悟を決め直さなければと思っていた時であった。

 

『水神、有罪。死刑』

 

 冷や水を頭にかけられたように、現実に戻された。

 

『(有罪? 死刑? どうして? 僕が、何で……? 僕はただ、みんなを守ろうと、それで、いや、でも守れなかったから? 僕は、きゃっ!?)』

 

 しかし裁定が現実的では無かったせいで混乱してしまう。あまりの事に庇ってくれたバンパーや裁定を読み上げたヌヴィレット、その他大勢がこの裁定に呆気に取られてしまった。

 

『させると思うなよ』とフリーナの腰を片手で抱き寄せて守ろうとする彼の無意識の行動には驚かされたし、本当に後先考え無しに護りたいからとやって来たのを感じてしまった。感じ取ってしまったのだ、だから冷静になれてしまった。

 

『(ぼ、僕の事好きなのか? あんな不遜で我儘で拗らせてるような神を演じてたのに? でも、そんな理由で死ぬかもしれないのに……こ、こんなにしてくれるの? 旅人の友達だよね? 今迄の関係なんか捨てても、僕を守ってくれるの? そんな、事までしてくれるのに……)』

 

 彼の腕の中で、フリーナは悟った。これ以上、彼に迷惑をかけてはいけないと。フォンテーヌとは無関係な彼を、演じていたとはいえ過去に嘲笑った彼を、世界を敵に回させてはいけないと。

 それに、彼女にはまだ道はあったのだ。彼にこれ以上無理をさせず、それでいて神を演じたままこの先も乗り切れる方法を。

 

『(もう、いいかな……ここまで行けたんだから。次があったら、今度こそ僕は言い逃れ出来ない。だったら)』

 

 フリーナの中では今回の事を乗り越えられると言う歓喜と共に暗く冷たい波が心の中に押し寄せていた。これから先であっても、神であるかの演技に翳りはあるのだと葛藤が起きた。予言は間も無く始まる、なら神を演じただけの彼女に何が出来るのか。

 無力で、何も出来ず、皆に束の間の休息を与える事も出来ないならば何が出来るのかと。そう、思い至ってしまった。

 

『(最後に君の名前を知れたのは良かった……僕のこと、忘れないで欲しいな)』

 

 神のまま死ねるというのだ。彼女に求められたのは神である事、それの生死迄はもう1人の自分から求められていない。自分の命を天秤にかけ、神であることを全うすることにしたのだ。

 怖くないとは言わない、死にたくないと叫びたい。だが良いのだ、皆に愛されていることは知れたし、旅人達とも最期は笑顔で別れられる。後の事は無責任だがバンパーやヌヴィレット、旅人ともう1人の僕に託す他ない。

 だが、彼等が居るから断頭台に立てるのだ。死刑を突きつけられても、みんなを信じて逝ける。

 

『(さようなら)』

 

 ただ死刑を待つ為、彼と別れの口付けを頬にして、その意思を揺らがせまいと席に座り、彼女は瞳を閉じる。

 500年も演じ続けたソレをやっと終われるという安堵が心に湧き、裁判での疲労感からか意識は闇に落ちて行く。彼の言葉は聞こえないが、最後まで庇うのだろう。それに申し訳なさを感じつつも、皆を救えるという幸福感を抱えて彼女は眠りにつく。

 恐怖の中から湧き出たそれは、自然と瞼の下から滴り落ちるのであった。

 

 ☆

 

 私の本気は、通じなかった。いや、正確には通じていたが致命傷に出来なかった。見せるのも憚れる大技の一つだったが、それすら耐え切られた。ただ、それが何故通用しなかったのかは分からない。

 

「バン! 怪我は!?」

 

「まぁなんとか……硬いだけでアイツそのものは神には及ばないし、まだ動ける」

 

 近寄ってきた旅人に大丈夫だと伝えるが、あくまでも大丈夫なのは私の体だけだ。事態はかなり、大丈夫とは言えない。

 

「さっきのは雷電将軍の」

 

「範囲絞ったとは言え、威力だけなら自信あったんだけどな」

 

「……あの鯨は」

 

 あれからはとてつも無い量の巨大な水元素の力を感じた。恐らくは原始胎海のエネルギー、フォンテーヌ人を創り上げたものと同じモノを喰ったのだろう。だからこそ、あれだけの猛攻を受けても死んでいない。

 

「遂に姿を現したか。奴がここに顔を出した理由なら想像につく」

 

 ヌヴィレットは何か心当たりがあるらしい、あんな化け物に対しての心当たりが。

 

「あれはテイワットに属さない。星々を遊泳し、それを喰らい尽くす化け物だ」

 

 星々、世界の裏側のことか。はたまた私の生きていたテイワットの外側にある異世界の事か。どちらにせよ、そんじゃそこらの魔獣とは一線を画す存在なのは明らかだった。

 

「奴が胎海のエネルギーを喰らい、肥大化した事が今回の予言の主だった要因だろう。恐らく、それを食い尽くしここに現れたのは」

 

「フォンテーヌ人の中にある、原始胎海の水か」

 

 最悪と言って良いだろう。ついに予言の元凶まで暴れ始めた、それの力は先程の暴れっぷりからして相当な物だ。そして、また暴れる。今の今迄顔を出さなかったのはタルタリヤが押さえ込んでいたからだろう、でなければとっくにフォンテーヌを襲っている。

 

 すると、パイモンが気の沈んだ私たちを気遣い声を上げる。

 

「なら、そいつを倒したら良いんじゃないか!? 今迄どうしようもなかった予言を、なんとか出来るぞ!!」

 

 パイモンや皆の気持ちは分かる、今迄『原因が分からず』対処出来なかった予言を止められると考えたのだろう。でも、そう簡単にいかない。分かっているから、ヌヴィレットは顔色が悪い。

 

「いや、事態はそう簡単にはいかない。奴は、もはや星の胎海そのものと一体化する寸前だろう。仮にテイワットの全てを滅ぼそうとも、奴は悠々と他の星々へ去っていくだけだ」

 

 テイワットの全てを滅ぼす、それをしても勝てない。あれだけの攻撃を受けて生きている存在が神や龍に及ばないにも関わらず殺せないのはそれが理由だ。体力が多過ぎる、などと言うのも生ぬるい。すぐに傷を治し消耗する事なく襲ってくる化け物に勝てるわけがない。

 仮にここにいる旅人やヌヴィレット、ナヴィア達神の目の使い手が居ても不可能である。

 

「つまり、滅ぼされるまでどうしようもないって事?」

 

 皆、黙り込む。原因は分かった、敵は目の前に現れた、あとは倒すだけなのにそれが果てしなく困難なのだ。フォンテーヌ人があの化け物に追い回され、喰われ、逃げても溢れ出た水に溶かされ滅ぶ未来は変えられない。

 

 ただ、旅人はまだ諦めていない。こういった詰んでいる盤面において、数多の手を取れる私がいるから。

 

「バン、君なら!」

 

「ダメだ」

 

 ただ、その私が無理だと分かっているのだ。

 

 私の力はあくまでも『私そのものにかかる異能的な何かを弄れる力』だ。

 その延長線上にある周りを弄れる力はそこまで大きくはならない。マハールッカデヴァータの時は世界樹そのものを壊したわけでも再構築したわけでもないのだ、元々一部に抑えていた彼女の尽力があったから手際良くできたに過ぎない。

 世界樹から汚染を選別し切る事はおろか抑える事すら膨大な時間が必要となる。それでも今回の件よりかは時間さえあれば良いので現実的には可能だった。

 

 あの鯨から胎海のエネルギーを剥離させる、生きている人間からスポイトで一滴ずつ血を抜いていくような途方の無い作業をしながら戦うのだ。それが出来るほど、私は強くはない。

 

 故に、奴を倒すには『神の権能』ぐらいは持っている必要がある。単純な武力もそうだが、奴からあのエネルギーを引き剥がすには今の能力では間に合わない。そのエネルギーを全てぶつけてくれるならカウンターでぶっ飛ばす事は可能だが、それも現実的ではない。

 雷と草の権能は覚えたので使えるものの、水の権能でなければアレを止めるには役に立たない。

 

「奴が陸に上がる寸前なのも、フォンテーヌ人を喰うのも、相性的に私ぐらいしかマトモに戦えないのも分かってる。それでも『人間じゃ勝てない』化け物なんだよ」

 

 ただ、それは予言の問題だ。今は、予言以外の問題もある。

 

「その上で、フリーナを守らなきゃいけない。死刑を防ぐ迄は、絶対に動けない」

 

 フリーナを守れないのだ。死刑を防げるのも恐らく自分だけ、何が起きるか分からない以上は何が来ても対応出来る可能性の高い私が残らねばならない。

 予言は勿論止めるし、相応の無茶をして直々にぶっ飛ばしたいが。

 

「それに分かるだろ、雷神仕込みの全力すら耐えられた。神であっても、星を相手には無謀だ」

 

「星を、相手に……」

 

「無策で行くなら止めるからな、あれと戦うのは馬鹿のする事だ」

 

 規模が大き過ぎた、あの鯨はまさしく星を呑み込む化け物なのだ。草と雷の元素はエーテル無しで使えるが、こっちは体力を削るから無限には戦えない。無限の体力があれば殺せるかもしれないがそんなものは無いし、奴を削り切るのも無謀に思える。つまり、勝てない。

 

 だが、それでも行くとしたら。戦えるとしたら1人だけだ。

 

「────だから、戦える馬鹿の私が行く。これ以上の悲劇を、フォンテーヌには及ばせない」

 

 旅に出てから、いや出る前から覚悟はあった。ただ離れた場所にあって、その道を選ばないことも出来たから後回しにして来た。それに、いつでも引き返せるが進めば戻れない道なのだ。

 

「だめだ」

 

 しかし、そう決意したが旅人はすぐに反対する。しかしフォンテーヌを救う事を考えれば、それ以外の道は無い。だから、私も譲らない。

 

「他に方法はない」

 

「なら、どこまで捨てて勝つ気なの」

 

 やはり旅人の奴は鋭い、私が勝てないと断言する敵に挑む時点で存在の全てを賭けるのはお見通しらしい。

 長い旅をして来たのだ……もう、そろそろ決めるべきだろう。人間を辞める覚悟って奴だ。恐らくそれをしたら死ぬと思っているが、この世界でも十分にやりたい事はして来た。問題はそれをしても勝てるかどうか、勝つまで死なずに済むか、そこはもう気合いしかない。ここにいる皆に、私は死んで欲しくないから。

 ただ、そんな決意を固めていると対面にいるナヴィアさんが目を見開いて詰め寄ってくる。

 

「な、なら私も連れて行って! 何があっても、最後でも、貴方の側が良い! ポワソン町を救ってくれたバンパーさんに、私を救ってくれた貴方に、また1人で、そんなの相手させるなんて私は……!!」

 

 彼女は、色々と湧き立つ思いを持っている心優しい女の子だ。私がフォンテーヌで出会い、ある程度の人間性の形が見えた人だ。彼女はこれから先の人生で恋をして、思い人と結婚をして、苦労をしながらも棘薔薇の会に新しい歴史を刻んでいく。そんな未来が彼女にはある。

 しかし、フォンテーヌを愛する彼女のそれを受け入れる事はない。

 

「皆は自分の居場所を、ナヴィアはポワソン町を守ってよ。

 ……私、ナヴィアには生きていて欲しいからさ」

 

「っっ!! そんな、そんなの……!!」

 

 ナヴィアは私の拒絶に膝から崩れ落ちて両手を顔にやる。人に見せられない顔をしているのだろう、だが情に流されて良い話じゃないのだ。

 テイワットの滅びすら、可能性の浮かぶ相手に勝ちに行かねばならないのだ。勝ち方は分からないし、勝てる可能性は限りなく低い。無駄死に、ワガママな投身自殺、記憶にすら残らない散り際かもしれない。

 だからこそ、そんな死地へ彼女達は連れて行けない。行くなら1人で、そして人に見せられない事をするつもりだ。仮に届かなかったとしても最低限の時間は稼げる、後の事は旅人にでも頼むしかないだろう。

 

「君だけを行かせない、僕達は1人じゃ……っ!?」

 

 ただ、旅人が私を出来るはずもない説得でも試みようとしてきた時だった。青い閃光が瞬き始める、根源は諭示裁定カーディナルだ。

 

「これは……!」

 

「死刑の執行か」

 

 ただでさえ鯨という厄介極まりない化け物を相手にした後だ、それに余力を残しておける状態ではない。フォンテーヌを一撃で滅ぼしかねないエネルギーなど受け止められるわけがない、押し合うのもアホらしいだろう。しかし、それがフリーナに全てと言わずとも向くならば、止めない理由はない。

 

 瞬間、私はそれとフリーナの間に立つ。あのエネルギーから逃がそうと思っていたが間に合いそうにない。一か八か、全てを受け止める覚悟を決めた時だ。

 

『巻き込んでしまったのは、申し訳ないかな』

 

 そんな言葉が、光から聞こえた気がした。

 

 ☆

 

 青い光が瞬き、余りの眩しさに防御の姿勢を取りながらフリーナを庇っていたが来ると予想した衝撃は無い。代わりに、異様な雰囲気が前から感じられる。

 

「やぁ、初めましてだね。バンパー」

 

 光で焼かれた目を開けると、知らない場所にいた。歌劇場のような、舞台上のような、水のギロチンが浮遊する空間の中に。そして、中央には見覚えのある少女がいる。しかし、彼女はそれとは異なるとわかってしまう。

 

「フリーナ……いや、本当のフリーナか?」

 

「本当のフリーナとは、言い得て妙だね。驚いてるけど、君はどうやら僕のような事例を知っているらしい」

 

 しかし、フリーナじゃない。事例と言われたが、何となく『雷電将軍』のようなものを感じだからだろう。あれも、中身を別の場所に置き換えていた。

 つまり、ここは『諭示裁定カーディナルに埋め込まれた彼女の意思と心象風景』と言ったところか。そして、それが誰なのか大凡察せる。

 

「改めて、僕はフォカロルス。人の部分がフリーナなら、僕は神格部分だけの存在さ。彼女には『鏡の中の僕』なんて呼ばれてたけどね」

 

 フリーナと雰囲気は似ているが、神性を感じられるのは魔神だからか。彼女に不老の呪いを与え、守るでもなくここに居座っていた。理由は分からないが、なんらかの意図があっての事だろう。

 ただ、私をここに呼び出したのは分からない。弾く事も出来たが、招待を受け入れたのはその真意を知る為でもある。

 

「君が、フォカロルスか」

 

 気付くと、ヌヴィレットもいた。彼も招待されたのだろう、しかし何故私達だけなのか。私よりも、旅人とかの方が呼ばれそうだが。

 

「ヌヴィレットも、人間の僕の相手は大変だったみたいだね。でも許して欲しいかな、全ては僕の始めた事だからさ」

 

 その言葉に、ヌヴィレットの目は険しい。フォカロルスが信用出来ないというよりは、なぜこんな状況なのかと疑問なのだろう。

 彼女は、恐らくフリーナに『神であるように振る舞え』と指示を出した大元だろう。それをフリーナは健気に500年も守ったわけだ。それは漸く思い至れた、最後のピースだ。

 

「何故、我々を謀った。フォカロルス」

 

「天理を欺くためさ」

 

 フリーナを通して神の存在を隠した、その真意が分からない。それが何なのか私には想像がつかない、更に言うなら彼女のして来た事はフリーナ以外にもある。

 まさしく、私とタルタリヤの事。それは目線で察したのか、彼女は私の方へ顔を向ける。

 

「予言の先延ばしをする為にタルタリヤを利用し、間に合わない時の不幸を防ぐのにバンパーを利用したのも、全て天理を欺き予言を乗り越える為だ」

 

 私とタルタリヤを差し向けたのは、概ね理解出来る。時間稼ぎの為、それを出来るのが偶々私達だった。500年の悲願を叶える為なら躊躇いなく私達を利用出来るだろう。

 

「だって、理不尽だろ。天理には敵いっこない」

 

「私が理不尽に投獄された事については?」

 

「仕方ないよね、君は僕の存在に気付いてたし。バレるわけにはいかなかった、天理はそれだけ恐ろしい」

 

 その仕方ない視点、フォカロルス視点で理不尽なの変わらないね。私は保留にして拘束したの『まさか、過去の淫行がバレてる!?』と思って全力で調べに行ってたからね。機転を効かせたらしいがアレか、フリーナに手を出してたのバレてそうだな。

 

「僕は悩んださ、天理には勝てない。予言は起きる、ならどうするか……悩みに悩み抜いて、考えた。騙してまうしかないってね」

 

 天理、過去に旅人とその妹が相手にした存在、神の上に立つ存在、しかし私の知る事はその程度だ。それがどれだけの力を持つのか、過去のカーンルイアの事件を見た神はよく分かるのだろう。

 だから勝ち方を考えたわけだ、戦っても仕方ないから刑を執行されても無事で済むようにと。

 

「天理を騙すと言うが、結局どうする気だ。君はどうやってフォンテーヌ人を救う」

 

「僕は水神に死刑を下す、そして君に権能を返すつもりさ」

 

 水神、死刑。カーディナルから示されたフリーナへの刑罰だと思っていた、しかしそうではなかったのだと気付く。

 権能とは神の持つ固有の能力であり、一端だとは思うが岩神モラクスならモラを作る能力を持っていたりする。ただ、その全てを『元素龍』が取り戻すとなると話は大きく変わる。

 

「僕は正義の神だ。だからこそ、天理がエゲリアを裁いたように僕が天理を裁いてやりたい。だってそうだろ、エゲリアは原始胎海の力を奪い、天理は君達古龍の力を奪った」

 

 七神の元々の力は、元素龍王から奪ったものだ。草の元素龍王、アペプの力は今のナヒーダへ渡っている。マハールッカデヴァータからはそう聞いた、つまりフォカロルスの力をヌヴィレットに継承する事が可能なのだろう。

 それが、彼女ごと神の椅子を破壊する事で。水神という俗世の七執政の席を消し飛ばす事で。あの浮いているギロチンは、恐らく私が感じていた膨大なエネルギーの塊なのだ。

 

「確かに、フォンテーヌ人は生まれた時から原初の罪を背負っている。ただもう、長い事背負ってきた」

 

 彼女はここでただフリーナの苦悩を見ていたのではない、最初から尻拭いをする為に生きてきたのだ。死ぬ為に生きてきたなど、フリーナを生み出しただけあり心は頑強にも程がある。

 その全てを察したヌヴィレットは、顔色が悪い。

 

「正義の国の最高審判官、ヌヴィレット。全ての元素龍の力を取り戻しキミは、僕たちをどう裁くのかな」

 

「……今にして思えば、最高審判官の地位も君のアイデアだったわけだ。今になって漸く、この立場の本当の意味に気づいた」

 

 元素龍王は、全てを知った上で彼女の意思も分かってしまった。予言と戦い続けたフリーナとフォカロルス、その2人の覚悟と責任を。

 

「今更、人を知った私に有罪など下せないと分かっていて……狡いな、フォカロルス」

 

 ヌヴィレットは、顔を下に向ける。自分を犠牲にする為に500年過ごして来た彼女に、どんな顔を向けたら良いか分からないから。そんな彼に、彼女は寄り添うように手を頬にやる。

 

「水龍──水龍──泣かないで──」

 

 フォンテーヌの民謡、というものか。雨が降るのは水龍が泣いているから、雨が止んで欲しい時に励ます言葉だ。だから、彼女も彼にそう言う。

 

「古龍の大権を取り戻すテイワットの龍王が、そんな顔をするもんじゃないよ。僕は確かに死んじゃうけど、今は天理を騙せて晴々とした気持ちなんだ」

 

 ヌヴィレットに、伝える事は伝えたのだろう。居た堪れない彼から離れ、今度は私の方へ向く。正直、何を話されるのか察しているのもあり居た堪れないのは同じだが。

 

「まさか、私を呼んだのは謝りたいからじゃないんでしょ」

 

「謝罪の気持ちはあるさ、でも君を招いたのは何もしないで欲しいからだよ」

 

 何もしないで欲しい、つまり見殺しにしてくれと頼まれている。そうじゃなかったら、私は彼女が思うような事をそうしている。それを彼女は選ばせない為に呼んだのだ。

 

「せっかく何万年もフォンテーヌで使えるエネルギーを溜めたんだ、天理と似たような存在の君はそれを何とか出来てしまうかもしれない。そんな君でも予言は止められないというのもあるけどね」

 

「……私に、予言が止められたら死ななくて済んだのか」

 

 こうはならなかった可能性はあった、以前のようにマハールッカデヴァータを助けた時と同じ事を、彼女には出来ない。何故なら彼女の死そのものが必要だから。

 恐らく私の力だけで挑んでも鯨を止められない、いや止めている間に多くの人が死んでしまうから。私の無策な突撃では、鯨を殺せてもフォンテーヌは滅びる。

 それにいくら私でも、今すぐに死なさずに神の力だけを引き剥がすなんて芸当は出来ない。神を解体するなんて芸当、出来るなら人間じゃない。

 

「そうかもね、でもそうはならなかった。だから、僕は僕の道を変わらず歩むだけだよ」

 

 半端な希望を抱かせたのも嫌になるし、どう頑張っても私はこの事件でやり遂げられなかった事になる。大多数を救えたとしても、それによる犠牲を許容しろと言われて素直にはなれない。

 ただ、ヌヴィレットの方がその気持ちは大きいのだ。私が騒がないのは彼がいるからである。でなければ、私は駄々を捏ねて彼女の500年の計画を無茶苦茶にしていただろう。

 

「それとフリーナの事、その後の事、僕に出来なかった事を任せて良いかな」

 

「断れないだろ、それ」

 

 このタイミングでよく言う事だ、ヌヴィレットではなく『人』である私に頼むのもいやらしい。私が会ってきた中では、本当に一番ずるい神様だ。

 それで言いたい事を言って満足した彼女は、私からも離れる。

 

「さて、そろそろ時間のようだ。それでも、死ぬのは怖いな……人と神の貴重な共通点だね」

 

 そんな事を言いながら、私達の前に彼女は儚げな笑みを浮かべる。悔いがないとでも言いたいのか、それとも無駄にするなと言っているのか、言われなくてもそうすると。私とヌヴィレットは誓うだろう。

 

「バンパー、その生き方を選んだ君は何処かで『天理』と相対する。かと言って、簡単に死んでフリーナを泣かせないでね」

 

 正直、私はこの場における邪魔者だ。本来ならこの最後の時間、私みたいなイレギュラーが居たせいで呼ばれただけから、もっとこの2人に時間を作れたのかもしれない。

 だから、彼女の最後を無視できない。ここまで来て、邪魔は出来ない。

 

「じゃあね、ヌヴィレット。500年に渡る君の役、気に入って貰えると嬉しいな」

 

 その言葉を最後に、彼女は散った。最後までその顔は、私達に不安を見せないような笑みを浮かべていた。

 

 ☆

 

 諭示裁定カーディナルの放った閃光は、瞬きを与えた程度で消えて行く。しかし、周りでは何かが変わった事はない。ただ光っただけ、少なくとも旅人はそう感じたが。

 

「何だ、今の光」

 

「何か、とてつもない事が起きたような」

 

「死刑が執行されたの? でも、フリーナ様は」

 

 皆、反応は似たようなものだ。しかし、2人だけが違う事に気付く。噛み締めるように言葉を飲み込み、握り拳に力を込めているバンパーとヌヴィレットは違う。

 

「ヌヴィレット、フリーナを頼む」

 

「君1人に背負わせる気は無いが」

 

「水が来るんだ、アンタの方がここの被害は抑えられる」

 

 2人は何かを話し合っている、まるであの2人だけ今の間に段取りを話し合ったかのように。そしてヌヴィレットの静止も気に留めず、彼はそのまま鯨が割ったままの空間の裂け目へ向かう。

 

 まさか、と思い彼を呼び止める。

 

「バン、君は」

 

「死刑は済んだ、後は私がやる」

 

 あの化け物との戦いは皆が見ている。1人で戦って良いやつじゃない、そう止めたいが止められない。何故なら元々彼ぐらいしか戦える条件を満たしていなかったから。

 

「君は1人で行く気か」

 

 だからだろう、恐らくは鯨に力という点で抗えるヌヴィレットは再度呼び止める。

 ただ、彼は手元に何かを遊ばせながらそれを出す。手のひらに収まり、それでいて持っているはずのないものを掲げる。

 

「いいや、フォカロルスと一緒だよ」

 

 言葉が出ない、神の心を持っていたからだ。どこから持って来たのか、誰から貰ったというのか、フォカロルスとはフリーナではない誰かなのか、分からないが彼が本気なのはよく分かった。

 1人で倒しに行くというのも、望んで終わらせる覚悟なのだと。

 

 ただ、ヌヴィレットはそれを見せられて別の顔を見せる。

 

「まさかだとは思うが、君も『授かった』とでも言うのか?」

 

「授かってないよ、本質に触っただけ。たださっきの鯨にも触れたおかげで真に至れたんだと思う」

 

 授かった? また話がややこしくなる、いやそんな話が出る時点で次元の違う話が始まっているのだろう。旅人も女神像から力を授かり5つの元素を扱えるが、彼の言うそれが何か違うものだと感じてしまう。

 

「ならば……持って行くといい、『神』より強くなるのに越したことはあるまい」

 

「貰っとく。使うのは神殺しに足らない、鯨狩りだけど」

 

 だから、なのか。ヌヴィレットは泡のような水の塊をバンパーに託す、ボール遊びが出来そうなサイズの割に見ただけで膨大な量の水元素の力がこもっていたのが分かる。

 

「それと、旅人」

 

「バン、行く気なら」

 

 だがそれでも止めなければならない。1人にはしないし、最後まで負け戦でも戦ってきた仲なのだ。それにナヴィアが彼を想って泣いているのだから、絶対に死なせるわけにはいかない。

 しかし、そんな意思を固めて彼に掴み掛かろうとしたが。

 

「フォンテーヌを頼んだぞ。私、新築の建て直しは嫌だからな」

 

 そんな気持ちは、彼の言葉で霧散した。ナヴィアも声を押し殺してはいたが泣き腫らした顔をあげて彼を見る。そんな彼女へ、彼は先ほどまでの覚悟を決めたような顔をしていない。

 そしてそのまま、彼はこちらを任せて次元の割れ目に飛び降りた。あの化け物と戦いに、フォンテーヌの滅びを止めに行くために。

 死ぬ気など毛頭ない、そんな似合わない顔をしていた

 

 ☆

 

 星を呑む怪物は、空を泳ぐ。悠々と、先程迄の激闘で負った傷など治しきり、また地上に出る機会を伺っている。

 幾度となく戦い続けた漆黒の騎士(タルタリヤ)は倒れ、ここに邪魔をするものは居ない。

 

 地上で食事の邪魔をされたものの、別に脅威では無かった。あの水の使い手(ヌヴィレット)も、雷の斬撃を放つ者(バンパー)も、どれだけ喰らっても死ぬことはない。力尽きるまで付き合えるし、その分だけ後で食事をしたら良い話でもある。

 

 かの者の手を離れ、自己の赴くままに生きるそれはテイワットと言う世界に食指を動かす。体動したうねりが世界に響き、テイワットを滅ぼしかねない災厄の獣として地上へ向かう。

 

 直ぐにでも地上へ浮上し、またあの水を取り込みたいと。この星を呑みこまんと、また世界を破ろうとした。

 

「もうこっちには行けない、お前の世界じゃない。暴食の権化、呑星の鯨」

 

 そんな時に割られた次元の狭間より、雷撃が落とされた。紫電の一撃、先に経験したものの何倍にも感じられたそれは鯨を貫いた。しかし、それでもテイワットと一体化するような鯨への致命傷には程遠い。落着はすれど、直ぐにその落雷の根源へと角を光らせ力を放つ。

 

『ぶおおおおおおおおおお!!』

 

 青白い極光が集中し、その根本を穿った。だが、それは貫き通すまでには至らない。

 鯨は少しだけ、厄介なのが現れたと思っただろう。ただし、直ぐにでも食事に向かいたい気持ちを邪魔する程度のもの。自身の障害とは考えていない、だからこそ威嚇しそこをどけと叫ぶが。

 

「テイワットに来たのは間違いだったな、私の後には旅人とヌヴィレットが控えてる。かと言って、そっちに任せる事はないけど」

 

 降臨者、バンパーにはそれを受ける気は無論ない。見下ろす眼光は確実に鯨を滅ぼすという意志を宿し、世界の全てを相手取ろうと構わないと言った覚悟が見える。

 しかし、鯨は怯まない。だから何だと言った様子だ。知性があるわけではないが、そもそも自分は倒されないだけの圧倒的な存在としての格があるという認識はしているのだ。負けるわけがない、だから彼すら呑み込もうと飛び込む。

 

「お前のせいで、私はフォカロルスを見殺しにさせられたんだ」

 

 しかし、彼はいつの間にか目の前から消えて腹の下辺りから声が聞こえる。

 ただ、それだけだ。避けられただけならまた襲えば良いと、体制を立て直そうと考えた瞬間。

 

「全部吐き出せ」

 

『ぶおおおっ!?!?』

 

 鯨の体が跳ねた。体をくの字に曲げ、勢い良く浮き上がり、やがて宙へ停滞する。何が起きたのか、恐らくは体の中を液体が貫き自身の力ごと穿ったのだ。しかし、鯨にはそんな思考はなく悲鳴を上げることしか出来ない。

 同時に、吐き出された水が辺りにこぼれ落ちていく。そして重力へ引かれるがまま、彼の元へと落ちて行く。

 鯨は動けない、一度に大量の力を失わされたから。そのダメージが予想よりも遥かに大きかったから、そして世界がここまで牙を向くとは思わなかったから。

 

「ところで、テイワットに来たからには元素って摩訶不思議パワーも取り込むんだよな」

 

 下から生やされた草木のエネルギーが鯨を貫き、紫電が体を駆け巡る。先程迄はなんともなかった攻撃、そのダメージが動きを鈍らせる。そんな鯨に、彼の声は届かない。

 

「なら、鯨」

 

 だが、また宙へ投げられた鯨へ彼は敢えて投げかける。

 

「『超開花』って知ってるか?」

 

 眼下を埋め尽くす程の緑の魔弾、雷を走らせたその射出と共に。鯨はここまで来ても察する事も無いが、目の前のそれはどれだけ異常な存在かは分かっていないだろう。分かっていれば、こんな星には来ていない。

 そこに居るのは三元素を司る人間とは言い難い力を得てしまった、最も人から遠い人間だと。

 

 ☆

 

 私は漸く、鯨退治を終えて歌劇場に戻った。ヌヴィレットが居るのは分かっていたし、ここの空間がまだ割れていたら直す必要もあったからだ。

 鯨の影響は大き過ぎる、ただそれを私が1人で挑んだのは我儘な部分が多い。落とし前をつけさせたかったのもあるが、何かまた司っちゃったようだ。メッシュの色が変わって少し光るのは本当に魔神にかなり近づいたからか、暫くは無茶は控えた方が良さそうである。

 

「外、かなり荒れてるのね。こっちはマシみたいだけど」

 

 話は戻り、戻ってきたわけだが中はそこそこ綺麗だ。ヌヴィレットが結界でも張ったのだろう、しかしそれ以外は水の爪痕が残っている。

 水がフォンテーヌ全体を飲み込んだ事は分かっている。あの空間で大量の水元素が放たれた事でその影響は現世に大きく響いた、本来ならそれでフォンテーヌ人は絶滅していただろう。予言の筋書きはそんな終わりだったのだ。しかし、一つ結末が異なるところはある。

 

「疲労は見えるが、無傷とはな。流石といったところか」

 

「まぁね、神の心も返しきますよ」

 

 目の前に現れた水龍が、人が溶けるという問題を解決している。フォンテーヌ人は全員、完全な人間となっている。もう原始胎海の水が降りかかろうと問題無い、だから絶滅はしなかった。

 それはそれとして水が吹き出した影響は大きそうなので、復興なんかは大変だろう。木々は倒れ、街は一時水没、建物は壊れて窓は割れてないものを探すほうが難しい。むしろ、話を聞くに死人が出なかったと言うのが奇跡だろう。それだけ、予言に対して準備をしていたのがフォンテーヌ、ひいては民達の尽力のおかげか。

 今回はフリーナとフォカロルスの勝利であり、フォンテーヌの勝利でもあった。私のした鯨の討伐など、些細なものだっただろう。

 

「どうかしたのか」

 

 ただ、私が気にしているのはその後の事じゃない。鯨をしばいた後に起きた事だ、神の心は諸事情あって借りさせてもらったが、それが如何にファデュイの求めるヤバいものかが分かった気がする。

 

「いや、それが『降臨者の遺骨』なんて言われたから、物騒な物だなと」

 

「降臨者?」

 

「私や旅人みたいな外から来た人の事、天理もその1人らしいね」

 

 鯨がヤバいとは思っていたけど、実際は私以外でもやろうと思えば倒せる敵だったので消化不良な部分もある。溜まりに溜まったフラストレーションをぶつけるつもりだったが、回復を防げばあっさりと勝てた。途中からサンドバッグにして時間をかけ過ぎたので、それが無ければ体力も7割は残っていたと思う。

 ただ、今は天理とやらの事が頭から離れない。

 

「遺骨と言ったが、誰がそんな事を?」

 

「向こうの世界で会ったスカークと名乗るタルタリヤの知り合い、今回の鯨をペットにするような奴の弟子だと」

 

 テイワットの裏側の世界にいた存在、スカークと名乗る彼女は何者かは分からないが底が知れなかった。

 それに、そのペットの管理者も名前だけは聞いたことのある人だった。

 世界の裏側の事や天理の事など関わりたくないのが本音ではあるものの、今回のようにナヴィアやフリーナのように運命に抗う女の子が危ない目に遭う事は起きるだろう。

 その時は、あの悲劇そのものを止めたい。その果てに天理がいるなら、フォカロルスの言う通りのことにはなりそうだ。仕方ないので旅人あたりをしっかり巻き込もうと思う。

 

「そうか、分かった」

 

 ヌヴィレットはそれだけ言うと、神の心を懐に仕舞い込む。今のこの国の完全な支配者となったのが彼だ、それも法と権力の全てが集まっている存在。しかし、彼が人を迫害する事など起きはしない。新しい神のような存在として、フォンテーヌを守ってくれるだろう。

 

「バンパー、君には多大な恩を受けてしまった。礼を言う、感謝している」

 

「どーも、今後は私への期待は程々に。心配事なら旅人が何かやってくれますから」

 

 私は今回に限っては自分から厄介方に顔を突っ込んだが、他に対応できる人がいるなら任せたいのが本音だ。目の前の水龍も水を司って最強の1人になったので私が意欲的に動かない限りは動かないだろう。

 そんな事を適当に伝えていると、人の気配を感じた。さっきまで鯨と戦っていたせいか感覚が鋭くなっている気がする、ただ疲労感で今はまともに力は使えないが。司った系の力は単純に私の体力に依存する、それを考えると敵から力を奪い取る戦い方は今後も変わらないだろう。

 

 そんな考えをしていると、こちらから顔を出すまでもなく彼女がやって来る。

 

「あ、あの……バンパー、その、えっと……」

 

 フリーナだ、律儀に待ってくれていたらしい。様子を見るにフォカロルスの事はヌヴィレットが粗方伝えているようだ。泣き腫らしたのか目元が赤いが、どこか晴々とした顔をしている。

 どこかオドオドとし、言いたい事を言えないような雰囲気を感じられる。色々と抱え込んでいたのだ、神を演じるという秘密も今は話せるおかげで心労の限界を迎えていたのだろう。

 ただ、私は彼女に丁度用事があったのでそのまま近づいて抱き寄せる。

 

「バ、ババ!? バ、バン!?」

 

 柔らかい感触、あの夜に散々抱きしめて何なら足で持ち上げた華奢な体をもう一度感じる。まぁその、今回の鯨討伐のご褒美という意味もあるが私としてはやり残した事があるので抱きしめるのは仕方ないのだ。

 

「お疲れ様、お互い休んだらまた話そう」

 

「ふ、ふぁい……!?」

 

 彼女に気付かれないようにしつつも『彼女へ彼女』を戻しておき、私は離れる。なんか最初に会った時と反応がかなり違うが、打ち解けたら反応も変わるのだろう。

 熱っぽい視線を感じる。しかし、これで顔を赤くして私に抱きつかれて放心しているからと言って『もしかして、ワンチャンある?』とか思う奴は童貞だ。女の子がそう簡単にほれるわけないから恐らく違うだろう。

 これは少なからず英雄ムーブをしたことによる憧憬の視線に違いない。そもそも私はイケメンじゃないし、旅人辺りにそのうち惚れるだろう。

 

「バンパー、そろそろ良いか」

 

 そんな仕事をやり切った私は肩の力が抜けている。脱力しつつもヌヴィレットに呼ばれ振り返るが、気付くと後ろから更に人の気配を感じる。後処理の為に報告に来た部下だろうか、彼も時間が無いのに律儀に私に応対させるのも面倒かもしれない。

 

「まだ何か……ん? ああ、そう言う」

 

 なのでさっさと切り上げようと思ったが、彼から両手が前に出される。握手のつもりなのだろう、今回の件で信頼してくれたらしい。普通は片手だが両手なのはこの国では当たり前なのか彼なりのやり方なのか、分からないが郷に入っては郷に従えと言うし両手を私も差し出して彼と確かな握手をする。

 

「何か、気恥ずかしいような……」

 

 人と友好の意味で握手するなんて久しぶりだ、こういった形では初めてかもしれない。フリーナの為に頑張ったが、こういう事が人を助ける事の生き甲斐になるんだろう。釣り合わないが、それで良いのが人なのかもしれない。そんなことを思いながらそのまま手を握り合っていると。

 

「ん?」

 

 握手に誰かが割り込んだ。長くし過ぎたかと思ったが割り込むのはおかしいだろ、そう思い怪訝さを隠しながらも隣を見るが居るのは少し前に見慣れた……何故か、地上ではあまり見ることの少ない人たちがいる。

 

「んん?」

 

 瞬間、違和感が腕に宿る。

 

「君を『メロピデ要塞脱獄の罪』で収監する」

 

 違和感があり、なんだろうと思い持ち上げてみると両手が金属の輪っかと鎖で繋がっている。

 

「……収監?」

 

 手錠だ、見紛う事なき手錠だ。しかし状況としてあり得ないので、一度目を瞑り落ち着いてから見てみる。

 

「いやいや……んんん?」

 

 手錠だった。

 

 感触も何もかもが手錠だ、おもちゃ特有の脆さのない本物の奴だ。今の疲労感では普通に壊せないぐらいにはしっかりしたマジもんだった。何なら両隣にいる人達には見覚えがある、メリュジーヌも含めて私が牢獄にぶち込まれていた時に働いていた人達、つまるところメロピデ要塞の看守さんである。

 

「規則だ、受け入れてくれ」

 

「受け入れるわけなくない?」

 

 つまり、あれかな。まだ牢屋入ってるんだから勝手に脱獄したらダメでしょってこと? 貴方みたいなの許すと面倒だから例外を作りたくないし、大人しく独房で1人寂しく己を慰めてろってこと? 

 

「え、うわぁ……この規則ドラゴンまじ? これが大一番乗り越えた私への仕打ち?」

 

 こいつがトップで良いのか、新しいフォンテーヌの門出に不安を感じるのであった。

 

 ☆

 

 納得いっていなさそうだが『まじかぁ、まじなのかぁ……まじなんだなぁ』とボヤきながらバンパーは去って行く。あまりにあまりな対応だったが、一応はフォンテーヌを救った英雄への仕打ちには心無いものだろう。

 

「ちょ、ちょっとヌヴィレット!?」

 

 フリーナはもう水神を演じる必要も無くなりヌヴィレットの上司ではない、それは先程放棄すると話をしたばかりなのだ。だからと言ってこの扱いには救われた彼女としては非難するが、ヌヴィレットもそう言われるのは分かっていたので用意していたであろう言葉を向ける。

 

「彼は一時的に保護する。これから正式に魔神として、三代目水神の名を受け継いで貰うにも時間は欲しい」

 

「はぇ?」

 

 水神、三代目、突然の決定事項が告げられフリーナは理解が遅れる。色々と思うところはあるが、そもそもの前提部分でつまづいている。

 フォンテーヌの水神は死んでしまった。文字通り『俗世の七執政』から席が一つ消えたのだ、つまり水神と言う存在は形だけであったフリーナを最期に存在する事は無くなる。

 だが、それもヌヴィレットは分かっている。

 

「今のフォンテーヌから、神座は消えた。かと言って、神まで消すのは時期尚早だろう。璃月の前例はあれど、他国との関係にも名前が必要だ」

 

 神が居なくなると言うのは、問題がいくらかある。特に他の国に神が存在しながら特定の国に存在しないというのは、内外で安定感を失うのだ。

 国内は心の拠り所を失い、尚且つ絶対的な人ならざる散々の力を頼れなくなるのは予言での民の荒れ方を見れば縋っていたのが分かる。

 対して他国からしてみれば、神の居ない国というだけで軽視する輩は現れるだろう。それが夜盗と言った犯罪者だけで済まず、国の舵取りに影響を及ぼす上層部に存在すればフォンテーヌに対して強気の外交を迫る可能性は高い。

 

 ならばヌヴィレットが元素龍王などと言う神どころかそれを上回れる存在と流布すれば問題は無いと言いたいが、それはそれで神を超える存在は外側からの影響は十分に大きくなる。警戒度が高まる事は円滑な交友関係を築き辛くなるだろう。

 

 やはり、それらを加味するならば神の席を偽りで用意出来れば用意した方が良いのである。仮に外に出ようとも、不在の間はヌヴィレットが国を預かれば良い。名前が残るので、彼の身動きが取れなくなる事態はそう大きくならないだろう。

 

「それに、私1人に全てが集中する事情も避けれるならば避けておいた方が良いだろう。仮初であっても、摩擦は起きづらい筈だ」

 

 色々と考えはあるが、やはり神を立てておいた方が今後の為になると判断した。バンパーにはその名前を貸してもらうだけであり、その実力はフリーナの時と異なり神に匹敵するので問題無い。

 それに、これは他の誰かではなく彼にしか務まらない。それだけ彼は目立った上で多くの事をした。

 

「彼ならば、皆納得する。大目立ちをした彼が先代の神、エゲリアでは無いかと疑う者も多い。正式な発表は出所後となるが、既に候補者を擁立したと通達したところだ。予言後の皆の意識も前向きにもなるだろう」

 

 フリーナの退陣と同時に三代目の就任、暗いニュースからの明るいニュースは被災したばかりの民の心を支えてくれるだろう。それも候補者が既にいるとなると誰がなるのかと予想されてくる。そして、その予想も恐らくは彼の名前に至るとも。もはや、彼以外の該当者など居ないのだ。

 フリーナとしても、彼が神になるというなら疑わないだろう。現にそれだけのことをして、彼女もどこか望んでしまう気持ちがあるのだから。ただ、それを踏まえても気にかかる事がある。

 

「それ、勝手にして良いの?」

 

 今の話、恐らくバンパーは把握していないのだ。あの連行される姿を見るにまた脱獄はしないとは思うが、まさか出たら神様になるとは思っていないだろう。

 そう、気不味そうにヌヴィレットを見るが。

 

「彼はフォカロルスから後の事を任される事を了承している、分かっていることだろう」

 

「(わかってないんじゃないかなぁ)」

 

 ただヌヴィレットがもうそこまで動いているのでフリーナは肩を落として聞くことは辞めにする。もう神を演じ終えたのだ、これからはただのフリーナとして生きて行く彼女にはフォンテーヌの行政に関われない。そもそも今のフォンテーヌの事実上のトップはヌヴィレットなのだから、その彼の決定は背負わせる側としては覆すのは失礼と思ったからだろう。

 

「もういいよ、とりあえず僕は神様辞めてあっちも出て行くから。荷物をまとめて来るよ」

 

「家はこちらで用意しよう、君も新しい生活に苦労はあるだろう」

 

「えーと、それは助かるけど……」

 

 フリーナはもう神ではないので住む場所を探さなければならない。無論人と変わらず、家を借りて暮らすことになる。最初のうちは報奨金なんかで過ごせるだろうが、いずれは働いてモラを稼ぐ必要もあるだろう。

 ちなみに報奨金は膨大な金額を提示されたが復興支援に当てて欲しいと断ったので一般的な社会人1カ月分のお給料程度しか貰ってない。ただそれでは働かないで過ごせても2ヶ月が限界だろう。敷金なんかも考えてしまうと一月も怪しい。

 ただ、今からフリーナはやっと自分の人生を歩めるのだ。自分の為の人生を、なら少しぐらい迷いながら家探しも自分でしようかなと考えていると。

 

「ヌヴィレット様、フリーナ様。入っても大丈夫ですか?」

 

 声の後にノック音が響く、ヌヴィレットはそれに「入って構わない」と伝えると中にメリュジーヌが入ってくる。その格好はメロピデ要塞の看守を行う者のものであり、本来なら地上ではあまり見ないだろう。先程はバンパーが連れて行かれたそれが珍しい事なのだが、それで何かあったのだろうか。

 

「失礼致します。フリーナ様、バンパー様よりこちらを」

 

「へ?」

 

 何か忘れ物か伝え忘れた事でもあったのかと思ったが、フリーナへ手を向けられてしまい、慌てて差し出されたそれを受け取る。

 銀色に光るのでモラではない、しかし金属質で掌に容易に収まるような何かと思い目を向ける。そしてつまみ上げて持ち上げる。

 

「あれ、あの、これ?」

 

 それは、鍵だった。それも複数、しかしマスターキーらしきものと他の部屋鍵用と見受けられたものも含んだ束とまではいかない数のもの。何でこんなものを、その疑問はメリュジーヌは答える。

 

「約束通りに責任は取るから、そこを自由にして良いとの事です! 預言に備えてたから窓も割れてないんですって!」

 

「…………え、あ」

 

 自由にして良い、そう言って渡されたものが恐らくは彼の自宅の鍵。そして責任という言葉が乗るとなれば、涙で水を流し尽くした筈のフリーナの顔から汗がダラダラと流れ始める。

 メリュジーヌはさっさと役目を果たしたとばかりに去って行くが、対して彼女は微動だにせず手元にあるそれに顔が固まっている。

 どこをどう見ても鍵であり、本来なら深い関係のある友人でも渡し辛いものだろう。ならば、彼女へ預けるに足りる可能性の高い答えは何なのか。彼女は思い当たってしまった可能性により、鍵を見つめたまま停止している。

 

「フリーナ?」

 

「……ひゃ、ひゃい」

 

 見かねたヌヴィレットの声かけも、目を右往左往させながらグルグルと回した彼女には届いているかは怪しい。

 この日、フリーナは若干の葛藤はあったものの荷物を纏めて受け取ったソレを無碍には出来ず預かる事となった。

 なお、家の鍵を渡しながら責任取るなどと言っておきながらも、出所後にいつも通り様々な女性に手を出しては傷物にする、罪深い男が色々な意味で断罪されるのは『水神疑惑弾劾裁判』が開かれる時を待つ事になる。





召使に襲われて死ぬかもと思った時に助けに来て、裁判で秘密が暴かれそうになったのにフォンテーヌ全てを敵に回してでも都合良く助けに来て、死ぬ覚悟を決めて眠りにつくが起きたら予言そのものが何とかされてしまい、最後は責任を取るとか言われて自宅の鍵を受け取ったフリーナ様の心境や如何に。

それはそれとして、
フォンテーヌでこの男には修羅場(死んで)もらいましょう。
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