※この作品はR-18です。

私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!!   作:札幌ポテト

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当社比長めです。

胡桃回

最推しです(アジア1位)


往生堂の堂主を持ち帰った話☆

 

 私こと、バンパーが璃月を活動の拠点の一つにしていたのは昔の事だ。今はモンドの方すら顔を出す事は少なくなっている。

 しかし、璃月ではそれなりに顔は浅く広いので知り合いが多い。そしてこの時は璃月で最も私が信頼している存在から、ある意味では大物の中の大物から呼ばれていた。

 

 名前を鍾離、本来の名前は岩神モラクス。彼は現在死んだ事になり隠居している神の1人であり、私が勘違いして差し違えようとした過去のある存在だ。その実力は未知数であり、私のよく使う『磐岩結緑』は元は古の時代から使われた彼の物だったりする。

 

 そんな超大物から呼ばれたので、少し気を引き締めて向かったのは彼の現在身を寄せている『往生堂』であったのだが。

 

「……鍾離先生?ハメたね?」

 

 視線を向けると惚けてないとでも言うような凛々しい顔で微笑んでくる。高々6000年以上生きてるだけの最古の神め、逆らえないんで嫌味しか言えねえ。

 

 仕方ないので前を向く、現実と対面だ。そこには黒と赤が印象的な1人の少女がいる。

 

「へー!君がかの渦の魔神(おおうなぎ)を1人で退けた男の子かぁ!いやー、将来有望だねぇ!」

 

「何で知ってるんですか?」

 

「この若さでそれとは恐れ入るよ、実は仙人だったりする?降魔大聖のお友達だったら今度紹介してよー!」

 

 聞いてないし、私がオセルぶっ飛ばしたの疑ってないし。何なのだこの会話のキャッチボールでボールを乱射してくる子は、変化球多くて補給難しいしボール持ち過ぎてどの会話返したら良いかわからない。

 そして、そんな変わり者で『おもしれー女』してくる存在に残念ながら心当たりがある。

 

「もしかしなくても」

 

 この距離感振り回してるのが往生堂の……?

 

「察しが良い。彼女が往生堂 七十七代目堂主だ」

 

「おっと、自己紹介してなかったね♪胡桃(フータオ)だよ、よろしく〜♪」

 

 鍾離の解答と彼女の紹介で確信する、この岩神絶対ワザとだと。

 ちなみに今の今まで彼女と関わって来てないのは意図してこの場所を避けていたからだ、私のような厄介者体質の人間が葬儀屋と関わるとか悪夢しか起きないだろう。

 あと目の前の子で悪評ばかり耳にするから、葬儀屋がセールスマンしてんじゃねぇよ。

 

 だから来たくなかったのだが、鍾離に『急を要する可能性がある』とか言われたら行くしかないんだよな……割と覚悟してたのに、このやり場の無い意思はどうしろと?

 この日は甘雨にエッチなマッサージ(3回目)でもして発散する事にした。

 

「ねぇねぇねぇ、魔神本体を祓うんなら邪気もお手のものって感じ?今からでも往生堂にどう?入会特典もいっぱい!死んじゃった時に手厚く葬るオプションあるよ!」

 

 とりあえず、知り合ってしまったので仕方ない。おもしれー男判定されると付き纏われて……魔神倒してる時点で判定決まってるかもしれん、目が凄いもん、逃げれないかもしれない。

 

 鍾離も考えたものだ、私が茶を飲みに来ない理由が噂じゃヤベー奴と耳にする彼女と関わりたくないからと察し、逆を会わせて顔見知りにさせる事で気軽に茶飲みに来させる腹詰まりなのだろう。

 

 触らぬ神に祟りなしなのだ、今後呼ばれても行かないからと目を向けると────。

 

「……ちなみに、どんな感じに?」

 

「剣を墓にブッ刺すオプションとかどう?男の子的には嬉しいんでしょ?」

 

「死者にトドメ刺すのが仕事だっけ?」

 

「あはは!確かに生き返っちゃ不味いしそうとも言えるね!」

 

「否定してくれ」

 

「あー、胡乱な顔してるなぁ!あたしはこう見えてしっかり者の上司になれると思うんだけど!ね、鍾離先生!」

 

 彼女が振り返る、そこには鍾離は居ない。その隙に私も同様に姿を移す。目配せされていたので外に出たがあのままだと倫理観とか歪まされそうだからね、真っ当な人間なのだ。

 

「あー!2人ともどこー!仙人みたいに消えたら面白くないよー!」と中からは聞こえるが、最後に「ぶー、つまんなーい」と言って落ち着いてくれたようだ。それを彼も耳にして一息つくと、人気の無い場所で彼は私に目を合わせれる。

 

「君から見てどうだ。胡堂主は天真爛漫で芯のある者だろう?」

 

 あれを天真爛漫だけで片付けるのか、中々だなと思う。年相応な可愛げだとは思うが、それはあくまでも六千歳のお爺ちゃんの視点だろう。

 

「天真爛漫なだけの女の子なら、私だって距離取らないですよ」

 

 私にとっての彼女は『普通の女の子』では無い。

 

「葬儀屋でありながら、魔神の残滓を祓ってきた継承者……でしたっけ?」

 

「概ね、その認識で良いだろう。生と死の境界の保守、そして居るべき場所へ導き弔う、それが璃月における往生堂の理念だ」

 

 鍾離も分かっててここにいるのかもしれないが、何故私に会わせたのか。私は彼女と違い『何も背負わない人生』を歩みながら『人を辞めかけている』人間という、彼女とは対極にいる奴だ。

 人に疎まれているが、葬儀屋が人に疎まれているのは不幸に対した仕事故であり、死は忌み嫌われるのが世の常である。そんな中で、あの若さで、璃月の歴史と責任を背負っている偏屈な奴だと思っていたが。

 

「そんな重荷、何であんな女の子が背負わされてるんですか」

 

「俺はそこについて詳しく知っているが、俺の口から言うべきではないだろう」

 

 つまり簡単には言えないような過去がある、そう聞くと溜め息が出てくる。この世界の好きな所は色々とあるが、嫌なところもそこそこある。特に嫌なのが彼女のタイプ。

 

 彼女達はたった一つの宿命以外の道を信じずに歩いてしまう。他に道があると知っても、その道を見て見ぬふりをする。自分以外に歩けない道だからと、自分以外は歩かせたくない道だからと。

 そういう子達は決まって覚悟で進んで見送る事しか出来ないのに、帰って来なくなる。フォンテーヌの神であったフォカロルスや、スメールの神であったマハールッカデヴァータがそうであったように。

 彼女は、その類の覚悟がある側の人間なのが分かってしまう。あの性格と根の明るさで、裏側にある物を隠して消えちゃう奴だ。

 

「……それで、茶をしばく以外に私を呼んだのって理由あるんですよね?」

 

 分かっていて聞くが、鍾離は私に彼女を引き合わせたかったのだろう。あの子を見てどうするかは問わないが、どう捉えるかを考えて欲しかったのだ。まるで神様になる前の試験のような、不正解はあっても正解は無いから嫌いな類の奴。

 ただ、そんな彼の口からも一応彼女への答え合わせも兼ねて答えを聞く事にした。それでも私は、私のままに生きるが、貴方はどうなのかと。

 

「なに、見合い相手に良いかと思ってな」

 

 ………………。

 

「……見合いって、見合い?」

 

「見合いだ」

 

「……え?」

 

 私が、見合いの候補者?

 

 私は私を絶対に推薦しないのに?何ならジンやエウルアに『何か貴族のツテで良い感じの女の子紹介してください』って土下座したら『お前だけは絶対に無理』とか言われて泣いちゃったのを思い出す、12歳の時にした我儘なのに酷いよね。

 それでも私を抱きしめてくれたのはバーバラだけだよ、だって『いつかバンの事が好きで可愛くて、えっと、何でもしてあげる女の子紹介するね♪』と言ってくれたし。私好みのエッチなことが好きな子に出会えるか楽しみである。

 

 それはそれとして、鍾離から見合いの話は何なのか。アンタあの堂主のお父さんか何かか?

 

「胡堂主も『うーん、次代の堂主は鍾離先生にするか私の子供に継いでもらう方が良いか……いやぁ、悩ましいねぇ!』と陽気に話していたからな、少しお節介をかけさせてもらっただけだ」

 

「彼女より何もかもで好みの子を探すんで、大丈夫です」

 

 それなりに私は真剣に考えたつもりだったが、間違いだったかもしれない。彼女の境遇とか意思とか岩神の気遣いとか考えたのに答えがこれはダメだろ。あと担ぎ上げられない為の保険なの見え透いてるからな。

 

「彼女となら波瀾万丈とはなるものの、退屈しない人生を歩めると思うのだが」

 

「尚断る」

 

 アピールポイントみたいに言われたが、私の波乱と彼女の波乱でとんでもない渦潮が産まれてその渦中に居る未来が見えたので断った。彼女との出会いは、そんなものであった。

 

 ☆

 

 璃月には、割と思い出がある。その中でも海灯祭は璃月の祝祭なので印象深く、普通に楽しんでいた記憶も多い。

 ちなみに楽しくないとは言わないがヤベー思い出も多い、裏で港襲おうとしてた鰻をこっそり始末したのは内緒である。申鶴から逃げて慎ましく深海にでも居れば良いものを、何がオセルの従者だぶっ○すぞ。ぶっ○してたわ。

 

 ただ、今年も来たのは色々と理由がある。海灯祭当日よりは早入りしており、現在最低でも肉体関係があるとバレてる7人と会うと牢獄に繋がれて最終的に女の子にされる手術をされかねないので潜伏している。リスクを冒してでも来る覚悟があるのだ。

 

 それもこれも、旅人のせいだ。あいつが居なかったせいでフォンテーヌにおける事件やら何やらを私が対処せざるを得なかったのだ。何が魂を石像に移すだ、人乗っ取るなや、魂さえ無事ならセーフみたいな顔すんな、人類補完計画じゃねぇんだぞ(2回目)。

 

 よって、これ以上は私の心身に影響を及ぼすので何としても捕まえてフォンテーヌに連れ戻すのが今回の目的である。

 私のせいで居なくなった割合も半分ぐらいはあるかもしれないが半分ならセーフだろう、申鶴がどれだけ本気かは『師匠に紹介して契りを交わして来る』とか言っていたのでお察しである。

 

 何児のパパにされるのか、そもそもあいつ五体満足で歩けてるのだろうか、干からびてたら湯にでも浸して戻してやるかと思っていると。

 

「おぉ、バンじゃん!久しぶりの邂逅だねぇ!」

 

「げっ……」

 

 知り合いが居た、割と関わってこなかった知人の知人がいる。

 

「胡乱な顔で見ないでよ、いくら私と1文字合っててもその顔は許してあげないよ!」

 

 胡桃だ。歳の割にしっかり者だったりおちゃらけていたり、人生楽しんでる奴だ。その点で言えばシンパシーを感じるが、その裏に背負うのは色々と重たい子でもある。

 

「はいはい、次回は2文字合うよう桃でも持ってくるよ」

 

「おぉ、縁起物だねぇ。頼もうかな!」

 

「ヨモツヘグリって知ってるよな?嫌味で言ったんだが?」

 

「そんなぁ、あの世もこの世もひっくるめても知的で美人だなんてお上手なんだからぁ♪」

 

「言ってないよ」

 

 ちなむと、私は胡桃を口説いた事はない。見かけは美少女だし可愛らしさもあるが、タイプじゃないのだろう。

 押し倒しても『ふーん……アナタってそう言う人なんだ、最低だね』と反応され、無反応で情事を終えてしまい何の興奮も出来ないからだろう。私が押し倒すのは恥じらったり何やかんやえっちな事に興味がある子だけであり、彼女のような子には心と体に傷を残すだけになるから食指が伸びない。

 あと胸が平べったいんだもん、男の子はふわふわしたものに顔を埋めたい生物なのだ。あと最終的に気持ち良くなっちゃって自分から嫌々でも体が欲しがって動いちゃう刻晴タイプが1番美味しいと思ってる。

 

「まぁまぁ、立ち話もなんだし上がってきなよ!今なら美人が酌してあげるよぉ!」

 

「世の中何で中身がアレなやつほど顔が良いんだ?」

 

 仕方ないので往生堂に入る。往来で彼女は目立つので隣に居る私までバレたらやばい。1人ぐらいなら丸め込めるが3人以上は詰む。鍾離は居ないみたいだが、それはそれで気安く入れる。

 

「でも珍しいねー、最近は璃月に顔出してなかったのに。海灯祭へ来るにしてもかなり早入りしてるし」

 

「……まぁ、諸事情で」

 

「うーん、そっか。ちなみに旅人は見てないよ!」

 

 お茶の入ったお椀を貰おうとしたが、少し受け取る手を止まる。ただ動揺を押し殺してそのまま受け取る。熱い茶なのだが一息で飲み込む、頭に手をやりどうしたものかなぁと彼女を見る。

 

「何でわかったか、聞いても?」

 

「そりゃ、いつも旅人を先に見掛けるのに居ないからかなぁ?なら逆説的に旅人探してるのかなって思ったら当たりだったねぇ♪」

 

「……これ相手に鍾離もよく隠せてんなぁ」

 

 彼女を岩神が気に入るのも分かる、直感の後付けを理論で舗装出来る子は中々いない、彼女は肩書きに恥じない堂主だ。ただ彼女という人間の周りには人が多くいるわけじゃない、さっきの往来での会話も胡桃が目立っていたのは有名人ではあるものの、雲菫のような目立ち方じゃないところがあるからだろう。

 

「なぁ胡桃、聞きたいんだが」

 

「鍾離先生の事?いやー、私も実は結構な偉人の家系だと睨んでるんだけどねぇ、バンこそ知らないの?」

 

「……いや、楽しそうなら良いよ」

 

 聞きたかったのは鍾離の事ではなく、彼女自身のことなのだがそれは分かった上で流したのだろう。そういう頭の悪そうなフリをした会話の流し方をどこで覚えたのか、理知的な彼女の友人幾人かの心労が伺える。

 

「君って会った時から不思議な人だよね、どんどん浮世離れしてる。そのまま浮いて空まで飛んじゃったら、空のお島にしか行けないよ?」

 

 逆にこっちを気にする始末、彼女は人が好きなのが分かる。問題があるとすれば何で言ってないのに察してくるのかだが、7つの内3つも司ったらバレるのだろうか。

 

「胡桃は、あの島に手が届くとしたら手を伸ばすか?」

 

「えー、私は皆んなで楽しく往生出来たら充分かなぁ。七七ちゃん埋める場所もアソコには無さそうだしねぇ」

 

「何か、全然想像してた答えじゃないけど……まぁ、行かなくて良いよな」

 

 私としても行きたくはないが、何となく勘が言うのだ。遠くない未来に、あの島に行くと。それも1人ではなく旅人もいるような気がしてならない。これ以上強くならないといけないかもしれないと思うのは、天理とやらにカーンルイアのような事をされたくないからだろう。

 

「ふーん……これ以上聞いてあげようか?」

 

 ただ、そんな事を言うはわけもないので首を振る。彼女が彼女なりの意志を持つように、私だって最低限隠してるものはあるから。ただそれは隠し通したいので、話は逸らした方が良いだろう。

 

「いや、充分。ただ、貰ったお茶の代わりにコレあげるよ」

 

「何この、ナニ?」

 

 本当は鍾離に渡して驚かせようと思ったが、胡桃には会うと妙な元気を貰えるので渡す事にする。

 

「鍾離に見せたら喜びそうなもの、胡桃が待ってて良いよ」

 

「錠前?実はお宝とか……?」

 

「いや、自作のストラップ」

 

「この見た目で!?」

 

 何やら胡桃がイカついストラップに『嘘でしょ』みたいな顔してるけど、半分は本当である。前世のJKもイカつい錠前型ストラップをぶら下げていたので喜ぶかと思ったがダメだったらしい。

 

「なんか、ゴツいし重いし微妙に困るんだけど」

 

「そう?触ると静電気が取れたりするよ」

 

「意外な実用性あるんだね!?」

 

「後は蝶形のブローチぐらいしか……」

 

「それとの2択でこっち選ぶの!?」

 

 それでも色んな角度から見て納得したのか、見やすいような見にくいような場所に、腰のところに付けてくれる。顔を見たところ好評らしい。ブローチは狙ってる感あって渡さなかったが良かった、実用性は大事だからな。

 

「うーん、私もなんかあげた方が良い?でも美少女の自撮り写真ぐらいしか手元にないなぁ♪」

 

 体をクネクネさせながら自分が美少女と分かってて妖しく微笑む彼女、こちらをからかっているのだろう。だがその程度の誘惑など効かない、私には耐性がある。

 

「間に合ってるから要らないよ」

 

「……その発言、結構やばいよ?」

 

 ドン引きすんな倫理観セールスマン筆頭。真顔が過ぎるぞ。

 

 ☆

 

 璃月における往生堂の仕事は基本的に、多くはない。葬儀屋として死者を弔う仕事も常に人が死ぬような乱世でも無く、魔神やアビスによる影響も今の璃月には少ない。

 魔神オセルの復活を最後に、璃月は平穏な時間を過ごしていたと言えるだろう。神のいなくなった国は、人の国としての時代を築いていた。

 

 これは、そんな時代の事件の話だ。

 

「状況は悪化の一途、かなり死が迫ってきてる」

 

 往生堂堂主として、死の境界を管理する者として胡桃は警鐘を鳴らしてから1月が経った。とある地域を通った人が皆、一様に体調を崩したのである。不卜廬の白朮の診断によれば、老化が一気に進行しているとの事であり、それは璃月人に留まらず偶々通り道に選んだモンド人ですら影響を及ぼしている。

 

「分かりました、急ぎ凝光様にも確認致します。胡堂主は如何なさいますか」

 

「まだ具体的な位置は分かって無いけど、実際に探ってみるつもり。時間は少し欲しいね」

 

 結論として、死の領域が生の領域を侵食している。原因は不明であるものの、今のまま放っておけば押し寄せてくる事だけは分かっていた。胡桃もその件における第一人者として、今回の事件を凝光から任されている。

 

 ただ、何故か今日はその凝光が居ない。

 

「ところで、天権様は忙しい感じ?」

 

「あー、えー、その、はい、そんな感じです」

 

「実際は?」

 

 凝光は忙しいのは分かっている、だが彼女は優先順位は間違えない。それが合理的な彼女であり、璃月七星の天権である。その彼女が顔を合わせないのはこの事件以上の案件でも抱えているのではないかと、確かめたのだが。

 

 何故か、かなり言いづらそうな、気不味そうな顔をしている。

 

「あの……仕事に打ち込まないとやってられないとのめり込みすぎていたので、皆さんに止められています」

 

「……なんかあったの?」

 

「いやその、あったというか、当たらなかったというか……当たった人を見つけたというか……」

 

「どゆこと……?」

 

 何の話をしてるのか、少なくとも今以上の事件があるわけではなさそうだ。彼女が何かしらの心労をプライベートで抱えてしまったのかもしれないが、それはプライベートの事なので触れない方が良いだろう。

 彼女は察しが良いのだ、断じて凝光が『失恋でもした』とか思っても言わないのは優しさである。結婚適齢期をこのままだと過ぎるとか思ってそうな顔を従者達がしてても触れない人間性があった。

 

「うーん……とりあえず、私は準備が出来たから軽策荘に行って調査してくるよ。天権様にはそうだね、2日後には報告に来るって言っておいて」

 

 この件は璃月の危機である、凝光も持ち直してくれるだろう。彼女は自分が風邪に倒れても薬を飲んで立ち上がり、そのまま執務に耽る璃月のリーダーなのだ。心配するまでもない、心配をする人たちに囲まれているのだから。

 

 今は、自分の事に集中しなければならない。自分のやる事を考えなければならないのだ、これは胡桃の解決しなければならない事なのだから。

 

 ☆

 

 軽策荘を通った者の異変、それを調べるにはやはり現地の調査が1番だ。

 しかし、元々村のある住民達には大きな異変は起きていない。つまり正確には軽策荘ではなく、その周りのどこかが問題の場所という事である。

 

 そして、胡桃には心当たりがあった。

 

「……ここか」

 

 よりにもよって、そんな想いが込み上げてくる。場所は軽策荘から少し離れた場所にある『無妄の丘』は、かつて父親が境界の封印を失敗し、命を落とした場所でもある。昼でも日が差さない暗がりに、迷い込んだ魂が浮遊する境界地点、かつて祖父も父の失敗後に跡を継いで封じていたが、恐らくそれが原因で早くに亡くなっている。

 

「ここから先に……」

 

 今回の場所が偶然なのか、因果めいた何かなわからない。ただここから先はより一層、気を引き締めなければと邪気祓いの杖を片手に進もうとした時だった。

 

「胡堂主さーん!」

 

 後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。しかし聞き馴染みの無い声、かと言って聞いたことのない声ではない。ただ、聞いたのはごく最近なので記憶に残っている。

 

「やっと、追い付いた。村の人に聞いたら山の方に登ったって聞いて……」

 

「あれ、藍家のお嬢さん?どうかしたの、もしかしてモラ足りなかった?」

 

 そこには調査の準備をしていた時、香を買う際に少し話をした藍硯(ランヤン)がいた。ただ様子は少し焦っているのか、態々ここまで追いかけてくる辺り相応の理由はありそうだ。

 

「そんな事でここまで追いかけないです!話したい事が……」

 

「その話したい事、ちょっと後にお願いしようかな」

 

 藍硯は「え?どうし……」と話しかけては言葉を詰まらせる。彼女も周りの空気感が変わったのを感じ取れたのだろう。少なからず、彼女達の顔から冷や汗が垂れた。

 

「さぁて、こりゃ中は無茶苦茶だね?」

 

 生と死の境界、それはまさしく人を隔させる境界、それが璃月に新たな災禍を生み出そうとしていた。

 

 ☆

 

 道中、境界の中で七七を拾いつつも、一行は境界内を練り歩く。ここが良からぬ場所とは藍硯も察しており、胡桃の後ろにピッタリと着いて歩いている。

 ちなみに七七は薬草取りに山へ来ていたが、その際に境界の穴を発見しふさごうとした結果落ちたらしい。

 

「霧……濃くなってる……」

 

「雰囲気が、暗くなったような……」

 

「まぁまぁ、私は往生堂堂主だよ?この手の事変のスペシャリスト、ここは暗い話なんかせずに、私の腰にある石ぐらい明るい話をしようじゃない」

 

 ただ、この手の専門家である胡桃は和ませるように笑顔をむける。暗い場所で暗い話をするから幽霊なんかが気になるように、気の持ちようは大きく影響する。それ故に適当に話をズラそうと、明らかに変な装飾品を撫でで気を逸らしている。

 

 すると藍硯も気付いたのか、胡桃の腰に付いた妙に合わない錠前のような小物を見る。

 

「胡堂主は小物を付けてるんですね。うちのとは毛色が違う感じですけど、御守りですか?」

 

「あー、これ?触ると静電気が取れるよ」

 

「実用性グッズだった!」

 

 実際はその意味合いよりも、鍾離の知り合いからの贈り物という意味合いで持っている。見た目も悪くはないが、何処となく何か込もっている気がしてるので魔除けにもなるだろうと身に付けている。

 

「まあ、知り合いからの貰い物だけどね〜」

 

「私も知ってる人ですか?」

 

 ただ、藍硯も同じタイプの工芸家というのもあり気になるのだろう。よほど珍しいのか、何か目に留まるところがあるのか、胡桃も気にはなるのでそのまま答える。

 

「どうだろ、バンパーって冒険者の知り合いから貰ったものだし」

 

「バンパー!?」

 

 ただ、その答えに目を見開くとストラップから距離を取る。まるで悍ましい物を見るような顔をしており、人の貰い物に対して見る目では無いだろう。

 

「ちょっとー、その顔は酷いよ?」

 

 ただ反応があまりに失礼、というよりかは彼女にそんな行動をとらせてしまうのに興味がそそられる。

 

「いや、あの、バンパーって、あのバンパー・ドゥ・フォンテーヌですか?」

 

「えっ?誰それ」

 

「新しい水神ですよ!?先月のスチームバード社の一面殆ど彼が飾ってますよ!?」

 

 新聞は精々璃月における事変を見る程度で、フォンテーヌの事までは目は向けていない。スチームバード社はフォンテーヌの新聞社なので、購読まではしていないのである。ただ噂話程度にはフォンテーヌで神が入れ替わったと聞いている。

 

「いやいや、私神様の知り合い居ないし。これ昨日貰ったし」

 

 しかし、バンパーは神ではないだろう。浮世離れした雰囲気を時折出すことはあれど、あれは人間臭過ぎる。人間として生きている人間だろう、そう感じている。

 

「も、もしですよ?もし、私の言った人と同じ人なら関わらない方が良いです。胡桃さん綺麗ですし、大変な事になりますからね?」

 

「大変な事?」

 

「私の知り合いのお姉ちゃんみたいに酷いことされます」

 

 酷い事、そう言う彼女の顔は少し紅い。話に熱が入り興奮しているからというのもあるのだろうが、それは恥じらいの色が見て取れる。

 

「酷いことって?」

 

「え、あ、えーと……あっ、その顔分かってますよね!?」

 

「うん、何となく」

 

「分かってるなら聞かないでください!」

 

 酷い事、それもお姉さんとなれば察しは着く。男と女の関係での酷いことなど、浮気何かの拗れた話か文字通り酷い事である犯罪の2パターンだろう。

 

「でも、そんな酷い人なら捕まると思うんだけど。いくら他所の国の神様でも国で裁かれそうだけど」

 

 しかし藍硯が言う酷い人は恐らく後者、前者ならばアソコまで毛嫌いをしない。それに彼女はどこか、代わりに怒っているかのような顔をしている。

 

「……だって、お姉さんは結婚出来なくても良いなんて言うから。名前だって最近まで教えてくれなかったですし」

 

「あー、うん。多分だけど当人は全く気にしてない感じかな?」

 

「そうなんです……地図を作ったおかげで生活は出来てても、1人は大変だと思いますし……とりあえず代わりに私がぶん殴ってやるんです」

 

 知り合いのお姉さんとやらはバンパーという男に残念ながらほの字のようで、酷いことをされたのだと周りが言ってもそれで良いと思っているようだ。

 極論で言えば、美人なお姉さんに押し倒されて色々とされてしまった男の子がいたとしても、良い事された何て考えてしまうのと同じ状態。つまり、彼女としては損をしていないと思っているのだから外野がとやかく言っても仕方ないだろう。

 

「ちなみに私の知るバンパーは、今のところ神様じゃないと思うよ」

 

「そ、そうですよね。同じ名前ぐらい普通に……」

 

「精々渦の魔神をぶっ飛ばしたぐらい?」

 

「絶対同じ人ですよ!?というかソレやったのその人なんですか!?」

 

 ただ、どうやら同じバンパーらしい。神様をするにしては1人で璃月に遊びに来る、もとい人探しに来てるのは不自然であるが、どうやら神様になったらしい。

 となるとこの貰い物も意味合いが変わってくる、静電気を取れる以外で役立つのかもしれない。

 

 ただ、水神というなら手元にあるのは岩の作り物だ。どちらかと言うと岩神寄りの力を使っているのではないかと思ってしまうが、考えても仕方ないので今度会ったら『モラクスによろしく♪』と適当に鎌かけてみる事にする。

 

「まぁ、それは置いておいて」

 

「置いといて大丈夫ですか?後悔しても知りませんからね!?」

 

 その時はその時だろう。彼の周りには魅力のある女性がいるので、矢印の方向はそちらへ向くだろうと聞き流すことにする。胡桃とて人並みの結婚願望なんかはあるが、バンパーの事はそういう目で見れてないので相手しなければ良い話だろう。

 

 それよりも、まずい事に目を向ける必要がある。

 

「(どうしたもんかね、予想よりやばいかも)」

 

 先程から何時間も雑談をしながら歩き回っているが、出口になりそうな手掛かりが見当たらない。いや、内側から開けるのは不可能なのかもしれない。

 

「(時間のずれは起きてるかもね、天権様との約束には間に合うかな?死の領域がここまで広がるとか、私1人でどうこう出来る状況じゃなくなって来た)」

 

 境界の中の崩れ具合や諸々を鑑みても、邪気を焼き払うだけでどうにかなる状況にはない。いや、下手をすれば璃月全土に災厄を振りまく結果となりかねない。

 

「(せめて、2人だけでも戻さないと)」

 

 そう決意をしながらも、胡桃はまた境界を歩むのであった。

 

 ☆

 

 反射的に、彼は振り返った。その遙か先にある何かを感じて、振り返った。

 彼の今いる地、沈玉の谷は璃月とフォンテーヌの国境が面した場所であり、恐らくフォンテーヌまで入ってしまえば気付くことはなかっただろう。それ程遠く、それでいて確かな気配を感じていた。

 

 ただ、彼は目立っていない。隣に浮遊している相棒は目を引くかもしれないが、本人は普段は隠していない異界の住人特有の金髪を黒髪にしているのだから。

 

 そう、旅人はひっそりと璃月を出国しようとしていた。そんな時に振り返るものだから、足を止めるものだから、何故こんなことをしているのか分からないパイモンは彼を見る。

 

「旅人、どうかしたのか?」

 

「いや、何か……そうか、もう少しで海灯祭だからかな」

 

 彼の振り返った先にあるのは璃月港であり、最も璃月で栄えた場所である。今頃は海灯祭に先駆けて色々な人達が準備をしているのだろう、皆忙しくしているのは昨年のソレで察せる。

 

 ただ、彼は今回その催しを見過ごしているのは今いる場所と向かう足先を見れば明らかだろう。今回、旅人は海灯祭をあえて避けていた。しかし、それも仕方ないのだ。それだけの理由がある。

 

「今年の海灯祭、行けばよかったのに……そんなに申鶴が怖いのか?」

 

「怖い、凄く怖い」

 

「お、おう……」

 

 旅人はつい先日まで、申鶴に捕まっていたのだ。パイモンが居る時は精々こっそり尻を撫でられたりハグをされたりこっそり暗がりで口に舌を入れてくるだけで済んでいたが、夜はそんな事は無かった。

 毎晩夜伽に誘われ、布団に押し倒され、何度も何度もされた。彼女の果てさせる技術も彼を苦しめており、どうやって覚えたのかと聞いたら『バンが教えてくれた、これぐらいしないと旅人は満足しないって……全部、教わった♡』と言われた時は恐怖した。

 ちなみに逃げると決心したのは彼女がビーズが繋がったような先に尻尾の着いたオモチャを用意しているのを見たからである、彼がこのままでは女の子にされてしまうので彼女から逃げたのである。

 

「(蛍に会う時どんな顔したら良いんだ?もう子持ちになるの確定しちゃってるし、軽蔑されるよな……)」

 

 しかし、もう色々とダメだが先行く不安は尽きない。旅の終点でまた会おう的な事を妹から言われたが、その終点で子連れになってくるとは誰も思わないだろう。

 

『お兄ちゃん、キモイよ』とか言われる未来が見える。恐らく心が折れる。

 

「旅人、頭痛か?またミネラル不足か?大丈夫か?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 よって旅人は璃月の長居は危険と判断している。ただ、それでも今の璃月で何か起きているのではないかと感じてしまうのだ。

 それは、遥か遠くで感じた『岩元素の共鳴』が故にだろう。

 

「(さっきのは、鍾離先生の……いや、それにしては毛色が違う?)」

 

 かつて、層岩巨淵の深奥から魈を助ける時に鍾離の使った岩の力に近いものを感じた。しかし、それとは何か違うのだ。それを模倣した誰かの力とでも言うべきか、岩の力がそうでは無かった。

 

「(……なら、戻ると彼に鉢合わせるのか。そうか、死にかねないな)」

 

 すると、頭の中でそれが出来そうな候補者を思い付く。逆に言うと彼が居てしまうと尚更行きたくなくなるが、行かなくても済むのだろうと感じてしまう。

 

「このまま、ナタへ行こうか」

 

 こうして、旅人は璃月に訪れるバンパーとは出会う事なく炎の国へと向かうのであった。

 

 ☆

 

 胡桃が境界の調査へ向かってから数日後、凝光に報告をしてから更に時間が経っていた。

 

「あの時は約束をすっぽかされたかと思ったわよ」

 

「あはは、ちょっと危なかったからねー」

 

 胡桃は無事、軽策荘の調査を終えている。彼女達3人での脱出は困難であったものの、胡桃の持っていた物のおかげで脱したのである。

 そして調査の結果と凝光の調べを兼ね合わせた結果、境界を作り直さなければならない事まで判明した。今2人が顔を合わせているのは、その打ち合わせも兼ねている。

 

「じゃあ、予定通り死門を担当するから。逆に人寄越しても、庇えないから勘弁してよ?」

 

「いいえ、余裕が出来たら人を回す。必ずね」

 

 ただ、何故か凝光はこの部分を譲らなかった。胡桃の仕事と認識をしているし、専門家以外が近寄るのは返って危険だとも認識している。だが、それでも胡桃が不味かった時を想定しなければならない。ただでさえこれから使う術式は、代償としての死が訪れかねないのだ。

 

「生憎と、私は1人で戦わせるつもりはない。堂主の所には相応の誰かしか送れないとは考えてるけど」

 

 多少の道術知識もある藍硯ぐらいが及第点ね……と呟くその姿を見るに、本気で送り込むつもりだ。メインが胡桃であることは変わらない、ただ彼女は本気で気にかけているのだ。

 

「うー、まぁ、天権様の采配を信じますけど……」

 

 なので彼女も、こう折れるしかない。自分で終わらせたら良い話でもあるし、手間をかけさせないのが1番でもある。予定通りに自分は自分の仕事をこなすのは変わらない。

 

 ただ、ふと気になった事があったので凝光に目を合わせる。

 

「何か、元気そうだね。聞いた話じゃ大変って聞いたけど」

 

 前に聞いた話では凝光は精神的に不安定で仕事にのめり込み過ぎていたのを周りに止められていたと聞いている。しかし、目の前にいるのはいつも通りに知略を巡らせた切れ者であり、むしろ肌艶など血色も良い程である。

 化粧をしているがそれは首元などに厚めにされているだけで、目元は隈が出来ている様子もない。実に健康的であり、とても部下を心配させていたとは思えない。

 

「ふふ、気にしないで良いわよ。ちょっと昨日、個人的に良い事があっただけだわ」

 

 それと、妙に色気を感じる。大人からしか出せない類のものというのもあるが、妖艶なそれは自意識で出されているものでは無さそうだ。

 

「何ですその顔、彼氏でも出来ました?」

 

「あら、遠からずかしら……近い将来に教えてあげるわよ」

 

 そう言う彼女は、機嫌もかなり良い。首元に付けた蝶形のブローチを撫でながら微笑むあたり、もう心配はしなくて良いはずだ。ただこの雰囲気からして、今回の事件における璃月の体制は盤石なのだろう。

 

「うへぇ、私は結婚とか考えられないなぁ……後継者とか考えると中々難しいし」

 

 実を言えば、胡桃にその類の話はない。これだけ容姿が優れていても、やはり往生堂の堂主という責任の重さは璃月の民の知るところなのだ。想いを寄せることはおろか、その責任に押し潰される事を恐れるものが殆どである。

 その点で言えば目の前の天権も相応の地位と世界一の金持ちというハードルは伴侶を探すのに枷となるだろう。その上で付き合える相手の男を思うと自分でも知っていそうな大物なのかもしれないと彼女は思う。

 

「案ずるより産むが易し、なんて言葉があるぐらいよ。意外に貴方も良い人に出会えるかもしれないわね」

 

「あはは〜……まぁ、今回の事が片付いたら考えてみるよ」

 

 無事に帰ってきたら彼女の式にでも呼ばれるのだろうか、そんな事を思いながら彼女は残された仕事をこなしに戻るのであった。

 

 ☆

 

 璃月に滞在してから、10日程が経った。海灯祭の当日にまで至っており、その間に璃月の知り合いに会う事は……沢山どころか知り合いほぼ全員とあったと思う程に出会いまくった。何なら急遽休暇を取ったシュヴルーズにも会った。

 それはそれで大変だったが、伊達に刺されてこなかったので上手く立ち回った。毎日誰かと朝起きてたけど、精々処女を食べたのも雲菫と一緒に居ただけの辛炎とお酒で気持ちよくなってた甘雨だけなのでセーフだろう。ご馳走様でした。

 

 ただ、今回の目的は果たせないままであった。

 

「結局、旅人は居なかったし……そろそろフォンテーヌ戻らないとだよなぁ……」

 

 旅人をフォンテーヌに連れて行く、もといやべー案件に際しての人身御供となって貰う為の今回の旅はその点での成果は無しである。

 軽い変装をしてたのに会う知人全員に何故か私とバレるし、そのせいで色々と大変だったが過ぎた事なので仕方ない。今まで無かった撮影機材があるので声とか色々と撮れたし、飢えも凌げる。

 

 最後に夜の催しでも見て帰ろうかと、それなりに離れた山の上から璃月港を見る。万が一にも知人がバッティングしたら終わりだしね、雰囲気を楽しんでおこうと思った時だ。

 

 ふと、背後に気配が現れる。こんな夜更けに、人でも動物でも無い存在感が近寄ってくる。ただ、それが誰かは察しがついてるので振り返る必要はない。

 

「どうも鍾離先生、海灯祭を祝して。旅人見てない?」

 

「生憎と見ていない、今年は顔を出さなかったようだな」

 

 並んで璃月港を見下ろすのは『璃月の岩神』にして『魔神モラクス』こと現在は往生堂に属する鍾離先生がいる。

 かつて会った時は存在格の差に唖然としてしまったが、隠していてもそれであった。今はその隠してる程度の圧力にはビビらないというか、それ以上の覇気を正面からぶつけられて来たので耐性ができている。人は成長する生き物だが、彼と並んでも気安く出来る自分には少し驚きもある。

 

「フォンテーヌでの話は風の便りで聞いた、大変だったようだな」

 

「まぁねー……下手したら、天理案件だったかもだし」

 

「……そうか」

 

 彼の反応に対して、目は向けない。天理なんて軽く口に出してる私が悪いのだが、そんな気安く声に出して良い存在じゃないのだろう。少なくとも、カーンルイアの悲劇なんてものの生き証人からすれば。

 かと言って彼に嘘を言うつもりも無いので、事の顛末をある程度話してみる。風聞と何か違う所があったりするかもしれないし、実際聞いてみるとフォンテーヌ人を人間にしたのも私の功績扱いされてたからな。それだけは違うと訂正しておく、出来ちゃうとも言わないが。

 

「成る程、バンも相変わらずか」

 

「それだと国跨ぐ度にヤバい案件の渦中に居るみたいに聞こえますけど」

 

「違うのか?」

 

 違うと言いたいが、言えないのが悔しい。私は冒険者してるのは世界を楽しみながら女の子にエロい事しても逃げやすそうな職種だから謳歌してるのに。

 我が人生、今のところ悔い無しって呟いて死ねるぐらいには楽しめてる。問題なのは楽に死ねるのか怪しいところかな。女の子からの滅多刺しエンドは避けたいところだ。

 

「ところで、胡堂主との見合いの件は覚えているか」

 

 滅多刺しエンドは避けたいところだ。(重要)

 

「鍾離先生、まだそんな事言うんですか?もう断ったでしょ」

 

「ああ、君は立場を持ってしまった。あの話も無かったことになるのか」

 

 幸い押し売りまではされないが、彼女は結婚を焦るような歳じゃない。流石に若いし、見た目も良いし、仕事も高尚な物だ、理解ある人は寄るだろう。

 かと言って全て良いわけじゃない、ストーカーとか出てくるしな。バーバラの時はしつこい自称ファンクラブ会長の前で『私の家族に、何か?』とバーバラの腰を抱き寄せながら威圧しなければならなかった。

 ただその時にバーバラは『ゆ、指輪……欲しいかも……』とか呟いてたせいでお兄ちゃん役として出たのに別の意味で家族と思われちゃってストーカー泣き崩れてたな。訂正しない方がダメージは多そうだったから誤解したままだろう。

 ちなみに指輪は右手の薬指へ嵌めてあげた、男除けのために欲しがっていたから呟いてたみたいだし喜んでいた。ただジンが食い入るように見ていたので不安もあるが、その誤解はバーバラが解いているだろう。

 

 とりあえず、男女間の問題は大変なのだ。私のエピソードも氷山の一角でしかなく、まだまだエピソードはあるが割愛しよう。

 

「相手探しは手伝いませんからね、彼女が気に入ったのは貴方ですし」

 

 胡桃の婿探しは難航しそうだが鍾離先生の気に入った人なら問題ないだろう。私の気に入ってる人は既婚者で妻帯者でいずれ子沢山になっちゃうのでおすすめ出来ない、残念だが仕方ない。

 

 ただ、そんな私を見透かすように彼は私を見る。

 

「それでも、君は彼女を気に入っているのだろう」

 

 気に入っている。それは男女のそれとは違う部分だと、彼は言っている。彼女は確かに才があり、度胸もありながら達者な口とよく回る頭を持ち、自分の中で貫ける信念を柱に建てている。そんな事は、彼女に会ってから何度か顔を合わせて気付いているし、彼が気にいるのがそんな部分だと分かってもいる。

 

 ただ、その上で1番なのは────

 

「危なっかしい子は、見てられないだけです」

 

 彼女に限らないが、この世界で彼女達のように明るく人にも愛される人達には、普通に人生を過ごして欲しい。私の前世は普通だったが、今の人生は楽しめている。普通は一度きりの人生なのだから、先人としてはそう辛いことの多いだけが人生じゃないと言いたいのだと思う。

 

 そういう意味で、目の前の神も6000年以上を生きる傑物なので似た答えを持つのかもしれない。その意味では、彼なりの答えでも聞けるのかと目を合わせるが。

 

「やはり、君は関わらないのではなく気付いてなかったのか。いやそれが自然……君は地脈に繋がなっていない。気付かないのも無理はないだろう」

 

「────鍾離、何の話をしている」

 

 何かに気付いたように、得心するような顔をしていた。だが、私は彼が何を話しているのか分からない、何に納得しているのかも分からない。何に対して、私の何を推し量っていたのか判別出来ない。

 ただ、彼が私の元へ態々やって来て世間話に花を咲かせに来たのが目的ではない事は分かるし、それが誰に関係しているのかも察せられる。

 

「璃月で何か起きてるのか、胡桃にも何かあったのか?」

 

 ここ最近、私は璃月の知人に会ってはいるが海灯祭の話題以外は耳にしていない。いや、余所者の私に迷惑をかけまいと話していないのかもしれない。思い返してみると、凝光の従者達だけは暗い顔をしていた気がする。アレは私と彼女の関係を憂いていると思っていたが、海灯祭前の暗さとは思えなかった。

 だとしたら、そうであるなら、そうであってしまうなら、今もどこかで何かに対して、私に頼らなくても済むような問題などではなく、私に頼りたくても頼れないような何かと、誰かが戦っている事になる。

 地脈に繋がっているからこそ起きる事は私には分からない。流石に魔鱗病を羅漢した患者を目の前にしたら地脈、ひいては世界樹の汚染と気付けるが、目の前に何かが起きてないなら気づけない。それも周りが意図して隠していたなら尚更だろう。

 

 しかし、何故ここで胡桃の名前が出てくるのか。それが分からないのだ。彼女が矢面に、それも最前線に行くような事態が起きているとは思えなかった。

 

「胡堂主から預かったものがある」

 

 鍾離から手渡される、それを見るまでは。

 

「それを見て、君はどうする」

 

 瞬間、空に幾つもの火柱が上がった。その瞬間を、目にする事は出来なかった。

 

 ☆

 

 海灯祭、前日。その日に、鍾離の元へ見知った1人の少女が寄って行った。

 

「やっ、客卿」

 

 胡桃だ、鍾離は現在往生堂の客卿として在籍しているので顔を合わせる機会は多い。しかし、今日は珍しい事に彼女が彼を探していたのが見て取れる。

 

「堂主か、何やら大掛かりな仕事を控えていると聞くが。何か入用か?」

 

 反射的に、鍾離は明日に控えた『結界の敷き直し』に際した準備なのだろうと思い聞いた。

 現在の境界の有様からして『八門七門の陣』を再構築するしか無い状態にある。と言っても完全に作り直すのではなく、一部を作り替えるだけなので難易度は過去の偉人よりは低いだろう。

 ちなみに八門は璃月における結節点である『生・死・休・杜・開・景・驚・傷』の事であり、地脈の力を導く力が秘められている。そして七門とは邪気を祓う為の門以外の力を借りる条件を意味しており、邪気の退路を防げる。今回の場合では死門が対象となるだろう。

 

 そして、その大役を任されるのは死と生の均衡を保つ往生堂の堂主たる彼女になる。かと言って明日に迫るそれに、必要な物となれば大方は璃月七星が揃えている筈なので疑問はあるのだが。

 

 そんな彼に、彼女は何かを片手に持ち差し出す。

 

「これ、バンパーに返しといて貰えるかな。お友達なんでしょ?」

 

「……これは」

 

 それを見て、鍾離の伸ばそうとした手が少し固まる。だが差し出されたそれを掴み取ると、物珍しそうにじっくりと見回している。余程の事なのか、胡桃の顔も見ていないようだ。

 

「あはは、鍾離さんが見たら驚くって言ってたけど本当だね」

 

「これを、彼がか?」

 

 ただ、一通り精査したようで何か得心したように眺めている。見てくれはただの岩、錠前の形にも見えるそれは橙色の鉱石が混じった造形をしており、作り物である事は見て取れる。

 しかし、それを手で握るとこれを届けた胡桃に向けて思わず破顔している。

 

「ふはは、いや面白い。まさかこんなレプリカを自作するとはな」

 

「あれ、自作って言ったかな……ちなみにコレ何?バンは装飾品とか言ってたけど」

 

「これは岩王帝君が渦の魔神を封じた岩の結界、その破片、それを彼自身が再現したものだろう。錠の形は堅牢に対する暗示の意味合いだ。旅人も似たものを持っていたが故に、模倣したのかもしれん」

 

 鍾離の反応が良いのは自作したという部分なのかそれ以外なのかは分からないが、満足しているところを見るに気に入ったようだ。

 

「うへぇ……そこら辺は詳しく無いけど凄そう」

 

 胡桃としては予想より、いやコレを知る前の予想以上に反応が見える事に『やっぱこの客卿普通じゃないな』という顔をしている。だが、一通り堪能した鍾離はそれを見て逆に胡桃を見つめる。

 

「ただ、見たところ彼が仕込んだであろう元素の力は失われている。これは彼の言う通り、装飾品として扱うのが良いと思うが」

 

 そして、やはりこの鍾離という客卿は只者じゃないのを再確認する。

 

「だからこそだよ?返しといて、もう一回は助かっちゃったからさ」

 

 胡桃は、そこに込められた力により一度境界から脱している。岩元素による出口を導くでもなく抉じ開ける力、更に言うなら守る力が込められていたそれに助けられている。これが無ければ出口は見つからず、凝光達からの捜索を待たなければならなかった上で、そうなっても出れたとは限らない状態であった。

 バンパーが何故そんな得体の知れないモノを持っているのかも、何故そんな物を胡桃に渡したのかも分からない。人間だと思っているが、人間以上の何かだと確信出来てしまうほどにソレは優れていた。

 

「理由を聞いても?」

 

「仮に私が帰れなかったら、それを渡してまで気遣ってくれた彼に後悔を残しちゃうでしょ。手元に残さないのが、死に引っ張られない基本ってのもあるけどね」

 

「なるほど……これを見て、未練は残したくないと」

 

「さっすが鍾離先生、堂主が最も嫌うものだからね。今回の事はお父さんと同じ過ちを繰り返すわけにはいかない」

 

 だからこそ、だった。彼にこれ以上頼りたい気持ちもゼロでは無いのだが、この仕事は本来往生堂の堂主たる胡桃の仕事なのだ。今回は助けられてしまったが、逆に彼の力添えが足りなかった時の心労を考慮したのである。

 それに胡桃の予想では死に引っ張られないほどの意思を待てば死にはしないと考えているのもあり、自身の死の確率を下げる為でもある。

 

「だから全部まとめて伝えておくよ。客卿、万が一私が帰って来なかったら、あなたが七十八代目往生堂堂主だ」

 

 だが、その上でダメだった時に託さなければならない。自分の未練を残さない為でもあるが、往生堂を続かせていかなければならない。鍾離ならば問題ない事は今までの事と先程の話で分かっている。

 

「……堂主がその使命を果たせなければ、誰も取って代わることはできない」

 

「生まれるべき時に生まれてさ、死すべき時に死す。いよいよどうにもならなくなったら、堂主の私にもその時が来たって事だよ」

 

 だが、それでも顔色が良くないのは案じられているからだろう。自分は全力を尽くしてくるだけで、大丈夫な可能性だってあるのだから笑顔で送り出して欲しいのは我儘になるのかもしれない。だが引き留めず、それか往生堂の存在意義と理解している彼は送り出さないわけもない。

 

「バンによろしく、寂しくならないでよ?私が居なくなっても、来年に飛んでる蝶はきっと私だからさ♪」

 

 鍾離は彼女を見送る、彼女から渡された未練を片手に。その未練が彼女を後押ししていると知ってか、あえて彼女を止める事はしない。

 

「今日は天気が良いね、詩を読むのに丁度良い」

 

 彼女は向かう、父と祖父の後を追う為に。最後まで立派に成し遂げると決めて。

 

 

『赤き花の咲く時に舞い、晴れた雨の狭間に憂う

 

 其の血の如き色に留り、花弁の上の眠りに寄り添う

 

 花燃えて、塵と化す

 

 冥蝶、一縷の香りを残して』

 

 

 ☆

 

 邪気を焼き払い、焼き払い続けて、彼女は境界を敷き直した。これで死に近づいてしまった人達は息を吹き返し、そのうちに全快になるだろうと達成感を得られた。

 

 今頃は、海灯祭を皆が祝っているのだろうか。そんな想いのまま、胡桃は────

 

「別れ、会い損ねた人は来年かなぁ……」

 

 その代償として、死んだのである。一部を敷き直す程度の事であっても、かつての偉人達のように犠牲となってしまったのだ。その可能性は薄々感じており、そうなのだと今は納得出来ている。

 

 自分よりも遥かに優れていた父親、そしてその後に引き継いだ祖父が死んでいるのだ、誰がやっても同じ結果を辿るしかなかったのだろう。

 

 死んでしまったのだ、もう皆には会えない。眺める事は出来るのかもしれないが、もう言葉を交わす事も情を交わす事も出来ないのである。若干の寂しさも感じてしまうが、それをしなければ璃月に未曾有の大災害が起きていた可能性もあるのだ。

 

 自分1人の犠牲で、みんなが救えて良かった。今はそんな気持ちしかない。ただ、そんな気持ちを吐露できる事はない。

 

 そう、思っていた時だった。行先に光の玉が集まり、人の形を成している。逸れて摩耗した魂ではない、迷い込んだそれではない。そして、それを彼女は知っている。

 

「お父さん、お爺ちゃんまで……」

 

 幼き頃に別れた2人が、そこにいた。もう会えるはずのなかった2人が、そこにいた。途端に、彼女の中で堰き止めていたものが溢れてくる。

 

「わ、私……立派にやれたよね?最後まで、頑張って……」

 

 2人の後を追えていただろうか、歴代の往生堂堂主に恥じない堂主としてやれていただろうか、幼き頃から往生堂の人間として生きてきた彼女を、認めてあげられるのは2人しかいない。

 

「あぁ、見てたぞ小桃。よくやった」

 

「ああ、私よりもな。凄い子だよ」

 

「へへ、うん……」

 

 先程までの邪気を払う苦しい思いは、もうない。皆を守れたという晴れやかな気持ちと、堂主として務めを果たせたという確かな安らぎの中で、彼女は瞳を閉じる。

 

「じゃあ、行かないとね」

 

 七十七代目往生堂堂主 胡桃。その最期は誰にも看取られる事は無く、立ち昇る炎がその生き様を示していた。

 踏み歩く道に彼岸花が咲き、冥蝶がそこを舞い落ちる。1人の少女は、その身に背負った務めを果たしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それを望まぬ者がいる。

 

「小桃、儂等は迎えに来たわけではないぞ」

 

「迎えは、別に来ているようだな」

 

「え?」

 

 反射的に、胡桃は2人の視線の先を追うように、背後へと振り返る。ここにそんな人が居ようものなら、それは胡桃と同じく死人であるという事だ。そんな筈はない、見間違えの筈だ、誰も居ない、居てはいけない。

 そう思いながらも、振り返った先には。

 

「アレだけで別れのつもりか、胡桃」

 

 見知った存在が、別れの挨拶を敢えてしなかった筈の彼が、そこにいる。

 

「バ、バン?なんで?ここは、もう死の領域に……!」

 

 バンパーがそこにいる、彼はこの事を知らない部外者である筈なのに、当たり前のように胡桃の前に現れている。いつもと違い、何故か一部の髪色が緑色の輝きを放っているが、それは間違いなくバンパーであった。彼岸花が咲いていた赤い地平線は、彼の踏み歩いた所だけ漂白されたように白緑に変わっていく。まるで、死者の世界という理から外れていくように。

 

「胡桃が消えなきゃ救われない、そんな世界で良いわけないだろ」

 

 そして、そのまま彼女の腰を抱き寄せた。もう逃がさないと、逃してやらないという顔をしている。当然、彼にそんな事をされた事もなければこんな状況でされた彼女は困惑している。

 

「ちょ、ちょっと、待って!貴方、言ってる意味分かってる!?」

 

「私は胡桃が居ない世界は嫌だって話してるだけだろ、難しい話はしてない」

 

「難しいよ!?とっても、難しい事言われてるんだけど!?」

 

 ただ彼女が抱き寄せられているのは肉親の前だ、恥ずかしさと焦りで彼の胸を押して離れようとするが、まるで力が入らず抜け出せない。むしろ彼の熱を直に感じてしまい別の意味で体が火照り始めている。

 

「御両人、見兼ねたところ胡桃のご家族のようで」

 

「無視しないでよ!!」

 

「娘さん、私が貰って行って構いませんよね?」

 

「はぁっ!?」

 

 しかし、抵抗虚しく彼のとんでもない宣言と共に抱き上げられてしまう。足と背中に腕を回され、抵抗らしい抵抗も出来ずに抱えられてしまっている。

 

「あぁ、連れ出してくれ。ここには暫く来なくて良いからな」

 

「そりゃどうも」

 

「お父さん!?お父さん!!」

 

 今、一人娘が持ち帰られちゃうのは良いのか!?と若干涙目で見るが、それを腕を組みながらも『大きくなったな、胡桃……私は父として何も……!』と涙ぐんだ目頭を片手で抑えていて話を聞いてくれない。

 

「ちょ、ちょ、お姫様抱っこだよ!?もう少し、私の家族の前だし、別に私と君は恋人でも何でもないし、気遣いのブレーキとか色々あるよね!?」

 

 無論、そんな言葉の抵抗でバンパーは離してやらない。あんな別れをされて居なくなろうとしたのだ、許すわけもない。彼女の華奢な体をしっかりとした体幹で支えており『うわっ、男の人のコレって安定感やばっ……!』と思わず彼女も呟くほどだ。

 ただ、このまま終わる彼女ではない。父親が役に立たず、自分の抵抗も通用しない、それでも自身の敬愛する師にして祖父であるならばと目を向けると。

 

「じゃ、結界の時間もあるのでここら辺で。今度来る時に娘さんのエピソードとか聞かせてください」

 

「よかろう、名を何というのかね」

 

「バンパーです」

 

「何良い雰囲気出してるの!?ちょっと!?ちょっと!!」

 

 胡桃が最後まで色々と叫んでいたが、彼はそのまま連れ帰った。こうして璃月における事件は、終結したのであった。

 

 ☆

 

 鍾離による声かけと同時に、胡桃の所まで最短最速で向かった。同時に空間内の時間を外とズラす結界も貼り時間を稼ぎつつ、彼女の元へと向かった。少しでも遅れていれば、彼女は完全に世界から消えていただろう。

 

 だろうということは、なっていないわけで……今は私の腕の中で両手で顔を隠している。

 

「う、うう……久々に会ったのにぃ!!」

 

「会えて良かったな」

 

「君が来るまではね!?あっちに行ったら絶対揶揄われるんだけど!?」

 

 どうやら家族の前でお姫様抱っこされた事が余程堪えているらしい。でもあそこまでしないと逃げられた時に捕まえるのが大変だし、色々と鑑みて必要な行為であった。ちなみに足が柔らかくて良い、前々から胸は無いが美脚だと思っていたので良い感触である。

 

「早く下ろして。もう、変に疲れてるんだから」

 

「もう逃げない?」

 

「逃げれないでしょ……」

 

 仕方ないので下ろしてあげる。ただ、それで終わらせるわけもないだろう。

 言ってしまうと彼女は一度死んだ、死人だった。つまり私が助けなければ生きていないのである。逆説的に言うなら、彼女の生き死には私が握っていたと言える。更に踏み込むなら、彼女は私が自由にして良いとも言えるのではないか。

 

 私がそれなりに頑張って助けたのだ、その分を頂戴するぐらいはバチも当たらない。

 

「ん?何?言っておくけど、お礼は一度しか言ってあげないん、んむっ!?」

 

 とりあえず、下ろした瞬間に優しく頬を捕まえて口も捕まえた。彼女は下ろしたばかりなので立っているわけではなく、手は体を支えるために使われていたので容易く取れた。

 ついでに地面に草を生やしておこう、簡易的なベッドになるからね♪

 

「ん、ん、んっ……!んぁっ……何、して……?」

 

 優しい口付けを意識したので彼女は殆ど正気だ。ただ急に唇を奪われたのに顔を赤くして可愛く睨んでくるだけで、目を合わせ続けてくれている。

 なので、そのまま彼女の肩を抱き寄せ頬に手を当ててみる。すると、流石に察した彼女の肩がビクッと小さく揺れた。

 

「っ……あ、あはは……そ、そういう感じかぁ……」

 

 彼女は目を逸らしているので、そのまま捕まえておく。くっ付く瞬間に目を見開いてから少しして目を閉じているのは顔が近いというのに恥ずかしがっているからだろう。可愛い反応だ。

 

「んむっ、んん……んあっ……」

 

 ただ、まだ浅い口付けだ。それだけでピクピク肩が震えているようでは先が思いやられる。頬を撫でながらゆっくりと口を離してやると薄く目を開いて今された事を噛み砕くように実感してるようだ。なのでそのまま目を合わせる。

 

「ちょ、ちょっと……も、もう私のファーストキスでお礼は済んだでしょ?流石に、その、3回目は……んっ……♡」

 

 彼女は多少身じろいだが、肩を掴んで頬も手で抑えて逃がさない。ただ向こうも初体験とは言え3回目は慣れてきたようで目は閉じず、合わせてきたそれは恥じらいの中で少しの反抗的な瞳をしている。

 

「んんっ、んー……ちゅるっ!?」

 

 なので、舌を入れてみた。一瞬大きく目を見開いた辺り、頭の中を情報量でいっぱいにして驚かせてしまったようだ。途端に胸元に当てて形だけの抵抗をしていた彼女の両手が私の服を握り締めており、喉と肩から彼女の振動がよく伝わってくる。

 

 もちろん、逃してあげないけどね!

 

「んむっ!?んんん!!」

 

 彼女の反抗的な目が何を言ってるのか分かる、伊達に経験は長くない。今の感じだと────

 

『信じられない!ここまで許してない!』

『許さない!後で絶対仕返しでやる!!』

『口の中にヌルヌルしたのあるんだけど!?』

『なにこれ!?変な所舐められてる!?』

 

 辺りだろうか、まだ反抗的な目をしてるだけ彼女は初めての割に耐性があるようだ。エウルアやフリーナはこれだけで倒れちゃうのに、みんな違ってみんな良いな。

 とりあえず、反抗的で私の舌を追い出そうとしてくる舌を絡め取りつつ誘い込む。彼女を見るとそれでも頑張っているようだが、誘い込みだけで目元が歪むようでは、これからするのは耐えられないだろう。

 

「ん、ん、んんん!?ちゅ、ちゅるるる!?♡」

 

 そして口元まで誘い込んでから舌を吸ってあげた。反抗的な目がまた見開いてて忙しそうだが、見開いたまま体をビクつかせてるので格付けはしっかり出来た。そのまま舌と舌で引いた糸をぼーっと眺めてる彼女は、完全に出来上がっただろう。

 

「ぷはっ……はぁ、んぁっ♡だ、だめ……これ、だめ……」

 

 肩で息をする彼女、その余裕の無い間に体制を変えて彼女を後ろから抱きしめる。小さな身体だ、いっぱい責任を背負ってきた小さな背中だ。なので、今日はそんな事は忘れさせて忘れられない日にしてあげたいと思う。

 

「可愛いよ、胡桃。誰にも見せないその顔、今日はいっぱい見せて貰うね♪」

 

 彼女にとって、1番長い夜の始まりである。

 

 ☆

 

 事件を解決してから、1時間は経ったのだろうか。恐らく経ってはいるのだろうが、彼女はそれが自分の時間感覚と大きくずらされていて分からない。

 

「ん、んっ、ちゅっ、ちゅる♡はぁ、はぁ、んんっ♡」

 

 彼女の体は、完全にバンパーによって支配されていたのだ。最初こそ優しい口付けであったが、次第に深く長いものにされていき、今は常に舌を絡め合わせられているほど。もはや、彼女の中では諦めすら出てきている。

 

「(う、うわぁ……私の初めて、ここで無くなるのかぁ……)」

 

 本当はバンに譲るつもりなど無かったものが、彼に取られてしまっている現状、最後の所までされてしまう事を胡桃は察し始めていた。それは背後から抱きしめられキスをされてる最中、お尻の部分に当たる硬くなってるもので嫌でもわかる。

 

 ただ、自分はそんな尻軽な女ではないとダメ元で断りを入れる。

 

「ね、ねぇバン?やっぱり、その、こういうのは恋人同士でやるものじゃない?だからさ、私達これからも友達でいる為にも……」

 

「私、今日で胡桃と友達じゃなくなっても良いよ?」

 

「ひぇっ!?そ、それ言ってる意味分かって……んっ!!」

 

 プロポーズまでされてしまった。家族に挨拶までされ、自分との子供が欲しいとまだ言っている。こんな熱烈なアプローチを受け、更には自身に対して本気で魅力を感じてるからこそ出来る行為に酩酊感が生まれてしまう。

 

「んっ……んんっ♡」

 

 手の抵抗は、もはや無いも同じ。勝手に恋人繋ぎにされた片手と、お腹を撫でるいやらしい手に、ずーっと捕まり続けている口元をどれも離させることが出来ない。いつのまにか、自分の体なのに自分の思い通りにはならなくなってしまったのだ。

 

「(ま、まじ?うわぁ、完全にヤル顔してる……こ、これ本当にしちゃう奴だ。本当に全部、されちゃう奴……)」

 

 お腹の奥が、ゾクっと震えた。キュンッとしたと言っても良い、自分が今から『赤ちゃんを作らされる』と理解した体が、迎え入れちゃえと言ってきたのだ。

 ただそう簡単にいかないものだろう、自分は往生堂の堂主で彼は他国の人間でもある。

 

「(だめ、流されちゃいけない、今なら引き返せる……今辞めさせて、明日から普通の友達に……)」

 

 ここまでされても、胡桃は拒むつもりだった。もう彼の口付けだけで忘れられない夜になっているし、別の誰かと結婚したとしてもこの口付けを忘れる事は無いだろうと分かっていても、拒もうとする。

 だから断ろう、次のキスが途切れたタイミングで切り出そう。そう、彼女が思っていた時だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……あっ♡」

 

 服の前が、開けられた。唇を離してくれたと思いきや、蒸れていた薄い黒のキャミソールが彼の前に明かされてしまう。途端に恥じらいで冷静さを失うが、礼服ごとキャミソールすら脱がされて上の下着だけにされてしまう。

 ただ、それでは終わらない。それは背中に回された手が分からせる。

 

「ひゃっ!?だ、だめ!私、恥ずかしっ……ひゃん!!」

 

 片手でホックを外された気づき、反射的に胸を両手で隠す。ブラが落ちない為でもあるのだろうが、彼は肩紐を両方肩から外し、更に彼女の両手も剥がしにかかる。

 

「綺麗だよ胡桃、よく見せて」

 

「だ、だめ……これは、恋人じゃなきゃ……んむっ!?」

 

 ただ、固く閉ざされたそれをこじ開ける準備として彼は彼女の口に舌を入れる。途端に体の力が抜けていき、緩んだ片手から紐を抜き取る。もはや片手で抑えられたそれを、守り切る事は出来ない。

 彼女の小さな膨らみと、桃色の蕾は開かされてしまう。

 

「(み、見られてる♡私の、小っちゃいおっぱい見られちゃってる♡誰にも見せた事ないのに、キスされながら見られちゃってる♡)」

 

 ここまでさせるつもりはなかったのに、キスをされると何か満たされた感じがして体から力が抜けてしまう。こんな容易い女になったつもりのない彼女でも、上半身を裸にされてしまうと恥じらいで肩まで朱に染まってしまう。

 

「んんっ!?♡」

 

 ただ、そんな力の抜けた体も胸の先端を弄られてしまえばキスをしてても力が入ってしまう。

 

「(まっ、待って待って待って!♡これ、やばい!♡そこコリコリするの!?♡♡熱くなって頭の中変になる!!♡♡)」

 

 指先で転がされて喉からくぐもった声が聞こえてくるが、口は口で塞がれているので叫び声は出て来ない。彼女のそこは彼女の中でもかなり弱いところらしく、彼も優しく指でこねて硬くなってきたら挟み上げて焦らしている。

 

「んんっ!!んんんんんんんっっ!!♡♡♡」

 

 彼女が胸を反り上げながら、大きく体を震わせてしまうのも仕方ない事だろう。

 

「ぷはっ、んー、甘くて美味しかった♪胸だけでイっちゃうの、とっても可愛かったよ♪」

 

「んぁっ……はぁ、はぁ、あうう……♡」

 

 彼からの勝利宣言にも頭が回らない、目が回っているのだから仕方ない。

 だが、彼は彼女の情け無い姿を一通り見て微笑んでいると。徐に、腕を動かした。

 

「ふわああああああああああ!!??♡♡」

 

 胡桃の体が反り上がる、あれだけ隠そうと努めていた胸を露出しながら嬌声をあけて反り上げている。彼女も何が起きているかは分かっていない、ただ頭の中に自分の知らない情報量が届けられてしまったのだ。

 

 そして、その原因である彼はというと。

 

「凄い事になってる、胡桃も期待してくれてたんだね♪」

 

 胡桃のショートパンツを通り抜けて彼女の秘部を撫でており、淫猥な水音をたてながら取り繕う余裕のない胡桃の顔を眺めている。言うまでもなく、獲物を見る捕食者の目だった。

 

「や、やだっ!変になる!ひゃあっ!?吸っちゃだめえええ!!」

 

 そのまま顔を胸へ落としながらも彼女を責め立てていく。まだまだ彼は満足していないのを、これが前座でしかないと知る由もない胡桃は果て続けさせられるのであった。

 

 ☆

 

 手の空いた凝光から、1人の少女が派遣されている。名を藍硯、風の神の目を持つ璃月人であり、今回の件では凝光達のサポートに動いている。

 そんな中でも、今回の彼女は『胡桃のサポート』という点で役立っていた。彼女自身に能力は無いが、今回のこれが地脈に関係する事からも、親族の道術で作られた代わり身の人形といったもので胡桃の負担を減らしていたのである。

 

 元々は祖父のしていた占いが誰を占おうと死の予兆が見えたからであったが、そこから往生堂に解決のヒントがあるとまで暗示されたが故に璃月港まで来ている背景もある。

 そのことを伝えれば、今回の件は璃月全土を魔神戦争時代の生死が入り混じった混沌を招くと璃月七星は判断、彼女をサポートの1人として協力を願ったのである。

 

 それに彼女としても一度胡桃に助けてもらい境界を脱した、彼女なりに恩を返したいのもある。よって藍硯は、ピンチだと思われた胡桃の助太刀に向かったのである。

 と言っても事件は解決しているのは分かっている、彼女に任せられたのは精々胡桃の安否確認程度のものであった。

 

「無事でいてください!今すぐに……!」

 

 ただ、死の代償を払う可能性がある今回の術を鑑みて最悪の可能性も想定して覚悟をする。そんな時であった。

 

「ふわああああああああ!!??」

 

「今のは、胡堂主の声!」

 

 彼女の叫び声が聞こえた。苦しんでいるのか、だが少なくとも生きている事に安堵した。彼女は乗り越えたのだと、璃月を救ったのだと気付けた。

 不安があるとすれば先ほど響いた声である、邪気の後遺症に苦しんでいるなら直ぐに白朮先生に見せなければと、気持ちが逸る。

 

「この先に……!」

 

 そして、遂に辿り着いた場所には────

 

「あっ、入っちゃった♡全部、入っちゃったよぉ♡」

 

「よく頑張ったね、偉いよ胡桃」

 

「(ふぇっ!?)」

 

 対面同士で、衣服を纏わぬ裸同士で、互いに抱き合いながら繋がっている2人の男女がいた。

 反射的に藍硯は藪の後ろに隠れたので気づかれなかったが、向こうはそのまま抱き合っている。

 

「(な、なんであんな変態がここに!?)」

 

 1人は胡桃だろう、特徴的な赤い瞳と周りに散らばる服装からして彼女だ。そして、もう1人も名前と風貌は知っている。

 

「バン♡お腹の中、つらい♡熱くて、つらいよぉ♡」

 

「先ずは形を覚えてみようか、初めてだもんね。ほら、慣れるまで舌出して」

 

「んむっ、ちゅっ♡ちゅ、ちゅ♡」

 

 バンパー・ドゥ・フォンテーヌ、他所の国では水の神様をしている魔神。それでいてとある事実から藍硯は彼を毛嫌いしており、一度会う事があるなら非暴力的な彼女であってもぶん殴ってやるとまで思っていた存在だ。

 

 それが今、大仕事を終えたはずの胡桃とえっちをしている。噂以上の女誑しで変態だった。

 

「んあっ!?バン、まだ動いちゃ……!!」

 

 ただ、藍硯は動けなかった。

 

「(胡桃さん、凄い顔して……止めなきゃいけないのに、あんな事されてるのに……!)」

 

 目の前で非現実的に起こるソレが、あまりに自分の知らないものだったから。

 

「あ、あ、あ、あううう!!♡♡」

 

「あれ?もうイっちゃったの?」

 

「や、やらぁ!今はだめぇ!!」

 

 揺さぶられる胡桃と腰を押さえて何度も動いているバンパー、その2人の熱気による酩酊感が頭に漂ってくる。男女のまぐわいという見た事のない性欲の捕食が、躊躇いを産ませる。自分まで巻き込まれたらという恐れが彼女を躊躇させたのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ♡バン、私達、こんなことしたら……!」

 

 ただ、胡桃がどこか完全に許しきっていないのが見てとれた。体はもう許しきっていそうな程に熟れてしまっているが、瞳の奥に『こんなのは駄目!!』という意思が残っているのだ。

 ただ、それもどこか弱々しい。挿入にすら至っているからだろう。

 

「こんな事したら、赤ちゃん出来ちゃうかもって事?」

 

「っ!!」

 

 ただ、目の前のクソ男はそんな事は分かっている。何を分かっているかなど言うまでもない。

 

「もちろん出来ちゃったら、胡桃は産んでくれるよね?」

 

「あ、へ、へっと……!!」

 

 彼女を優しく抱きしめながら頭を撫でる、あまりに真っ直ぐな瞳に彼女は俯いてしまう。その視線の先には恐らくお互いの繋がった場所が見えているが、停止した彼女は肩を撫でられるとその場所が跳ねる。

 

「……っ」

 

 そして、そのまま小さく俯きながら頷いてしまった。

 

「……なら、最後までするね」

 

 それを確認して、彼は耳元で囁くように話す。辺りが静かなのもあり藍硯でも耳に届くそれは、恐らく彼女にはより深く響いたのだろう。途端に、正気に戻ったかのように胡桃は彼の胸を手で押そうとするが。

 

「へっ!?いや、今のナシ!だめ!やっぱりだめ!!あっ!?♡」

 

 当然許されず、抱きしめられて大きく動き始めた。先程までの胡桃に合わせるそれではなく、自分の欲望をぶつける動きを始めていた。

 

「はぁ、はぁ、あっ!?ああ!!」

 

 見るだけで、何度も果てているのが分かる。境界に迷い込んだ時は誰よりも気丈で頼り甲斐があり、安心させてくれた彼女が、今は人に見せられない顔をしながら喘いでいる。

 

「あ、あんっ♡やだっ、こんな♡ずるい♡バン最低、最低♡」

 

 口先だけの抵抗、しかし心までとろけてそうな顔に見知ったばかりであるが藍硯はあまりに乖離した現実に眩暈がしてくる。

 

「(う、うわぁ……胡桃さん完全にえっちになっちゃってる……これ止めに入ったら逆に怒られそうだよぉ……)」

 

 頭の中では絶対に辞めさせた方が良い、それは分かっている。胡桃だって向こうが手慣れ過ぎてて経験者だとは気付いているはずだ、それでも大きく抵抗していない。

 ならば彼女に出来るのはここから立ち去る事だろう、元々頼まれていた胡桃の安否を報せる事だ。

 

「(そ、そんなに……気持ち良いのかな……?)」

 

 ただ、それでも淫れた声を出してしまう行為に彼女も当てられてしまっていた。

 藍硯とて年頃の少女であり、人並みにそういった行為への興味もある。そして目の前で、同年代の少女が激しく耽っているのを見て何も思わないわけがない。

 

「(こ、これは様子を見る為……だ、だから先に連絡して、もう少しだけ……)」

 

 彼女は連絡用に人形を使い、凝光達に届くように向かわせた。これで胡桃の安否は確認出来るので、安心してくれるだろう。

 

「(も、もし胡桃さんを放って居なくなったら介抱しなきゃだし……み、見られるような場所でエッチするのが悪いから私は悪くない、ちゃんと仕事を……)」

 

 本来ならば彼女自身がそうする事が1番だが、目の前で胡桃が酷い事をされて終わってしまっては大変なので見る必要がある。そう自分を納得させて行為を観察する事にする。

 目の前で知り合いがえっちをしていて、目を離すなんて出来なかった。

 

「バン、バン、バン!♡私、もう……!!♡」

 

 あのまま、互いの肉欲に任せて動いている。互いに見つめ合い、好き合ってる者同士のようなキスをしたりしている。何度も何度も続き、何度も何度も胡桃は彼の名を呼ぶ。

 いつの間にか手も足も彼を逃がさないとでも言うようにしがみついており、もうとっくに彼女は堕とし切られているのが見て取れた。たった一晩で何があったらあのような関係になるのか藍硯には分からない、ただ胡桃の乱れる姿は同性であっても、来るものがあった。

 

「ふわああああああああ!!♡♡あっ、あっ、あっ、あああああああああ!!♡♡」

 

 そして、一際大きく長い悲鳴のような嬌声と共に彼女の体が震えるとぐったりとして彼に体を預けている。どこか満ち足りたような、それでいて恥じらいと気疲れが混じったような顔は、下ろされた彼に撫でられながら眺められている。

 

「はぁ、はぁ、んあっ……♡」

 

「ご馳走様……胡桃の全部、私が貰っちゃったね♪」

 

 これが、男女の行為。まぐわい、本で少し読んだことがある程度の知識しかない藍硯には刺激が強く、それでいてリアルなものだった。

 

「(ふわぁ!あんなのが胡桃さんに入ってたの!?女の子って、あんなに入っちゃうの……?)」

 

 同年代の異性の体もまた、彼女の視線が向いてしまう。あんなのにお腹の奥を突かれてしまったら、あのような顔と声をしてしまうのは仕方ないだろう。

 ただ、下ろされて頭やお腹を撫でられている胡桃を見るに光悦としているので余韻も凄いのだと思ってしまう。一応行為が終わってのやり捨ては無かったので安堵はする、最低限理由付でしていた見守りも終わりだ。

 

「(よ、よし……帰ろう。それで、今日見たのは忘れちゃおう……)」

 

 そして、こっそりと、2人に向けて背を向けて帰ろうとした時だ。

 

「じゃあ、胡桃は休んでてね」

 

 そんな話し声が聞こえた後だった。

 

「私は覗き見する悪い子に、お仕置きしてくるからさ♪」

 

「えっ!?」

 

 それが聞こえた次の瞬間に、彼女の体は後ろから抱きしめられてしまうのであった。

 

 ☆

 

 璃月のちょっとした旅行は、海灯祭翌朝まで楽しめた。

 

 元々旅人を探す為に来ていたが、何か思い返してみると璃月のみんなとエッチなことした記憶しかない。

 えー、香菱に雲菫と辛炎、刻晴、甘雨、それに煙緋と……数えるのが疲れたので全員気持ち良かったで良いか。

 

 ちなみに最終日は最後というのもあり印象深い。イチャイチャするよう心掛けて胡桃とえっちして、それを覗き見てた胸の大きい悪い子にいっぱいお仕置きして、その後は3人で楽しめたからね。

 2人とも初めてだったけど、お腹撫でた時の反応が産まされちゃうと思ってて可愛らしかった。

 

 ただ、そろそろ帰った方が良いだろう。フォンテーヌへだ。持ち家があるしね。だから、彼女と一緒に帰ることにする。

 

「バンパー様、お待たせしました」

 

 そう言って璃月港の出口に現れたのはシュヴルーズだ。彼女は仕事人間なので最近まで使わなきゃいけない有給休暇が残っており、海灯祭もあると聞いて旅行に来ていたのだ。

 そして偶々私と遭遇し、黙って貰うために2日ほど旅館で説得した次第である。いつもの礼服も良いが、旅行の為に着てる私服も可愛くて良いね。

 

「あ、あの……」

 

 なので、荷物を持ってあげながら片手で何度も撫でた事のあるお尻を触る。彼女が恥じらいながら顔を赤くしているが、抵抗していないのは何度も説得した効果だろうか、このぐらいじゃ言い淀んで顔を俯かせてされるがままにさせてくれる。

 

「じゃあ、ゆっくり帰ろうか?」

 

「……は、はい」

 

 とりあえず、何日かかけてフォンテーヌに帰ることにする。その気になればその日のうちに帰れるが、そんな勿体無い事はしない。

 

「3泊くらい、かかるかもね♪」

 

「っ!!」

 

 彼女にこっそり耳打ちしたら若干涙目で睨まれた。

 そんな顔で見られたら反射的にお尻に指を食い込ませてしまうのも仕方ないだろう。

 

 彼女も短い悲鳴を口を押さえ込んで飲み込んだようだが、先が思いやられる。こんな事で声出してちゃ話にならないのに、楽しみで仕方ないね。

 

 ☆

 

 バンパーが手篭めにした女の子と帰っている頃、往生堂には2つの影があった。鍾離は休暇で不在、その他の従業員も不在の時、2人の少女が黄昏れるように茶を飲んでいた。

 

「いやぁー、しちゃったねー」

 

「しちゃったねじゃないですよ!?」

 

 訂正があった、黄昏ていたのは片方だけであった。涙目で藍硯はここの主人である胡桃を睨んでおり、顔も恥じらいで耳まで真っ赤である。どうやら出された茶では興奮は治らなかったらしい。

 

 ちなみに、そうなったのは当然あの女誑しに女にされてしまったからである。

 

「わ、私、初めてだったのに!これからどうするんですか!?」

 

「うーん、とりあえず新しい堂主の名前だよねぇ。寧とかどうかな?」

 

「飲み込むの早過ぎますよ!?」

 

 対して胡桃の方はというと、落ち着いている。しっかりと現実を受け止めて、憤る藍硯とはまるで異なる達観した大人のような反応だ。

 

「まぁまぁまぁ、ここは一足先に大人になれたと思ってさ。養育費とかも多少はうちから融通するから、新しい旦那さん探しも手伝うよ?」

 

 その上で自分も同じ状態だというのに、心配してくれている。やはりこういった一組織の主人として、同年代とはいえ立場が違うからこそ出来る対応に思わず彼女も心が安らぐほどだ。自分が同じならここまで出来ないだろうと。

 

 ただ、その上で気になる事がある。

 

「……あの、胡桃さん」

 

「どうしたの?早く新しい旦那さん探した方が……」

 

 とても親身で、親切で、お茶まで淹れてくれている彼女に、失礼かもしれないが聞かざるを得ない事がある。

 

「私にバンパーさんと結婚されたくないから、色々気遣ってくれてるわけじゃないですよね……?」

 

 余りにも気遣ってくれるが、何故か彼をぶっ飛ばすや責任を取らせるといった言葉が無いのだ。前を向けるよう手を惜しまないと言ってはいるが、その部分だけは何故か触れていない。

 

「……そんなこと、ないよ?」

 

 だから、この外面用の微笑みもわかりやすかった。

 

「ならその婚姻届は何ですか!?なんで拇印も準備してるんですか!?」

 

「そんなの璃月の契約書類とかから引っ張れば幾らでも出来るよ、代わりに書いてあげただけだし問題ないよね」

 

 色々ダメだった、手遅れだった。胡桃は全力でバンパーと結婚する気満々だった。女の子の夢はお嫁さんとはよく聞くが、婿を形だけでも絶対に逃がさないという覚悟が見えた。

 

「偽造書類ですよね!?」

 

「拇印なら……お腹の奥に、ね?」

 

「最低な下ネタ言わないでください!」

 

 何故彼との話をすると頭が良くなったり馬鹿になったりするのか、彼とえっちをする前の胡桃は天真爛漫で聡明さも隠せるタイプの頭の良い人だと思っていたが、馬鹿みたいに頭のリソースが彼に注がれてしまっている。

 だが、それを認めるわけにはいかない。

 

「私だって責任取ってもらうんです!抜け駆けは許しませんよ!?」

 

「残念だったね藍硯、書類はとっくに出してる。今は申請登記の審査中だよ!」

 

「そこまでしますか!?」

 

「恋する女の子は手段なんか選ばないんだよね!それはバンにずっと揉まれてたおっぱい相手なら尚更だよ!」

 

「それ私悪くないですよね!?胡桃さんが小っちゃいからって僻まないでください!!」

 

 この2人が仲が良いのか悪いのか分からない関係になってしまったが、それもこれも彼のせいである。

 なお数日後に胡桃の申請が却下されてから色々と一悶着があったりするのだが、それは別の話である。





旅人(空)
璃月を脱出し、申鶴から逃げた。彼は女の子になるのもペットにされるのも飼い主になる気も無いので逃げたのである。

バンパー
計11人を短期間で喰った男。3Pをした雲菫達以外は内緒にするようお願いしながらえっちをした色欲魔。軽い変装はしていたが肉体関係のあった子には全員バレたので説得するハメになった。

シュヴルーズ
水神の愛人にされてしまったと思ってる人。フリーナの顔を正面から見れない。

辛炎
海灯祭中に雲菫と居たら雲菫と一緒に喰われた。雲菫からは謝られているが彼女の方が長めのえっちが多かったので妬まれている。

胡桃
拒んでいたのに結局最後まで子作りされた子。藍硯が連れ込まれえっちされていたのを見て盗られると思い3Pになった。彼女の胸の大きさには嫉妬しており、それでバンパーが誘惑される事を危惧している。

藍硯
えっちされた子。体は堕とされており、毎日お仕置きされた日を思い出して自慰に耽ってしまう体にされてしまった。心はそこそこ堕ちており、彼に抱き寄せられてホテルに誘われたらついてく程度には堕ちている。

煙緋
バンパーと内緒でえっちしたと思ってる人。

凝光
バンパーと籍を入れている人、偽造書類だが彼女が通すなら正式な書類になる。
内緒で自分だけえっちをしたと()()()()()
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