※この作品はR-18です。

私は人間(倫理観)を捨てるぞ、旅人!!   作:札幌ポテト

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フォンテーヌ被害者の会

千織回

7回ほど書き直した回。

後編があるかもしれない。


千織屋の店主が美人なので仕方ない☆

 

 私ことバンパーは、フォンテーヌへ久しぶりに帰還した。璃月で旅人を探すつもりの旅だったが、何か凄く良い想いをした爛れた時間だった。

 いや本当に、凝光さんとか会った瞬間に私へ殺意の目を向けてたけど口を塞いで体も捕まえたまま10分ぐらいしたら蕩けた声してくれたから修羅場とかも無かったし、簡単にベッドに押し倒せたからね。

 ちなみに1番夜を過ごしたのは回数でも時間でもシュヴルーズだったりする。フォンテーヌ迄の帰りも態とゆっくりにして4晩連続で楽しみました。沈玉の谷を通った方が近かったけど、スメールを経由した遠回りでイチャイチャさせてもらった。

 最初こそ軽く拒んでたけど、最終日には口先だけの抵抗になってたし。キスもエッチも全然受け入れてた。

 毎晩事後に『赤ちゃん出来たら、名前どうしよっか?』みたいな事を言うと顔真っ赤にして固まっちゃうのも可愛かった。出来ない事は言ってないけど。

 というか、彼女に限らず璃月で抱いた美少女達にも言ってなかったわ。でも恥じらう姿は癒しになるし、ムラムラ出来るし、本当に拒んでないから口先でしか否定しないの可愛いんだよね。これも彼女に限らないが、なんか押し倒したら皆んな萎らしくなって抱けちゃうんだよね。

 つまり同意だ、訴えられなければセーフだ。それにどうせ子供は出来ないから、安心だね! 

 

 なので、今日も今日とて────

 

「ふわぁ……バン、いってらっしゃい……」

 

「……眠そうだね」

 

「うん……そうかも」

 

 同居人のフリーナに見送られて、外に出る。普段からヌヴィレットに振られる仕事が外出理由の7割になってるが、今日はその報告だけなので早めに帰れるだろう。

 毎回律儀に送ってくれるけど、眠そうなのが可愛い。毛布を肩に掛けながら来てるのを見るとすぐに布団に戻りたそうだ。

 ただ、最近は必ず一緒に寝てるのでわかるのだが、彼女の寝起きは明らかに悪い。

 

「寝難いなら、毎晩は一緒じゃなくて良いからね?」

 

 昼まで平気で寝るし、下手したら夕方まで寝る。そして必ず私が寝る時間には寝巻き姿で部屋に来る。私としては抱き枕にできるのは柔らかくて良い匂いがするのでとても寝やすく良いのだが、彼女が悪夢で寝れないのに寝る事すら出来なくなっているなら問題だ。

 そう思っての配慮なのだが。

 

「そ、それはダメ!」

 

「え?」

 

 なんか、食い気味に断られた。見てみると眠そうにしてた目が見開かれている。

 

「ほ、ほら! やっぱり、人の温もりって1番でしょ! だから、僕の不安が無くなるまではずっーと添い寝したら幸せじゃないかな!?」

 

「でも、私って最近涎とか凄「大丈夫だから! 僕も気をつけるから!!」そ、そう?」

 

 ただ、本人が気にしないのなら良いのだ。問題は、恐らく私にある。

 

 私が涎をほぼ毎日溢しているのは、恐らく水の権能を無意識で扱いきれてないからだと思う。確証は無いがそれ以外思いつかない、私が涎がめちゃくちゃ分泌されやすい体質なのかもしれないが、それでも唇がふやける程にはならない筈だ。

 なので水の権能を有した事による軽度の暴走、いつか水を吹き出したりしないか心配だが、そこは訓練するしかないだろう。

 最近は膝の辺りも何故か湿ってたりもするのだ、フリーナの汗が偶々染み込んだとも考え辛いし、気を付けるしかない。

 

 とりあえず、フリーナの見送りを受けて外に出る。今日はヌヴィレットの予定しか無いので、どうせ外に出るなら他の予定も済ませようかと思案してみると。

 

「……あ、そろそろ服を新調するか」

 

 何度か任務をしてほつれとか出て来たので、手直しを頼みに行こうと考える。そうと決まれば手早く済ませてやるかと、とりあえず目立たないように私は適当な屋根を走るのであった。

 

 ☆

 

 フォンテーヌと聞けば水の国、正義の国、裁判の国と皆言うだろう。しかし、この国はそれだけに留まらない。

 警備を行うロボットを開発する程の科学力、メリュジーヌなる他種族との共生、他国には無い水路の一般化と、他国とは文明としてのレベルが頭ひとつ抜けている国だ。

 

 だからこそ、だろうか。文明が開花しているからこそ、芸術も開花している。

 

 中でも最近は、とある稲妻人の経営する『千織屋』がファッションの旋風を撒き散らしている。

 

「……久しいな、千織」

 

 千織屋の店主、千織の事を知る人は多い。かと言って、その経歴まで知るものは少ない。

 代々服を仕立てる良家────などというものはなく、裕福でもない商家からやんちゃな子供として産まれたが、唯一落ち着いて美しさを感じた生地と裁縫の魅力に気づきデザイナーとしての道を歩み始めた少女だ。

 そして、稲妻を離れフォンテーヌへ渡来。この後に目狩令が出た事で彼女の神の目は奪われなかったが、新天地にて1から服を仕立てるのは困難な道になる。

 ファッションの国という事は先立って服を仕立てるライバル達が存在し、各々が独創的でかつ大衆の目に焼き付ける鮮明さを日々追求している。

 そこから同志を見つけ、別れ、ファッションで勝負をし、自分の店を持つまでに至る。それこそ、他国にまで名を轟かせるところまで来た。

 

 後はフォンテーヌでの実績の象徴、ファッションウィークで結果を出す。これは彼女がそんな多忙な時期にして、人生において忘れられない事が多く起こった話である。

 

「あら、シュヴルーズ。璃月旅行で休め……ては、なさそうね」

 

「うっ、やっぱり……わかるか?」

 

 店を休みにしていた朝の書店、千織はニュースや最近のトレンドに目を光らせていた。ファッションとは感性だけでなく情報の戦いでもある、何が受けるのか、何が嫌厭されるのか、分かりやすい事として原始胎海の水を想起させる色使いを控えるなど、常日頃からアンテナを張るのだ。

 

 そして、そのアンテナを張る事を日課と知るのが友人でもあるシュヴルーズである。

 

「すまない、少し疲労感が残っててな……私が不在の間は何かあったか?」

 

 千織が振り返ると、どこか疲労感を漂わせながらも私服姿の彼女がいる。何故かいつもより首周りの肌の露出が少ない格好だが、見慣れた友人の姿がある。

 

「目ぼしいものは何も、噂話の域でも殆どが新しい水神様が何とかしてるそうよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「これもアピールなのかもね、神は健在とでも言いたいのかしら」

 

 どこかぎこちない気もするから、疲労もあるのだろうと千織は流す。

 ちなみに普段2人が話すのは情報だ。少し前も麻薬の一種であるロシの摘発などを行った。シュヴルーズの聞きたいのは、その他の話なのだろうと察しての会話なのだ。

 

「君の国は、神が健在だからか」

 

「何でも使節団が来るそうね、私には関係ないけど」

 

 ただ、平和そのもの。少なくとも千織の知る限りで、起きた事は全て解決したと耳にしている。ただトピックが無いわけではなく、メロピデ要塞に人語を話すヒルチャールが現れた事件もあったが、それもまた例の水神によって解決している。

 

「ただ、貴女がいない間に色々聞いたわよ。御目当ては水神とかね」

 

「それは……やはり元は稲妻人だったりするからか?」

 

「顔はそうだけど、どうかしら。予言の鯨を1人で倒してフォンテーヌ人を人にする程の存在よ。会った雰囲気は人だったけど」

 

「あ、会ったことがあるのか!?」

 

 ただ、今日のシュヴルーズはどこか変だ。特に水神の話をしていると目を右往左往させるし、どこか落ち着きがない。

 

「な、なによ。別に貴方は上司だし、顔を合わせるぐらいあるでしょ」

 

「そ、それはそうなんだが……!」

 

「別に、稲妻の繋がりとか無いわよ。彼の装い、私が仕立ててるから2,3回手直しで顔を合わせただけ」

 

 ただ、千織と新しい水神の関係などその程度だ。あくまでも千織は彼の装いを整えた事のある仕立て人。少し稲妻の要素もある着物を渡しているのも、黒髪には合うと判断しての事だ。他意はなく、ただの1人の客である。

 

「そっちの話で言うと、使節団が来たら来たで護衛やら忙しくなるでしょうね。他の国も時期を見て送ってくるでしょうし」

 

「あ、あぁ……そうなるな」

 

 水神が変わろうと、何も変わらない。千織の知るところではない。

 仮に稲妻の使節団が稲妻へ彼を送還したいと願ったとしても、千織の気にする事では無い。実務という意味ではヌヴィレットが変わらず仕事をしているので、条例など変わりもなく生活に影響はない。

 ただ世間はそうではないので、トレンドの流れに何かしら関わるなら目を向けるだけだ。

 

「まぁ、それは良いわ」

 

 ただ、それはあくまでもファッションデザイナーとしての千織だ。シュヴルーズの友人としての彼女は違う。

 

「それで、長居したいのはどうして?」

 

「あ、え?」

 

「本題があるんでしょ、私としか話せないようなもので」

 

 今日のシュヴルーズは、いつもと違う。少なくとも璃月の旅行前までの彼女は、こんな遠回しに世間話を長々と続けてはいなかった。本題の前座としての会話、もしくは本題そのものの発端、求める話題をしっかりと求めてきた。

 

 今日の彼女はそうじゃない。千織の会話に合わせる会話、そこから千織の話を聞くまではいつもと変わらないが、自分の話をしたい素振りがない。少しぐらい耳を寄せて欲しいと言葉を選ぶ彼女が、言葉を選ぶ事すらしないでいたのだ、異常と言って差し支えない。

 

 そして、彼女の反応はその答えと言って良い。

 

「そ、それは……」

 

 いつもならば「君には敵わないな、実は……」のように素直に話すのに、今は頬を赤らめて視線が斜め下に向いている。まるで、話す事に恥じらいがあるかのような雰囲気に、千織も珍しくたじろぐ。

 

「まさか、璃月で何か……いや、え?」

 

「え、あ、いや、違っ……てる、わけでもなくて……」

 

 あのシュヴルーズが、仕事人間で正義の体現者で変わり者の彼女が、頬を赤らめて、目を右往左往させて、言葉が頭の中で纏まらずに、恥じらう普通の女の子と変わらない反応をしている。

 

「ねぇ、もしかして」

 

「その……け、化粧水って、どんなの使ってる……?」

 

 千織の問いには答えなかったが、彼女の返してきた問いにどう答えたものか、珍しく隠し事をしたいシュヴルーズの顔は記憶に残りそうだった。

 

 ☆

 

 千織が一括で美容用品のおすすめを教えてから数日、明らかに肌艶が良くなってきてるシュヴルーズを遠目にしながらも、敢えて触れずに行く末を案じる。

 

「まさかシュヴルーズにねぇ……」

 

 人をあそこまで変えるというのだから、相当な衝撃だったのだろう。ただ人の恋路は見守るに限るのだ、それ以上は踏み込むのは野暮だろう。それだけ恋愛はデリケートなのだ。

 世間ではとある記者の情事中の写真が流出し着込むようになった者もいる、行き過ぎた取材中に抱かれちゃった彼女が誰の者にされたのかを邪推するのも同様だ。

 ちなみに千織は励ましたが、リネットは『大事な所は見えなくて良かったね……逆にエロいけど』と言って掴み掛かられていた。彼女がそんな下ネタを平然と言うようになったのも驚いたが、皆変わっているという事だろう。

 

「あれ、店長どうかされましたか?」

 

 だから、千織も変わらないといけない。

 

 フォンテーヌのファッションデザイナーの1人、で終わらない。

 

「何でもないわ、それよりサミュエル……開店の準備は終わったの?」

 

「はい、いつでも迎えられます!」

 

 今、フォンテーヌではファッションウィークなる時期を迎えている。読んで字の如く、ファッションに目が集まる期間として指折りのデザイナーが思い思いの意匠を凝らして服を作る。

 

 千織もその1人であり、ここで結果を出すことはデザイナーとしての名を馳せる事に繋がる。

 

「そう、なら開けて……ん?」

 

 だからこそ今日も客を招きながら、いつも以上に気を張っていると。

 

「あら、先日はどうも」

 

「え、あ、その」

 

「採寸はしたから、装飾に追加の希望かしら?」

 

 開店と同時に、1人の女性が入ってくる。彼女は千織にドレスのデザインを頼む、社交会で着飾る事を楽しみにしていたというのもあり要望は色々とあったのだが、追加で求めたい機能性や衣裳でもあるのかと思っていると。

 

「その、すいません。この前のドレスなんですけど、キャンセルを……前金は大丈夫なので……」

 

「え? えぇ……それは構わないのだけど」

 

「そ、それでは」

 

 それだけ言うと、前金の一部返金の話をする前に去って行かれた。まだ作り途中だったので半分以上は返せたのだが、そう言われてしまえば仕方ないだろう。

 ちなみに、この手の話はないわけじゃない。完成に際した支払いが出来なくなりキャンセルされる事は往々にして起こるのだ。

 

 しかし、前金に対して全くごねられないのは珍しかった。

 

「エローフェ、この前のは……って、休みだったわね」

 

 仕方ないのでキャンセルの整理をしようと店の応対を任しているエローフェを呼ぼうと思ったが、彼女は休暇を取っていたことを思い出す。最近体調が優れなかったのだ、代わりに雇ったサミュエルは最低限の仕事はこなしてくれるが色々とまだ任せられない。

 

 仕方ない、自分で対応しようと思い奥の帳簿を探しに向かった時だ。

 

「ちょっと、店主はいるの!?」

 

「はい、私が店主の千織ですが」

 

「先週頼んだドレス、返品したいのだけど!」

 

 突然押しかけて詰め寄る淑女が、先日千織が作り上げたドレスを片手に睨んでくる。乱暴に置かれたドレスであるが、出来た当初は本人も気に入っていたはずだった。見たところ、ほつれといった不備も見当たらない。

 

 そして、その後ろから人が更にやってくる。開店しているのだから当たり前ではあるのだろう、しかし日常的な来客ではない事を直ぐに察する。

 

「妻に贈った着物だが、返品させてくれ。出来ないなら破棄で良い」

 

「ウェディングドレスの受注ですが、無かった事にして下さい」

 

「千織殿、暫くうちからの納品は滞りますのでご報告に。それでは」

 

 全員が全員、千織に対して好意的とは言えない顔つきをしていたからだ。

 

「(どういう事、キャンセルそのものはおかしくない。それでもこの数は)」

 

 一人一人対応し、返品ないし返金の対応を伝える。この類の仕事はまだサミュエルには任せられないので、窓の外から見える外に並ぶ人の整理に向かわせる。

 

「(最初の気の弱い子は、逃げるように。次の客は怒声、その次は返金要求、ここまで重なる何かがあった……と、考えるべきか)」

 

 千織は、実力でここまで登り詰めてきた。正直に言って、自分の服に文句を言う奴など敗北感からの遠吠えと切り捨てられる程度の自信がある。

 その自分の服が、否定されるのは彼女の服そのものか問題ではない。

 

「(何か、仕掛けられている)」

 

 しかし、誰が仕掛け人かは分からない。いや、正確にはファッション業界のライバル達は全員容疑者になってしまう。善性を持つのがデザイナーというわけではないし、他者を蹴り落としてでも上に立ちたい者がいる事を千織は知っている。

 

 ただ、今は情報が足りない。これがファッションウィークのライバルからの攻撃ならば同業者には起こっている状況だが、千織への恨みから狙って来た可能性は十分にある。

 

 そう客を対応しながら、思案していると。

 

「て、て、店長!!」

 

 外での対応を任していたサミュエルが、慌てながら店に入って来た。

 

「落ち着きなさい、服に乱れが出るわよ」

 

「だ、だってぇ! 外に普通に居るのが可笑しいというか何というか、店長探しててぇ!!」

 

「……何ですって?」

 

 だが、ここに来てサミュエルの慌てように違和感が大きくなる。このタイミングで彼女が慌てる程の誰かは著名人か悪人か、はたまた千織に深く関係する人物か。

 

 それを聞いて、彼女の取る手は直ぐに決まる。

 

「通しなさい」

 

「え、いや、簡単に通しちゃダメそうというか……通したら通したで凄い事になりそうというか……」

 

「早くしなさい、私はその客に用事がありそうだから」

 

 態々相手から顔を見せてくれるのだ、情報はどのような形でも手に入れるかで打てる手が変わってくる。

 それに現段階でも絞り切れないものの様々なパターンでの容疑者候補の想定は済ませた。千織にとって、この業界で生きる者にとってファッションウィークは生命線であり、大きな戦場だ。ここを見送る選択肢はないし、それを見越して仕掛けて来たなら業界人なのは間違いない。

 

 ならば、前に出てきたそいつの首を締め上げてやれば良い。事態は直ぐに収まり、十分な時間をファッションウィークの準備にあてれるだろう。

 

「ねぇ店長、さっさとモラを」

 

「後日返金致しますので、そう乱暴にされると額が下がりますよ」

 

 千織の興味は、もうそちらに向いた。自分の服を選ばない者に興味がないという意味ではない、これは『くだらないこと』を目的にしている客に嫌気が差しているだけだ。

 この女性は正義と正論を振り翳して千織を糾弾したいのであり、モラを渡しても関係なく今度はモラの量で糾弾の仕方を変えるだけだろう。

 自分のブランドを世界に広める事こそが夢であり、それとは関係の無い仕事をやるつもりはないのだ。ただ、そのストレートに包み隠さない物言いが神経を逆撫でしてしまう。

 

「元々価値なんざ無いようなもんでしょうが!!」

 

 女は千織へドレスを投げつけようと手を振りかぶってきた。好き勝手言うことは気にしない、返品したければ規定通りの対応をする、しかし千織の生み出した服を蔑ろにするならばその限りではない。

 反射的に手首を掴み店の外へ投げ捨てる事など造作もない、一線を超えた相手に手心など加えるつもりはなかった。

 

「それは良くないんじゃない?」

 

 ただ、その反射よりも素早く客の腕は他の誰かに掴まれた。

 

「何するんで……あ、あ、あ!?」

 

 客も反射的に掴まれた腕から、掴んで来た相手を見た。いつの間にか騒がしかった店内は静まり返っており、全員かその行く末を見守っている。

 ただ、恐らくは外から案内したのであろうサミュエルだけが落ち着かない顔をしながら固まっている。

 

 大物は大物でも、神を連れて来たのだから。

 

服屋(ここ)(それ)をぞんざいに扱うのは、いただけないよね」

 

「ひゃっ、の、その……!?」

 

 バンパー・ドゥ・フォンテーヌ、三代目水神である。

 

 腕を掴まれた客は顔を真っ赤にしながら口をパクパクとしている。特に千織は思うところはなかったが、少しスカッとした。

 掴まれた腕を見ながら壊れたおもちゃのような反応をしている。

 

「久しぶり千織さん、少し割り込んじゃったね」

 

「い、いえ」

 

 千織はヌヴィレットから依頼された装いを仕立てている。今も身に纏うのは水神としたのイメージをした着物ベースのものであり、元々稲妻人のようなら容姿をしているのもあり採用されたものだ。

 当然、バンパーと千織は顔見知りであり、この中で唯一好意的な目を彼女へ向けている。

 

「貞淑さが、フォンテーヌの美徳だと私は思うよ?」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 千織への挨拶も程々にすると、大人しくなった客へ乱雑に扱っていたドレスを畳み折ると手渡し、なされるがまま抱えた後の両手を包んでから彼女を送り出す。

「硬くて、おっきいんだ……」などと呟きながら去って行ったが、返品するつもりのドレスも持って帰って行った。恐らく返品されないんだろうなと思いつつも、次なる客へと目を向ける。

 

「バンパー様、この時間に珍しいですね」

 

 サミュエルはまた外の整理に逃げたようだが、慌てていたのも納得だ。手元に紙袋が見えるので仕立て直しか何かだろう、それで朝から並んでいる千織屋のキャンセルの列に並び始めた事で周りが困惑、意識すればやけに外の喧騒が静まっているのも分かる。

 

「様付けは慣れないからやめて欲しいんだけど……私、割と庶民的な感性なんだからね。この装飾品とか少しぐらい減らしたりとか……」

 

「ヌヴィレット様からの要望ですので」

 

「直に頼めない?」

 

「それに関しては御自身で伝えて下さい」

 

「書類にサインとか色々仕事振られるから、あんまり会いたくはないんだよねぇ……」

 

 意外に、彼は神らしくない。正確には神らしいところをさっきの乱暴な客を諌める瞬間以外で見た事が無かったのでかなり気安く話せている。容姿が同じ稲妻人なのもあるだろう、千織としてはさっきの温度差で少し話しづらくなったが直ぐに平常に戻れている。

 彼もまた客の1人ならぬ1柱なのだ、それなら彼女のやる事は変わりない。

 

「それでなんだけど、また仕立て直して貰えるかな。裾の調整とかも頼みたいし」

 

「今ある予定次第で対応いたします」

 

「わかった、また落ち着いた時に来るよ」

 

 今日初めての受注だ、千織は丁寧に紙袋を受け取り帳簿を取り出して受付をする。状態は解れなどが少なく、洗濯なども気を遣っているのが見てとれた。

 それに神であることを誇示せず、1人の客としての意識を持っている事にも好感は持てるだろう。実を言えば彼女の目標であるブランドを世界に広げる夢に彼という存在は大きく、最近では璃月から水神の伴侶をイメージした装いを仕立てて欲しいと世界一の金持ちから打診もあった程だ。

 間違いなく、彼女の夢の飛躍に繋がる。彼という存在は人間性の部分でも好ましく、良きパートナーを紡いでいきたいとすら考えている。

 

 ただ、今はその順風満帆の時期に吹く向かい風が大きい。

 

「バンパー様、それは控えた方が……」

 

 千織が受け付ける間、意を決したように1人かバンパーへ話しかける。

 

「そ、そうです。上手くは言えませんが、どこの新聞も……」

 

 他の客も、畏れながら同調する。それは気遣いであり、それでいて機嫌を損なわないような配慮をしている。彼らは悪くないだろう、どうやら新聞で何か悪様に書かれたようだが、その心配を向けるのは間違いではない。

 彼はフォンテーヌの英雄だ。民に寄り添う存在であり、民の為に命を張って戦い、その民からの気遣いを無碍にしない。そのような存在なのだ。

 

「……千織さん」

 

 少し溜めながらバンパーは目を向けて来る。

 

 千織は、一度ペンを止めて彼を見る。

 

 彼らが本気で心配をしているのを察したのだろう。ならば、その後の言葉は容易に想像出来る。

 

「(……そう。私から、貴方でも遠のくのね)」

 

 期待して帳簿を開いたのは、楽観しすぎたか。恐らく千織への今回の依頼は『様子を見させてもらう』などと事実上の最後通知をして去ってしまうのだろう。

 少なくとも今の千織屋へは服の依頼どころか関係者とも思われたくない風潮のようだ。神などという国の象徴が、それでも着るなど易々と判断は出来ない。

 

「(今に始まった事じゃない。ただ、それでも)」

 

 絶対に屈しない、千織屋はその意識で創ったブランドだ。いつか世界に轟かせる、その意思に揺らぎなどない。

 だから来るが良い、どんな困難もそのうち乗り越えてやる。そう決意を胸に睨みつけるような眼光を宿し彼の言葉を待つと。

 

「フリーナの装いも、新しくしたい。

 ────()()()()()()()()頼んで良いかな」

 

 まるで周りの心配など気にもせず、むしろ自分の判断こそが正しいとでも言うように真っ直ぐとした目が千織に向かっていた。むしろ、千織を見て言葉を紡いでいた。

 

 思わず言葉を失いかけるが、合っていた眼を帳簿に逸らせば悟られないだろう。

 

「……丁度キャンセルがありましたから、お引き受け出来ます」

 

「なら頼む、彼女も初めての生活で色々と苦労しているし……要望は彼女を連れてから話したい」

 

「かしこまりました」

 

 そう言って、彼は去っていく。周りを意に介さず、自分の道は自分で歩くとでも言うように。

 そして、宣言通りフリーナを連れて来るのに時間はかからなかった。

 

 ☆

 

 千織屋の営業時間は、それほど長いわけでもないし短いわけでもない。日々の業務を恙無く終わらせればお風呂に浸かる頃に眠気が来る程度の労働量だ。

 しかし、今日に関してはその限りでは無かった。

 

「今日は大変でしたね……」

 

「えぇ、お疲れ様」

 

 千織の前には、干からびた様に全身から疲労感の溢れたサミュエルがいる。朝から人の対応で疲れていたのもあるが、やはり今日のピークが響いたのだろう。

 

「フリーナ様達が来たおかげで大忙しでしたよ……」

 

 新旧の水神が揃うという事態は、すぐにヌヴィレットの耳にまで届いた。そうなると、彼存在は遺憾無く実権を振るった。最近ではあの2人に対してだけ重い腰を上げるのが早過ぎると言われているが、あのドラゴンは気にしない。

 

 千織屋には警備の為の人員が大量に派遣され、非番の者すら志願し警備に尽力した。当然であるが、フリーナの仕立ての間はヤジを飛ばすものも居なければ、キャンセルをしようという勇気を持つ者も居なかった。

 むしろ2人のショッピングデートを見に記者が控えていたり、それを見ていたキャンセルをした客がキャンセルの取り消しに現れたりもした。

 普段から自宅周りに記者が入り込まないよう手配されているのもあったのだろう、ここぞとばかりに押しかけた。

 明日の紙面には水神の影響あり気ではあるが、あの2人の贔屓の店として千織屋はまた名を知らしめる事になるだろう。

 今日の騒動も人の目が多くあった事で人伝に広まり裏付ける深みも生まれてくる。ピンチはチャンスと言うが、中々に拾えない勝ち目であった。

 

「それで、どうだったの?」

 

 だからこそ、次はそんな手を打たせない。そのためには、敵を知らなければならない。

 故に千織は、店仕舞いをした後の店に彼女を招いている。

 

「いくつかの新聞社がタダで記事を配ったらしい、一部であるが接収出来たぞ」

 

 そこにはシュヴルーズだ、早くも化粧品での借りを返しに来ていた。よく見ると薄く口紅を塗っていたり、肌が少し白かったりと役には立っているようだ。

 ただ、それについてはまた今度にでも話すことだ。

 

「内容は大きく2つ。服の素材についての妄言と店主の粗暴さへの言及だ、証拠らしき写真までついてな」

 

 新聞には千織屋への批判が載っている、服の素材が違法で悪質なものという根も葉もない妄言が多いが、大衆は馬鹿ではないのでこれでは乗せられない。故に写真の方が決定打だ、千織が人を足蹴にしている暴力的な写真が一面であった。

 

「なるほど、あの時のが撮られていたのね」

 

「店長、落ち着き過ぎてませんか……?」

 

「私は悪くないもの、落ち着けるに決まってるわ」

 

 実際、この写真の通りに足蹴にしたのは事実だ。しかし内容はロシ(麻薬の一種)を売り捌こうとしていたのを下手人共々引っ叩いただけであり、その時はシュヴルーズも同席していた。言ってしまえば捜査の協力だ、それも千織へ害をなそうとしていたからこその正当防衛でもある。

 

 だが、シュヴルーズも写っていないこの写真は傍目には悪役が千織になっている。

 

「仕方ないわね、暫くは時短勤務よ。私の方が動けなくなるし」

 

「うぅ、面目ありません……」

 

 このまま、千織はファッションウィークに必要な装いの用意がある。デザインはある程度固まってはいるが、何人か取引の断りの連絡があったので対応もしなければならない。そしてその不在の間の店番を、サミュエルにはまだ任せられないのだ。

 

 幸い敵の目的が千織屋、もとい千織へのやっかみであるのは確定した。サミュエルやエローフェまでは襲われないだろう。しかし、このまま大人しくする気はない。現状、危機は乗り越えたというよりは誤魔化した状態だ、それにまだまだ疑念を拭えていない。

 

「貴方達には迷惑をかけたわね、今日はもう帰って良いわ。今週は休業にするわ」

 

「良いのか?」

 

「その、今は……」

 

「安心しなさい、フォンテーヌファッションウィークを諦めたりしないわ」

 

 新衣装の制作、そして敵への天誅を与える事、どちらもこなさなければならないのが困るところだが。

 

「誰を敵にしてるのか、分からない阿呆を殴れば良いだけよ」

 

 彼女は優しくないので、要らぬ心配だ。

 

 そして、その次の日。朝早くから彼女は動く。

 

「ヴェンゲル、千織よ」

 

「……やはり、来たか」

 

「当たり前よ、ファッションウィークに飾り付け無しで服は作らないわ」

 

 千織は、一人の仕事仲間。もとい、業者のところへ来ていた。基本的なアクセサリーを仕入れ先、ヴェンゲルと呼ばれる初老の男が目的だ。

 

「済まないが、今回は勘弁してくれ」

 

「あの記事を鵜呑みにしてないでしょ」

 

「この写真では君に非があるように見えてしまう」

 

 千織としても、今回は敵の意欲がどこまで伸びているのかの確認に来ている。予想よりも千織への憎悪が大きそうだ、なので犯人も絞れてくる。

 ただ、やはりファッションウィークのタイミングというのもあり新しい衣装を作るに当たっては色々と断られたら困る。

 

「私としても、もう少し若ければ力を貸せたが……向こうは私の父がメロピデ要塞に収監されていたことまで調べている。すまないが、娘達にカメラが向くのは避けたい」

 

 この様子では、他もそうなのだろう。これから新しい業者を探すのは今の風聞を加味すれば叶わない。

 

「何も今回で千織屋と縁を切るわけじゃない、今回のウィークだけ避ければ良い。また挑戦する時に、前もって融通する事も可能だ」

 

「嫌よ、私は諦めるつもりはないもの」

 

「……千織、こんな境遇に陥ったのは君の性格のせいかもしれないぞ? そうは考えた事はないのか」

 

「なら逆に、この性格で千織屋が成功したと考えられないの?」

 

 千織の物言いには、ヴェンゲルも頭を抱える。確かに千織に非は無いのかもしれないし、悪辣な手を使う向こうの手合いを懲らしめるべきだ。ただ、千織の気の強さは気に入らないライバル達には面白くないのも事実だった。

 

 それに、前日の批難が彼女の手によって店を守ったわけじゃなかったのもある。

 

「昨日は偶々、フリーナ様達が関わって最悪には至らなかった。だが、大衆からの千織屋への疑念はまだ晴れていないんだぞ」

 

 千織屋は、もはや千織一人の場所じゃない。従業員もそうであるが、その顧客の人生にも関わっている。店の為に戦うのは構わないが、店を守る事も仕事なのではないかと諭したいのだろう。

 

「それで、なに?」

 

 ただ、そんな自分に非の無い者でも取る策を彼女は取らない。

 

「バンパー・ドゥ・フォンテーヌ、彼の衣裳を任されているのは業界に携わっている者なら分かる。君への疑念など彼の威光でじきに……」

 

「分かってないのね、私の事を」

 

 彼女は、揺らがない。それが千織であり、千織屋のブランドでもある。それが崩れてしまうのならば、千織屋が傾いてしまう。

 誰しも、悉くを正面から撃ち破る気の強い存在に心揺らぐのだ。

 

「それで私は納得しないし、諦める理由にもならないわ」

 

 しかし、収穫はあった。敵の察しもついた、後は首を取りあげて信頼を取り戻すだけである。

 

「来て良かった、誰がやったか察しがついたから」

 

 ただ、彼女は気づかない。

 

 その二人のやりとりを、朝の散歩で屋根上から覗き込んでは耳を傾ける青い影があった事を。

 

 ☆

 

 千織屋がそんな事件に巻き込まれている一方で、フォンテーヌは平和そのものであった。

 先にあった予言も解決され、更にはその他に起きた事件の多くも解決されていたので、忙しなく動き回るのは洪水復興の土木従事者と異例の速度で解決される事件の後処理に動く執律庭だけである。

 

 そんな平穏な最中、あの予言の中心にいた旧水神は────

 

「うぅ、大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫ですよ、今回は朝食の練習なんですから!」

 

 ナヴィアの主催する、料理教室に来ていた。なお、講師はカーネル・デセールと名高い存在で、かなり本格的な会であった。ただ旧水神という事もあり、皆とは違い個人レッスンのようなものになっている。

 

「まさかフリーナ様が来てくださるなんて、やっぱり料理は出来たら楽しいですもんね!」

 

 ちなみにフリーナについては直々に招待を送った。過去にパスタの限界レシピが送られて来た事をポロッと講師役に溢してしまい、鬼気迫る剣幕で『今すぐ送りなさい! というか私が店を辞めるか送るか選べ!!』と言われたからである。

 よく見るとナヴィアの顔を冷や汗が伝っている。今日来なければ抱え込んだ優秀な料理人がギャラ無しで泊まり込みの専属シェフを願い出そうな勢いだったのはここだけの話だ。

 

「うん、それに今度は僕がバンにフォンテーヌの味を覚えて欲しいし」

 

「うっ……そ、そうですわね!」

 

 ただ、実はフリーナとしても今回の話は渡りに船であったりする。いつも稲妻料理という彼の故郷の味を振る舞われているのだ、今度は自分の国の味を覚えて欲しいというのは当然の想いだろう。

 なお、一昨年はナヴィアの家に泊まってフォンテーヌ料理どころか全部味わられているので別の意味の冷や汗が流れる。当然ナヴィアから誘った、偶々サーンドル河まで降りてた彼に後ろから抱き着いて『今日は、大丈夫な日ですよ……?』などと囁いたら結果は言うまでもない。

 

「最近はバンも帰りが遅いし、帰ってこない日はもっと多いし……そ、それだと奥さん失格だからね!」

 

「ぐふっ!?」

 

「あれ!? ナヴィア!?」

 

 ナヴィアが突然胸を手で抑えて蹲ってしまう。

 

 なお、ナヴィアが不倫に相当する事は分かっているし一昨年は全然大丈夫じゃない日なのも分かっていたが、彼以外と番う未来など見えなくされてしまっていたので仕方なかった。ちょっと強めの光に焼かれてしまったのである、なお被害者が多い事は知られていない。

 ただ、今は友人ともなっている正式な伴侶(某水龍が手続きをした)であるフリーナに対しての罪悪感が無いわけでもない。

 

「だ、大丈夫です。ただ、その、バンパー様もフリーナ様の手料理を食べられて幸せだなって……」

 

「いやー、その、やっぱり帰ってきた時にご飯があると帰ってきたって感じがしてくれると思って……」

 

「かはっ!?」

 

「え!? ナヴィア大丈夫!?」

 

 ナヴィアが倒れた。光に焼かれて倒れた、自分が裏で爛れた関係をする一方で新婚夫婦の理想を見せられて想像して倒れた。フリーナが介抱するも、逆に自分には手に入らない光が直火のように照り付けてくる。

 

 ちなみに、今の時間は講師役が到着するまでの時間であり、簡単に調理を済ませて既に配膳の寸前まで行われている状態だ。2人が雑談をしていたのも、講師役の彼女────

 

「ちょっとナヴィア、厨房は貴方みたいな置き物があると邪魔になるのだけど」

 

 ちょうど、やって来たエスコフィエを待っていたからだった。入って来て早々に置き物と化したナヴィアを立ち上がらせると、しおらしいのも気にかけずにもう1人の方へと向き直る。

 

「久しぶりだねエスコフィエ。君に料理を見てもらえるならこれ以上無いかな」

 

「あら、フリーナ様♪ 本日はお日柄も良く、私も今日と言う吉日をお待ちしておりましたよ♪」

 

「うん、それじゃあ審査をお願いするよ」

 

 何だか声のトーンが2つくらい高くなっているが、フリーナにとってのデフォルトがそうなので彼女は気にしない。ナヴィアがジトッとした目をしているが、それも気にしていないようだ。

 

 そして、粛々と配膳される料理を手に取る。テーマは朝食というのもあり、スープやパンといった具合の軽いものが並んでいる。

 

 その評価については────

 

「ご馳走様ですフリーナ様♪ 海藻の出汁とコンソメを合わせるという発想も素晴らしいです♪ これなら栄養のあるスッキリとしたスープで朝を迎えられますわ♪」

 

「わぁ、それなら良かった!」

 

 後に会う新しい水神より『フリーナ全肯定bot』と呼ばれるほどの敬愛っぷりを見せていた。その後もフリーナの料理を一通り楽しんでおり、本当に料理の審査が出来てるかも怪しい発言を繰り返してくるが。

 

「あの、エスコフィエ? 私のトーストは……」

 

「何よこのジャリジャリとした食感のシュガートーストは。砂を喰むのはアサリだけで良いのよ、脳味噌をバターで溶かしてないでマシな物を溶かしなさい」

 

「で、でも……これでも美味しいって言ってくれたし……」

 

「惚気るんじゃないわよ、その愛はスープより冷めやすいわ」

 

「酷い!」

 

 料理人としてはしっかりと辛口で、置き物をどかした時の気の強さは料理人としての気質らしく発揮されている。

 何はともあれ、フォンテーヌは今日も平穏だった。後にこの場にいる者全員とその他大勢がフォンテーヌ全体で物議を醸し出す裁判が行われるまで、その平穏は続くのだろう。

 

 ☆

 

 フォンテーヌの郊外、とある地下の工場があった。自動での制服が行われているのか、マシナリーによって調整されたベルトコンベアには多くの服が煩雑に並んでおり、更には染色液からは実に科学的な臭いが全体へ充満させている。

 

 どの口が違法だの乱雑な衣服などと嘯けたのかと、フラストレーションは十分だった。

 

「やっぱり貴方だったわねユーサー」

 

 千織は、そこにいた。彼女宛に届いた招待状を片手に、敵の本拠地へと突撃していた。煤けた服を見れば、道中は穏やかではなかったのだと察せられる。

 

 そして、目的であった男は尚も毅然とした態度を崩さない。

 

「ふ、ふはは! やはりだよ、千織! お前は1人で来ると思っていたぞ!」

 

 ユーサーは、かつての千織の仲間だ。まだフォンテーヌに来て日の浅い時に、共にフォンテーヌでファッションの頂点を目指すと志した、そんな仲間だった。

 今回、千織の事を相手は知りすぎている。だからこそ、彼だとアタリはついていた。

 

 そして、今の状況が語るように2人は道を違えた。

 

「お前には、真に信頼する存在は居ない。全てを預けるのは己のみであり、それに他者を巻き込もうとはしないだろう」

 

 千織の事を知るユーサーは、その独善としたやり方が気に食わなかった。自分こそが唯一で絶対とでも言いたげな振る舞いは、同業には目障りになる。

 そして、それが成功したとなれば憎悪に変わるのは時間の問題であった。

 

「御託は良いわ、直ぐに水の下での生活を享受させてやるから」

 

 ただ、逆も然り。ユーサーの事を知るのは千織も同じだ、彼が千織と異なり剣を振り回す事も出来ない男である事は知っている。

 神の目もない男を前に、銃でも取り出されようと瞬く間に制圧してやれると勇み足で彼を睨みを効かせていると。

 

「あぁ、お前はそうだ。自分で全てを成し遂げられると思っている」

 

 両手から、刀が落ちた。

 

「っ!?」

 

「だからこそ、お前を信頼していた」

 

 途端に、千織の全身から力が抜けて床にへたり込んでしまう。動悸が激しく、体が火照るように熱くなり、己の体が自分の言う事を効かない。

 

「これ、は……っ!!」

 

「気付いてただろ、薬品で服を染色してたのは。でもその臭いが強めだったから、こっちの方が混ざってたのも気づかなかった」

 

「(毒っ!? ただの制服工場でこんなものを!?)」

 

 毒物、と言っても差し支えはないが致死性はない。ただ、人間の欲求の一つを著しく強めて惑わすものだ。なぜそんなものを選んだのかは分からない、どこまで堕ちていたかは分かったが千織は意識すらぼやかされ始める。

 

「甘いんだよ、お前は。自分が不相応な野望を持っていることを知らず、ただの女であることすら理解出来ていない」

 

「やめっ、離しなさっ……!!」

 

 千織は、手を引っ張られると引きずり倒される。今は華奢な少女よりも弱い力しか出ないのだ、簡単に仰向けにされてしまう。

 

「こんな事して、貴方はどこまで罪を重ねるつもり……!」

 

「さぁ、俺は今からお前に罰を与えるだけさ。罪を理解しろよ、女に生まれたことのな!!」

 

 これから起こることを、千織は忘れる事は出来なくなる。無力にされ、誰にも許さなかったものを犯される。その時は、避けられない。

 

「はっはっはっ、ふおおおおおおっ!?!? 

 

「男に生まれる事の咎だ、しっかり味っとけ」

 

 無防備なユーサーの股を蹴り上げながら、それは現れたのだから。

 

 ☆

 

 千織さんが危なそうな事に巻き込まれてるのを察し、朝の事件をサクッと解決した私ことバンパーはこっそり追いかけた。どうやら千織屋にクレームが殺到させた黒幕を見つけたようなので、私も証人の一人として手伝おうかなと思い動いた。

 

 そうしたらユーサーと名乗る男が千織さんに馬乗りになっていた、下卑た声をあげて反抗択な目をした彼女を食い尽くさんと野獣の如き人でなしの行為に至ろうとしていた。

 

「お、おあ……あ、あ、あ……!」

 

 そんな彼だが、現在は獣のような雄叫びを上げて時折痙攣していた。彼女を守る為に手っ取り早く彼女を虐めようとしていた部分を蹴り上げたのだ、美人を食べたい気持ちはわかるが完全に同意の無い行為など私は許さない。

 どの口が言ってやがるとか言われるかもしれないが、私のは最終的に不同意を同意にしてるだけだ、奴とは違う。違うったら違うのだ。なので正義の心で玉を蹴り上げたのだが、壊れない程度の力加減はしたせいか意識はあるようだ。

 

「あ、ぐっ、警備システムは!? 何故こんなところに貴様が!? ま、まだ来るには早過ぎるぞ!?」

 

「起動する前に壊した、そんなに数もなかったし」

 

「20台は有ったんだぞ!?」

 

 そうは言われても、千織さんも結構壊してたからバレなかっただけだ。まぁ獲物が掛かったと思って油断してたんだろう、油断せずに逃げようとしてたら補足してたし逃さなかったけど。

 それでも、男は動揺が治ってない様子だ。

 

「有り得ない、有り得ないだろ!? お前は今朝からフォンテーヌ科学院の爆発事故の解決に動いていた筈だ!!」

 

「よく知ってるね」

 

「それだけじゃない、メロピデ要塞に召喚要請もあった! 全て終えてここに来たとでも言うのか!?」

 

「出来てるから、ここに居ると思わないの?」

 

 事件とそれによる異常現象の解決と公務の遂行、ヌヴィレットやその部下に後片付けを押し付ければ余裕だ。犯人捕まえて解決するのだから楽な仕事だった。

 とりあえず、暫くは股を抑えて動けなくなってる男は放っておこう。気にするべきは未だ立ち上がる事も出来ない彼女だろう。

 

「はぁ、はぁ、バンパー、様……うっ」

 

 千織さんの肩に手を回し支える、かなり辛そうだ。頬は紅潮し、息も浅いし拍動も早い。放っておいても治るとは思うが、それは周りに漂うガスのせいか。

 

「解毒剤も無しに、何故ガスが……?」

 

「催淫系のガスだろ、私に効くわけない」

 

「それはそれでなぜ……?」

 

 私にその類の物は最近は効かないのだ、何故だろうか、年中頭がピンク色に染まってるからだろうか。まぁ一応ダメな時は毒の分解出来るので大丈夫だろう。

 ムラムラはちゃんとするが正気は失わない。正気を失ったフリをして襲う事はあるけどね、甘雨さんや九条さんやその他諸々ご馳走様でした。

 

「ひぅっ!?バ、バンパー様……!!」

 

 しかし、千織さんは弱そうだ。ちょっと肩を掴んだだけで肩が跳ねている、過敏になっているようだ。このまま何かあれば危ないかもしれない。仕方ない、本当に仕方ないが毒を抜かなければならないだろう。

 

「お、おい、おまえ! まさか!!」

 

 とりあえず、あそこで股を抑えて動けない奴に見せ付けるように千織さんの頬に手を当てた。

 今からするのは医療行為なのでセーフ、合法である。じゃあ続きは有料だから、男の意識は奪っておく。さぁ楽し……楽にして上げるためのお仕事開始だ。

 

 ☆

 

 体が熱い、力が入らない。ユーサーに押し倒されていたら、間違いなく自分の体は好き勝手されていただろう、それぐらいに無茶苦茶な状態になっている。

 

「はぁ、はぁ、あう……バンパー様……」

 

 ただ、辛うじて助けられた。何故か駆けつけてくれた水神のおかげで、ユーサーは捕縛されたようだ。視界はぼやけているし音も反響してるような感覚なので分からないが、簡単に解決してくれたらしい。

 

 思えば、クレームが多く来たあの日も助けられてしまった。自分に出来る礼など服を新調するぐらいしか無い女なのだ。どう対応したら良いのだろうか、そう思ってギリギリボヤけていない彼の顔の輪郭を捉えるのだが。

 

「ふぇ?バ、バンパー様?何か、近……はむっ!?♡」

 

 輪郭のボケてた部分がハッキリするほど近づかれると、そのまま唇に感触を押し付けられた。何が起きたのか、どうなってしまったのか、ただわかる事は少なく。

 

「ん、ん、んっ!?♡ちゅ、ちゅ、ちゅるるる!?♡♡」

 

 自分の口の中へ、ただでさえ熱くて回らない頭の中で、得体の知れない熱が彼から与えられていた。

 当然これはキスをされており、肩と頭を押さえられ身じろぎ程度でな逃れられない状態で、彼にファーストキスを貪られていた。

 

 途端に彼の手を握り締めるようにして感覚の逃げ場を作ろうとしているものの、千織はより深いところまでされた時だった。

 

「ぷはっ!?♡はぁ、はぁ、はぁ♡」

 

 唐突に、頭がどうにかなりそうな寸前で熱が離れてくれた。

 

「んあっ、い、いま、きす、して!?♡」

 

「どう? 毒は抜けた?」

 

「ど、どく……?」

 

 千織が言葉だけでも彼に事のしだいを問いただそうとしたが、言われてみると視界が先ほどよりもハッキリしている事に気付く。耳も反響して聞こえないなんて事は無く、彼の言葉はハッキリしている。

 

「っ、その、ありがとう……ございます……」

 

 毒を抜いてくれたというのは嘘では無いのだろう、自分が勝手に興奮して勘違いをしただけで治療をしてくれたのだ。それに気付くと羞恥心で顔が赤くなっている自覚をしながらも、目を逸らす。

 よく考えれば前水神の旦那なのだ、社会的地位のある存在がそんな不貞行為をするわけもない。誰彼構わず手を出す節操無しなんて有り得ないのだ。

 なので少し落ち着いた体を置き上げようとした時だった。

 

「じゃあ、続けるから」

 

「ふぇ!? ちょっと待っ……んむ!!♡♡」

 

 頬に手を添えられて、またキスが始まった。当たり前のように、口の中で彼の舌が彼女の舌を絡め取っている。

 先ほどより体に力は入るものの治療の為と言われてしまったので自分の服の裾を握りしめることしか出来ない。

 

「ん、ん、ん!♡んんんんん──!!♡♡」

 

 そして、先ほどは起きなかった意識の瞬きが起こる。途端に胸をのけ反らせながら体を震わせてしまうと、より彼の熱を感じる。頭の中が匂いと味とそれで満たされてしまう。

 

「んぁっ、ぁ、ぁ──♡」

 

 ゆっくりと引き抜かれる舌が、自分の舌と銀色に光る糸を引きながら離れて行くのが見える。自分の口の中で無茶苦茶にされてしまったのがそれだと考えてしまうが、声も上手く出せない。

 

「ほら、ちゃんと唾液飲んで。治らないよ?」

 

「も、もう、やすませ……んんっ♡」

 

 早く終わらせるには、彼の言う通りにしなければならない。治療なのだから仕方ないのだが、何度も頭が瞬かせられてしまえばそれ以上の事など出来なくなる。

 

「んくっ、んくっ、んっ……♡」

 

 もはや自分の唾液なのか、彼のものなのか分からなくなるほど続けられてしまう。そうしてしまえば、彼女は普段の毅然とした態度など消え去ってしまう。

 

「大丈夫? 恋人にしか見せちゃいけない顔してるよ?」

 

「んあっ♡らめっ、みにゃいで♡らめらから♡」

 

 舌が回らない、懇願しても終わらない。頬を撫でられるだけでお腹の奥が鳴き声を上げるように頭に指令を送ってくる。内股を擦り合わせて耐えるにも限界な、ただの女の子にまで堕とされている。

 

「じゃあ、最後に吸い取るよ」

 

「んんっ!?♡んんんんん────!!!???♡♡♡」

 

 そして、最後に吸い出された自分の舌が彼に包まれて体が震えてしまう。出来るだけ目を閉じて見ないようにしていたが、見開いてしまったそれは恐らく見る余裕は無い。

 

「ぷはっ♡はぁ、はぁ、はぁ♡んあっ……♡」

 

 涙目と涎で汚れて蕩けた顔は、おおよそ人には見せられたものではない。息をする度に肩が微かに震え、何度かに一度は大きく震えているほど自分の体のコントロールは出来ていない様子だ。

 

「(も、もう、無理……♡初めてが、こんな、こんな……♡)」

 

 それでも無意識に内股を擦り合わせているのは行くところまでは行っていないからか、ハッキリと千織は自分の体が正常になった事と新しい扉をこじ開けられたのを自覚していると。

 

「じゃあ、毒は抜いたから」

 

 そうして、何故かそう呟きながら顎を持ち上げられるのに気付く。治療が終わったと言うために、何故目を合わせられているのか、完全に頭の方は落ち着いていない千織だったが。

 

「ふぇ?んむっ!?♡」

 

 また、何故か、彼の舌がまた自分の中に入ってきた。

 

「ちゅる、ちゅ!?♡ちゅるるる!!??♡♡」

 

 最初の時と違い、自分の体は戻った。五感が戻っているのだ、より彼の事を感じてしまう。毒で鋭くされた快感部分に関しては、もう何度も頭を蕩けさせられてるので変わらない。

 彼の服を握り締めて耐えようとしているが、その程度の抵抗しか出来ないのだから容易く好き放題されている。

 

「んんんんん!!??♡♡」

 

 そして、また舌を吸い出されながら頭を瞬かせられている。いつの間にかお腹を撫でられてもいるが、熱くなるばかりで腰が浮いてしまっている。自分の中の扉が、もう何個開けられてしまったのかは分からないが、昨日の自分には戻れないのが分かってしまう。

 

「んあっ♡あっ♡な、なんれ……さいろ……?♡」

 

「治すのだって疲れるしタダなわけないでしょ? それに、私も千織さんみたいな美人にキス出来たら嬉しいからね」

 

 結局、どれほどされたか分からない程されてしまった。頬に手を添えられて目を合わせられながら言われてしまうと、自分は好き勝手に食べられてしまったと自覚する。

 助けられてしまった事に感謝はしててもここまで許す気は無かったのに、それがそうなってしまった。

 

「ごちそうさま♪」

 

 耳元で呟かれたのを最後に意識が暗転する。千織にとって、人生で2()()()に長く感じた時間は、それで終わりを迎えたのであった。





バンパー
いつもの加害者。フォンテーヌで社会的な地位があるのを知らないので好き勝手女の子を食べている。千織の事もその気にさせているので喰うことになるのだが、その際に他の子も食べる。更に後で居合わせた子も食べる。社会的な余命が1ヶ月を切っているのをこの時の彼は知らない。

シュヴルーズ
最近綺麗になってきたと噂の隊長さん。璃月から帰ると途端に何人かから告白を受けるものの全て歯切れ悪く断り、彼氏が居ると噂をされている。もう彼以外じゃダメな体になっている自覚がある可哀想で可愛い人。

千織
今回の被害者にして翌日には処女まで食べられる子。色々と可哀想な目に遭ってしまうが、全部で彼に助けられるので処女を食べられても仕方ないとか思われている。

サミュエル
普段は新入りの千織屋の店員として働くが、実際は千織の事を性的に見ている女の子。ユーサーに媚薬を流してギリギリの所を助けてから食べちゃおうとした今回の黒幕だが、千織があまりに早く工場へ辿り着いてしまったのでバンパーに先に助けられてしまった。千織を押し倒して一緒に大人になろうと画策している。なお、後日それはある意味で成功したと言えるし、大失敗したとも言える。

エローフェ
本来の千織屋の店員にして被害者②、サミュエルに薬を盛られて体調不良になっている。後日復帰しに店に行くととんでもない場面に遭遇してしまい、説得をされてしまう事になる。
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