逃げる事が出来るうちに、逃げ出せば良い。
逃げられなくなるまで。
いつか捕まるにしても。
なのに…まったく。
巣にかかってもがいてみても、先は所詮や見えたもの。
おかしな事は、起こるものだから。こちらが求めようが求めまいが、それはやって来る。
だからこそ、警戒していかなければならない。
私は常に、最善を保たなければ。そうでなければ、立場がないから。
居候の身で、周囲を振り回してはいけない。
そう、思っているのに。
なぜそうも、大喜くんは無防備なのか。
様子がおかしい事には、気づいてはいた。いたけれど、見ないふりをしていた。
夢に敗れた大喜くんに、私がどんな風に声をかけられるのか。
触れたら壊してしまいそうで、怖くて仕方がない。
でも、それこそが。大喜くんを、追い詰めてしまった。
僅かに開いていたドアの隙間から見えた大喜くんは、まるで別人のように窶れ果てていて。ボロボロになって、押し潰されて――。
なんて、可愛いんだろう。そう、思ってしまった。
胸の高鳴りに押され、静かに部屋へ入り。ベッドに臥せたまま苦しんでいる大喜くんへと、歩み寄る。
私が近付いた事に気付けないほど、消耗しきっている。囈のように、自分を責め続けている。
そんなこと、ないのに。大喜くんは、責められる謂れなんか無い。弱いことも負けたことも、自分を責める理由にするべきじゃない。私はそれを、よく知っている。自分を責めて得られる感情は、単なる自己憐憫でしかない。悔し泣きも慟哭も、それだけでは何の意味もない。踏みつけて上へいく為のもので、自分を押し潰す為のものじゃない。
だから。
「そんなことないよ。――お疲れ様」
きっと大喜くんが求めているであろう言葉を、かけてあげる。弱っている心を、無理矢理開かせる為に。
ようやく私に気付いて呆然とする大喜くんに触れると、その肌は酷く熱い。
……メンタルだけじゃ、なかったんだ。身体もボロボロだったんだ。
息も絶え絶えで、瞳を潤ませて。ああ本当に、なんて――可愛いんだろう。
心の奥から、衝動が上がってくる。気遣う思いに紛れて、背徳的な思いが。
今なら、幾らでも大喜くんを弄べる。私のために、この子を使える。
良くないことではあるけれど、好機を逃したくない。
「病人は大人しくしてなさい」
慌てて身体を離そうとする大喜くんを、手で制する。
由紀子さんたちは遅くまで帰ってこない、私が何をしようと誰にも気付かれない。
頂いてしまおう、せっかくだから。
あまり台所に立たない私だけど、最低限の事は出来るから。
薬を飲ませるにしても何をさせるにしても、とりあえず何かお腹にいれておいて貰おう。
そう思って作るのがお粥でもおじやでもなく只のうどん、という辺りやっぱり私は不器用かもしれない。
まあ、いいや。血行を良くするために生姜を多目に入れて、一先ずこれでいい。
うどんを持って部屋に入ると、ベッドの中でソワソワしている大喜くんが。可愛いな、子犬どころか天使だよこの子。
萌えている場合でもないし、大喜くんに起きてもらってお食事タイムだ。一応看病を名目にしているわけだから、回復して貰わないと困る。
少しずつ気が解れてきたのか、大喜くんの口からは今まで聞けなかった弱音が漏れてきている。
上には上がいて、どんなに練習しても追い付く気配さえ掴めなくて。覚悟も、信念も、重圧に置き換わっていく。その怖さは、私も知っている。知り尽くしている。そこが付け入る隙なのだと、分かっている。
辛いときに優しくしてくれる相手には、誰だって弱いものだ。あの日、大喜くんに背中を押された私のように。
だから、そう。背中から警戒を解いていこう。
「大喜くん、汗かいてるし背中拭こうか」
硬く絞った濡れタオル片手に、大喜くんの背後に回る。僅かに恥ずかしさのせいか驚いた声が出たものの、抵抗はしてこない。
普段なら真っ赤になって逃げるだろうけど、弱りきった上に私を信頼してしまっている状態では、そんなことは出来そうもない。
上を脱がせて背中に向き合うと、そこは思ったほど華奢でもない。毎日部活で鍛えているからだろう、結構たくましい。タオルで拭きがてら、その感触を味わっていく。
いいなあ、大喜くんの身体。可愛いのにたくましくて、二倍美味しい感じだ。
そして背中を拭きつつ、そっと。手を少しずつ、前側へと這わせていく。そして脇腹をなぞり、更に――下へ。
「えぁ、先、輩っ!?」
隙を付く形で下半身に手を滑り込ませ、その中にいるもう一人の大喜くんへと指を触れさせると、流石に驚きの声が上がった。とは言え、もう遅い。
「んー、だいぶ毒が溜まってそうだね。出しちゃわないと……ね」
本物は初めて触るけど、知識はちゃんとあるから。オトコノコの扱い方は、勉強済みだ。
他のどの部位よりも強い熱、張り詰めた肉の感触。大喜くんの、オスの部分。
傷付けないように気を付けながら、右手で握りしめて扱きだす。
いくら弱っていても、本当に嫌なら抵抗くらいはできるはずだ。でもそれが全く無いどころか可愛い喘ぎが漏れてくる辺り、意外とノリ気なんだろうか。ま、良いけどさ。
手の中に大喜くんの命を握っている、そんな快感。
熱く固い塊が、少しずつ粘りけを帯びていく。布越しにもニチャニチャと音が立ち、指が汚れていくのが分かる。大喜くんが濡れている、ということ。
指の動きを早めて、大喜くんを責め立てていく。ナマイキにも耐えようとしているのが、可愛らしいったらないな。
無駄なのに。
「ほら、我慢しないの。ちゃんと毒を出しちゃわないと、治らないよ?」
耳元で囁きながらギュッと力を込めて握りつつ、先の方を親指でなで回してあげる。
その刹那、大喜くんの口から甘い叫びが漏れて。ガクガクと震える身体、手の中に感じる粘液質の奔流。
引き抜いた手にベットリと付いた白濁液――大喜くんの精液。躊躇いなく舐め取って感じたその味は、生臭く苦い。その苦味が私の中で、ほんのわずか残っていた理性を目覚めさせていく。
さすがにこの先は、不味い。取り返しが、つかなくなる。
踏みとどまれ、私。これ以上やると、本当に壊してしまう。
「――毒抜きもしたし、これで大丈夫だね。大人しく寝てるんだよ?」
放心したままの大喜くんをベッドに寝かせ、ギリギリの理性でもって部屋を出る私。
台所に食器を下げたその途端、抑えがたい衝動に貫かれて床にへたりこんでしまう。
お腹が、熱い。足を動かすだけでショーツの中がグチュグチュと音を立て、服を伝って顔まで匂いが上がってくる。
あと少し、遅かったら。決壊していただろう。
明けて翌日、私たちは「いつもの」関係に戻っていた。いや、戻ったように装っていた――が正しいか。
ちょっと、不味すぎた。あれは危険すぎる。もう、やめておこう。
大喜くんを、ダメにしたくない。私は私の立場を守るべきだ。
だから、言わなければならない。
二人で買い物に行くことになったのは、好機と言えるだろう。
「昨日の事、なんだけどさ。――忘れようよ」
あれは一時の、気の迷い。そういう事にして、もう繰り返さないようにしよう。
お互い気を付けて、ああいう事はしないようにしよう。
そう言い終えた後の大喜くんは、明らかに不満げな顔をしている。
……まあ、そうだろうけど。お預けを喰わされてむくれる気持ちは分かるけど。
大喜くんの為だから、線を引かなければならない。
アイスも買ったし早く帰ろうと歩きだしかけた矢先、私は大喜くんに腕を捕まれてしまった。
無言のまま、私を見詰めて。身体全体で、不満の意思を示している。まるで小さな子供のように。
ああ、可愛いな。可愛いから、退こうとしているのに。
せっかく――逃がしてあげたのに、自分から飛び込んでくるなんて。
「大喜くんは、本当におバカさんだね……」
私は、大喜くんを壊したい訳じゃないけど。そうやって来たなら、仕方がない。
悪いのは、大喜くんだから。
「そうだね、しょうがないよね」
微笑みかけてあげると、大喜くんも笑って私の腕を放した。きっと、私とは理由が違うけど。
歩きながら大喜くんの腕を掴んで重心を崩させ、外灯の及ばない暗がり目掛けて放り投げる。実際には引き倒す方が近いけど、イメージでは投げ飛ばす感じで。
夏が近づき雑草も勢いついていて、丈の長い叢は人を隠して余りある。御誂え向き、というわけだ。
突然の事に混乱したのか、仰向けに倒れて尚抵抗さえしてこない大喜くん。その顔に背を向ける形でお腹に腰を下ろし、デニムを下着ごと剥ぎ取ってしまう。
夏の夜風に露となる、大喜くんのオトコノコ。昨日は触っただけで見られなかったけど、なかなかに凶悪な顔付きだ。それに元気に上を向いている辺り、興奮しているらしい。
「さっきは思い出させちゃったかな、昨日の事。そんなに気持ちよかったのかな?」
大喜くんは私の背中目掛けて何か言っているけれど、話しかけているのは息子さんの方へだからね。まあそっちは嬉しそうに震えているし、抵抗してこないところを見ると大喜くん自身も嫌がってはいないんだろう。
ふにふにと幹を擦り頭を撫でてあげると、昨日ぶりの粘液感がやって来た。小さなお口からトロトロと涎を溢れさせ、もっともっととおねだりしてくるのは結構可愛らしい。
そのお口に指を当て、グリグリこねくりまわしていく。解していけば、指くらい入るかもしれない。……入るかも、か。これも大喜くんの「初めて」だろうし、奪ってしまおうかな。
でも、だ。それはまた、今度にしておこう。私も私で、準備がいるわけだし。
「ん、と。……座ったままだと、やりにくいなぁ……」
普段は横になって仰向けで弄るから、なんとなく勝手は違うけど。それでもショーツの中を弄っていれば、気持ちは良くなってくる。勿論その合間にも大喜くんのオトコノコへは刺激を与え、硬度は維持しておく。
すぐにでも、出来るように。
一旦腰を浮かせて身体を向き直し、大喜くんと向かい合う。その顔は怯えと期待がない交ぜになったのか、どこか惚けたようにも見える。
「大喜くんはさ、バカ過ぎるよ。そんなだから、ダメなんだよ」
そう、すべては大喜くんのせいだ。私みたいに重くて不器用な女相手に、無防備な姿を晒して。せっかく与えた逃げ道に、背を向けて。目先の事に囚われて、何もかも奪われる。
もっと警戒するべきなんだ。自分が可愛くて愚かなことを、自覚するべきなんだ。
まぁこうやって私に襲われなかったとしても、いずれ誰かに食われていただろう。蝶野さんなんか、明らかに狙っていたし。
だからこそ、今この場で。
「よっ……と」
再び腰を上げて僅かに後ろへ下がり、ショーツをずらして――狙いを定める。反りたったままのオトコノコに、私のもうひとつの「口」がちゃんと当たるように。
グッと力を込めながら、腰を沈めていく。僅かに走った痛みは、でもすぐに掻き消えた。
「う、あ……っ」
私は苦もなく腰を落としきる。大喜くんのすべてを、呑み込んで。
お腹の奥に大喜くんがいるという、不思議な感覚。捕食というよりは、征服感に近い快感。大喜くんに取り返しの付かない傷を刻んだという、背徳的な満足感。
この先私たちがどうなろうと、それこそ私が突然死んだとしても。顔も名前も忘れてしまっても、大喜くんは私の存在を忘れないと確信できる。誰かとセックスする度に、これが甦るだろう。命絶えるその瞬間まで、縛られ続ける。
それが大喜くんにとって、よい結果を産まないのは明らかだ。だから見逃してあげようとしたのに、わざわざあんなことするから。
まあ、いいや。もう、どうでも。
何もかも私のモノにしてしまえばいい。
こうして繋がったまま、そんなことを考えても仕方がない。
大喜くんの胸に手を付いたまま、上下に身体を激しく揺さぶっていく。削岩機か杭打ち機か、というくらいに。
たちまち私の中にいる大喜くんが快感に耐えきれなくなり、激しく脈打ち、そして決壊する。
「ん、あー……、ぁ」
私の奥で、大喜くんの精液が迸っていくのが分かる。
それでも、私は止まらない。止まる気がない。
腰を加速させ、只ひたすら大喜くんを責め立てる。まだまだ、まだまだ。もっと、もっと。
いつしか大喜くんの顔は涙でぐしゃぐしゃになり、口からは苦しげな嗚咽しか漏れてこない。
そのオトコノコも、幾度となくしぼみかけた。それでも無理やり元気にさせては、再び搾り取るのを繰り返し続け。
中で精液が広がる感覚がしなくなり、どんなに弄っても反応しなくなるまで、私は大喜くんを犯し続けた。
溶けてしまったアイスが二度と元に戻らないように、私たちの関係ももう戻らない。
気が付けば私たちは揃って猪股家を出て、英明も辞めていた。
事故物件を疑う程の激安物件に二人で入り、生活を維持する為私が最低限外出する以外ではほぼ繋がったままの退廃的な日々。
そして大喜くんは部屋を出ることなく、ずっと私に犯されるばかり。可愛いだけの、壊れたオモチャだ。
こうなってほしく無かったけど、望んだのはそっちだから。
これからも、私の人形で居続けてほしい。
私が、飽きるまでは。