オープニング
――――狩人様
その声を最後に聞いたのはいつだったか……少し前だったか、それともはるか昔だっただろうか……
あの日、ゲールマンの介錯を拒み空から現れた怪物を倒した後、自分の肉体が変化するのを感じそしてアメンドーズやエーブリエタースと同じように上位者と言う存在になっていた。
だがそれは自分が人間ではなくなったと同時に今まで何度も狩っていた存在になったと言う事になる。
そして上位者として成長する度に俺は他の上位者と同じく赤子を求めなくてはと言う衝動が出始め、それがどういった事を引き起こすのか想像に難くない。
このまま俺が上位者として完全に成長を遂げれば今度は俺自身が赤子を求める為に獣狩りの夜と同じ事を始める可能性がある。
もうあんな事を繰り返したくない俺はその時の持てる全ての力を使ってずっと俺の側に居てくれた人形を置いてヤーナムから去った。
「はぁ……この姿に慣れて来たとは言え、やっぱり人間の姿が恋しいな」
今の俺の姿はなんでもかみ砕けそうな牙が生え、全身は堅い外角に覆われ、両手と両足には鋭い爪が生え、更には尻尾まであり、さしずめ二足歩行する甲殻生物といった所である。
「見た目だけなら、昔の俺なら喜んだろうな……」
そう、何を隠そう俺は元々あの世界の住人ではない。
いわゆる転生者と言われる存在であり、ヤーナム……つまりBloodborneの世界に転生した人物と言う事になる。
その事を思い出したのはヨセフカの診療所で輸血を受けた後、診療所内にいた獣に惨殺され狩人の夢で目を覚ました時だった。
それが分かった時は正直自分の置かれている状況を把握出来ないどころか、Bloodborneの世界に居ると言う現実を受け入れきれない状態になっただけではなく、これから起きることに対して恐怖を感じるはずだった。
しかし輸血を受けた影響なのか、それとも別の何かの影響なのかは分からないが、気が付けば俺はまるで何かに取り付かれたように獣狩りを始め、他の狩人や異形の生命体、挙句の果てには上位者までも狩っていたのだ。
そして、何度も獣狩りの夜を繰り返した後に現在に至る。
「これからどうするかな……」
ヤーナムを去った俺は当てもなく異次元を彷徨っており、何処か人のいない世界がないか探していた。
この空間では時間の概念が無いとは言え、あまり長く留まりたくはない。
「最悪、人類が生まれる以前の過去に行くのもありかもな……ん?」
今後の事を考えていると遠くに何やら光りながらふよふよと浮かぶ物を見つけたのでそれに近づいてみた。
「これは……魂?」
それは放っておけば今にも消えそうな魂だったが何処か変だ。
何と言うか、かつて秘匿を破った際にヤハグルに現れた化け物達のように、いくつもの材料を混ぜ合わせたような歪な物だった。
だがこの魂はまるで蝋燭の火のように一吹きで消えてしまいそうになっており、それでも消滅していないのは奇跡に近い状態ではある。
「意識は……ダメだな。混ざりすぎて人格も安定していないし、このまま放っていると本当に消滅してしまう」
取り合えず見つけた以上この魂をどうにかしようと考えていると、突然俺の頭の中に誰かの声が聞こえてきた。
―――――――……さん
―――――――――……さん
「……えっ?」
その声が聞こえたかと思うと俺の周囲が光に包まれていき、あっけにとられていた俺はその場から離脱できずそのまま光に飲まれていった。
………
……
…
「……此処は?」
気が付くと俺はさっきまでいた場所ではなく、何処か図書館のような場所にいた。
どうやら、さっきの光は転移もしくは召喚の類だったのかもしれない。
だが、それは俺に向けられたものではなく、あの消えそうになっていた魂に向けられていたのだろう。
「となると、俺はその召喚に巻き込まれた可能性がある……ってなんじゃこりゃあ!?」
何故かは分からないが、俺の肉体はさっき見つけた魂と同化してしまったらしく、今の俺の体は上位者の者ではなく魂の状態となっていた。
いくら何でも上位者となった俺が消えかけの魂と同化して肉体が無くなるなんてただ事じゃない。
「こんにちは」
「……ん?」
今の状況を把握していると誰かが声をかけて来たのでそっちに意識を向けるとそこには頭に青い大きなリボンを結んだ藍目の金髪の少女が居た。
「君は?」
「私ですか?私はアリスといいます」
アリス……その名前を聞いた途端、俺と同化した魂が中から出てこようとしているのを感じたので、それを表面化しないように抑え込む。
狩人だった頃はともかく、上位者となった今ならばこう言うことはたやすい。
「おめでとうございます。貴方はこの物語の主人公に選ばれました!」
(……はっ?)
見知らぬ少女からいきなり自分が主人公に選ばれたと言われたが突然の事に俺は放心してしまう。
主人公?そんな者になれたなら俺は今頃上位者なんて存在にはなっていないだろうな。
だが、今はそんな事よりも目の前の少女の話を聞いた方が良さそうだ。
「俺が主人公?何の話だ?」
「ふふふ、言った通りですよ。あなたは主人公として選ばれました!」
「……」
何というか、ヤーナムで最初に輸血を受けた時を思い出すな。
あの時もこんな感じで話を進められて輸血されたんだった。
そう言う経験もあったせいで俺が主人公に選ばれたと言う話を信じる事ができない。
そもそも目の前の少女の名前がアリスと分かった以外何も分からないし、主人公に選ばれたからと言って嬉しいと言う気持ちも感じなかった。。
とは言え今の俺は魂だけの状態となっているので、もし彼女が何かしらの戦闘能力を持っていたら抵抗できずに消されてしまうかもしれない。
「それではあなたのお名前を教えてください」
「俺は……ゼロ。ゼロだ」
「ゼロさん……いお名前ですね!ええ、大変素敵だと思います」
(本当に誉めてるのか?)
ゼロ……この名前は俺がヤーナムで狩人として活動していた時に名乗っていた名前だ。
と言っても、あそこではあまり名前で呼ばれたことは無く、大体の連中が俺の事を狩人と呼んでいた。
まぁ、あの世界で名前なんて気にしない奴ばっかりだったし、名乗っても覚えられていない事がほとんどだったが。
「それでは次は貴方の素性をこの中から選んでください」
そう言うと、彼女は俺に三枚のカードを見せてきた。
カードには騎士、盗賊、魔術師と思われる絵が描かれており、この中から選んでほしいようだ。
何というか、RPGの職業選択みたいだな。
しかし、狩人として活動してきた俺にとってこの三枚の中から選ぶのは中々難易度が高く感じる。
まず、魔術師は論外だな。どう考えても俺には向いていないし、ヤーナムで使っていた秘儀と違って戦闘中に詠唱なんてしている暇なんてないだろう。
なら、狩人に近い盗賊を選ぶべきかと思うが、これもダメだ。魔術師よりかはマシではあるだろうが、盗賊と言う事は身なりはよろしくないだろうし戦闘も得意かと言えばそうじゃない。
となれば消去法で騎士一択か……
「騎士」
「わかりました」
俺が騎士を選ぶと騎士のカードが輝き始め、同時に魂だけだった自分の体が段々と変わっていくのを感じ、見下ろすとそこには腕があり足もあった。
そして光が収まると俺は見覚えののある鎧を纏っていた。
自分が纏っている鎧、それはまさしくカインの鎧と呼ばれていた装備であり、カインハーストの血の女王であるアンナリーゼの近衛騎士が身に着けていたとされる鎧である。
俺も存在は知っていたが、鎧の重さや動き難さを考えて結局買わなかったなぁ。
「ふむ。どうでしょう?仮初の姿ですが、間に合わせとしては十分。お気に召していただければいいのですが」
「そうだな……」
さっきまで魂の状態だったから体の動きに少し違和感を感じるものの、それは徐々に慣らしていけばいいだろう。
見た目もカインの鎧一式ではあるがデザインは嫌いではないし、なにより着た事は無いものの自分の知っている装備なのだからか何故か安心感を感じている。
何より久しぶりに人間の姿になれたので、分かっていてもテンションが上がってしまう。
「悪くない。気に入った」
「よかったです」
俺がカインの鎧に対して気に入った事を聞いた少女は次の瞬間、あどけない笑顔は真剣な表情へと変わった。
一体どうしたのかと俺が聞く前に彼女は口を開いた。
「……そろそろ開幕のようです」
「開幕?何がだ?」
「何がって……物語が始まるんですよ」
物語が始まる?いきなりの事で理解が追い付かない。
「ゼロさん。貴方はこの物語の主人公ですから……最後まで挫けないでくださいね」
「おい、待て!どう言うことだ!?」
「それでは私はここまでです。また会いましょう」
次の瞬間、彼女の体は砕け散り、周囲に肉片や鮮血が飛び散る。
それと見たと同時に俺の意識は再び薄れて行くのを感じた。
最後まで書けるように頑張ります