「よっこいしょ……ほら、アイリス」
「はい……んしょ」
下水道を進み、地上に出た俺は後から梯子を上がって来たアイリスに手を差しだし、彼女が俺の手を掴むと同時に引き上げてやる。
「此処が淫腐街、なんでしょうか?」
「恐らくな」
警戒を含めて周囲を見渡すと、そこはヤーナムの街と似たようなやや古い感じの建物が立ち並んでおり、捨てられの森とは違ってちゃんと人が住んでいそうな所だった。
あの青年が言っていたことが間違っていなかったら此処が淫腐街と言う街であり、この先に目的地であるロストエンパイヤへ行く道のりがあるのだろう。
「取り合えず、情報を集めるか。この街なら何か分かるかもしれないしな」
「そうですね……あれっ?」
俺達がひとまず情報を集めようと決めた瞬間、アイリスは何かを見つけたのか、明後日の方向を見つめだした。
それにつられて俺もそっちの方を見ると、そこには何やらフラフラと歩いている女性がおり、明らかに様子がおかしい。
「あの、大丈夫ですか?」
その様子を見たアイリスは、その女性に近づいて具合を伺うと、声をかけられた女性はゆっくりとアイリスの方を見る。
「早く……」
「えっ?」
(不味い!)
明らかに正気じゃない女性の表情を見た俺はこれは不味いと判断し、すぐにアイリスの方へと駆け出す。
俺の予想が正しければあの女性は……。
「早く舞踏会に行かなくちゃ行けないのに……霧が!霧が邪魔をするのおおおおおおおおおぉぉおおぉ!!あぁぁぁぁあああぁぁああぁあああ!!」
「ひっ!?」
女性が突然叫びだすと同時に体が肥大化し、その影響で衣服は破け、両足はまるで獣のような毛に覆われると、自らの首をありえない力で捥ぎ取る。
その様子を近くで見ていたアイリスは突然の出来事に短く悲鳴を上げてしまい、その場から動けなくなってしまう。
「ア゛ア゛ア゛ァアア!!」
魔獣となった女性はショックでその場から動けなくなっているアイリスに襲い掛かるが、間一髪の所でなんとか彼女を庇事ができた。
「ぐぁ!」
「ゼロさん!」
アイリスを庇うと同時に俺の背中に強い衝撃がかかり、背後から金属が擦れる音が聞こえたので、恐らく爪で引っかかれたのだろう。
これが鎧じゃなければ間違いなく俺は背中に大きな傷が出来ていただろうな。
「こんっのぉ!」
俺はアイリスを離すと、振り向きざまに剣を鞘から引き抜き抜いて思いっきり振るう。
「ギャアァァ!」
俺が振り回した剣は見事魔獣の体を切り裂くと、その一撃によって生まれた隙を俺は見逃さず、そのまま魔獣を蹴り飛ばす。
俺の蹴りを受けた魔獣はそのまま建物の壁まで吹っ飛び、体制を立て直される前に追撃をしようとすると、俺の背後から光の弾が魔獣に向かって行き、俺の蹴りによって体制を崩していた魔獣は光の弾を避ける事ができずに光の弾を受ける事になった。
「今です!」
「ああっ!」
アイリスからの援護を無駄にしない為にも俺は体制を崩している魔獣へと一気に近づいて、左手を獣の腕に変化させて魔獣の体へと突き刺し、力を込めて一気に魔獣の体を引き裂く。
「ギャアァァ!?」
俺の内臓攻撃を受けた魔獣は抉られた部分から激しく血を吹き出しながら仰向けに倒れ、一瞬だけ大きく痙攣するとそのまま動かなくなると、僅かなソウルが俺の中に流れて来るのを感じ、魔獣を倒せたのだと確信する。
「アイリス。大丈夫か?」
魔獣を倒した事で一先ずは安全が確保できたので、俺は剣を納め、アイリスが怪我をしていないか確かめる為に彼女の元へと近づた。
見た所、目立つ怪我はしていないが……。
「あ、はい私の方は大丈夫です……それよりもゼロさんの方は?私を庇ってくれた時に攻撃を受けていましたが」
「ん?ああ、俺も鎧のおかげで特に怪我はしていない」
ヤーナムで活動していた時は兎に角相手の攻撃を躱す事を重点的に考えていたから、大体の服装は狩人とかの軽装が多かった。
だが、こうして実際に鎧を来てみると確かに服に比べて敵からの攻撃を軽減できるが、全部の攻撃を受けきれる訳でもないから過信は出来ない。
「そうですか。それよりも今のは……」
「恐らく霧の影響による魔獣化だろう。まさか目の前で実際に変化するのを見る事になるとは思わなかったがな」
リィフの話によればロストエンパイアから発生した霧の影響によってソウルが失われ、ソウルを失った者はやがて魔獣となる。
(手遅れになっていたらアイリスもああなっていたと言う事か……)
あの時、アイリスは捨てられの森の中で俺と出会わなければ彼女はあのまま魔獣に殺されるか、逃げのびたとしてもやがて魔獣となってしまい、何処かで俺に殺されて居たのかもしれない。
そう考えると、あの森で俺と出会えたのは奇跡に近かったのだろう。
(まぁ、ソウルの供給の方法はあれだが……)
俺がアイリスにしたソウルの供給方法を思い出すと同時に彼女の裸も思い出してしまい、慌てて雑念を捨てる。
いや、アレは本当に……じゃなくて!
「ゼロさん?」
「ああ、いや。怪我が無くて良かった」
「はぁ……」
まずい、あの時の事を思い出してボーっとしたせいでアイリスが不思議がっている。
これ以上余計な事を考えてアイリスに気取られる前にさっさと先に進もう。
「と、取り合えず先へ進むぞ。此処にいるとまた襲われるかもしれないしな」
「あっ、ちょっと待ってください!」
自分の考えを誤魔化す為にも少し強引に話題を変えながら先へと進んでいく。
うむ、これは間違いなく変な疑いをもたれるな。
「ぜ、ゼロさん。待ってください!」
「んっ?あっ……」
俺が自分の考えた事を誤魔化す為に早足で歩いていると、後ろからアイリスの制止の声が声が聞こえたので振り返ると、自分が思ったよりも早足になっていたらしく、アイリスと離が離れてしまっており、彼女は慌てた様子で俺を追っていた。
「もうっ!そんなに早足で行かないでくださいよ!」
「わ、悪い……」
アイリスは俺に追いつくと、少し息を切らしながらキッと睨んで文句を言ってくる。
まぁ、これは俺が完全に悪いからな……。
「ハァ……本当に……さっきから……ハァ……」
「アイリス?」
彼女が俺に文句を言っていると、彼女は徐々に声が弱々しくなっていき、息も苦しそうになっていってる。
よく見ると、アイリスの顔色はさっきよりも悪くなっており、もしや疲れが溜まっていて、限界が近いのだろうか?
「うっ……」
「アイリス!」
俺がアイリスの顔色を伺っていると、彼女はふらついて倒れそうになったので俺は急いで近づいてアイリスの体を支える。
(これは……)
突然倒れそうになったアイリスの様子を見ると、その様子は初めて彼女と出会った時と同じようにソウルが少なくなって居るようだった。
(マズい。何処かでソウルを供給しないと……)
恐らくアイリスはさっき戦った魔獣と同じように霧の影響でソウルを失っており、このままでは彼女も魔獣化してしまう。
それを防ぐ為にも俺のソウルをアイリスに与えたいが、何時魔獣に襲われるか分からない所でソウルを供給する訳にも行かないので何とか安全を確保したいのだが……。
「そこの貴方。何をしているの?」
俺がどうやってアイリスにソウルを供給しようか考えていると、不意に背後から声をかけられたのでそっちに振り返るとそこには橙色の長い髪をした女性が居た。
「っ!その子……」
「おっと勘違いしないでくれ。この子は俺の仲間なんだ」
今の俺は傍から見ればアイリスを気絶させて誘拐しようとしている奴に見えてしまっているのだろう。
兎に角、誤解を解く為にも俺は女性に弁解するが、この状況で俺の言葉を信じろって言っても説得力は無いが……。
「貴方、その子をどうするつもり?」
案の定、女性は俺の事を誤解するが、俺もキチンとした説明をしなかったからそうなっても仕方ない。
だが、今はアイリスにソウルを与える方が先だ。
「そうだな……この子になんとかソウルを与えたいから、安全な所を探そうと思っているんだが、あんた何処か知らないか?」
「……」
とっさにアイリスをどうするかを女性に説明するが、これは駄目な気がする。
と言うか、余計に不信感を与える事になるよな……。
「……ええ、知ってるわ」
(ん?)
おや、意外な反応が帰って来たな。
てっきり、騒ぐか声を上げるかして街の警備兵かそう言う治安守ってる奴らを呼ぶかと思ったが。
まぁでも、騒がれて面倒な事にならずに済むならそれに越した事はないな。
「こっちよ」
「……いいのか?」
「ええ、貴方悪い人じゃなさそうだしね」
凄いな。自分で言うのも何だが、俺は人相がいい方じゃないからパッと見られたら悪人と思われてもおかしくはないだろう。
俺が悪人と言うか罪人なのは間違いないがな。
まぁ、今はそんな事よりも女性が場所を提供をしてくれるようだから、そこへ行ってアイリスにソウルを与えないと。
「なら、頼めるか?」
「分かったわ。こっちよ」
そう言って女性はアイリスを抱き抱えた俺を手招きし、俺はその後に付いていく。
正直、罠の可能性も考えたが、それはそれでその時に考えるか。
「あんた名は?」
「アリアンナよ」
「っ!?」
自分を助けてくれると思われる相手の名前くらいは覚えておこうと何気に質問し、女性が自分の名を名乗った途端、俺にとって無視できない名前が出てきた。
アリアンナ、かつて俺がヤーナムで狩人として活動している時に出会った事のある娼婦の女性と同じ名前だ。
「どうかしたの?」
「いや、少しな……それよりも早く此処を離れよう。急がないとまた魔獣が寄ってくるかもしれん」
「そうね」
さっきはたまたま人間が魔獣化する瞬間を見たが、あの様子だと既にこの街の人間の大半は魔獣化しているだろうし、アイリスが戦えないこの状況で魔獣に出くわすとかなりマズい。
いくら俺が魔獣と戦えると言っても、アイリスとマリアンナの二人を守りながら魔獣の相手をするとなると無傷で守り切れるかと言われると絶対に無理だ。
なので今は魔獣との戦闘を避けながらマリアンナ付いて行くしかない。
「それにしても、よく俺の言葉を信用する気になったな。俺がこの子を強姦しようとしていると思わなかったのか?」
正直、あの時の俺は傍から見ればアイリスを路地裏に連れ込んで強姦しようとしている暴漢と思われてもおかしくはなかかった。
なのにマリアンナは俺の言葉を信じ、安全な所へ連れて行ってくれると言うのだ。
「あら、私これでも人を見る目はあるのよ?貴方はそんな事をする人じゃないって一目で分かったわ」
「そうなのか?」
「ええ、それよりも早く行きましょ。グズグズしていたら手遅れになっちゃうわ」
「……そうだな」
マリアンナの言う通り、このまま呑気に無駄話を続けてアイリスがあの女性みたいに魔獣化してしまうなんて事にしない為にも、俺は彼女に付いて行くのであった。
次回はエロ回の予定です(多分)