「そこだ!」
「はい!」
「ギャアア!!」
娼館でアイリスにソウルを供給し、アリアンナと別れた俺達はロストエンパイヤを目指すべく、再び淫婦街の街中で魔獣を蹴散らしながら探索をしていた。
あの後、アイリスは俺がアリアンナの相手をしている間、別の部屋で待機していたらしい。
取りあえず娼館のオーナーは彼女に他の男の相手をさせないと言う約束は守ってくれてはいたようだ。
まぁ、そのせいで彼女に俺がアリアンナを抱いた事に気付いてしまい、合流した際にまたアイリスの相手をする破目になってしまったが……。
「それにしてもアイリス。いつの間にそんな魔法が使えるようになったんだ?」
「えっ?」
現在、アイリスは最初にあった頃よりも強くなっており、戦闘も難なくこなせる様になっているだけではなく、いつの間にかRPGのように新しい魔法を覚えていた。
確かにこの街に来るまでの間に何度か魔獣と戦ってはいたものの、こう言ってはなんだが、アイリスと初めて会った時に遭遇した個体やヘンゼルとグレーテルに比べると雑魚ばかりだったから、それらを倒しただけで強くなったとは思えない。
まぁ、俺も人の事は言えないけが……。
「あの……その……」
「どうした?」
俺がアイリスにいつ魔法を覚えたのか聞くと、彼女は顔を赤くしながら恥ずかしそうにしており、何故か答えにくそうにしていた。
もしかして、質問の仕方を間違えたか?
「じ、実は……ゼロさんとえ、えっちな事をした後に使えるようになってました……」
「!?」
アイリスのとんでもないカミングアウトに俺は驚愕した。
いや、まさかソウルを供給するって言うのはそう言う事なのか?
確かに性行為をした事でその相手がパワーアップすると言ったゲームがなかった訳じゃないが……
「そ、そうか……」
「はい……」
俺の何気ない質問に対してのアイリスの答えにお互い気まずい雰囲気になってしまい、この後どう話せばいいのか分からなくなった俺達は無言で歩き出す。
俺って本当にこう言う事に対してデリカシーがないな……
「あっ、ゼロさん!」
「ん?おわっ!?」
「きゃ!」
俺が道の角を曲がろうとしたとき、突然アイリスが声を上げたので何事かと足を止めると、突然道の陰から誰かが飛び出してきたが、アイリスに気を取られていた俺はそれを避ける事が出来ずそのまま飛び出してきた人物とぶつかってしまい、その衝撃で転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「うっ……つ……ああ、転びはしたが俺は大丈夫だ。それよりも」
俺の事を心配してくれたアイリスに大丈夫だと言う事を伝えると俺はぶつかって来た相手の方を見る。
ぶつかった時に聞こえた声は少女の物だったが、魔獣が蔓延っているこの街でまともな人間は多くないだろうから、たとえ相手が少女の姿をしていても警戒しないと。
「いたた……」
俺が視線を向けた先に居たのは小柄な緑色の服を着た少女であり、さっき俺と強くぶつかって尻もちをついてしまったのかお尻を擦っている。
「大丈夫?」
「あっ……う、うん……」
尻もちをついた少女にアイリスが近づくと、彼女は少女に手を差し出し、それを見た少女は少し戸惑いながらもアイリスの手を取ると、そのまま立ち上がる。
そんな様子を見て、ぶつかってきた少女はこちらを襲ってくる様子が無かったので、理性のない魔獣ではないと立ち上がりながら判断した。
「えっと、ごめんなさい。前をよく見ていなくて……」
「いや、こっちもちゃんと周りを見ていなかった。すまない」
緑の衣装を纏った少女は俺にぶつかって来た事に対して謝罪して来たので俺もそれに対して謝罪で返す。
周りをちゃんと見ていなかったのは本当の事だしな。
「それよりも怪我はない?かなり派手に転んでいたけど」
「う、うん……ちょっとお尻打っちゃったけど大丈夫だよ」
「……本当にすまない」
いくら考え事をしていたとは言え、周りをちゃんと観察せずに歩くなどヤーナムじゃあ間違いなく死んでいただろうし、生前でも最悪の結果になっているだろう。
それも含め、俺はもう一少女に謝罪した。
「一先ず、何処か安全な所を探そう。此処に留まっていると何時魔獣に襲われるか分らん」
「そ、それだったら私のお店はどう?そこだったら魔獣が入って来ないようにしているから」
「お店?」
俺が何処か安全な所へ移動しようと提案すると、少女がそう言ってきた。
どうやらこの少女の家は何かしらのお店をやっているらしく、そこならば魔獣除けをしているから安全だと言う。
確かにこれだけの魔獣が街中に蔓延っているとなると、そう言った対策をする奴が居ても可笑しくない。
少なくとも、何時襲われるか分からない街中よりかは安全だろうな。
「なら、案内を頼めるか?俺も彼女もこの街に来たばかりだから、土地勘がないんだ」
「い、いいよ……こっち」
俺が少女にお店までの案内を頼むと、少女は少し早めに歩き出し、俺とアイリスは周囲を警戒しながらその後ろに付いていく。
(う~む、流石地元住民だ。土地勘の無い俺達よりも道を把握している)
この街に来たばかりと言う事も有るだろうが、俺とアイリスは街の何処を歩いているのか分からないのに対して、少女は自分が街のどの位置にいるのか分かっているらしく、サクサクと足を進めている。
それに対して俺とアイリスは少女になんとか付いて行けてはいるものの、少しでも遅れたら少女を見失いそうになるくらい足取りが悪い。
だが、いくら少女が俺達より土地勘があるとは言え、それでも魔獣と出くわす事もおり、その場合はアイリスが少女を守り、俺が魔獣を蹴散らす。
そうして何とか進んで行くと、やがて少女は一軒の建物の前で立ち止まったので、俺達も足を止めた。
「もしかして、此処が?」
「うん、私のお店」
どうやらこの家が少女のお店らしく、少女はポケットから鍵を取り出すと施錠されていたドアの鍵を開け、店内へと入って行った。
「入っても良いよ」
そう少女が言って来たので俺とアイリスが中へ入ると、そこには売り物と思われる道具がいくつも陳列しており、どうやら此処は道具屋のようだ。
「君の家は道具屋だったのか」
「うん、必要なら売ってあげるよ?」
「ふむ……」
確かに此処なら大抵の道具は揃うかもしれないが、今の所道具には困っていないし、使うか分からない物を買っても嵩張るだけだからな……。
ヤーナムの時でも道中で手に入れたアイテムは途中で邪魔にしかならなかったし、結局武器や輸血液、水銀弾のようにしょっちゅう使う物以外はボックスに預けていた。
それよりも俺は別の事が気になっている。
「一つ聞きたいんだが、君の親はどうしたんだ?」
これだけの商品が有るならば当然それを管理する必要がある筈だが、お世辞にもこの店の道具はあまり管理されていないように見える。
それにいくら道具屋と言っても、普通こんな少女に店を任せるなんてことはしないだろうし、なにより魔獣だらけの外から帰って来たと言うのに少女の親は出迎えすらしなかった。
となると、どう言う事なのかはすぐに分かるだろう。
「お母さんは夜にお仕事をしていて、朝には帰ってくるよ。お父さんはお母さんと喧嘩して出ていっちゃったの……」
「……」
予想はしていたが、やはりこの子の両親は普段は店にはいないようだ。
母親はともかく、父親は夫婦喧嘩が原因で自分の子を残して出て行ったらしいが、恐らくそれが原因で母親は道具屋だけではこの子を養えなくなってしまい、それで夜にも何かしらの仕事を始めたのだろう。
まぁ、それがどんな仕事なのかは予想できるが……。
「そうか……悪いな、嫌な事を聞いて」
「ううん大丈夫。あ、まだ名前を言って無かったね。わたしはエルマだよ」
「……俺はゼロだ」
「私はアイリスだよ。よろしくね、エルマちゃん」
「うん。よろしく」
「所でエルマ。君はロストエンパイヤに行く方法を知らないか?」
お互いに自己紹介を終えると、俺はエルマにロストエンパイアへの行き方を知らないか尋ねてみる。
聖森の青年はこの街の先に目的地であるロストエンパイアがあると言っていたが、あくまでそれは大まかな道筋であって街をどう進めば良いのかは言っていなかった。
当然、初めてこの街にやって来た俺とアイリスがどう行けばロストエンパイアに行けるのか分かる訳もなく、取り合えず街を歩いていたと言う訳である。
「うん、知ってるよ。あそこに行くんだったらこの街の領主さんのお屋敷の先にあるから、まずはそこに行ってみたらどうかな?」
「ふむ……」
どうやらこの街には領主がいるようだが、この街の惨状からして碌でもない奴なのは間違いないだろう。
もしかしたら既に魔獣化しているかもしれないし、そうじゃないとしても協力してくれるとは思えない。
だからと言って他に道が有る訳でもなさそうだし、一先ずその領主の所へ向かうとするか……。
「その領主の館は何処にあるの?」
「この近くにあるよ。とても大きいお屋敷だからすぐに分かると思う」
そう言ってエルマは詳しく領主の館への行き方を俺達に教えてくれる。
こんなに小さいのによく出来た子だ……。
「でも気を付けて。この街の領主さんってものすごく女の人が好きらしいの」
「……」
その言葉を聞いて、俺は思わずアイリスに視線を移す。
アイリスもエルマの言葉を理解したのか、少し不安そうな表情をして俺の方を見てくる。
それと同時に俺の中でこの街の領主の評価が最底辺から更に下へと落ちた。
「分かった。注意しよう」
取り合えず有益な情報を手に入れた俺はある物を取り出し、エルマに差し出す。
「えっ、これってソウル?」
「ああ、お詫びと情報をくれたお礼にな」
俺が取り出したのは質のいいソウルで、あの下水道の奴から賄賂として受け取った物ではなく、別の方法で手に入れていたものだ。
これならば謝礼やお礼としては十分だろう。
「こ、こんな凄いソウル。受け取れないよ……」
「ん?そうか?」
「う、うん……あ、そうだ」
エルマが俺からのソウルを受けるのに困っていると、彼女は何かを思いついたらしく、店の奥へ行って小さな小瓶を持ってきた。
「これ、此処で売ってるマッチって言うの。これと交換しよ?」
どうやらエルマは俺からのソウルとこの店の商品と交換する事を思いついたらしく、先ほど持ってきたマッチと呼ばれる液体を差し出してくる。
本当ならお店の商品を勝手に交換するのはダメなのだろうが、この世界ではヤーナムでの血の遺志のようにソウルでそう言う取引が行われているので恐らく損にはならいのだろう。
それにこのまま断ってもエルマは俺が差し出したソウルを受け取ってくれなさそうなので、俺はその条件を飲む事にする。
「分かった。それと交換だ」
「うん、どうぞ」
エルマは俺のソウルを、俺はエルマからマッチを受け取って交換を成立させると、もう此処での用事はないので俺とアイリスは店を去る事にした。
「それじゃあな。エルマ」
「またねエルマちゃん」
「うん、また来てね」
俺達が店を出て先へ進もうとすると、俺達の背後で鍵が閉まる音が聞こえる。
恐らくエルマが店の中に魔獣が入って来ないよう施錠したのだろう。
(とは言え……)
今のこの街は魔獣で溢れかえっており、幾ら店の中に入って来ないようにしていたとしても完全に防げる物では無いのかもしれない。
もしそうなったら、彼女がどうなってしまうのかは想像できてしまう。
そうならないよう俺は心の中でエルマの無事を祈りながら先へ急ぐのだった。
万能鍵「出番……」
マッチは……何処で使わせるべきだろうか……