「うっ……」
俺が意識を取り戻すとそこは何処かの牢屋の中らしく、目の前には鉄格子と見張りらしき存在がいる。
だが、さっきまでは図書館のような所にいたはずなのに何故こんな所にいるのだろうか。
「あれは夢……で片付けられそうにないか」
先ほどまでいた場所で起きた出来事は夢で本当は此処に飛ばされていたのではないかと考えもしたが、今の自分の姿を見てそれは無いなと理解する。
今の俺の姿はカインの鎧の姿になっており、もしも先ほどまでの出来事が夢ならば少なくともこのような姿ではないだろう。
「……となれば、俺は本当に主人公になったって事でいいんだろうな」
アリスと名乗った少女が言っていた、俺は主人公に選ばれたと。
ならばそれに付き合ってやるのも悪くはないかもしれないが、だからと言っていきなり牢屋スタートはあんまりだと思う。
いや、いきなり輸血されて後は放置されて、診察台の上ってのもたいがいだが。
「上位者の力は……ダメだな。使えなくなってるか」
一応の確認として上位者の力が使えないか試してみるが、予想通り使えなかったので今の俺は大幅に弱体化していると思ってよさそうだ。
まぁ、使えたとしてもあれはこの世界には存在しない力だからあんまり乱用する訳にも行かないだろう。
「とにかくまずは此処から出ないとな」
立ち上がって牢屋の中を確認して見ると隅の方に剣が鞘に納められた状態で放置されており、それ手に取って鞘から抜いてみると何度か使われた感じはあるが刃こぼれはしておらず、まだ使えそうだった。
その近くには剣の持ち主と思われる人物の白骨死体が転がっており、何故武器を取り上げずに牢屋にぶち込められていたのかは分からないが、とにかく丸腰の状態なのは避けられる。
後はこの牢屋から脱出して外に出ればいいのだが、牢屋の扉には鍵がかかっており破壊する事も難しそうだし、初めてヤハグルに連れて行かれた時のように簡単には脱出できなさそうだ。
(と言うか、牢屋を破壊したら見張り以外にも気づかれるか……)
俺の牢の前には一体だけとは言え見張りがおり、こんな所で大きな音を立てれば間違いなく仲間を呼ばれてしまうかもしれない。
いくら武器を手に入れたとは言え、今の俺は上位者ではなくただの人間になっているので複数の敵に囲まれたら間違いなく苦戦するだろうし、最悪返り討ちにされてしまう。
数で圧倒されれば敗北する。それはヤーナムで嫌と言うほど味わって来た。
(さて、どうしたものか……ん?)
牢屋からどうやって脱出しようかと考えていると遠くから何やら戦闘音が聞こえたと同時に、目の前の見張りに何かが飛び掛かり見張りは声を上げる間に倒される。
「おや?」
見張りを倒した奴はどうやら牢屋の中にいる俺の存在に気が付いたらしく、顔をこちらへ向けて来た。
さっきは一瞬の出来事だったから分からなかったが、よく見るとそいつはまだ幼さが残る金髪の女騎士だった。
「不死者とは珍しい……」
不死者……その言葉を聞いた途端、一瞬だけ何かを思い出すかのように頭痛を感じたが、それはすぐに収まる
実を言えば、俺はヤーナムに転生した後は何度か周回を重ねて狩りをしていたのだが、その過程でヤーナムに転生する前の記憶はほとんどを失ってしまっている。
もちろん思い出した記憶も少しはあるが、それは俺ではない誰かの記録映像を見ているかのように感じる為、最近は生前の記憶を思い出してもどうでも良くなっている。
そんな事よりも俺は現在不死者と言う存在になっているようだ。
女騎士の発言からすると、不死者と言う存在は珍しいが全く知られてはいない訳ではないらしい。
「こっちからしてみれば、女が一人でこんな所まで来る事が珍しいがな」
今俺がいる場所は牢屋以外はまだ分からないが、恐らく監獄か大きい要塞の牢屋なのだろう。
そんな所に女騎士が仲間を連れずに一人で来ると言うのは正直無謀な気がする。
とは言え、ヤーナムにも実力のある女狩人が居たので見た目だけで判断は出来ないが。
「ふむ、その様子だとまだ心は折れていないようですね」
「そりゃどうも」
「ならば貴方に神の声が聞こえるのなら、その足を動かしなさい。そしてこの世界に光を齎すのです」
「……」
神か……上位者って一応神になるのだろうか?ヤーナムでは信仰の対象になっていた上位者は居たが。
まぁ、そんな事よりも足を動かす前にこの牢屋から出ないと行けないのだが。
だが、女騎士は俺にそれだけ言うとその場から去って行った。
「やれやれ、足を動かして欲しいならまずはこっから出せっての」
牢屋から出してもらえなかった事に俺は文句を言いながら、見張りが居なくなった事により牢屋の扉を破壊しようと扉の方へ近づいていく。
すると、さっき女騎士が倒した見張りの腰に鍵らしきものを発見し、それを牢屋から手を伸ばして取り、扉の鍵穴に差し込んでみると扉を開けることが出来た。
「さて、さっさとこんな所から出るか」
牢屋を出て通路を進んで行くと、どうやらこの場所の化け物達はさっきの女騎士が全部倒していたようで、通路のいたる所に死体が沢山転がっている。
そんな悲惨な光景が広がっている通路の先に階段を発見したのでそれを登って行くと、その先にはさっきの女騎士が居た。
「お前、まだこんな所にいたのか」
俺が話しかけると、女騎士は振り向き少し驚いた様子で話しかけてくる。
「驚きました……これも神の導きでしょうか」
「さあな。それにしてもよくこんな所に一人で来れたな」
外に出て分かったが、此処はカインハースト城並みの大きな城の城壁だったようで、俺はその中にある牢屋に入っていたようだ。
しかし、周りを見ても兵士らしい人物は見当たらず、もしかしたらこの城は既に人間の兵士は居なくなってるのかもしれないな。
それでも女が一人で来るような場所じゃあ無いが。
「当然です。私は世界中で起きている人間が魔獣化する異変の原因を突き止めるためにオルレアンより参りました」
「人間が魔獣化する異変?」
女騎士から何とも聞き捨てならない単語が聞こえ、俺はそれについて聞いてみる事にした。
「はい、今世界中で起きている人間が魔獣化する異変はロストエンパイア城から発生している霧が原因とされています」
「……」
話を聞くとこの辺りは元々は平和で豊かな国だったのだが、ある日ロストエンパイア城から人間が魔獣化する霧が発生し、それが現在世界中にまで広がっているらしい。
それを聞いて俺はヤーナムで起きていた獣狩りの夜を思い出した。
あれは色々と複雑な事情が絡み合って起きていた現象だったが、それに近いことがこの世界で起きている。そんな事態を見過ごすことは出来ないな。
(それにあの少女は俺は物語の主人公として選ばれたって言っていたし、恐らくこの女騎士の言っている人間が魔獣化する異変に俺は必ず関わるんだろうな)
とは言え、俺はまだこの世界についてはなんの情報を持っていないし、持ち物だって長期に渡って活動できる物は持ち合わせていない。
出来ればそう言った物が手に入る場所に行ければいいのだが。
「それで?これからどうするんだ」
「そうですね。まずはこのアイバーン砦を下り妖精の地へ向かいましょう」
「妖精の地?」
「はい、この地で唯一霧の影響を受けていない場所です」
話を聞くと、この地で妖精が暮らしている場所があるらしく、そこは霧の影響を受けないのでまずはそこへ行って態勢を整えようとしているらしい。
確かにそう言った安全地帯があるのならもしかしたら情報を持っている奴がいるかもしれないし、準備も整えられるだろう。
それに俺はこの世界の地理が分からないし、此処は女騎士と一緒に行動したほうが良さそうだ。
「霧の影響を受けない地か……確かにそこに行けば準備とかも出来そうだ。俺もその妖精の地に案内してもらっていいか?」
「ええ、もちろんです」
そう言って、女騎士と共に妖精の地へ向かおうとした時、ふと俺はこの女騎士の名前を聞いていないことを思い出した。
これから一緒に行動するのに名前を知らないままって言うのはあまり良い感じはしないし、結果的にとは言え、牢屋から出してもらった相手の名前くらいは覚えておきたい。
「お前名前は?」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はジャンヌ・ダルクと申します」
「……俺はゼロだ」
女騎士の名前を聞いた瞬間に再び頭痛を感じたが、いつもの事だと割り切り、彼女に右手を差し出す。
「よろしくお願いします。ゼロさん」
ジャンヌは俺の差し出した手を握り、握手に答えてくれた。
一応、俺が敵とは思われていないようだな。
「それではゼロさん。妖精の地へ向かいましょう」
「ああ」
そう言って二人で歩き出そうとすした途端、何やらうめき声が聞こえたのでそちらに視線を向けるてみると、そこにはゾンビとも思える二体の瘦せこけた奴らが俺たちの方へ向かって来ていた。
「あれは亡者のようですね」
「亡者?」
「はい、自我を失った不死者の成れの果てですね」
なるほど、ヤーナムで言うと獣の病の末期症状になった奴らと似たような存在って所か。
まぁ、根本的には全く違うだろうけど、最終的に正気を失って彷徨う存在になるって所は一緒だろう。
「つまり敵だな?」
「そうなりますね」
別に此処で亡者の相手をしなくても良いが長い間人間の状態じゃなかったし、戦闘能力も確実に落ちているは確実だ。
ならば、少しでも戦闘のカンを取り戻す為にもこいつらの相手をしてやろう。
それに亡者達もこっちを逃がすつもりはなさそうな雰囲気を出しており、後で追いかけられて来られても面倒だしな。
「なら、相手をしてやろう」
そう言うと同時に俺は剣を鞘から抜くと同時に亡者の一体に向かって行く。
俺が攻撃した亡者は俺の攻撃に反応はしたものの、こっちの攻撃に対して動きが遅すぎる。
亡者との距離を一気に詰めて袈裟斬りを勢いよく放つと、刃は痩せこけた皮膚を切り裂き、亡者はその体から鮮血を吹き出しながら倒れて動かなくなった。
「この程度か……まぁ、あれだけ動きが遅ければ当然か」
亡者の動きはかなり遅く対して強くもなかったし、これじゃあ肩慣らしにもならない。
これならまだ連携と取って向かってくるヤーナムの群衆の方が厄介だ。
(もう一体は……終わってるか)
もう一体いた亡者の方へ顔を向けると、そっちはジャンヌが対処したらしく亡者は彼女の剣によってその体を貫かれていた。
その様子を見て、助太刀は必要なさそうだと感じ剣を鞘へと収める。
(それにしても、久しぶりに人間になれたとは言え、さっきは無意識にはしゃいでいたな……)
牢屋に居る時は敵の増援に警戒して無理やり出て戦闘することを控えていたが、息苦しい閉鎖空間から解放されたことによる高揚感と、久しぶりの人の姿になれた事による心の中での喜びが合わさって思わず切りかかってしまったが、冷静に考えればジャンヌの事を考えずに勝手に行動してしまった。
と言うか、さっきの考え方からしてかなりヤバい思考をしているな、と嫌でも感じてしまう。
「そっちも終わったようだな」
「ええ、この位ならば問題はありません」
ジャンヌは亡者から剣を引き抜くと刃についた血を振り払ってから腰の鞘へと納め、俺の方へと顔を向けて来た。
「それにしても、あんな存在が普通に闊歩しているか……確かにどうにかしないとヤバそうだな」
「はい、その為にもまずは妖精の地へ向かいましょう」
「そうだな」
とにかくこの異変を解決するためにもジャンヌと共に妖精の地と呼ばれる場所へ向かおうと歩き出す。
「ああ、ジャンヌ。さっきは悪かったな」
「なんの事でしょうか?」
「俺が勝手に敵に向かって行ったことだ」
先ほどの亡者との戦闘の事に関してジャンヌに謝ると、彼女は不思議そうに首をかしげる。
もしかしたら本人はあまり気にしていないのかもしれないが、それでも俺が勝手に行動した事に変わりはない。
「ああ、その事でしたら気にしないでください。あの亡者達は明らかに私達に対して敵意を向けて居ましたし、どの道戦う事にはなると思いましたよ」
そう言って彼女はクスリと笑って微笑んだ。
その表情を見た俺は少しドキッとするが、向こうからはこっちの表情は読み取ることは出来ない事を良いことに俺は平静を装う。
思えばヤーナムでもそれなりの美人は何人か居たが、最後はどれも良い別れとは言えない人ばかりだったな……。
場合によっては俺と敵対し、刃を交えることも多かった。
「そうか……悪いな。俺は誰かと一緒に行動する事なんてほとんど無かったからよ」
「そうなんですか?」
「ああ」
実際、俺がヤーナムで活動していた時は基本的に一人で行動していたし、嘘は言っていない。
もちろん時には共闘して一緒に戦った狩人も居たが、そいつらはその時だけ一時的に組んだと言う事がほとんどだった。
「にしても、此処は随分と嫌な空気が漂っているな」
このアイバーン砦は人を魔獣化させる霧を発生させている場所に近いからなのか、周囲には異様な空気が漂っており、あまり長居したくない。
「ええ、恐らくこの砦がロストエンパイア城に近いからでしょう」
「あのデカい城か……」
俺が見上げるとそこには霧が濃くてうっすらとしか分からないが、カインハーストの城にも負けない程巨大な城が聳え立っていた。
恐らくこの城に霧を発生させている何かがあるのだろうが、今すぐに乗り込んだ所で返り討ちに合う可能性が高い。
「こうしている間にも多くの人々が魔獣によって苦しめられているのです。私には彼らを救う義務があります」
「……」
彼女の話を聞いて、俺はヤーナムで活動していた時の事を思い出した。
あの頃の俺はとにかく獣を狩っていたし、ジャンヌのような使命や義務なんてなかったし、まして誰かを救うなんて考えてすらいなかった。
まぁ、あの世界は頭がイカれた連中ばかりだったから救いなんて無いような物だったが。
「救いね……俺には縁遠い言葉だ」
「ですが、此処で会ったのも何かの縁でしょう。是非力を貸して欲しいのです。そうすれば不死者でも勇者になれる事が出来るはずです」
「……」
勇者か……俺には一番ふさわしくない称号だな。
そんな存在になれるなら、ヤーナムでせっせと獣狩りなんてしていなかっただろう。
とは言え、力を貸すこと事態は拒むつもりは無いし、一人でもこっちに対して友好的な仲間を作って置くのは悪い事じゃないか……。
「勇者になる事には興味ないが、俺に協力して欲しいってんなら幾らでも協力してもいいぜ。むしろこっちから頼もうかと考えていた所だ」
「ありがとうございます…神も貴方を見守ってくれているでしょう。それでは、参りましょう」
そう言ってジャンヌと共に妖精の地に向かって行こうとした……その時だった。
GruoooOoooOOOooooooOOO!!!!!
「なっ!?」
何かの咆哮が聞こえたと同時に何処からか巨大な炎がジャンヌに向かって降り注ぎ、突然の事で対応できなかった彼女はそのまま炎に包まれた。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ジャンヌっ!!」
炎に包まれた彼女をどうにか救出しようと駆けだすが、その行動を阻むかのように俺の目の前に巨大な影が降り立った。
「なっ……こ、こいつは!?」
俺の目の前に現れたのは、全身が鱗に覆われ全てを吹き飛ばしそうな巨大な翼を持ち、獲物を確実に仕留められるであろう鋭い爪と牙を生やした大きさだけならばヤーナムに居た上位者達と引けをとらない存在。
ドラゴンが現れたのだ。
「熱いっ!熱いっ!身体に、炎が……!そんな……ここまで来てどうして……!」
「くっ!そこをどけええええええええ!!」
ジャンヌを助ける為に俺は剣を構えてドラゴンへ突撃するが、ドラゴンはそんな俺に対して尻尾を振るって来た。
俺はそれを避ける事が出来ず、そのまま砦の壁まで吹っ飛ばされてしまう。
「う……がっ……くっそお……」
すぐさまドラゴンからの追撃に備えて立ち上がろうとするが、今の一撃で左足の骨が折れたらしく、俺は立つ事が出来なかった。
そんな様子を見たドラゴンはトドメと言わんばかりに俺に向かって炎を吐いてくる。
駄目だ避けれない……!
「ぐっ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
熱い……
熱い……熱い……
熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!熱いっ!
俺は……何も……何も出来ないまま……死ぬのか?
こんな簡単に……死ぬのか……?
「まだ死ねないっ……!死にたくないっ……!あづ……い……も……身体、が……っ……かっ……神よ……」
そんなジャンヌの絶望の声を聞きながら彼女と同じく、その身を炎に焼かれながら俺の意識は途絶えて行った。
初見プレイ時に宿敵と遭遇した時の衝撃は忘れない。