次話を投稿します。
「うおおおおお!!」
アイリスに不快な言葉を発した領主に向かって俺は剣を構えた状態で明確な殺意を持って突っ込んでいく。
「近寄るな、不敬であるぞ!」
自分に近づいてくる俺に対して領主は丸太のように太い腕で振り払ってくるが、俺はそれを当たる寸前の所で回避し、手にしている剣で大男の胴体に向かって思いっきり振るう。
だが……。
「なっ!?」
「そ、そんな……」
俺が大男に切り付けた剣は裸の体を切り裂くどころか、まるで鋼鉄を叩いたかのように剣がはじかれてしまい、傷一つ付けることすら出来なかった。
「そのような鈍で我が鎧を傷つけられると思ったか!」
俺が領主の体に攻撃が通用しなかったことに対して驚いていると、その隙をついて大男は拳でこちらに反撃をしてくるが、俺はとっさにその攻撃を回避し、領主から距離をとる。
(チッ!あれは硬いってレベルじゃないな)
ヤーナムでも目の前にいる大男と同じ位の体格を持つ存在と戦ったことはあるが、そいつらは最初は苦戦を強いられていたが、後には問題なく倒すことができていた。
いくらなんでも今使っている剣が拾い物の粗悪品だったとしても、防具もつけていない体に傷一つ付けられないなんて事は流石にありえない。
もしかしたらアイリスのように光の弾のような魔法攻撃ならばダメージを与えられるかもしれないが、俺にそんな力は使えないし、使えたとしても彼女の物よりも威力は低いのは確実だ。
それに街中にいた魔獣と違って、こいつは確実にドロシーの家で戦ったヘンゼルとグレーテル並の存在だろうから俺がそれを使えたとしても決定打にはならないのは間違いない。
恐らくだが、領主は何かしらの力によって裸であっても傷つけられないほど頑丈になっているのだろうから、それを解除しなくてはこちらに勝機はないだろう。
(だが、どうすればいい?)
この場所に来るまでに領主がそう言った力を持っているなんて話は聞いた事はなかったし、何よりこんな筋肉ムキムキなヤロウだとは思ってすらいなかった。
奴の守りの力を解除しようにも、その方法すら分からない。
「ヌゥン!」
「くっ!」
そうこう考えていると、領主は俺に向かって拳を突き出してきたので俺はそれを回避するものの、相手の拳が床に当たると同時に衝撃波が発生し、相手の攻撃を回避した直後で反応できなかった俺はその衝撃をモロに受けてしまい、体制を崩してしまう。
(不味い……!)
いくら俺でも体制を崩したままでは相手の攻撃を完全に回避することは難しく、このままでは領主の攻撃をモロにくらってしまう可能性がある。
当然、そんな隙を領主が見逃す筈もなく、その巨体では信じられないほど素早い動きでいきおいよく俺の方へ向かってきた。
「ちっ!」
俺はとっさに体を動かしたことで何とか直撃は免れたものの、それでも領主の拳をその身で受けてしまい。そのまま部屋の壁際までふっとばされてしまい、
「ぐっ……あがっ……」
「ふん……その程度で我に逆らうとは片腹痛いわ!」
くそっ……せめて銃さえあればこいつの攻撃に合わせてパリィがとれたかもしれないのに……。
いや、この世界はヤーナムじゃないんだ。無いものねだりをしても仕方ない。
それよりも早く体制を立て直して反撃に移らないと……。
「ゼロさん!」
「むっ?」
俺が何とか体制を立て直そうとしているとアイリスが援護してくれたが、彼女の光弾も領主には効果がなかったうえ、それによって領主の注意はアイリスの方を向いてしまった。
「これはこれは……随分と威勢の良い娘だ」
「このっ!」
「アイリス!」
アイリスは領主に対して光弾を何度も放つが、領主はそんな事を気にせずに彼女の元へとどんどん近づいて行く。
このままでは不味いと感じた俺はすぐに体制を立て直して、アイリスに向かって言っている領主の背中へと攻撃を仕掛ける。
「これでも喰らいやがれ!」
領主に対して俺は渾身の力を込めてその背中にアーマーブレイクを放つが、それでも手ごたえは全く感じなかった。
こいつ、一体どんな力を持てば此処まで硬くなるんだ……
「邪魔をするな!」
「ぐぁっ!」
「ゼロさん!」
領主にダメージを与えられなかった俺は振り払うように殴り飛ばされ、再び壁に激突してしまう。
おまけに打ち所が悪かったのか、立ち上がろうとすると体に激痛が走る。
そのせいで体制を立て直そうとしても上手くたてなおす事が出来ない。
「くっそ……」
「ふん、そこで大人しくしておれ」
そう言うと領主は俺が上手く動けなくなった事で脅威と感じなくなったのか、そのままアイリスの方へと向かって行く。
そんな様子にアイリスは懸命に光の球を放っているが、領主はそんな事も気にせずどんどん近づいていっている。
このままじゃあ……
(くそっ……こうなったら……)
領主がアイリスに向かっている様子を見て、俺はヘンゼルとグレーテルと戦った時のようにあいつを呼ぶことにした。
正直、あいつの事は信用できないし、呼んだ所でこの状況をどうにか出来るとは思えないが、それでも呼ばないよりかはマシだ。
「来い、リィフ!」
「ボクにお任せ~、あはは~♪」
俺が呼び出すと同時にリィフはそのまま領主の元へと向かって行き、その周りをひらひらと飛び始める。
あいつ一体何をするつもりなんだ……
「むっ、何だこいつは?」
リィフが領主の周りをまるで奴をからかうかのように飛び回り、領主は羽虫が自分に纏わり付いたかのようにうっとおしそうにその巨大な腕でリィフを払いのけようとするが、リィフはそれをあざ笑うかのようにヒラリと回避している。
その隙をついてアイリスはその場から動き出し俺の元へ近づいてきた。
「いま治します」
俺の所へ来た彼女は痛みで蹲っている俺に向かって両手を翳すとそこからあたたかな光が溢れだし、それが俺を包み込むと同時に体の痛みだ段々と引いていく。
どうやらこれは治癒魔法らしく、攻撃の魔法と同じようにいつの間にか使えるようになったようだ。
「ええい!うっとおしいぞ!」
「あはは~こっちこっち~♪」
アイリスが俺を回復している間もリィフは領主を翻弄しており、それによって奴の注意は完全にリィフに向いていている。
おかげでアイリスは俺の回復に集中できているし、俺も呼吸を整えて体制を立て直す事が出来た。
「もう大丈夫だ」
「分かりました」
そしてアイリスの魔法によって体の痛みが無くなった事で俺は再び領主の方を見たその時だった。
「ねぇねぇ~どうして君は裸なの~?」
「なっ!?」
リィフが領主の恰好に対して裸である事を指摘すると、俺達からでも分かるレベルで領主は動揺している。
まるで今まで自分の恰好に気づいていなかったかのように……。
「あははは~裸なんてみっともなーいっ!」
「な、何を言うておる!?余はこの愚か者には見えぬ鋼鉄の鎧を……」
どうやら領主は自分が俺のように鎧を纏って戦っていたと思っていたらしいが、確かに俺の攻撃やアイリスの魔法はまるで防具を着こんでいるのでは無いかと思うほど堅かったが、そう思うくらいこいつは体を鍛えたかと思っていたけどどうやら違うようだ。
自分が他の奴には見えない鎧を着ていると思っている、それはまるで……。
「裸の王様だー!くすくす」
「違う!違あああぁあぁぁぁうッ!余は…!余はぁぁああぁぁ!!」
「……っ!」
領主もとい、裸の王様は自分の恰好に対して否定するかのように叫び声を上げると同時に俺はヘンゼルとグレーテルの時と同じような頭痛を感じたが、今はそんな事は気にしている暇はない。
あいつが何をどうやったかは知らないが、そのおかげで領主もとい裸の王は隙だらけになっているのでこのチャンスを生かさせてもらう。
「うおおおお!!」
「なっ……ぐああああああああっ!!??」
俺が隙だらけとなっている背中に向かって剣で袈裟斬りを放つと裸の王は悲鳴を上げながらその場で体制を崩したので俺は逃さず追撃を加える。
「アーマーブレイクッ!!」
「ギャアアアアアアァァァァアア!!!!」
無防備となった背中に更なる攻撃を受けた事によりさっきまで傷一つ付いていなかった奴の肉体からは鮮血が吹き出し、俺の身体を赤く染め上げると同時に気分が高揚していく。
(ああ、この感じ久しぶりだな……)
上位者になってから久しく感じていなかった相手の返り血を受けて気分が高揚するこの感覚。
今ならば目の前の獲物を狩る事なぞ容易いだろう。
「ひっ……や、やめ……」
リィフの言葉が思ったよりも効いたのか、それとも今の俺に怖気付いたのか分からないが裸の王は情けない声を上げながら腕を振り回してくるがさっきの攻撃に比べれば全く大した事はない。
「い、いやだ……!し、死にたくない!殺さないでくれっ!!」
リィフに己の状態を看破され、俺に傷つけられた事が原因なのか、裸の王は完全に心が折れたらしくついに俺に対して命乞いをし始めた。
だが、生憎と俺は敵だと思った奴の命乞いを受けてやるほどお人よしではない。
「悪いが、それは出来ないな」
俺はそれだけ言うと剣を手放し、右腕を獣化させて裸の王へと近づいていく。
「なっ!?ば、化け物ぉ!!」
獣化した腕を見た裸の王は俺を化け物呼びしてくるが、そんな言葉は今更聞いたところで別にショックを受ける事はない。
本来の俺は化け物以上の恐ろしい存在なのだから。
「ぜ、ゼロさん……」
「ゼロ?」
アイリスは俺がしようとしている事に対してやや恐怖じみた、リィフは疑問を投げかけるような声を出すが、俺は気にせず足を進める。
「う、うああああああああ!!!!」
自分に近づいてくる存在に対して自棄になったのかそれとも一矢報いる為か、腕を振り上げって俺の方へと突っ込んできたが、それは簡単に避けられるほど勢いがなった。
だから……
「ぐっ……がっ……」
やけくそとも言える攻撃に対して俺はさっと避けると同時にカウンターで獣化した腕を裸の王の胸に思いっきり突き刺す。
手に伝わる生暖かく柔らかい感触と僅かに脈打つもの、それを俺の爪が捉えていると分かるとそのまま腕を振るって裸の王の体を引き裂く。
「ひっ!」
「わぁ~ぉ……」
俺が裸の王の身体を引き裂いたと同時にアイリスの小さな悲鳴とドン引きしたようなリィフの声が聞こえたが、それを気にすることなく目の前で仰向けに倒れた裸の王を見下ろすと、その顔には生気がなくさっきの一撃で死んだようだ。
「どうやら終わったようだな……ん?」
俺がそう言うと同時に裸の王の身体は以前倒したヘンゼルとグレーテルの時と同じように体が消滅していき、そして最後には一冊の本がそこにあった。
(また本か……)
ドロシーの所で戦ったヘンゼルとグレーテル、下水道で見つけたピエロことハーメルンの笛吹、そして今回の裸の王。
此処まで倒した奴らが消滅した後に本が残る現象に会うと、もはや偶然でかたづけられる物ではなさそうだ。
(だが、これについては後回しだな)
今の目的はロストエンパイヤへ向かうことであり、この本の謎を解くのはその後でも遅くはないだろう。
どのみち俺はこう言う物の謎を解き明かすことは苦手な方だし……。
「あの……」
「んっ?」
俺が本について考えていると、後ろからアイリスが心配そうな声で話しかけて来ており、彼女は何やら不安そうな顔をしている。
リィフは裸の王を撃破した事で戦闘が終わった影響なのかいつの間にか消えていた。
「どうした?」
「いえ、その……体が」
「ん?ああ……」
アイリスに言われ自分の体を確かめると、全身が返り血で染まっており見事に血塗れになっている。
一応、これまでの道中でも何度か魔獣との戦闘で返り血を浴びていたが、それは篝火で休む度にまるで最初からついていなかったかのように消えていた。
「なに、これくらい篝火で休めば消えるさ」
「それはそうですが……」
彼女は何やら俺に対して心配しているようだが、何を心配しているのか俺には分からない。
心当たりがあるとすればさっき俺は裸の王の返り血を浴びて僅かに血に酔ったくらいだが、正直に言って上位者となった俺が獣に堕ちる事はあるのだろうか?
とは言え、今はそんな事を考えてもしょうがないし、裸の王を倒したのだから先へ進む方法があるはずだ。
(それに……)
裸の王と戦っていてあまり見ていなかったが、この部屋にはあいつの相手をさせられ無残にも殺害されたメイドたちの死体があり、俺はともかくアイリスの精神的にも宜しくない。
その為にも早くこの場を離れた方が良いだろう。
「あっ……ゼロさんこれ」
「んっ?」
俺が早くこの場を離れようと思っていると、アイリスが何かを見つけたらしくそれを俺に見せてきた。
それは小さな鍵のようだが、少なくとも俺が落とした物ではない。
そもそも鍵なんて普段持ち歩いていないが。
「これは鍵か」
「はい、もしかしたらこの館で使える所があるかもしれません」
「なるほどな」
正直な所、これ以上先に進める手段がなかった場合、最終手段として扉をぶっ壊そうと思っていたからアイリスが鍵を見つけてくれて助かった。
別に俺が何かを壊した所でよっぽどの事が無ければ器物損壊で訴えられるなんて事はないだろうし、なんなら俺じゃなく魔獣が壊したと思われるだろう。
勿論、ドロシーやエルマのような真面な人物が住んでいる所の物を故意に壊すなんて事はしないが……。
兎に角、この鍵があればどこかしらの扉を開ける事が出来るだろう。
「なら、まずはそこの扉で試してみるか」
さっきまでは戦っていたからあまり周りを良く見ていなかったが、この部屋には奥へ進めそうな扉が一つあり、もしかしたらそこからロストエンパイヤに行けるかもしれないと考え、まずはその扉で使ってみる事にした。
長い間投稿せず申し訳ありませんでした。
色んな創作に手を出したりしていた為、だいぶ後回しにしていました。
これからもかなり遅い更新にはなってしまいますが、どうか最後までよろしくお願いします。