「ゼロさん!」
俺が倒れると同時にアイリスの声が聞こえ、それまで離れていた彼女は倒れた俺の傍にやってくると回復魔法をかけてくれる。
彼女の手から暖かい光が俺の体を包み込むと、徐々に体から痛みが薄れていく。
「悪いな……」
「いえ……」
アイリスのおかげで体の痛みがほとんど無くなり、一先ず大丈夫になった事を伝えると俺は何とか上半身を起こす。
ドラゴンとの戦いで負ったダメージは回復したものの、疲労による脱力感は消えておらず、回復魔法はあくまで傷を治すだけで体力などは回復しないと言う事だろう。
まぁ、輸血液をぶっ刺して体の傷を癒すなんて事よりかはある意味現実的ではあるが。
「あのゼロさん……」
「どうした?」
「ごめんなさい、さっきは一緒に戦えなくて……」
「ああ……」
どうやらさっきの戦いで自分が戦えなかった事を気にしているようだが、あれは仕方ないと思う。
俺は以前にあいつと会ったと言う事もあって特に問題は無かったが、あの巨体からの威圧感は並の人間なら恐怖で動けなくなる。
俺もヤーナムで目が覚めたばかりの頃は聖職者の獣に怯えていたっけな……。
「あんな奴といきなり遭遇したんだ。気にするな」
「でも……」
「それに、最後は援護してくれただろ?」
「あっ……」
ドラゴンとの戦いの最後、俺がドラゴンにトドメを刺す直前に反撃をしようとした時に彼女の魔法のおかげで反撃を受けずに済んだ。
もしあの時にアイリスが援護してくれなければ戦いは更に泥沼化していただろう。
「あれのおかげで俺は奴にリベンジできたんだ。だから、それだけで十分さ」
「そう……ですか……」
その言葉にアイリスはやや複雑そうな表情をし、とりあえず納得したかのような返事をした。
恐らく俺の言葉に彼女はあんまり納得できていたいのだろう。
俺としては最後の援護だけで本当に十分なのだが、アイリスとしてはそうは思っていないのかもしれない。
(と言ってもな……)
もしかしたらアイリスは俺の役に立ちたいと思ってはいるのかもしれないが、俺としては一緒に居てくれているだけでもいいんだけどな。
ヤーナムでは人形以外で信用できる奴なんて数える位しかいなかったし、それ以外の連中なんて正気を失ってこっちを殺そうとしてきた奴ばかりだった。
それに比べればアイリスは見た目も性格も良く、俺に対しても積極的に傷を治そうとしてくれたりするし、一緒に居ても安心する。
なので、俺としては彼女が足手まといだとか役に立っていないなんて事は全く思っていないのだが、あくまで俺が思っていないだけでアイリス自身がそう思っているかは本人の気持ちしだいだろう。
(俺はカウンセラーじゃないしな)
幾ら俺が上位者になったからと言って他人の精神や心を癒す事や察することなんて出来ないし、なんなら上位者になる前から他人の心なんて考えず俺を脅かす存在として殺していた事だってあった。
だからと言ってそれを放置していい理由にはならないが、俺にはどうする事も出来ない。
それにこんな所でカウンセリングなんてやれそうにもないし、今は兎に角先に進むことにしよう。
「とりあえず、目的地はもうすぐそこなんだ。先へ進もう」
「……わかりました」
う~む、どうも俺は他人とのコミュニケーションが下手くそだなぁ……。
ヤーナムであまり他人とかかわっていなかったのがだいぶ響いている……。
(どうにか出来ないものか……)
いくら目的地が近いからと言って流石にこれは放っておいていい事じゃないし、何処かでまた話合った方がいいな。
とは言え、俺一人じゃどうしようもないから誰かに相談したいが、正直この世界の奴らもヤーナムのようにちゃんと話せる奴らが少ないし、話せてもこう言う事に詳しいとは限らない。
最悪またアリアンナに頼ると言う手もあるが、その度に娼館に行くのもどうかと思う……。
(難しいものだな……ん?)
アイリスの事を考えながら先へ進もうとするとさっきまでそこにあったはずのドラゴンの体がいつの間にか無くなっており、代わりに一本の剣が落ちていた。
「これは……」
俺がそれを拾ってみると、その剣は何処か燃えているかのように僅かに熱を感じる物で、もしかしたらあのドラゴンの力を一部持っているのではないかと思うほど凄まじい力を秘めていそうだ。
だが、何故これがこの場に落ちていたのかと疑問に思ったが、そう言えば俺が転生することになったブラッドボーンを販売した会社で今のこの世界のようにダークファンタジーな世界観のゲームがあったな。
確かそのゲームはブラッドボーンとは違ってボスを倒せば武器を入手出来て居た筈……ダメだな、もうほとんど前世の記憶がおぼろげになっている。
ともあれ、この剣は戦利品としてありがたく使わせてもらおう。
「いいものを手に入れたな……アイリス?」
俺がドラゴンから手に入れた剣に喜んでいると、アイリスは悲しそうな表情で何処かを眺めていた。
まさか、さっきまでの事で心に深い傷を負ったのか!?
だとしたら不味い、このまま放っておいたらどんな行動に出るか分かったもんじゃない!
「アイリス、どうしたんだ?」
「あっ……」
内心ではかなり焦ってはいるが、どうにかそれを表に出さないようにして落ち着いて彼女に話しかける。
するとアイリスは我に返ったように俺の方へと向いたが、その目には涙が浮かんでいた。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……ごめんなさい、ぼーっとしちゃって」
(そんな訳ないだろ……)
流石の俺でもアイリスの言葉は嘘だと言うのがすぐに分かる。
ぼーっとしていたってだけでそんな悲しい顔をしながら涙なんて普通は流さないだろうし。
「流石にその顔でそれはないだろう」
「そうですよね……」
「何があった?」
「……あそこに」
そう言ってアイリスはある場所を指さすと、その先には何故か不自然に山になっている灰色の粉があった。
ぱっと見ただけではただ埃が溜まっているだけにしか見えないが、それを見た瞬間、俺の頭にあの時の事が浮かび上がる。
―――
――
―
この世界で目覚めて初めて出会った少女。
―――不死者とは珍しい、……まだ眼は死んでいませんね。
彼女との出会いは偶然だったとしても、俺がこの世界を歩むきっかけとなったのは確かだ。
―――貴方に神の声が聞こえるのなら、その足を動かしなさい。
彼女の眼には自らの使命を必ず果たすと言う決意に満ちた眼をしていた。
だが、そんな彼女に待っていたのは悲劇と絶望。
――かっ、神よ!
その言葉と共に彼女の体は焼かれ、そして崩れていく光景。
そして、俺もまた炎に焼かれた事によりこの世界で最初の死を迎えた。
―――
――
―
「……」
あの時、俺は自らの身に起きた絶望と共に無念の死を迎えた騎士ジャンヌの事を思い出し、結果論ではあるが俺達を死に追いやったドラゴンを倒した事で彼女の仇を取った事になる。
勿論、俺はさっきまでそんな事を考えていた訳では無いし、なんならその時の事を忘れてすらいた。
ドラゴンを倒しはしたが、それはあくまであの時俺を殺したからリベンジしてやった位にしか思っていなかったから、ジャンヌの仇を取ったと言う実感が湧かないのもそういう事なのだからだろう。
(とは言え……)
現在、俺達が魔獣化の原因を知る為にロストエンパイヤを目指しているのと同じように彼女もこの世界の危機に対してどうにかしようとしていたのは確かだ。
その嘘偽りのない決意はまさしく騎士と呼ぶにふさわしいと思う。
そんな彼女が恐怖と絶望と共に死んでいく光景をアイリスも感じたのだろう、だからこそ彼女は涙を流していたのかもしれない。
「あそこの灰になってしまった人からとても辛い思いを感じて……」
「……そうか」
「あっ……」
アイリスの辛そうな声を聴いた俺は安心させるようにそっと彼女の体を抱きしめる。
正直、悲しんでいる少女に対しての対応がこれで正しいか分からないが、それでも何もしないよりかはマシだとは思う。
「……」
アイリスの方も俺の事を受け入れてくれたのか抱きしめている腕を振りほどくようなことをせず、そっと抱きしめ返してきた。
俺ならともかく、アイリスもジャンヌの事を感じ取り、それを辛い事だと感じるのはやはり彼女自身の優しさからくるものだろう。
「もう大丈夫です」
「そうか……」
その言葉を聞いて本当に大丈夫なのかは疑問ではあるが、あまり追及しても良くは無いと判断した俺は彼女を離し、灰に近づく。
遠目ではただ灰が積もっているように見えていたそれはまるで人がそのまま灰になったかのような形をしており、これが彼女の成れの果てである事を嫌でも理解させられてしまう。
「ゼロさん。それは……」
「……ああ、俺が最初に出会った子のだ」
アイリスにそう答えると俺は周りを見渡し、近くに転がっている亡骸の腰に使えそうな革袋を見つけ、それをぶんどる。
彼女の前でこんな事をするのは良く無いんだろうが、ヤーナムではずっとやってたことだし、今更ではあるが。
「あの、何を?」
「ちょっとな……」
アイリスは当然の俺の行動に疑問を持つが、そんな彼女の反応を他所に俺はジャンヌの灰を集めては袋の中へと入れていく。
こう言うのはガラじゃないが、彼女を助けられなかったのも事実、だからせめてもの償いをしたいと思ったのだ。
勿論こんな事に意味は無いのは分かっている、だがこのまま放置と言うのも正しいとは思わなかった。
「それをどうするんですか?」
「……せめて何処かまともな所で埋葬しようと思ってな。それに何の意味があるかは分からないが」
「いえ、そんな事は無いと思います」
「そうか……ん?」
ジャンヌの灰を袋に入れ終わり、俺の用事は済んだので先へ進もうと考えていると何処からか金属と金属がぶつかっているような音が僅かに聞こえた。
「今、何か聞こえませんでしたか?」
「ああ、俺も聞こえた」
アイリスも聞こえたらしく、どうやらさっきの音は空耳ではないようだ。
聞こえた方向からして、俺が閉じ込められていた牢屋があった方向からだが、果たして誰が戦っているのだろうか。
「行くぞ」
「はい」
アイリスと一緒に音の聞こえた方へ向かってみると、そこにはこの砦の兵士だったと思われる二体の亡者とそれを相手にしている鎧を纏った戦士がいた。
「くっ!」
鎧の戦士は戦い方からして素人ではないようだか、一対二の状況に苦戦しているようで、徐々に追い込まれていっている。
このまま放っておいてはあの戦士はやられてしまうかもしれない。
別に助けてもいいのだが、俺としては見ず知らずの人物を助けると言うのはあまりやりたくないと言うのが本音だ。
アイリスの時は彼女が戦えず魔獣に襲われていたと言う理由もあって助けたのだが、今襲われている戦士は自分の身を守れている。
こんな思考になってしまったのもヤーナムでの経験した事が確かだが、元々俺はそう言う善性は持っていない。
助けた奴がみんな優しいとは限らないんだ。
「ゼロさん……」
だが、俺とは違ってアイリスは戦士を助けたいらしく、その事を伝えたいかのように俺に声を掛けてきた。
どうも彼女は優しすぎる所があるが、それを咎めることなんて俺には出来ない。
どの道、戦士がまともな奴なのかあくどい奴なのは現状では把握できないし、アイリスの意思を無視してまで見捨てるなんてしたら彼女の俺に対する態度が変わりそうだ。
なので俺は彼女に分かったと言う事をジェスチャーで伝えると、戦士を襲っている亡者の元へと走り出した。
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