「さぁ、いくぞ」
「はい」
聖森で十分休息をとった俺達は再びロストエンパイア前のアイバーン砦にやって来ており、城門へと続いているであろう道を進んでいた。
(休息と同時に準備も十分できた筈だ)
あの後、俺はアイリスと共にロストエンパイアに戻ろうとした際に黒兎から声をかけられ、あいつから行為以外でのソウルの使い道をいくつか教えてもらい、それらを使って黒兎から道具を買った事により城の中に突入する為の準備はできている。
もちろん、このまま楽に進めるとは思えないが……。
「ゼロさん、あれ……」
アイリスが見つめている先にはこれまでに何度も見た霧が立ち込めており、恐らくだがその先には城門を守る存在がいるのだろう。
もちろん俺としてはそう簡単に城の中に入れるとは思っていないので、ある意味では霧があるのは予想通りと言える。
本当なら馬鹿正直に正面から入るなんて事はせず、抜け道や他の入り口を探すべきなんだろうが俺一人ならともかくアイリスも一緒となるとあまり時間をかける訳にも行かないのでこの先に強敵が待っているとしても正面から入ったほうがいいと判断したのだ。
「進むぞ」
俺がそう言うとアイリスは返事の代わりに頷いたのを見て、まずは俺が霧の先へと向かう。
無いとは思うが霧を抜けた瞬間に敵からの先制攻撃もしくは何かしらのトラップが仕掛けられている可能性を考えてであり、安全確認の為でもある。
まぁ、どのみち霧の先には城を守る門番がいるだろうから安全確認はあまり意味はないだろうが……。
「むっ……」
霧を抜けた先は城門へと続くと思われる大きな階段がある広場で過去に何度も戦いがあったと思わせるほど瓦礫が散乱しており、更には床が一部崩落している。
階段の前には後ろを向いた格好からして女と思われる人物がおり、そいつは俺達に気が付いたのかこちらへと振り返った。
「誰かと思えば汚らわしい不死人共か……」
こちらへと振り向いた女性は俺達を見るやいなやいきなりそんな事を言い出し、明らかに友好的では無い雰囲気を出している。
黒兎から聞いていたが、この世界では不死人は忌み嫌われる存在であり、中には不死人と分かっただけで迫害され場合によっては拷問や処刑されることもあるとの事。
それだけ聞くとヤーナムでの獣と狩りに狂った狩人の関係に近いな。
それはともかく、目の前の女は明らかにこちらへ敵対心を向けており、話し合いができそうにもない。
「貴方達はシンデレラ様の舞踏会にお呼びではないわ……不死人は不死人らしく、魔獣と踊っていなさい」
女は吐き捨てるように俺達にそう言うと踵を返してそのまま階段を上がって行ってしまった。
さっきあの女は明らかにロストエンパイアについて何か知っていそうな様子だったので捕えれば情報を聞き出せる可能性がある。
「まて……くっ!」
俺が女を追いかけようとした瞬間、突然激しい光の柱が上がると同時にその中から行く手を塞ぐように巨大な鎧の騎士が目の前に現れた。
恐らくだが、さっきの女かもしくはこの場所に仕掛けられていた迎撃装置のようなものが起動し、俺達を此処から先へ進ませない為に召喚されたのだろう。
それだけじゃ無くさきほどではないが城壁の上にも騎士が現れた時と同じ光が複数放たれ、そこから弓を持った兵士が現れる。
どうやらどうしても俺達をこの先へ進ませたくないらしい。
「アイリス!」
「はい!」
横にいるアイリスに声をかけ二人で臨戦態勢をとると同時に城壁の上に現れた兵士達は一斉に弓を構えてそれを俺達に向ける。
それと同時に目の前にいる巨大な騎士もその手に剣を構えて動き出き始めた。
「来るぞ!」
俺の声が合図と言わんばかりに城壁の上にいる兵士達は一斉に矢をこっちに向かって放ってきたのを俺は回避し、その勢いのまま鎧の騎士の所へ向かう。
その間も城壁の上にいる兵士から矢が飛んでくるが、動いているおかげで矢は俺にほとんど当たらず逆に当たりそうなものは剣で打ち払って防ぐ。
そして騎士の傍までに近づいた俺はそいつに向かって剣を振るう……が。
「くっ!」
俺が放った攻撃は相手の鎧によって鈍い金属音と共に弾かれ、その衝撃に思わず剣を落としてしまいそうになってしまった。
それによって体制が崩れてしまった俺は鎧の兵士からの反撃を受ける前に何とか距離を取ろうとした瞬間、その隙を狙ったかのように矢が飛んできたが、それを何とか紙一重で交わしたものの顔に少し掠めてしまう。
(予想はしていたが、やっぱそうなるよな……)
攻撃した時に感じた手ごたえからして間違いなく相手にはダメージは入っておらず、その防御力は伊達ではないようだ。
巨大と言う威圧感に加え、強固な鎧と言う組み合わせは確かに門番にふさわしいと言える。
ヤーナムでは固い敵なんてほとんどいなかったからなおさらそう感じてしまうな。
(こいつはかなりキツいぜ……)
巨大な騎士に対して自分の攻撃が有効打にならないと言う事はそいつを倒せない事はないが、長引けばこっちが追い込まれるのは確実だ。
おまけに今回は取り巻きがいる事によって状況はこっちが圧倒的に不利になっており、このままだと確実にやられてしまう。
それを何とかするためにまずは城壁にいる兵士を何とかしたいが、こっちには遠距離手段が無い訳じゃないものの俺の物は上位者の力を開放しないと使えないし、今はインターバルが終わっていないのか使える感じがしていないからどのみち使えないが…。
それならばどうにか城壁の上に行って弓兵を直接始末すればいいのだが、今いる場所から城壁の上へ行ける通路や階段のようなものは見当たらず、まるで相手が有利になるように用意されたかのような状況だ。
(どうすればいい……)
この圧倒的にこっちが不利な状況に俺は敵からの猛攻をしのぎながら如何にか覆せないか思考を巡らせる。
すると…。
「がぁ!」
何処からとともなく一つの光の矢が城壁の上にいた弓兵の一体を貫き、それを受けた弓兵は消滅した。
(今の攻撃は……)
さっきまで騎士と矢の攻撃をしのいでいた俺は当然やっておらず、リィフも今は呼んでいないので違う。
となれば考えられることは一つ……。
俺がそう考えている間に再び光の矢が弓兵の一体を仕留めていた。
「上にいる兵士は私がなんとかしますので、ゼロさんは騎士のほうを!」
「ああ!」
やはり先ほどの光の矢を放っていたのはアイリスだったようで、今までもあの光の矢で援護をしていたが今回使ったのはそれ以上の恐らく上位の物なのだろう。
と言うか
いつの間にそれが使えるようになったのか分からないが、とにかく城壁の上にいる弓兵に対してはアイリスに任せれば何とかなるかもしれない。
とはなれば俺は巨大騎士に集中すればいいのだが、こう言った状況で周りの取り巻きを放っておくのは良くない事はヤーナムの影や再誕者との戦いの経験から分かっていた。
目の前の相手だけに集中するといつの間にか囲まれて死に至る、そんな状況にならないように立ち回らなければならないのだが相手は俺よりも巨大な存在、その威圧感に飲まれて周りが見えなく無くならないようにしなければならないな。
(それに俺の攻撃はあいつに対して有効打になっていない……)
アイリスが城壁の弓兵を何とかできると言った所で事態は何も好転しておらず、騎士の攻略法は何もない状態のままだ。
今思えば騎士のような堅牢な相手は今まで戦った事がなく、ヤーナムの連中のほとんどは攻撃を当てればその肉を抉り、弾丸は体を貫いていた。
そうなるとこの世界ではヤーナムとは違って回避ではなく、防御に趣を置いていると言えるだろう。
とにかくどうにかして騎士を攻略しなくてはロストエンパイアに入ることはできない。
もしかしたらアイリスの光の矢は有効かもしれないが、流石にそこまで無茶をさせるのは酷なので俺が如何にかするしかないな。
「こいつはどうだ!」
普通の攻撃は効果が薄かったと感じた俺は今度はアーマーブレイクを放つと、攻撃事態は問題なく命中したが手ごたえはさっきとあまり変わらなかったが、それでも僅かに効果があった。
しかしそれでも騎士は声を出さないどころか特にこれと言った反応をしていないので此処まで来ると鎧の中には誰も入っておらず、あいつは所謂ゴーレムと言われる存在なのだろう。
どのみちあんなにデカい鎧を着れる奴なんていないだろうが。
「くっ!」
そんな事を考えている間に騎士はその手に持った巨大な武器で俺を叩き潰そうとしてきたのでそれを回避したものの、それが地面に叩きつけられるとそこから凄まじい衝撃が起こり俺は少し体制を崩してしまう。
幸い、騎士の動きは鈍足と言えるほど遅いので体制を立て直すまでの隙は十分にある。
だが、地面を叩き割るほどの一撃なんて受けてしまったら一発アウトだろうから出来る限り体制を崩さないようにしないといけないのは変わらない。
「こうなったら……」
この状況を打開する為に俺は騎士がこちらに近づいてくる前に自分が着ている鎧を脱ぎ捨て、そのまま自分の剣を腹に突き刺す。
「ぐっ……おおおおおおっ!」
剣を刺した事による激痛に耐えそれを腹から一気に引き抜くと剣の刃は俺の地によってエンチャントされ変形させたルドウィークの聖剣と同じ位の刀身となっており、これならば巨大騎士にも効果はあるだろう。
だが、腹に剣を思いっきり突き刺したせいでそこから血が流れており、戦いが長引けば失血で倒れてしまうかもしれないのでとにかく速攻で騎士を倒さないとやばい。
「喰らいやがれ!」
俺が血を纏った剣で騎士に向かって斬撃を放つと、さっきの攻撃とは違い確かにこっちの攻撃が通っていると言う手ごたえを感じ、その巨体を一瞬だけぐらつかせる事ができた。
しかし、最初は上位者の力を開放していたからなのかこの状態で攻撃をした瞬間、全身から力を奪われるような感覚がはしりどうやらこの状態で攻撃すると少しだけ体力を消費するようだ。
この力を普段使いするには使い勝手はいいほうじゃないが、今はそんな事を気にしている暇はない。
「もう一発!」
「!!?」
騎士に向かって再び血の刃で攻撃すると騎士は明らかに驚いた反応を示し、自らの武器でこちらの攻撃を防ぐ。
だが完全には防ぎきれなかったらしくその巨体を少しだけ後退させたが、その後にすぐに反撃をしてきた。
しかし、その巨体故に攻撃は読みやすかったのでそれを難なく回避すると同時にお返しと言わんばかりに血の斬撃を叩き込む。
その一撃により騎士は体制を崩して前のめりに倒れそうになったが、自らの武器を杖のようにした事で膝をつく形で耐えられたものの俺にとってはそれで十分だ。
「こいつで……終わりだ!」
右腕を獣の腕へと変化させ、それを体制を崩したことで俺の身長でも十分に届く範囲になった頭部分に突き刺すとそのまま中を抉るように引き裂く。
だが、今までの相手とは違いやはりゴーレムのような存在なのか獣の腕で感じたのは肉を抉ると言うよりも分厚い鉄板を無理矢理引き裂くと言った感触だったが、それでもこの一撃が致命になったらしく騎士はそのまま地面へと倒れ伏せこの戦いの勝敗が決したのだった。
次回で1章は区切りになります