着替えも済ませて体育館へと青髪さんに抱っこされながら移動する。隣にはニコニコの緑髪さんがいて、ちょくちょく俺の胸やらほっぺに腕を触ってくる。別に構わないけどちょっとくすぐったいのでやめて欲しい。
俺の無表情フェイスが崩れてしまうじゃないか。
あ、こらやめないか。いやらしく胸を触るのは禁止です。
「犬塚ちゃん私のお嫁さんにならない?」
俺の腕をモミモミしながら緑髪さんがそう言って俺の顔を覗きながら歩く。顔面偏差値が高い人がやると破壊力は凄いものだが、俺には効かんぞ。
「冗談」
「冗談なんかじゃないのにー…」
緑髪さんは頬を膨らませてこちらを見てくるではないか。美少女が頬を膨らませて怒ってますという表現がここまで破壊力が高いとは。俺には効かんぞ。
「あんまり犬塚さんを困らせないこと」
俺の左斜め上から聞こえる綺麗な声で緑髪さんを諌める青髪さん。
青髪さんは緑髪さんを含めて皆んなの過去を知っている。だからこそ分かることもあるだろう。でも俺はそこそこ人を見る目があると思ってるんだ。だから緑髪さんが本気で俺を困らせるつもりがないのはなんとなく分かるんだ。
「えー…犬塚ちゃん困ってる?」
ぷんぷん顔から今度は眉が下りどこか寂しそうな表情になる緑髪さん。
この人は本当に表情豊かで見ていて飽きないタイプの人だ。
「大丈夫」
俺の言葉に緑髪さんは安心したのか嬉しいのか、俺の頬に自身の顔を引っ付けてすりすりしてくる。まるで猫だ。
後どさくさに紛れて胸を揉まないで欲しい。あ、青髪さんが俺の胸を揉んでいる緑髪さんの手を叩いた。ペシ程度ではあるが、ここは痛みによる罰ではなく、これ以上俺の胸を揉まないように抑制するための警告が必要だろう。痛みが強ければ不満に思うこともあり得るからな。
緑髪さんは俺の胸から手を引き叩かれた左手の甲をすりすりしている。
すりすりしながら緑髪さんは俺の頭に手を置き撫でられる。
「犬塚ちゃん。今日一緒に帰らない?」
唐突にそんなことを言うので少し驚いた。一緒に帰ると言っても俺と緑髪さんの家は逆方向でどちらかが余計に歩かなければならない。
緑髪さんのことなら確実に俺を送ってから自身の家に向かって歩き始めるはずだ。それは気が引けるし、俺はコミュニケーション能力が高い訳じゃないから確実に無言の時間が生まれてしまう。それが俺にとっては少しだがストレスになる。とはいえ知り合って間もない間柄なのでどんな話をするのが正解なのか全く分からない。
ここは丁重にお断りするべきだろう。そう判断を下し俺は拒否の旨を伝える。
「大丈夫。一人で帰れる」
そう言えば緑髪さんは寂しそうな表情が深くなり、まるで見捨てられた子犬の様だ。
「私と帰るのは嫌?」
嫌かと言われたらそれはノーだが、会話のキャッチボールが得意じゃない俺といても時間の無駄になるし、何より楽しくないだろうに。
この人たちが何故俺に構うのか理解できないが、彼らの時間の使い方に文句を言う資格が俺にはないし、そこまで仲がいいわけでもない。
いや、仲がよくても口出されるのはいい気分じゃないか。
「別に」
「嫌じゃないなら一緒に帰って欲しいな」
そう言って緑髪さんは俺の手を優しく取って手の甲に口づけする。
そんな理由だけで彼女の時間を奪ってもいいのだろうか。
俺が迷っていると青髪さんが俺の左頬に手を当てて覗き込んできた。
「私からもお願い。明日花と一緒に帰ってあげて」
まるで聖母みたいな顔で言うものだから青髪さんの後ろに後光が見える。
「分かった」
「やったー!」
「よかったわね、明日花」
どうして喜ぶのか俺にはとても理解できないな。
体育館に着き俺は青髪さんに降ろして貰いスタスタ歩き、二人から距離を取ってバスケットゴールの少し後ろに座る。
背中を壁に預けて二人、ひいてはクラスの生徒たちを観察する。
青髪さんと緑髪さんは俺と違いコミュニケーション能力が高く、一年であれば大体連絡先を交換していて仲がいい人もちらほら出来ているみたいだ。俺に構っていなければもっと友人もできるだろうに。
女子たちはそれぞれのグループが形成されていて談笑している。前世では孤立した生徒もちらほら見かけたが、今のところそんな女子は一人もいない。
もしかしたら自分を殺してグループに入っている可能性があるが、俺にはどうしようもない。
続いて男子だが、孤立している生徒が4人いてそれ以外はグループで固まっている感じだ。
ん?孤立している生徒の一人がこちらに向かって歩いてきている。
かなりの美形…というかあれは完全に男の娘というやつではないだろうか。戸塚みたいな女の子より女の子してる奴だ。
髪は普通の黒だけど、素で女の子みたいだな。だが男だ。というやつだな。いかん、リアル男の娘に動揺している。華奢だし線も細い。身長は恐らく154辺りじゃなかろうか。
そんなことを思っていると彼は俺の目の前まで歩いてくるとゆっくり腰を下ろして対面する形になる。
何故対面に座ったのだろうか。こういうのは普通隣とかじゃないのか?
「あの…僕と友達になってくれませんか…?」
声可愛いなオイ。なんだそのソプラノボイス。君の声帯どうなってるの?
俺より可愛いのでは?いや、自身のビジュアルなんて気にしたことないから負けてるのは確実だろうか。
これでチ○チ○ついてるってほんとぉ?ちょっと触って確認するべきだろうか。幸い俺は前世男だし大丈夫じゃないだろうか。いや、今は女だからアウトなのか?
一旦落ち着くんだ。こう言う時は羊さんを数えて冷静になるのだ。
「あ、あの…犬塚さん…友達に…」
羊さんが一匹。羊さんが二匹。羊さんが三匹。羊さんが四匹。羊さんが五匹。羊さんが…。
「犬塚さんっ」
彼?は俺の両肩を掴んで優しく揺らすものだから羊さんたちが牧場から脱走して行きまた捕まえないといけなくなってしまう。
「あ、あの!僕!犬塚さんと友達になりたいんです!」
なんて破壊力だ。澄んだ綺麗な青い瞳に長いまつ毛。君本当についてる?
「うん」
だが俺は大人だからな。余裕をもって対応するのが当然だろう。
「その"うん"はオッケーってことかな?」
「うん」
俺がそう言いながら頷けば花が咲いたと錯覚してしまいそうなくらいの笑顔になった彼?は俺に抱きついてきた。
「ありがとう!嬉しいよ!犬塚さん好きっ!」
興奮しているのか彼?は抱きつきながら体を上下に揺らしている。
後好きとか言われたら俺が好きになっちゃうから勘違いするような発言は控えるべきである。
「犬塚ちゃんに抱きつくのは感心しないな」
その声が聞こえた瞬間背筋が凍る感覚に陥る。この声が誰なのかなんてのは分かっている。
「犬塚ちゃんは何でちょっと嬉しそうなのかな?」
緑髪さんが腕を組み俺と彼?を見下ろしていてその後ろに青髪さんをはじめとした皆んながいた。俺は目を背けて難を逃れる。
あ、今股間のアレが俺のお腹に当たった。この感触からして間違いなくチンチンだ。
彼は俺から素早く離れるとその場で回転して緑髪さんたちの方へ向くと綺麗な土下座をした。
「ご、ごめんなさい!」
何も土下座する必要ないだろうに。誠意としての土下座だろうか。
「犬塚ちゃんの最近の出来事知ってるよね?小鳥遊君が女の子みたいな見た目でもその股には立派な剛直があるんだから気をつけて」
それを聞いた小鳥遊君は素早く俺の方を向いてまた土下座した。
「ごめんなさい犬塚さん。僕犬塚さんと友達になれたことが嬉しくてつい…」
「大丈夫。気にしないで」
そう言って俺は精一杯の笑顔を作ってみる。俺の中ではニッコリ笑っているはずなのだが、どうだろうか。目をゆっくり開けてみると。
「犬塚ちゃん…!」
「犬塚さん…」
「犬塚ちゃん…」
「……」
全員が何故か惚けていて、俺を見たまま微動だにしない。
どうしたのかと思っていると、座っている俺の所まで歩き、目の前で停止すると、両脇に手を入れて抱き上げた緑髪さんが頬にキスをしまくる。
一体何だと言うのか。俺はただ天井を見上げた。
ーーー
お昼。俺はおにぎり一つだけを食べて昼食を済ませて図書室へと来ていた。
まだこの学校の図書室へ来ていなかったことが俺の中で何故か気がかりだったのでそれを消化しに来たのだ。
ちなみに皆んなには遠慮してもらうようにお願いしておいた。滅茶苦茶渋々しょーがなくって感じだった。
本を物色しようにも俺の身長では届かない場所のものもある。となれば台座が必要だ。
図書室の出口の近くに座っている委員に聞いてみよう。
「すみません」
俺が声をかけると委員と思われる男子が読んでいた本にしおりを挟んで閉じる。
「何か」
この図書委員かなりガタイがいいな。制服の上からでも分かる程の筋肉に座っていても分かるほどの高身長。この人180超えてるだろ。
しかもまたイケメンだよ。なんだこの学校顔面偏差値高すぎるだろう。もしかしてテストの点数より顔で選んでると言っても俺は信じるぞ。
「台座が欲しい」
彼は会話そのものを好んでいないようなので端的に伝えるべきだと判断する。後この人俺のこと全く見ないな。多分俺はお腹辺りまでしか彼の目には映っていないのではないだろうか。それぐらい視線が下なのだ。
「分かりました」
そう言って彼は椅子から立ち上がると少し屈んで机の下から台座を取り出すとこちらに渡してくれた。
「ありがとう」
「使い終わりましたら私のところへ持ってきてください」
「分かった」
最後まで俺のこと見なかったな。意地でも視界に入れようとしなかったぞ。余程のことがあったのかもしれないな。
俺は台座を両手で持って移動を開始した。
本も物色し終えて台座を彼のところへ返しに行くと、彼は本を読まずじっとこちらのことを見ていた。
「ありがとう」
そう言いながら台座を渡す。彼の手が俺の手と重なり俺はすぐさま手を引き抜いた。
そのことが意外だったのか彼は少し驚いた表情をしている。ていうかやっぱり手は大きいし、なんかマメもあったな。剣道?野球?ホッケー?スポーツはそこまで詳しいわけではないので、彼のマメの理由が分からない。
「貴女の名前は」
どうやら俺は目をつけられたらしい。彼とは身長差がありすぎて一緒にいると首が痛くなりそうだ。まあ茶髪さんたちも大きいのでアレだが……。
「犬塚」
俺の名前を聞いた瞬間彼はハッとした表情をした後何かに納得がいったのか二度頷きこちらを見た。
「犬塚さん。私は遠坂凛と申します」
そう言った彼こと遠坂凛は微笑んだ後お辞儀をしてきた。
ゆっくりと顔を上げた遠坂。その顔は真顔である。さっきの笑顔どこいった。
「じゃあ」
俺はそう言ってこの場を立ち去ろうとしたのだが、遠坂は身を乗り出して机に右手を置き左手で俺の左手首を掴んだ。
その手足が長いことはいいことだが、俺の左手首を掴んだ理由はなんだ?まだ何かあるのだろうか。
「私とライン交換しませんか?」
「……」
俺には遠坂が少しだけ、ほんの少しだけ輝いて見えた気がした。