結局遠坂さんのゴリ押しに負けた俺は彼とラインを交換してしまった。
後何故か高い高いをされた。本当になんでだ。まだ図書室に残っていた生徒たちがギョッとしてたぞ。
しかもその後キスされたし。本当になんなんだ彼。訳がわからないよ。
授業も終わり放課後となってすぐに緑髪さんがこちらにやって来て俺を無言で抱き上げると、そのまま俺は生徒玄関へと連行される。
幸い鞄はちゃんと持っているので大丈夫だ。
教室を出る際に他の皆んなは俺に手を振っていてくれたので俺も手を振り返しておいた。
流石に靴の履き替えは抱っこ状態のままということはなく、ちゃんと降ろしてもらえた。
靴を履き替えて自分の足で歩こうとしたのだが、後ろから抱き上げられそのまま生徒玄関を後にする。
生徒玄関を出ると既に何人かの生徒たちが下校しているのだが、すれ違う生徒全員が無言で俺の写真を撮って可愛いとか好きとか言っているが、勝手に撮るのはやめて欲しいのだが。
「えへへ〜」
緑髪さんは何故か俺の頭に顔を埋めて臭いを嗅いでいる。何故俺の臭いを嗅いでえへへなんて言っているのか理解出来ないが喜んでいるようだし良かった…のだろう。
緑髪さんは隙さえあれば胸を触ってくるのだが、そんなに俺の胸がいいのだろうか。身長に比べれば大きいだろうが、緑髪さんには勝てない。
「帰りにたい焼きでも買って帰ろうね〜」
緑髪さんはそう言って俺の頬に自身の頬を当ててスリスリしてくる。
それもまた写真を撮られているのだが、緑髪さんはいいのだろうか。
気にしてないみたいだしいいのか。
「いいの?」
「撮られてること?」
「うん」
「別にいいんじゃない?」
「そう」
「犬塚ちゃんが嫌なら全員のスマホから画像を消去させるけど」
さらっと凄いことを言うものだからしなくていいという意味を込めて首を左右に振って否定しておく。
「犬塚ちゃんこと私も撮ってるしあんまり強くは言えないけどね」
諦めるしかなさそうである。にしてもやる気が起きない。鬱になってからはやる気が起きない日がちょくちょくあるのだが、こんな時間にくるのは久しぶりである。
「それじゃ帰ろっか」
「うん」
緑髪さんが歩き始め俺は小さく揺れ始めた。
学校を出て少し歩いたところで質問を投げてみることにした。
緑髪さんは無言で俺を抱えたまま俺の家に向かって歩いているし、気になっていることを聞くには丁度いいのではないかと思ったのだ。
「白波さんは中学時代荒れてたの?」
「まあ、ちょっとだけね」
表情は見えないが、声の感じからして触れてはいけない案件ではなさそうだ。少し踏み込んでみよう。
「教えて欲しいって言ったらどうする?」
「んー…教えてもいいけどその代わり犬塚ちゃんが欲しいって言ったらどうする?」
これはまだ踏み込むべきではなかった案件だったかもしれない。緑髪さんは今俺に自身の過去を教える気がない。流石にただのクラスメイトには教えられないというわけだ。
「遠慮しとく」
「だよね。犬塚ちゃんならそういうと思ってたよ」
そこからはしばらく無言が続き、茶髪さんとも寄ったコンビニへとやって来ていた。店内に入る前に降ろしてもらい一緒に店内へと入る。
緑髪さんは迷うことなくスイーツコーナーへと足を動かす。
スイーツコーナーに置いてあるたい焼きを二つ持った緑髪さんを止めるために俺は制服の裾を引っ張る。そうすれば緑髪さんはこちらを向いてくれた。
「自分の分はちゃんと払う」
「ダメ」
そう言って緑髪さんは俺を連れてレジへと向かい素早く会計を済ませてしまった。俺が財布を取り出すよりも早く合計金額を出したのである。
買ったたい焼きを一つ俺に渡してもう一つは緑髪さん自身が持ち一緒に店内を出る。
俺は財布を取り出し自分の分の金額を緑髪さんに渡そうとするも、緑髪さんに止められてしまう。
「いいの。気にしないで」
そう言って緑髪さんは自分の分のたい焼きを鞄の中へ仕舞うと俺を抱き上げ俺の家に向かって歩き始めた。
じたばたと暴れるのも違うと思うので、俺はたい焼きの封を開け半分にするとそれを緑髪さんの口の前へともっていく。
「……いいの?」
「うん」
「………そっか」
緑髪さんは諦めたようなそれでいて少し嬉しそうな顔をした後半分こになったたい焼きを食べた。支える必要もなくなり、俺も半分になったたい焼きを食す。
「美味しい」
抱っこされながら食べると言う高校生とは思えない状態だが、たい焼きは美味しかった。
ーーー
「犬塚さんこの小説面白いので読んでください」
翌日のお昼。教室で一人外を眺めながらサンドイッチを食べていると遠坂さんと小鳥遊君が俺の机周辺に集まってきた。
「そう」
「犬塚さん今度僕とデートしませんか!」
「そう」
「なら私ともデートしましょう犬塚さん」
何故彼らとデートすると言う話になるのだろうか。まだ少し喋った程度の極薄の関係だろうに。それに俺が異性と付き合っている姿が想像できない。
「デートする気ない」
「なんでですか!デートしましょうよ〜!」
「デートは楽しいですよ。犬塚さん」
あまりにも話がぶっ飛びすぎだろうに。まずは仲良くなってからお出かけするのが定石というものではないのか。
というかデートなんて何するのかすら知らないし、恋人うんぬんも分からないのにどうしろというのだ。
「クラスメイトとデートする気ない」
俺はフルーツサンドを一口食べてその甘さを噛み締めながら二人を見る。
小鳥遊君はさっきから何気にボディタッチが多く、肩や手をよく触ってくる。
遠坂さんは本を事あるごとにオススメしてくる。ガタイもいいのでちょっとだけ怖い。
「では今度家に遊びに来る、もしくは遊びに行くなどどうでしょうか」
そう言って遠坂が俺の両手を包むようにしてその大きな手で触ってくる。
現在俺はサンドイッチを持っているので前のようには出来ない。
「ごめんなさい」
行くのも来られるのも困る。友達の家に行く時はお菓子を持って行くのがルールと聞くし、持って行くのはポテチとかチョコとかでいいと思うのだが人の家に入るという行為がストレスだ。
少なくとも緊張するし、失礼のないようにしなければならないし、色々考えてしまう。
二人は顔を見合わせて何故か頷き再び俺を見る二人はどこか決意のようなものが見えた気がする。
「家に来て」
今度は小鳥遊君がそう言って俺の見据えた。
「ごめんな「良かったー!来てもらえるんですね!」
俺の声を途中で遮り小鳥遊君はそう言って微笑む。
「では私もお邪魔しましょう」
「いえ、遠坂さんは来ないでください」
「え」
何がなんだか分からないが、俺は小鳥遊君の家に行くことになってしまったようである。