しばらく頭を撫でていると弟は落ち着いたのか俺にディープキスをしてから朝食を食べ始めた。今のいる?という疑問を抱えつつ俺も椅子に座り朝食を摂る。
弟はご飯を食べている時は基本スマホを触らないのだが、今日は何かと忙しなくスマホを操作している。スマホに集中しているのか、ほっぺにケチャップを付けている。
今日は軽めにオムライスとサラダとコーンスープなのだが、オムライスにはちょっと多めにケチャップを使ったのがいけなかったのか。
俺は椅子から降りて、弟の横に移動してそのケチャップを指で拭き取り舐める。ケチャップを拭き取られてようやく気づいたのか弟は俺を見て固まっている。
俺は台所で指を洗いタオルで水を拭き取り、中断していた朝食をまた食べ進める。
「ね、ねぇーさん…」
「どうかした?」
何故かプルプルと震える弟は顔を俯かせている。あ、もしかして嫌だったか?もう弟も中学生だもんな。姉にこんなことされたら嫌か。
「こういうこと他のやつにもしてるの?」
突然どうしたのだろうか。そりゃ声もかけずにやったのは申し訳ないと思うが…。
「してない」
「お、俺だけにしかしないってこと…?」
「多分…?」
「ふ、ふーん…へ、へぇー…俺だけ…」
なんか嬉しそうだけど何かいいことがあったのだろう。なんか顔蕩けてるし。
オムライスを食べ進め、サラダ、コーンスープも食べ終わり、食器を持って台所で洗う。その間も弟は気持ち悪い笑みを浮かべながらオムライスを食べていた。
弟の食器も洗い終わり自身の部屋へ移動し、制服を着て鞄を持って家を出る。弟は満面の笑みで俺を送り出した。
ーーー
「おはようございます。一歌」
「………」
学校へ向かって歩いているといつの間にか隣にいた遠坂さんが声をかけてきた。内心俺は超びっくりしたんだからな。
「あんなにも愛し合ったと言うのに挨拶もなしですか?」
俺の目線に合わせて屈みながらそう言ってくる遠坂さんが少し鬱陶しいので少し歩く速度を上げる。
それに難なくついてきた遠坂さんは俺を背後から抱き上げて頬にすりすりしてきた。なんかイラつく。
「私はいつでもウェルカムなので言って頂ければお相手しますよ」
「……」
朝っぱらから何言ってんだ…。周りに人がいないことをいいことに言いたい放題するな。
「ほら、見てくださいよ。綺麗に撮れてるでしょ」
遠坂さんは俺にスマホを向けてきて…!?
「あはは。取らせませんよ」
「消してっ!」
俺は必死に手を伸ばすが、遠坂さんの長い腕の先の手に掴まれたスマホを奪い取ることができない。
それに遠坂さんは片腕を使って俺を抱き抱えているのに、腕を伸ばされるだけで全く届かない。
くそっ!なんてもん撮ってんだ!あんなの弱みでしかない。ま、まさかよくあるえっちなアレよろしくぐへへみたいなやつか?で、でも流石にしないよな…?しないでくれ…。
5分ほど格闘してみるものの、労力虚しく、全くもってダメだった。
乱れた呼吸を整えつつ、何かないかと考えようとしていると声がかかった。
「消して欲しいですか?」
遠坂さんの声は静かでそれでいて低く、粘っこい声だ。
「当たり前」
「ではこれから3ヶ月。ずっと私とセックスしてください」
「な、何言って…」
とんでもない要求に俺は動揺し、思わず遠坂さんの顔をガン見してしまう。さ、3ヶ月…?そ、そんな爛れた生活出来るわけ…。
「では2ヶ月でもいいですよ。私とセックスして下さい」
「ふ、不当…。そんなの受け入れられるわけない」
「では1ヶ月ではどうですか?」
「む、無理…」
「私としては最低1ヶ月なのですが。一歌はどう思っているのですか?」
「…無条件で消して欲しい」
「私は少し悪い友達たちがいましてね。もしこの写真を彼らに送ったらどうなると思いますか?」
「早く消して」
「この写真が世界中に散らばり、貴女のことをレイプするために攫ったり、誘拐したりするかもしれませんね。彼らは頭がイカれてるので私も想像できないようなことを一歌にするかもしれませんね」
言われたことを少しだけ想像して身震いする。そんなことしないよなと思い遠坂さんの表情を伺う。
その表情はとても穏やかでまるで何かを慈しむような表情をしていた。
見た瞬間何故か背筋が凍って身体が震える。
「嘘ですよ」
微笑む遠坂さんを見て少し安心する。流石にしないよな…。そんなこと。
「…そう、だよね」
「でも写真は消しませんよ。先程言った条件を呑んでくれない限りね」
「………」
やっぱりこの人何考えてるか分からない。取り敢えずどうにか別の方法で消してもらえるようにしないと…。
「もう少しで他の生徒たちと合流しますので話があるようでしたらまた後で」
そう言って遠坂さんは俺を下ろして早足で学校へ向かっていく。
俺が声をかけるよりも速く行ってしまったためどうしようもない。
「……っ」
伸ばした腕は何も掴めず、腕を下げてから歩き出した。
ーーー
「おはよー!犬塚ちゃん!」
生徒玄関で緑髪さん達と鉢合わせ、緑髪さんが俺を抱き抱えほっぺにチュチュチュとキスされる。
「おはよ、犬塚ちゃん」
「おはようさん」
「おはよう。犬塚ちゃん」
「はよ、犬塚ちゃん」
それぞれの挨拶を受けて、俺も挨拶を返す。
「…おはようございます」
「んもー!固い!固いよ!」
緑髪さんは俺の頬にスリスリしてくるので甘んじて受けていると、今度は青髪さんが俺の空いている右頬に自身のほっぺをつけてスリスリしてくる。なんだこのサンドイッチ状態。
「結、明日花。行くぞー」
赤髪さんの声により二人は俺の顔にくっつけながら移動し始める。いや、器用だね二人とも。
しばらく教室を目指して歩いていると、茶髪さんが俺の方を向きながら口を開く。
「犬塚ちゃん。今週の土曜空いてる?空いてたら皆んなでボウリングとかしようと思ってるんだけど」
ボウリング…この身体で投げれるのか…?いやでも、遠坂さんともし交渉が出来ず、本当にあの写真を消すことが出来る唯一の方法が性行為だけだったら…。他にも強引なやり方はあるんだろうけど、まだ遠坂さんは高校一年生だ。俺さえ我慢すればいい。俺さえ耐えればいいのだ。
「少し、時間を下さい」
俺が出せる答えはこれしかない。今言えるのはこれしかない。
「そっか。出来れば早く教えてね」
そう言って茶髪さんが俺の頭を優しく撫でてくる。俺に優しくしないでくれ。ちょっと泣きそうになるから。あー…ダメだな。精神状態が悪い。
「どうしたの?犬塚ちゃん」
そう言って心配そうな表情をして覗き込んでくる緑髪さんに少し驚きながらなんでもないとだけ答えた。
ーーー
午前の授業が終わり、お昼になったことで俺はいち早く教室を出る。
後ろから何やら俺を呼ぶ声がするけど、取り敢えず遠坂さんがいるであろう教室へ訪れる。こういうのはちゃちゃっと片付けるべきなのだ。
ちょっと気になるのは俺が歩くと皆んな揃ってなんか道を開けて黄色い声を上げていることだ。特に男子。男子がキャーて。どういうことやねん。
遠坂さんがいる教室に到着し、中に入るとまた黄色い声が上がる。いや、もういいって。遠坂さんを探してキョロキョロしていると、後ろから抱き抱えられた。
誰だと思い振り返るとそこに俺の探し人である遠坂さんがいた。
「今朝の話の続きですか?」
俺は静かに頷くと、遠坂さんは俺を抱えたまま自身の鞄からコンビニで買ったと思われる135円のチャーハンを持って教室を出る。
教室内は一瞬にして騒がしくなっていくのを耳にしながら、遠坂さんに抱えられたまま移動する。どうやら目的地は空き教室のようだ。
「まさか貴女から出向いてくれるとは。私は嬉しくて嬉しくて泣きそうですよ」
「さっさと話を済ませておきたいだけ」
「それでも貴女は自分の足で私の所に来た。それだけで私は嬉しいんです」
「……そう」
3階にある空き教室は、生徒間でも話題でここで性行為をするカップルもいるそうだ。学校で何してんねんって言いたくなるが、それが割とバレないとかで度胸試し的な意味でもヤる生徒がいるらしい。
まあ休み時間とか、放課後にこの空き教室に訪れる先生もいないからなぁ…。
空き教室は普段誰かが掃除しているのか、そこら辺の教室よりよっぽど清潔にされているように見える。教室後ろに置いてある机と椅子には埃一つなく、指で触ってもゴミが全くつかない。
遠坂さんに下ろしてと伝えるとゆっくりと下されて、遠坂さんを見上げる。
「それで話はなんですか?」
「今朝の続き」
「写真を消して欲しい、と」
「当たり前」
「で、1ヶ月私とセックスすると言うことで良いですか?」
「不当。しても一回」
「それでは交渉決裂、ということですね」
そう言って遠坂さんが俺の横を通って出て行こうとするので遠坂さんの右手を両手で掴む。
遠坂さんはこちらを見ずに真っ直ぐ前を向いたままだ。
「ま、待って。出来ることならなんでもするから…だから消して下さい」
「なんでも…ですか」
「う、うん…」
「じゃあここで全裸になれって言ったらするんですか」
そう言って遠坂さんは顔だけこちらに向けてくる。
「写真…消してくれるなら…」
「…………」
遠坂さんが俺を見る目が血走っていて少し怖い。
「あ、あの…目…怖い…」
遠坂さんの目を見ていられなくて、俺は視線を横にずらす。
「……すみません。では私を彼氏にする、と言うのはどうですか」
「写真、消してくれるなら…」
「最低でも一年は私の彼女でいて貰いますが、それでもいいですか」
「そ、それは…」
そんなの無理だ。俺は遠坂さんのこと好きでも嫌いでもない。それなのに付き合うなんて不純だと思う。例え相手がいいと言っても俺には無理だ。
助けるためとか彼氏役とかなら別だろうけど…遠坂さんは本気で俺を欲しがってる。やり方はとても褒められたものじゃないし、後ろ指を刺されるやり方だ。なのに、どうして、そこまで人を想うことが出来るんだ…。
「写真を消して付き合うのが一週間や数日とでも思いましたか?それで私が満足すると思いましたか?言いましたよね。私の隣にいて欲しい、と」
「で、でもあの時は『最後には』って…!」
「私は貴女が欲しい。それはあの時と変わりません。ですが貴女とセックスしたことでその想いは変わりました。今すぐ私のものにしたい、と」
「っ……」
結局また俺が悪いのか。でもそれは自意識過剰なのかもしれない…けど、俺の選択のせいで遠坂さんにこんなことをさせて、弟は俺をレイプして泣いていた。
「他に、して欲しいことは…」
「ありません。私の彼女になるか、これから1ヶ月毎日セックスするか。二つに一つです」
「…………」
「それ以外の方法では受け付けるつもりはありませんので。なるべくお早めに決めた方がいいですよ」
そう言って俺の手をゆっくり自身の右手から離されていく。そして俺の両手を外した所で遠坂さんは制服のポケットからチャーハンを取り出して食べ始めた。
「私がチャーハンを食べ終わるまでに答えが聞けない場合は交渉不成立ということで写真は一生、消しませんので」
「そ、そんな…」
遠坂さんは一口一口が大きく、もう既にチャーハンの半分がなくなっている。俺の答えはーー。
「1ヶ月」
「1ヶ月がなんですか?」
「……1ヶ月、セフレになる」
そう言い終わると同時に遠坂さんはチャーハンを食べ終わり、空き教室なのに置いてあるゴミ箱へと包みを捨てた。
「では今からあの写真を消しますね」
そう言ってこちらにスマホ画面を向けながら操作して俺の写真を消した後、その他にある最近削除した項目をタップし、そこにある俺の写真を消して作業は完了した。
途中他の女性の裸とか、明らかに行為をした後の写真もあったが、特に突っ込むことはしなかった。
「ではこれから1ヶ月よろしくお願いしますね。一歌」
「………」
俺は遠坂さんに手を引かれ空き教室を後にした。
ーーー
遠坂と一歌が空き教室を去って5分後。部屋の隅に置いてあるロッカーがゆっくりと開かれた。
「アイツ相当イカれてんな。色々契約はしたがよ…。流石の俺もヤな気分だぜ」
ロッカーから現れた男はあっちぃ…と呟きながら窓を開けて風に当たる。
「そこまでしてあのリトルプリンセスさんが欲しいのかアイツ。事前にある程度話を聞いておいてよかったぜ。じゃなきゃ驚きで声上げてたぜ」
そう呟きながら男はスマホを操作して電話をかけた。
「あー俺だ。レンだ。アンタに報告することがある」
「それで?」
「遠坂凛と犬塚一歌は1ヶ月セフレ状態なるようだ。だがいいのか?アンタにとって犬塚一歌は大事な女なんだろ?」
「遠坂は選択を誤っている。こんな形から始まった関係は大抵歪んでいる。犬塚一歌が好きでもない相手に抱かれても折れるような人間ではないと私は思っている」
「随分と信頼してるんだな。犬塚一歌のこと」
「好きな女を信じるのは当然だろう」
「…ハァ。俺にはこういう役目をさせられるから誰であろうと信じられないんだがな」
「レンにもいずれ好きな奴の一人や二人出来るさ」
「それならいいんだけどな。んじゃ細かいやり取りは後でメールで送っておくから金よろしく」
「ああ。後で渡そう」
電話を終わらせてレンと呼ばれた男は、ズボンポケットからゼリー飲料を取り出して飲む。
「はぁ…俺も好きなのになぁ…犬塚一歌」
流れる雲を眺めながらレンは吐き捨てるように呟いた。
こう言う展開は好き嫌いが分かれそう…(内心ビクビク作者)