結局。小鳥遊君は家まで付いてきて、何やら家をジロジロと見ている。
「帰って」
「え?上がっちゃダメなんですか?」
「ダメ。帰って」
何を言いだすんだ。ダメに決まってるだろ。
「えー…ここまで来たのに?」
「そもそも付いてくるだけだった」
「犬塚さんのケチ」
いや、そんなこと言われても。小鳥遊君も男の子だし、弟に変な誤解を与えたくない。ていうか暴走させたくない。
小鳥遊君の手を取り引っ張る。前に小鳥遊君の家に行ってよかった。道も覚えてるし、大丈夫。
「え、ちょ、犬塚さん?」
困惑しつつも足を動かしているみたいだし大丈夫かな。それにしても小鳥遊君も手大きいな…。多分俺に引っ張られながら歩くのは辛いだろうし、隣に並ぶように言ってみる。
「歩きづらいでしょ。隣来て」
振り返ってそう言ってみれば何故か嬉しそうに頷き俺の隣まで来ると歩調を合わせて歩いてくれる。
「犬塚さんから手を繋いでくれるなんて…えへへ」
何をニヤけているんだ気持ち悪い。さっさと小鳥遊君を家まで送り届けないとな。じゃないとまた弟を心配させてしまう。
「あ、そうだ。この道とすると僕の家に向かってるんですよね?」
「ん」
「なら折角ですしミセスドーナツ行きません?」
「行かない」
「えー!僕の夢の一つである好きな人とドーナツ食べるっていうのがあるんですけど…それ叶えたいなー…なんて」
チラチラとこちらを見てくる。鬱陶しい…。それにどれくらい滞在するかも分からないので困る。
「寄り道しないで帰る」
「そんなぁー!僕奢りますからぁ!」
「ドーナツ食べたら夕飯食べられなくなるよ」
「兄に連絡すれば夕飯抜いて貰えるので大丈夫です」
「ちゃんとした食事をしなさい」
「犬塚さんが母親みたいなことを…」
なんだその目は。それに俺は母親じゃない。こんなこと誰だって言うだろうに。
「小鳥遊君。ご両親は」
前から気になっていたことを聞いてみることにした。あんまり踏み込んだことを聞くものでもないかもしれないけど、先程の会話を続けるのもな…。
「僕の両親なら殺されましたよ」
「えっ」
「僕が7歳の頃に目の前で」
殺された…?しかも目の前で…?7歳で…?何をサラッと言ってるんだ。
「殺人鬼って奴で、笑ってましたよ。僕の両親を滅多刺しにして」
表情にも仕草にも全く辛い感じを出していない。そんな辛い話をしてなんで平然としていられるんだ。
「ま、待って。ごめんなさい…そんな辛い話を…」
「もう終わったことですから安心して下さい」
「で、でも…」
「初めて血の海を見ました。両親が血を吐きながらこっちを見て…」
「もう…いいから。もう…いい」
気づけば俺は小鳥遊君を抱きしめていた。とは言っても身長差が多少あるので正確には俺が抱きついているような構図なのだが。
「そうですか?分かりました。んー…犬塚さんは柔らかくていい匂いですね」
小鳥遊君の声が全く変わらないことに俺は恐怖した。そして同時に思った。この子はもう心が壊れているのではないかと。
人として大切なナニカが欠けてしまったままなのではないかと。
俺は出来る限り優しく、そして力強く小鳥遊君を抱きしめた。
ーーー
小鳥遊君を家まで送り届け、その足で遠坂さんの家に向かっていると、女の子が不良?と思しき男達に絡まれていた。
スルーするわけにもいかず、取り敢えず介入する。
男5人と金髪碧眼のスタイル抜群の少女。え、何この子。アニメから飛び出してきましたか?っていうくらい美人。それにしてもおっぱいデッカ。
なんだその乳。俺にも少し分けて。
「なんだこのガキ」
ガキとは失礼な。俺はもう高校生だぞ。むん。
と言うわけで防犯ブザーを取り出して鳴らす。
「このクソガキ!」
不良Aが俺に向かって拳を振るってきたので防犯ブザーだけを守るようにして立っているとその拳は眼前で止められた。
「こんな小さな子に手を出そうなんて…許せませんっ!」
そう言って少女は不良5人をぶっ飛ばした。え?え?もしかして幻覚見てる?んんん??
不良は覚えてろー!とか言って逃げていった。危機は去ったので防犯ブザーを鳴らすのを止めた。
にしてもこの子強いな…。不良Cなんて口から歯出てたぞ。どうなってんねん。
女の子は俺に近づくと抱きついてきて、さらには頭まで撫でてくる。
「えへへ。ありがとうね、君いくつ?どこ住み?お姉ちゃんがお家まで送ってあげるから大丈夫だよ。怖かったよね?助けてくれてありがとうね。小さなヒーローさん」
く、くるじぃ…。胸におっぱいに殺されるぅ…。ギブギブ!
「あ、あぁ!ごめんね。苦しかった?ね、君名前は?」
ほんとに綺麗な人だな。
「犬塚」
「フルネーム!」
「……犬塚一歌」
「犬塚?あぁ…なるほどね。それじゃ家まで送るからお姉ちゃんと手を繋ごっか」
笑う顔も素敵なんだけど、俺16歳だから多分そんな歳変わらないと思うんだけどなぁ…。それに今から遠坂さんの家に行くし…。
なんか俺の名前を出した瞬間驚いてから目を細めたのはなんでなんだろう。ま、大したことないだろ。
「どうしたの?あ、知らない人について行っちゃダメって教えてもらったのかな?」
「16歳。子供じゃない」
「…ふふ。そっかー。私と同い年か。ごめんねーてっきり小学生かと思っちゃった」
ムカ。それに付け加えて防犯ブザーを持っていたのが更に小学生だと思った理由だそうだ。防犯ブザーは便利なのにな。
にしてもなんかさっきから態度と表情が引っかかるんだよな。なんか笑みが時々怪しいっていうか。んー…。まあこの人は悪い人じゃないと思うし大丈夫だと思うんだけどな…。
「ほら、手繋ごう?」
「これから用事。だから家帰らない」
まただ。一瞬だけスッと目が細くなる。まるで射抜くような視線を向けてくる。
「それって彼氏とか?」
「違う。全く関係ない」
「そうだよねー。一歌みたいな幼児体型が好きな男がいるわけないよね」
悪かったな幼児体型で。ていうか急に煽ってきたな。なんでだろう。何か気に触ることをしたか?初対面だし…情報不足だな。
俺は女の子を無視して遠坂さんの家に向かい足を動かす。
「あー。行っちゃうの?じゃあまたね。い・ち・か♪」
またね、だと?考えられる言葉の意味は二つあるけど…。その時はその時か。
しばらく歩いていると知らないおばちゃんに飴ちゃんを貰ったので舐めながら歩く。ぶとう味で、よく幼稚園の子供たちが舐めてるようなやつだ。
はぁ憂鬱だ。
ーーー
「うわ…垂れてきた…」
夜11時を過ぎた頃にようやく解放され、家に向かっていると太ももを伝って愛液と精液が垂れてきているのが肌を通して分かる。
正直歩くのも辛いが、仕方ない。スマホには弟から早く帰ってきてと連絡があった。電話までしているので何かあったのだろうか。
時々ふらつきながらも歩いていると、目の前に人がいる。こんな時間に散歩か?フードをしていて顔はよく見えない。
俺が進めばあちらも俺の方へ歩いてくる。ぶつからないためにも俺は左に寄るとあちらも左に寄ってくる。何故こちらに合わせてくるんだ。
このままではぶつかってしまう。後3m。後2m。
俺が止まればあちらも止まる。どう言うつもりだ?俺は今走れるほど余力もないし、多分走っても追いつかれる。
素直に進んでみるか。俺が再び足を動かせばあちらもこちらに向かって歩を進める。後30cmといったところでフードをした人物は俺の両肩を掴んだ。
「こんな時間までどこ行ってたのかな?一歌」
そう言って右肩に置かれた手がフードを掴み顔が露わになる。
夜なのによく見える金髪に青い瞳。夕方の人だ。
「関係ない」
「関係なくないよー。私たちもう家族になるんだから」
「何言って…」
「もう気付いてるんじゃない?再婚相手の連れ子って言えばもう分かるよね?」
そっちだったか。離婚していたし、もしかしてと思ったが…。どう見ても日本人じゃないが、再婚相手は外国の人か。もしかしたら染めていて、カラコンということなくはないけど…。
「あ、私はハーフね。父親は日本人だし言語の不自由はないと思うよ」
「そう」
「私だけ一歌と正樹のいる家に住むことになったからこれからよろしくね」
なんでそうなるんだ…。しかも私だけだと?と言うことは再婚相手と母親は別の家で過ごすということか?ということは妹か弟が増える可能性がある、と。
「あ、自己紹介がまだだったね。私は
ああ…憂鬱だ。