翌日。気づけば自室のベッドの上にいて隣には一香がいた。
徐々に何があったかを思い出して、ため息を吐く。
何故か俺も一香も全裸で抱き合ったまま寝ていたようだ。
とにかく今日も学校があるし、朝ご飯も作らないといけない。
さっさとこの腕から抜け出して制服を着てご飯を作らないと…。
こういう時身長の小ささがメリットになるな。取り敢えずささっと抜けようとしていたのだが、思ったより力が強く抜け出せない。
流石に寝ている人を起こすのは忍びないし、自力で脱出するしかない。
体内時計的に多分朝の5時だし、時間はあるけど、俺もゲームの日課もあるので、さっさとお弁当と朝食を作らないといけない。
取り敢えず優しく俺を抱きしめている腕を掴み、拘束を解く。
ゆっくり、優しく。起きないように。
右腕を外し終えて、次は左腕と思ったのだが。
「おはよう。一歌」
頭上から声が降り注ぐ。今一番起きて欲しくないタイミングで。
「……おはよう」
「こんな朝早くから朝ご飯の準備するの?」
「…弁当も作るから」
「ふーん…でも私は一歌とずっとこうしていたいなぁー」
左腕を俺の腰に回して右腕は俺の首に巻きつき、抱き寄せられた。
視界には一香の谷間がドアップで映っている。力では勝てないと浴室で分かったばかり。どうしたら拘束から解かれリビングへ向かえるのか。
「時間は有限。早く放して」
「そんなこと言っていいの?弟に言っちゃうよ」
「……半までなら好きにしていい」
「んー!一歌は物分かりが早くて助かるよ〜。それじゃあ早速」
そう言って一香は俺を抱きしめたまま上半身を起こし、胡座をかいて座ると俺を後ろから抱きしめる形をとる。
「一歌。上向いて」
何をするのか想像はつくが、ここで拒否した場合どうなるか分からないので、従い上を向く。上を向いた瞬間に一香の顔があって即座にキスをされる。
まるで親鳥が子に餌を与えるかのように一香は俺に唾液を飲ませてきた。
それを回避したくてもいつの間にか俺の顎を掴んで放さない一香の右手は、強く振り解けそうにもない。
その状態を甘んじて受け入れること約2分。唾液を飲ませた後は執拗に俺の舌に絡みついて離そうとしなかったのだが、一香は唐突に離れた。
「その顔イイね。写真撮らせて」
「嫌」
「嫌なの?じゃあ仕方ないね」
「………」
その後はひたすらキスだけを続けた一香は満足そうに頷いた。
「時間になっちゃったし、朝はこれくらいにしておくね」
そう言って一香は再び俺のベッドで掛け布団を体にかけて寝た。
「………」
思わずため息を吐きそうになったが、何とか我慢する。
取り敢えず制服を着て、リビングへと向かった。
リビングへ来ると既に弟が椅子に座っていて、朝食を待っているようだった。
「おはよう」
俺が声をかけると、弟はとんでもない速度で振り向き立ち上がった。
「ねぇーさん!大変だよ!あのクソババア本当に男を作って来やがった!」
おいおい…口が悪いぞ弟よ。気持ちは分からんでもないけどな。
「クソッ!俺に話すら通さず勝手に再婚しやがって!あのクソババア…」
まあ独り身ならまだなぁ…。でも俺たちもそうだが、お互い子供がいるんだからまずは子供たちだけでも合わせて、相性を見るべきだったのだ。
いきなり赤の他人と家族関係になったことを知らされたらびっくりしてしまうのは明白だろう。
「どうやら再婚相手の子供は全員女だったからまだ良かったけどさ、もし全員男だったら最悪だったよ。絶対ねぇーさん好きになってただろうからね」
いやいや。流石にそれはないだろう。俺を好きになる変人などそうそういてたまるか。こんなロリ体型の俺を愛せる人間などそうはいないだろうし、こんな無愛想で傷物の上、体に残っている無数の傷跡。
どんな変態だってこの体を見たら萎えるのが普通だろう。
なのに、遠坂さんは…。いや、彼は俺を性処理道具としか考えていないだろうから別か。
「まあ男じゃなくて安堵はしたけど、問題はこの家に住むことになったあのイカれた女だよねぇーさん!」
イカれた女…。ああ一香のことか。まあ確かに問題だな。俺としてはまずベッドを占拠されているのが嫌だし、まだよく分からない人間と過ごすのは不安だし怖い。出来れば出て行って欲しい所だが、ああいう人を退かすのはかなり疲れるだろうし、大変そうだ。
とにかく朝食を作るか。ふむ、今日はヤケクソだ。きのこの和風パスタにしよう。それと冷蔵庫に弟が作った昨日の残りであるハンバーグでもレンチンして食べれば良いだろう。
取り敢えず調理を進めながら、弟の話を聞くことに徹した。
「あの東一香とかいう女本当に頭イカれてるよ!まずあのクソババアから貰ったであろう鍵を使って無言で家に入ってきて、リビングに来たんだよアイツ」
インターホン鳴らさずに入ったのか…。
「そして開口一番アイツは『一歌は私のだから。お前みたいな気色悪い奴になんか絶対渡さないから』って言ってきたんだ!酷くない!?」
うわー…。あの母親弟が俺に好意を抱いているって見抜いてたわけか?というか、俺と一香の接点なんてないのに、何故そんなことを弟に言ったのだろうか。ていうか俺は一香のものじゃないんだが。
「俺も反論したけどアイツ『一香に手を出したらお前のちんこ切るからな』って言ってきやがった。きぃー!ムカつくぅー!」
ストレスか怒りかわからないけど、なんかキャラおかしくなってるぞ弟よ。まあ取り敢えずご飯でも食べて落ち着いてもらおう。
「しかもアイツねぇーさんと同じ高校に転校することになってるって!それに荷物が届くまでねぇーさんの部屋に居座るつもりみたいだし…ぁぁ…俺とねぇーさんの愛の巣にお邪魔虫がぁ…」
マジか…。出来れば同じクラスにならないことを願うしかないな。居座るのはまぁ荷物が届くまでの辛抱だし、別にだな。それと愛の巣ではないな。
「正樹。学校はどう?」
あまり嫌な話ばかりしていても楽しくはないし、別の話題に切り替えた方が得策だと感じた。
俺は調理をしているので、正樹の表情は窺えないがあまりいい顔はしてないだろうな。
「ん?ああ…まあぼちぼちって感じかな。そこそこ喋れる人間もいるし、人間関係は割と良好かな。ただ面倒臭い女がいるくらいかな」
聞く限りでは特に問題はなさそうだ。気になるのは最後の面倒臭い女って部分くらいか。
「…それ以外は特に言うことはないかな」
「ん。分かった」
ーーー
うちの高校にはパソコンを使った授業がある。皆んなに聞いたところ動画や画像をいじったりするらしい。
先輩たちの間では課題をこなしながら裏でYouTubeを開き音楽や動画を聴いているらしい。というのも動画を作る際に音を入れたりするため、生徒たちには一人一つヘッドホンがもらえるからである。
そして俺も今しがた先生からヘッドホンを受け取り、自身の名前が書かれたシールをヘッドホンに貼り付けた。
「この授業で犬塚ちゃんの隣に行けて嬉しいな」
丁度先生からヘッドホンを受け取りシールを貼った茶髪さんがそう言って微笑んでくる。特に会話らしい会話なんてしないと思うのだが…。
取り敢えず自身の席に座りマウスを掴み操作を始める。
パソコンの授業は今日で二日目。初日は基本的なことと、ファイルの作成や、動画に使う映像や画像の収集が主だった。
まあ今日も基本的にはそう言った素材の収集で時間を費やすと思うけど。
さっそくSafariを開いて画像の検索を開始した。
隣に座る茶髪さんは…!?スマホでガチャしてる…。えっ…あ…今日のピックアップは人権キャラだもんね。分かる。欲しいよね。じゃなくて。
「欲しいのは分かる。けど今は授業中」
俺は茶髪さんに小さく声をかけてみる。多分茶髪さんにしか聞き取れない声量なので周りには聞こえてないはず。というか前後左右皆んなが作業に没頭してるし、ヘッドホンしてるから多分気づかれてすらいない。
「ん?ああ。友達がさこれ強いから石あるなら引いとけって言ってたの思い出してさ。ぱぱっと引こうかなって。もうすぐガチャ更新でしょ?」
いや、うん。12時に切り替わるけど。でも今引かなくても休憩時間に引けばいいのに。
「それになんか今引いたら出る気がしたんだよね」
そう言って茶髪さんがスマホの液晶画面に視線を落とし、俺も釣られるようにして茶髪さんのスマホ画面を覗き込む。
「お、虹演出」
そして茶髪さんは人権キャラをなんと単発一回で引き当てたのである。
嘘だろ…。俺がその子を引くのに290連かかったのに…。お、オーマイガー…。ついでだから天井もしてその子の武器もう一本獲得したのに。
「出たからガチャ終了。……犬塚ちゃん?どうかしたの?」
「………なんでもない」
これが運の差なのか。
Ssランク作れて嬉しい。わーい