目が覚めてのっそりと体を起こす。スマホをタッチして時間を確認する。
時刻は朝の5時。昨日…いや正確には今日の深夜1時半まで一香にいいように遊ばれたせいか、それとも蓄積された疲労か。
どちらにしても体が少し怠い。来週の月曜からは一香も同じ学校へ通うことになるので、3人分の朝食を作らないといけないのか。
一応後で聞くか。取り敢えず制服を着てリビングへと向かおうとしたのだが、少しふらついてしまい倒れそうになった。
こりゃ相当疲れてんな。でもこの程度なら死ぬことはないしいいや。
一香に布団をかけ直して、部屋を出る。
この時間はいつも俺しか起きていないので、かなり楽だ。
人がいるだけで神経を使うので、一人の時間はやはり大切なのだ。
テレビを操作してYouTubeを開き、音楽を流しながら調理を始める。
今日は定食風にするか。ご飯と豆腐とわかめの味噌汁。そしてベーコンエッグとキャベツの千切り。ちょっと手抜きだが、許してくれるだろうか。
ついでにゼリーも置いておこう。
料理も終わり、盛り付けも終わったのでちゃちゃっとテーブルに運んで並べていく。まだ弟は降りてこないので恐らく夜ふかししたのだろう。
エプロンを外してから起こしに行こうかと思ったが、面倒なのでエプロンを付けたまま2階へと上がる。
三段目をに足を置いたところで上から視線を感じたので上を見上げると、そこには一香が全裸で立っていた。
「………服は?」
「一歌に私の体見てほしくて」
「………目に毒だから早く着て」
「酷いっ!私勇気を出したのにっ!」
いや、そんな露出狂みたいなことされても嬉しくないし、風邪ひいたらどうするんだ。
「見て!見て一歌!私のおっぱい!」
「………風邪ひくから早く服着て」
両手で胸を持ち上げて大きさを強調する一香。おっきくてエッチなのは分かったから早く服を着ろ。弟の教育によろしくないだろうが。
「一歌が私のおっぱい褒めてくれるまで服は着ない!」
めんどくさ。春だけど朝は少し寒い時もあるから、風邪ひかれても面倒だし、早く服を着てもらうためにも多少は心込めないといけない気がする。
「一香の胸、すごくえっち」
「………絶対嘘」
「嘘じゃない」
「心がこもってなかった!やり直し!」
ムカ。朝の時間は大事なのにこんなことで時間を浪費するのはもったいない。というか階段で何やってんだ、これ。
いい加減弟も起きる頃合いになってそうだし、さっさと一香を納得させて服を着てもらわないと。このままでは弟に朝からとんでもないモノを見せることになってしまう。
「一香の体えっち」
「……心込めた?」
「うん」
「じゃあもう一回言って」
「一香の体えっち」
どうやら満足してくれたようで親指を立てて満足気に頷いている。
やっと終わるのか…。短い時間だろうけど、感覚的には長く感じた。
これでようやく弟を起こしに行ける。そう思った矢先だった。
「ねぇーさん何やってるの…」
一香の数メートル横に弟がいた。制服を着て裸の一香と俺を交互に見ている。困惑するのも当然だろう。朝起きてリビングへ向かうために部屋を出たら義理の姉が全裸で立っていて、階段にはそれを見ている実姉。
俺だったらフリーズして声すら出せないだろう。
「何見てるの。見せものじゃないんだけど」
り、理不尽。理不尽極まりないぞ…それは。一香の体は一応同性の俺から見ても羨ましい程のスタイルに美貌だ。
それを男である弟が見ないはずがない。俺みたいな傷だらけの体ならすぐに目を逸らすかもしれないが、一香の体にはシミもないし、傷跡もない。とても綺麗な体なのだ。
こればかりは弟に同情する。そこら辺のチェリーボーイならズボンにテントが張られてしまうことだろう。
「さっさと服着ろよ。目に毒だ」
お、おい…。凄い空気悪いんだが…。いや、この二人の相性は悪いって知ってたけど。ここまで空気が悪くなるものなのか。これは水と油だな…。
「正樹。ご飯できてるよ」
「あ、うん。今日の朝食は何かな〜」
俺が声をかけると笑顔になった弟が一香の前を素通りして階段を降りてくる。俺は道を開けてリビングへ向かう弟を見送った。
「はぁ…興醒めだなぁ〜…。あ、一歌私の朝食はある?」
「一応食べるかと思って作った」
「ありがとう〜!流石私の一歌だね!」
一香のモノじゃないので否定したかったのだが、それを言うよりも前に一香が俺の部屋に入ってしまった。適当に服を着てくるのだろう。
俺も朝食を食べないとな。俺は階段を降りてリビングへと向かった。
ーーー
朝食の時間は地獄だった。対抗心剥き出しの二人は何故か俺の隣に座り、事あるごとに俺と仲が良いというのを相手に見せつけるようにして接してくる。
弟はわざと口元周りを汚して俺に拭いてもらったり、一香は朝っぱらからディープキスをしてきたし、本当に疲れるのでやめて欲しい限りであった。
そして現在はバチバチの二人を置いて登校している。とは言っても電車に乗って降りて歩くだけの何もない日常なのだが。
学校までの道にはたまに野良猫がいて戯れ合う生徒も少なくない。
野良猫なので細菌やダニが付着していると思うのでちゃんと手を洗った方がいいのだが、どれだけの生徒が手を洗っているのだろうか。
俺は写真を撮るか、眺める程度にしている。というか何も持っていないのに猫が俺に擦り寄ってくるのだ。前は脚を舐められたことがある。
というか何故か基本動物に好かれる。近所の豆柴の女の子には顔をベタベタになるまで舐められたことがある。…よくよく思い出すと大体舐められてるな、俺。
ま、そこは良いとして今日も猫ちゃんを写真に収める。スマホをしまい再び歩き出したところだった。
「ニャー」
猫に声をかけられた。ならばこちらも返事をするしかあるまい。
幸い付近に人もいないようだしな。
「にゃー」
返してみたが、猫は首を傾げている。伝わらなかったか?
「にゃー…にゃ、にゃー…」
今度は手を丸く握り頭の横付近まで上げて動作をつけてやってみる。
だが、猫はこちらをじっと見たまま微動だにしない。
くっ…また失敗か。
そこからしばらく思いつく限りの方法を試してみたものの、猫は目を細めたりする程度で何も返してくれなかった。
猫に別れを告げ学校へ向かった。
お昼。緑髪さんたちと食堂で昼食を食べていると、何やらいつもより視線というかこちらを見てざわざわしている。
「あ、そうだ。一歌ちゃんこの動画ネットにアップされてたよ」
隣に座る緑髪さんが制服のポケットならスマホを取り出して操作した後こちらに画面を向けてくれた。
なになに…『猫と戯れる女子高生』と言うタイトルに2分程の動画が…ってこれ俺じゃね…?
動画を再生すると俺が猫を撮った後の試行錯誤している様子が映っている。しかも凄い拡散されてる…。100万リツイートに115万いいね…。
う、嘘だろ…?ただの一介の女子高生が猫と戯れてるだけなんだぞ…?
顔は横顔しか映っていないので顔バレみたいなことはないかもだが、制服で特定されたり、身体的特徴からバレる可能性が大だ。
念のためリプ欄を覗いてみる。………やっぱり制服について言及している人がいる。それは仕方ないとして危ないことを言っている人がいないかチェックをする。
『あれ?この女子高生どこかで見た気がする』と言うリプもある。これだけ拡散されたらそりゃそう言う人も出てくるよな…。
……取り敢えずチェックはしたがこのリプ以外は特に問題なさそうだ。
引用リツイートの方もある程度確認したが、危ないことを言っている人はいなくて一安心だ。
というか撮られてたことに全然気づかなかったな…。これはミスだな。
「一歌ちゃんが嫌だったら、私たち全員でこれを投稿した人にDMで消してもらえるか聞くからね!」
「…ありがとう」
「人を勝手に盗撮してネットに上げるなんて普通に肖像権の侵害だからね!」
一応俺からこの動画を上げた人にDMで消して欲しいことを言っておこう。
「あ、そうだ。一歌ちゃんそろそろお弁当箱買いに行かない?」
俺の隣に座る青髪さんが唐突にそんなことを言い出した。ちなみに左に緑髪さんがいて右に青髪さん。そして俺の正面に茶髪さんがいて、俺から見て左に赤髪さんがいて、右に金髪さんがいる。山田は何やら用事があるらしく、今日はいない。
「それ私も言おうと思ってたんだ!もうすぐ土曜でしょ?私と結と一歌ちゃんの3人で買い物に行こうって話を結としてたんだ〜」
緑髪さんはその話をするのも楽しそうに語る。余程楽しみなのだろう。ずっと笑顔だ。
「あんまり重くなるようなら男子の誰かを呼べばいいしね。でも出来れば女子だけで買い物したいかな、私は」
俺も買い物をするので醤油とか油とか買う時は出来るだけ一緒にならないように気をつけてる。牛乳だったり、ペットボトルだったりも出来るだけ同じ時に買わないようにしている。じゃないとこの貧弱な体では持ち帰ることが困難だからである。
「一歌ちゃんはどうかな?私たちと買い物はしたくない?」
「したい」
「っ!ほんとっ!?嬉しいなー!あー早く土曜にならないかなー…」
「明日花。ここは他の生徒もいるんだから静かにね」
「でもさ結!一歌ちゃんがしたいって言ってくれたんだよ?こんなの嬉しくて声も大きくなっちゃうよ!」
たかが買い物をするだけなのに、随分な喜び様だ。まあ楽しみにしていてくれるというのは悪い気はしないけどな。
「クソッ…俺も女の子だったらそこに混ざれたのにっ!」
「海斗は女の子になりたかったのか?」
「というか俺らの誰か、もしくは全員荷物持ちとして呼び出される可能性あるんだから別にそんな気にしなくてもいいだろ」
「そうそう。それにどんな弁当にどんな料理を詰めてくるのか想像する楽しみもあるんだぞ、海斗」
「…それよりも俺はあそこに混ざりたい」
「なら性転換手術でもするか?」
「……クッ」
「クッ…じゃない。まあどうせ土曜にはどんな弁当でどんな料理を食べられるのか分からんだし少しの辛抱じゃないか」
何やら男子は男子で楽しそうだ。俺もこの体じゃなければあっち側だったのにな…。
そこからは割と楽しく談笑してから昼食を食べ終えて皆んなで教室に戻った。