席に座り、映画が始まるのを待つ。既にそこそこの人が入ってきていて、他の人たちはスマホをいじったり、小さな声で談笑している。
G9に緑髪さんが、G10に俺、G11に青髪が座っていて、二人の隣は空席だ。二人は財布とスマホ以外持ってきていないようで、バックを持っているのは俺だけだ。
バックを足元に置き、チュリトスを一口食べる。サクッと小さな音がして、温かい。
「美味しい?」
「ん」
「それじゃ一口ちょーだい!」
緑髪さんにレインボーチュリトスを向けるとパクリと一口食らいつく。
一口はそこまで大きなものではないが…間接キスじゃん。
「んー美味しいね。でもこれ味違うんでしょ?」
「ん。白波さんが食べたのはラムネの部分」
「それじゃ私にも一口頂戴」
今度は青髪さんにレインボーチュリトスを向けると、青髪さんはズレた髪をかき上げてレインボーチュリトスを食べる。ちょっと色気があってこの子高校生かと思わされてしまう。
「ん〜…美味しいね」
そう言って微笑む青髪さんは本当に綺麗で少し見惚れてしまう。
「私の食べた味は何?」
「メロン」
「残りの味は?」
「バニラ、レモン、マンゴー、ストロベリー」
「全部乗せだね」
「ん…」
「それじゃ一歌ちゃん、どーぞ」
そう言って差し出されたチュリトスを一口食べる。まだ緑髪さんは一口も食べておらず、ちょっと躊躇った。
「美味しい?」
「…ん。美味しい」
「そっかー!良かったっ」
緑髪はずっと笑顔だが、疲れないのだろうか。
「一歌ちゃん。はい、チョコクリーム」
青髪さんに差し出されたチュリトスを一口食べる。んむ。やはり安定の美味しさだな。
「美味しい?」
「美味しい」
「良かった」
そこからは各自チュリトスを食べつつ、スクリーンに映し出される予告とかを見ていた。
「あ、この映画面白そうじゃない?」
予告で流れている映画を見て緑髪さんが呟く。
「私的には微妙なんだけど…一歌ちゃんはどう?」
「良いと思う…」
「それじゃあこの映画が公開された日に皆んなで観に来ようよっ!」
「いいね、あいつらも呼んで皆んなで観にこよう」
…皆んなと映画か。
「一歌ちゃんはどうかな?」
緑髪さんがそう言って二人の視線が俺に向けられる。
「……うん」
ちょっとだけ楽しそうだ。
徐々に暗くなっていき、映画が始まった。
ーーー
「………」
「………」
「………」
映画を観終わってからというもの、雰囲気が悪い。というよりはなんて切り出すべきなのかが分からないというのが強そうだが。
映画の内容を簡単に説明すると、女子高校生が親友だった女子高校生を殺す話なのだが、かなり重かった。後味が悪いのだが、作品としては完成していたのではないだろうか。
親友だった女子高校生が彼氏を作り、徐々に疎遠になっていき主人公の独占欲と嫉妬が暴発してしまった結果親友を殺してしまう。俺にその気持ちは理解できないが、きっと主人公にとって親友が世界の全てだったのだろう。
誰も幸せにならない救いのない作品だった。本当に。
二人の表情は非常に暗く、辛そうだ。俺が指定した手前やはり責任を取って二人をせてめ今の表情よりマシな状態にしないといけない。
だが、俺は人を笑わせたことが一度もない。今世も前世も。緑髪さんたちは俺に気を遣って笑ってくれていただけで本心から笑っていたとは限らないしな。愛想笑いかもしれない。
「…あ、の…」
緊張からか掠れた声しか出ず、周りの喧騒に掻き消えたと思ったが、二人にはしっかり聞こえていたらしく、二人の視線がこちらへ向けられる。
「よ、よかったね…映画…」
「そう…だね…」
「……」
青髪さんは苦笑い。緑髪さんは無言。これはマズイ…何かもっと気の利いた言葉を…大人なんだから二人の気分をよくしないと…!
「こ、この後どうする…?」
「…ちゃんとしたもの食べよっか。明日花もそれでいいよね?」
「………うん」
足取りが重い二人に挟まれながら同じ階にあるフードコートを目指す。
ここまで暗い緑髪さんは初めて見たな。青髪さんも暗いし。前世でも気の利いたことを言えなくていつも誰かを怒らせてたし下手なことを言うのはよくないはず…。でも二人には笑っていて欲しい…な。
こんなことなら茶髪さんたちも連れてくるべきだったか。彼らなら二人のことをよく知っているはずだし、年季が違う。きっと二人にとって不快のないことを言えたはずなのだ。
俺はあまりにもこの人たちを知らなさ過ぎる。もっとこの人たちを知って不快にさせないようにしないといけない。
でもいきなり色々教えて欲しいなんて無理があるだろう。やはり地道に仲良くなっていくしかない。
「ふ、二人は何か食べたいものとか…ある?」
「たこ焼き…かな」
「…うどん食べたい」
何故炭水化物限定なんだ。ていうか割と好きだよね緑髪さんは。うどん。
「一歌ちゃんは?」
「…ドーナツ」
な、なんだその目は…。えっ?ドーナツって顔やめて。汁そば食べるんだよ。ドーナツだけ食べるわけじゃないから…。
それ以降会話もなく、フードコートに着き俺たちはそれぞれのお店に向かっていく。
お昼から少し経ったにも関わらず人が多い。子供連れの親子や、学生、ママ友の集まり、ご老人。沢山の人がフードコートを利用している。
ミセスにはそこそこの人たちが並んでいて、俺の前に13人くらいいる。
並んでいるとまた一人後ろにお客さんが並ぶ。盛況なようで何よりだ。
店員さんからすれば大変だろうけど。
少しずつ前が進み、トングとトレイを取り出してトレイをちょっとずつ進める。
俺は前世も今世もポン・デ・リ○グとハニーチ○ロとドーナツポップ16個入りしか買わない。ポップはストロベリーが4、チョコファッションが4、
ゴールドデン4、ココナツ4だ。ふむ、完璧。
トレイにそれらを乗せていき、会計へ。汁そばも頼み完璧そのもの。
無くなっててたらどうしようかとちょっと思っていたが、盤石だったな。
店員さんに運んでもらえたので店員さんを付き従えて二人の待つテーブルへと移動する。本当は一人で行きたかったのだが、ちょっと腕がプルプルしてたから店員さんにお願いした。
俺の対面に青髪さんが座っていて、その隣に緑髪さんが座っている。
店員さんに感謝を伝えると頭を撫でられた。俺何歳に見られたのだろうか。
3人で食べ始めたのはいいが、二人は未だに雰囲気が暗い。美味しいものを食べても笑顔にならないというのは結構重症かもしれない。
いや、食べ慣れてるからとかは普通にあると思うけど…美味しいものを食べると言うのはかなり大事だと思ってる。
黙々と食べる二人に嫌気が差してきた。二人に暗い顔も雰囲気もひとつも合わない。
「山里さん、白波さん。どうしてそんなに暗いの?」
ここはストレートに。真っ向から。
「映画を観てからずっと暗い。気分を害したのなら選んだ私のせい。どれだけ罵倒してもいい。だから二人は笑っていて欲しい」
「罵倒って…そんなことするわけないじゃない…」
「そうだよ…。一歌ちゃんを罵倒なんて死んでもしないから」
「じゃあどうしたら笑ってくれる?」
「…その前に一つ聞きたいことがあるの。一歌ちゃんはあの映画本当に良かったと思うの?」
唐突にきたな。あの話は歯車が狂ってしまったことが原因だ。すれ違いをしていた。もし、主人公と親友がちゃんと面と向かって腹の内をぶち撒けあったならきっとハッピーエンド、とまではいかないが、少なくとも親友は死ななかった。
だから足りなかったのだと思う。二人には言葉を交わす機会が。心から本音を言い合える時間が必要だった。
「良いと思ってる。作品として」
「……そっか」
白波さんはそう言って泣いていた。