泣いてる…。白波さんが…。
「明日花…」
山里さんは白波さんの肩に手を置き自身に抱き寄せると、そのまま白波さんは山里さんの胸に顔を沈めた。
「………」
荒れていた事と関係あるのか…?いや今はそれよりも白波さんを…。
俺に、俺如きに何が出来るって言うんだ?この人たちを知ろうとも努力しない俺に。また傷つけるだけじゃないのか?
「ごめんね、一歌ちゃん。ちょっと席外すね。ほら、明日花行くよ」
「………」
山里さんは白波さんを連れて化粧室へと向かって行った。
「何やってるんだ…俺…」
━━━━
「明日花やっぱりまだあのこと引きずってたのね」
私は今にも泣き出しそうな一歌ちゃんを置き去りにして、明日花を化粧室へと連れてきた。
ホント酷い顔。折角の綺麗な顔が台無しだよ。メイクも崩れちゃって…ホント…ツいてないね、私たち。
「結…ごめん…私のせいで…折角のデートを台無しにしちゃった…」
「明日花のせいなわけないじゃない。明日花の心に深い傷を残したアイツのせいよ」
「愛は…悪くない…」
「………」
「…ごめん。私の悪い癖出た」
「取り敢えずそのぐちゃぐちゃの顔なんとかしてから来てね。流石にあんな顔の一歌ちゃん放っておけないから」
「……うん。お願い」
ホントこう言う場面は大嫌いだ。友達と友達を天秤にかけないといけない。どちらかを優先してどちらかを後回しにしないといけない。
こんな選択肢選びたくもない。でも現実は非情だ。その選択を迫るんだから。
━━━━
一歌ちゃんは座ったまま微動だにしない。まるで置物だ。
「一歌ちゃん…?」
「…………」
いつも静かで何を考えているのか読み取りづらい一歌ちゃんだけど視線や体は割と素直なので分かりやすい部分もあるんだけど…。
今は本当に何を考えているか分からない。
呼びかけにも反応せず、顔は俯いたまま。腰を曲げて俯いた顔を覗き込む。
「ッ……」
な、に…その顔。高校生のしていい顔じゃないでしょ…。
でもこの顔は見たことは何度かある。一歌ちゃんじゃない人だけど。
私たちの目標とは程遠い顔。こんな顔一歌ちゃんには全く似合わない。
この子のこんな顔は今日限りにしてあげたい。
「………」
「一歌ちゃん大丈夫。一歌ちゃんは何も悪くない。選択したのは私たちだから責任感じなくてもいいんだよ」
気づけば私は一歌ちゃんを抱きしめていた。こんな細くて小さな体に沢山の痛みが詰まってる。
それを少しでもなくしてあげたくて。それを少しでも背負いたくて。
「━━━、━━━」
「そんな事言わないで…。悲しいよ…」
一歌ちゃんは一体どれだけの闇を抱えてるの?
━━━
私は昔から人と違っていた。男の子にドキドキしたことが一度もなくて、女の子と触れ合っている時の方がドキドキしたし、楽しかった。
最初は自分の感性を疑うこともなく過ごしていた。けど小学生四年生になった頃。少しずつだけど変化が訪れ始めた。
男子は私の胸やお尻や足、頸や腋と色々な所を見るようになっていた。
それは何も私に限った話ではなく、発育のいい子たちは皆んなそんな男子の視線を嫌っていた。
私も嫌だったし、皆んなが口を揃えて言うのだからそうなんだと思った。
でも中学一年の頃にはもう違っていて、あれだけ胸やお尻や足を見られるのが嫌だと言っていた女の子が寧ろ男子たちが自分を見ているのが気持ちいいとすら言い出していて私は気が狂ったのかと思った。
だってそうでしょう?あんなに嫌悪して見られると分かればすぐさま男子たちを軽蔑していたのに。
今ではあの男子のちんこは大きいとか、私の彼氏の○○君はセックスが上手くて、気持ちよかったとか。
本当に本当に━━━吐き気がする。
中学二年になる頃には私の方がズレてるんだと分かった。でもそれを隠しながら学校生活を送った。
学校という小さな世界では自分の身を守るのは当然で、当たり前だった。
幸いというべきなのか、うちの中学は虐めがなかった。
だから割と皆んな仲が良かったんだ。
そう、良かったんだ。
だから一人の、女の子が死んだことによってクラス内の関係は一気に壊れた。
その女の子が私の
今でも目を閉じればすぐ現れるんだ。そして私に
「愛してるよ。明日花」
━━━━
俺は気付けば山里さんに抱きしめられていた。おっぱい柔らかい…じゃなくて。
「一歌ちゃん。戻ってきたね」
「……?」
「…うん。一歌ちゃんはそれくらい阿…面の方がいいよ」
今阿呆って言おうとしてたよね?なんならぼかしただけで言ってるよね?
「ふふっ、ほっぺた膨らませてかわい」
そう言って山里さんは俺を持ち上げるとほっぺにキスしてきた。
「………」
「一歌ちゃんならその顔すると思った」
「タチが悪い」
「そうかもね。私、タチ悪いかも」
そう言って悲しげな笑みを浮かべた。
「明日花のこと嫌いにならないでね」
「うん」
「……良かった」
「あー!結が一歌ちゃんとイチャイチャしてるー!」
声がする方向を見れば白波さんがいつもの様にニコニコしながら立っていた。
「明日花。ちゃんとメイク出来た?」
「私の顔を見れば一目瞭然でしょ。メイクくらいちょちょいのちょいよ」
「そういうことにしてあげる」
「えー!?何それ!私頑張ったのに!酷くない?一歌ちゃん」
「え、あ…うん」
「どうしたの?一歌ちゃん?」
白波さん…だよな?あまりにもいつも通り過ぎる。ここまで演技が出来る人は見たことがない。
「いえ…何でも…」
「そっか。なら気を取り直してレッツ買い物!」
「明日花まだうどん食べてないじゃない」
「あ、そっか。ちょっと待って」
そう言って白波さんは一分でうどんを完食してしまった。
それぞれお店へ返却すると3人でお弁当箱を買いに移動を始めた。
━━━━
「弁当箱これ一択!」
「こっちがいいと思うの!」
「「一歌ちゃんはどっちがいいと思う!?」」
「どっちも買うのは?」
「「………それでいこう!!」」
割と簡単にお弁当箱は決まり、次は食材を買いに来たのだが…。
「一歌ちゃん!今日パジャマパーティーしよう!!」
白波さんのブレーキは壊れているのかもしれない。