ふと思った。あれ?これ俺もうグループに吸収されてないかと。
でもチャイムもなったことでそれぞれ席へ戻ることとなり、俺は山田に手を引かれて自身の席へと向かった。
ーーー
授業とは退屈なもので最初は説明が大半だ。こう言うノートの取り方をしなさいとか、提出時にはこういうルールを守れとか。
とは言えちゃんと聞いて覚えておかないと後で面倒なのは分かりきっているのでちゃんと聞いておく。
初日ということもあり体育もないので今日は楽ちんだ。
休み時間になると山田が俺を持ち上げグループへと連行した。
「ナイス山田〜」
「よくやった山田」
「犬塚ちゃーん!」
また俺は緑髪さんに抱きしめられて抱っこされる。いやこの子相当鍛えてるでしょ。40もある俺を抱っことか腕カチカチじゃないのか。
そう思って緑髪さんの腕を触ってみた。
「どうしたの?」
なんだこれは。柔らかい…すべすべ…綺麗…。今一瞬宇宙ネコになってしまったぞ。緑髪さんの腕をサワサワしているとその腕の持ち主である緑髪ちゃんが俺を横から覗き込んでいた。
「えっと…」
「うん」
まさか花の女子高生に「腕カチカチかと思って触ってました!キャハッ」とか出来るわけもないので、それとなく遠回しに失礼のない言葉を選ぶ必要がある。
「腕…綺麗…」
よぅし!完璧だ!これならまず疑われないし綺麗で触ったということで丸く収まるな!
「ありがとう〜!」
緑髪さんがそう言って俺のほっぺにキスをして来た。………え?
「〜〜〜!?!?」
慌ててキスされた右頬を両手で押さえつつ緑髪さんから体を少しでも離そうと体を後ろに引く。
「また明日花の悪い癖が出た…」
そう言って青髪さんは俺の頭を撫でながら片腕で俺を緑髪さんから引き剥がして抱っこする。
「あー!私の癒しがぁー!」
緑髪さんはそう言って片腕を伸ばしながら嘘泣きをしている。と言うかなんか軽々抱っこされてるぞ、俺。
「ごめんね犬塚さん。明日花はキス魔だから目を離すとすぐああいうことする子なの」
なるほど。緑髪ちゃんこと明日花さんはキス魔と…。誰でもキスするわけではないだろうが、要注意人物なのは確定か。
「気にしてない」
とりあえずは気にしてないよ風を装い平然としているのが大人というものだ。海よりも広い心で対応せねば社会など生きていけないのだ。
それにキスくらいで動揺していたらこの先大変そうだしな。
動揺してないったらしてないのだ。
「良かったね明日花。犬塚さん気にしてないって」
「それはそれで悲しい気もするけど…。いきなりキスしちゃってごめんね犬塚ちゃん」
「大丈夫」
俺は大人だからな。これくらいで腹を立てるような器の小さい人間ではないのだ。むん。
「明日花のキス魔は今に始まった事ではないけど、まだお互いのことをちゃんと知ってないのにキスするのはダメだよ」
茶髪さんが俺の頭を撫でながらそう言った。いや、俺を撫でる必要はあったんですかね?気分が良くなるしいいんだけどさ…。
「俺ら男には絶対しないけどなw」
赤髪さんこと瑠衣はそう言って笑みを浮かべながら緑髪ちゃんを見た。
山田は何やら金髪さんと話をしている。二人だけの話のようで俺には全く聞こえない。何の話だろうか。
「そりゃむさい男にキスとかイヤだし」
めっちゃガチトーンで言う緑髪さんに対して男連中は表情も雰囲気も変わらない。俺は緑髪さんのこと全く知らないからちょっと驚いているがここにいる人たちは全員知ってそうだな。
というか俺元男なんだけど。打ち明けたら殺されたりしないよね?
何故俺がそう思ったって?だって緑髪さんの表情が凄い形相になってるからだよ。
「明日花。顔」
青髪さんは俺の頭を撫でながらそう言って緑髪さんを宥める。と言うか撫でるの上手すぎませんか青髪さん。ちょっと俺ウトウトし始めてるんですが。
「ま、明日花はしゃーないとして犬塚さんは大丈夫なん?それ気になるわ」
船を漕ぎ始めた辺りで俺に声がかかった。ここは大人な回答をしようじゃないか。
「へーきです」
男と付き合ったことなんて一度もないけど多分大丈夫だろう。というか前世でも一度も付き合ったことないけどな。恋愛とかよくわからんし、そもそも俺を好きになる奴とかいるわけないし。
「ならよかった」
何が良かったのか知らないが、満足してくれたようで何よりだ。というかちょっと寝てもいいよな?もう残り5分くらいしかないけどいいよな。
俺は体を青髪さんに預けて目を閉じた。眠気には勝てなかったよ。
ーーー
「犬塚ちゃん可愛い〜」
白波明日花はスマホのカメラ機能を使い犬塚一歌を撮りまくっていた。
「本当に可愛いわね」
山里結は一歌が寝た後も継続して頭を撫で続けていて、その顔は最早母親である。そんな三人の女子を眺める男子たち。正確にはこの教室内の殆どが一歌たち女子を見ているのだが、今はいいだろう。
「寝顔も可愛いよ〜!」
興奮気味というか興奮している白波明日花を止める人間は誰もおらず一歌の寝顔が写真という記録に残されていく。
「結。そろそろ腕が限界じゃないのか?」
沢村海斗はそう言って一歌の柔らかなほっぺを突く。すると柔らかく、もちもちの肌にその指が沈み込んでいく。
「休み時間くらい余裕で持つよ。というか犬塚さんが軽いから大丈夫」
「確かに犬塚ちゃん軽いよね〜。ちゃんと食べてるのかな?」
明日花は撮影が満足したのかスマホをしまい会話へと加わる。鍵村友希と山田空は以前二人で何やら楽しく話しているままである。
「食べてるとは思うよ。それと気になったことがあるんだけど…」
結はそう言って一歌の首元が見えるように髪をかき上げる。海斗と明日花はそれぞれ左右から一歌の首の後ろを覗き込んだ。
「えっ…」
「これは…」
結が頭を撫でていて気づいたことであり、ウトウトしていた一歌は警戒するのを忘れていたのだ。
一歌の体には多くの傷跡があり、首もその一部だ。一歌は基本夏でも長袖長ズボンだ。それは何故か。傷跡を隠すためである。
一歌にとって傷跡なんて気にしないが、弟である正樹や周りが色々言ってくることは明白なのでいつも隠している。
「昔の怪我とかかな…」
「だとしても跡が残ってるのは…」
二人は推察を始めるが考えるのを途中でやめた。これ以上考えるのはいけないと。勝手に覗き見してはいけないものだと無意識に気づいてしまったから。このことはいつか本人の口から聞いてこそだと二人は判断したのだ。
「まあいずれ犬塚さんの口から聞けたらいいよね」
そう言って海斗が遠回しにこのことは詮索するべきでないと言ったのである。実際結と明日花もそうした方がいいような気がしたので頷きまた別の話を始めたのだ。
ーーー
起こされたのは授業開始の一分前だった。青髪さんに優しく自身の席まで抱っこされたまま連れて行かれた俺は大人しくしておいた。
いやだって楽だし暴れたら青髪さんに負担だし。
普通にその場で下ろしてもらって自分の足で歩いた方が良かった気もするけどそれはまあ…うん。今更な気がしたんだ。
さてその後順調に授業も進み昼休み。俺は人生初の学食に挑戦していた。
一人で来たのかと言えばそれは否である。今現在俺は緑髪ちゃんに抱き抱えられたまま学食に来ています。
いや、途中まで普通に歩いていたんだが学食まで後半分くらいのところで緑髪さんに抱き抱えられそのまま連行された次第なのだ。
勿論というか緑髪さん以外の人たちである金髪さん、赤髪さん、茶髪さん、山田、青髪さんもいる。
「犬塚ちゃんは何にするのかな?」
緑髪さんにそう聞かれた俺は「うどん」と答える。他にはカレーや親子丼にフルーツとかまあ定番らしいものがある。レパートリーは少ないが初めての学食だし一度くらいは経験しておいた方がいいだろう。
他の人たちはみんなカレーにしたようだ。
とはいってもカツカレーやチキンカレーとか種類は違うけどな。
程なくして俺は学食のおばちゃんからうどんを受け取り彼らが待つテーブルへと向かった。
少し前に緑髪さんに下ろしてもらった。流石に俺を抱えたままでは緑髪さんも自身の注文した品は運べないからな。
「お、犬塚さんはカレーうどんか」
そう。俺が選んだのはカレーうどんだ。うどんと言えばカレーうどんしか勝たんのだ。
他のみんなは……全員カレーだな。細かな違いもあるけどまあカレーなのは違いないしいいじゃろ。
程なくして緑髪さんもカレーを持って来たのでお昼にした。
「犬塚ちゃん一口あげるね」
そう言って緑髪さんからチキンカレーを一口頂く。うむ。美味しい。
「んじゃ今度は俺のな」
そう言って茶髪さんからグリーンカレーを一口貰う。うん。美味しい。
「次は俺だな」
今度は金髪さんからポークカレーを一口貰う。うん。美味しい。
「じゃあ俺はこれあげるよ」
赤髪さんからはカレーの上にトッピングされていたウインナーを一本貰い食す。うん。美味い。
「それじゃ俺も」
山田からはハンバーグを半分貰ったのでそれを食す。うん。美味しい。
「お返し」
俺はうどんを一本ずつそれぞれに渡した。それを彼らは笑いながら食していた。何か面白いことがあったらしい。
ーーー
昼食終わり午後の授業をこなしていると紙が俺のところへ回って来た。
なんだろうと思いくしゃくしゃになった紙を広げた。
『今日の放課後カラオケな 友希』
という一文が書かれていた。これを俺のところまで回させた張本人さんを見ればこちらに向けて小さく手を振っていた。
誰がカラオケなぞ行くものか。俺は取り敢えず紙を綺麗に折り畳み机の中へ入れた。
授業も終わり山田に連れられて教室の中央へと移動すると俺は綺麗に折り畳んだ紙を金髪さんに渡した。
「犬塚さん読んでくれた?」
俺はコクリと頷き金髪さんを見上げた。すると俺の両脇を掴まれてゆっくりと視点が上昇する。
ちらりと後ろを見れば緑髪さんが俺を抱き上げていた。俺はもう半ば諦めの境地だ。
「一緒に行かない?カラオケ」
ブンブンと首を左右に振り行かない意思を告げる。乱れた髪を綺麗に整えられた。勿論したのは緑髪さんだ。
「それじゃあさ、何だったら一緒に行ってくれる?」
特に行きたい場所がない俺からすればどうこられても一緒なのだが。
「行きたい場所特にない」
俺の答えをどう受け取るかは知らないがあまりいい返事ではないだろう。
「ならやっぱりカラオケに行こうよ」
そう言って金髪さんは俺の頭を撫でてきた。俺を撫でていた他の人に比べれば下手くそだが、優しい手つきだった。