「はぁ…はぁ…」
絶賛今現在肩で息をしながら倒れ込んでいるところです。
「犬塚さん…」
体育館の床は冷たくて気持ちいいなぁ…。お、おい今持ち上げないで。今床に熱を冷ましてもらってたのに!
青髪さんに持ち上げられて俺は隅に移動させられた。今も抱っこの状態で青髪さんの膝の上にて息を整える。
現在シャトルランの最中にございます。そして今30回でダウンした俺は歩く力もなくその場で立ち尽くし、倒れ込むとそれを見兼ねたのか青髪さんがわざとリタイアして俺を回収してくれたのだ。
「ごめんなさい…」
俺のせいで青髪さんはリタイアすることになってしまったことへの謝罪をする。この人は気にしなさそうだけどちゃんと言葉にしておくのは大切だ。
「私はだるかったし全然いいよ」
あら余裕そう。この人はきっと誰かのために一歩を踏み出せるタイプなんじゃないだろうか。
「本当?」
「本当だよ。いつも40手前くらいでやめてるんだ」
嘘はついていなさそうだけど…。まあそういうことにしておくか。
「気になるならあいつらに聞いて回ってもいいんだよ」
そう言ってまだ走り続けてる彼らを指差す。男子四人に緑髪さんはまだまだ余裕そうだ。
「皆凄い」
息もだいぶ整ってきたところでそう言って体を青髪さんに預ける。
この人は危害を加えないし何より寄りかかってくれるのが嬉しいみたいだし。
「あいつらは全員バリバリスポーツしてたからね。体力お化けだよ」
試しにどんな中学時代なのか聞いてみるのも良さそうだ。
「皆の中学時代知りたい」
「あいつらの中学時代かぁ…うーん…」
唸るような声を上げながら青髪さんに頭を撫でられる。疲れているからか繊細さがちょっと欠けているけど心地よいのは変わらないな。
「一言で言えば全員荒れてたよ」
それ随分と面白そうな話題だ。彼らが荒れていたとは。特に緑髪さんはとてもそんな風には見えない。
「そうなんですか?」
「うん。一番酷かったのは明日花だよ」
わお。それは踏み込んでいい領域なのだろうか。でもこの人はきっとこの先のことは話してくれないだろう。
「気になるなら本人に聞いてみてね」
やはりそうくるか。まあ易々と他人に友達の過去を話すような人ではないとは思っていたし、それが普通だろう。
「いずれ機会があれば」
「うん」
それから俺と青髪さんは特に何を話すわけでもなく静かに彼らを見つめた。
程なくして体力テストも終わり授業も終わった俺はヘロヘロになったことで緑髪さんに抱き抱えられながら移動した。
緑髪さんは汗びっしょりだが全く臭くない。これが女子の恐るべきところだ。
俺が隅っこで隠れるように着替えていると女子の何人かが俺の方へ向かって歩いてきた。
取り敢えず着替えを中断してその近付いてきた人たちを見ていると、俺の視線に気付いたのか彼女たちは俺の頭を撫でた後着替えを始めた。
どうやら最悪の展開はないようだし安心して着替えを再開し、上着を脱いで下着姿になった辺りで視線が集まっているのに気づいた。
「………」
どうやら俺の見窄らしい体を見ているようでほとんどの視線が傷跡に集まっているのが分かる。後多分痣も見られたかな。
俺は何事もなかったように着替えを再開するとしばらくフリーズしていた皆がいそいそと着替えを再開し始めていた。
着替えも終わり荷物を持って更衣室を出ると後ろからバタバタと騒がしく俺の後を追ってくる人たちがいた。
「待って〜!犬塚ちゃん!」
呼ばれたので足を止めて後ろを振り返ると緑髪さんと青髪さんが急いでやって来ていた。
「一緒に教室に戻ろ」
差し出された手を俺は取ることなく歩き始めると二人は俺の両脇に素早く移動して歩調を合わせると左手を青髪さんが。右手を緑髪さんが掴んで放してくれなかった。
ーーー
結局教室まで二人は放してくれず捕まった犯罪者のような気分を味わった俺は自分の席に座ると二人、ひいてはクラスの女子たちが俺をみる目が変わるのかどうかを観察する。
ひそひそされるのは仕方ないが、一気に広まるだろうなぁ…。
あんまり広まることがないことを願ってるけど、どうだろうか。
あんまり憐れみの目で見られるのも気分良くないし、出来れば今まで通りが望ましいのだけど。
「犬塚さん、行くよ」
山田に連行されまた彼らの集まりへと足を向ける。
「犬塚ちゃんー!」
集まりのところへ行くなり緑髪さんに抱き上げられて頬ずりされる。
「犬塚ちゃんはそこまで運動得意じゃなかったね」
「そうだな。下の上って感じだったね」
「まあできないって言うよりかは体力の方がない感じだったな」
「だね」
そうだよ。俺はインドア派だから体力がほぼないのだ。スポーツなんか出来るわけもなくて家に篭っていて、絵を描いたり本を読んだり、ゲームしかしてないからな。
スポーツなんてしようものなら傷跡がバレるだけじゃなくて痣もバレる。つまり親も許さないってことだ。
「犬塚ちゃん体力づくりするなら手伝うからね!」
そう言って緑髪さんは太陽ような笑顔をこちらへ向けてきた。
こんな眩しい笑顔を放つ子が中学時代荒れていたと思うと一体この子の笑顔の裏には何があるんだろうか。
「ありがとう」
その気持ちは素直に嬉しいがつまるところ早朝のランニングだったり、夜に走り込んだりとかそう言う物だろう。
「じゃあ今日から走り込んじゃお!」
あれ。急展開だな。まあいいっか。体力ないのは本当だしな。
「うん」
「え、それじゃ私も一緒に走るよ」
「それじゃあ俺も」
「勿論俺も一緒に走るわ」
「俺も」
「俺もな」
あれ?なんか皆で走ることになってしまった。仲良しだな君ら。
「じゃあ18時にふれあい公園に来てよね」
「了解」
「おっけー」
「うん」
「りょ」
ーーー
学校も終わり放課後。俺は帰りに皆で買ったスポーツウェアを持って一度帰宅。そして自身の部屋で買ってきた新品のスポーツウェアを着て時間を待つ。黒一色だけどスポーツウェアだしおしゃれとか気にしなくてもいいだろうと言うことで割と皆普通のを選んでいた。
スポーツウェアを着てゲームをしていると弟が部屋に入って来た。
「あれ?ねぇーちゃん何かするの?」
「一応」
弟は俺のベットに腰掛けスマホを操作しながら話を続ける。
「で、友達?」
「クラスメイト」
「ふーん…クラスメイト、ね。そのスポーツウェア今日買って来たんでしょ?」
「うん」
「一人で買って来たわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「それはもう友達と言っても遜色なさそうだけどね」
「……」
「で、何時から待ち合わせ?」
「18時」
「帰りは?」
「分からない」
「21時前には帰ってこないとまた殴られると思うよ」
「……」
「最近急に父さんがねぇーさんのこと気にし始めてね。気をつけた方がいいよ。前ねぇーさんの部屋に無断で入ってたから何か仕掛けてるかも」
そうだとすれば父親は監視カメラでも仕掛けているのか。それとも盗聴器か。まあ見られていたとしても別にどうでもいいんだが、弟に危害を加えられたりしないだろうか。とは言っても正樹が殴られたところなんて見たことないけどな。
「それじゃ僕はそろそろやることがあるから部屋に戻るね」
弟は告げることは告げたと言わんばかりに立ち上がり部屋を出て行った。
ーーー
待ち合わせの時間より少し早く着いてしまったがまあいいだろう。
時刻は17時50分。まだ俺以外に人は来てないようだ。
近くのベンチに腰を下ろしスマホを操作して周回を始めたところで視界の端に人が映る。
「お、早いね。犬塚ちゃーん!」
猛ダッシュで緑髪さんが俺に近づいて来た。その後ろには金髪さん茶髪さん赤髪さん山田、そして青髪さんがいる。なるほど一緒に来たのか。
そんなことを思っていると緑髪さんに抱き抱えられてほっぺにキスされまくる。
「はいはい。それくらいにして早く準備運動しようね」
制止されたことで俺はゆっくり下ろされる。スマホをしまい全員の顔を見た。
「やっぱ俺らセンスあるよなwよく似合ってるよ犬塚ちゃん」
服選びはよく分からないし彼らに任せたので似合っているのなら彼らのコーディネートが良かったと言うことであり俺と言うよりは自身のセンスを褒めている。つまり自画自賛しているのである。
「着せ替え人形にした時も思ったけど犬塚ちゃんって意外と巨」
茶髪さんがそれ言い切る前に青髪さんに首を絞められていて、ギブギブと青髪さんの腕をタップしている。
青髪さんは平均よりは大きいはずだし貧乳ではないのだが、俺を気遣ってくれたのだろう。
「海斗あんた変な時にデリカシーのない発言するよね」
顔は笑っているけれど目が笑ってない。一番怖い笑顔やめてくれ。俺まで怖くなってきた。
「それよりちゃっちゃとやって帰りに皆でラーメンで食おうぜ」
そう言って赤髪さんが俺の頭を撫でる。ねぇ君たちの間で俺の頭を撫でるの流行ってるの?
「そうだな。あんまり遅くなったら明日に影響しちゃうしな」
そう言って俺の頬を触る金髪さん。いや、頭の方がまだマシなんだけど。
「皆でラーメン食べるのとか久しぶりだな。楽しみだね、犬塚さん」
そう言って俺の肩に手を置く山田。山田はそれでいいのか。
いや逆にどこを触るのかって話だけどさ。セクハラしない範囲ならそれでいいんだが…。とは言っても肩以外にないか。
頭は現在進行形で赤髪さんに撫でられてほっぺは金髪さんに触られて。
左肩には山田の左手が乗ってる。…なんだこの状況。
「はいはい。だから犬塚さんに触ってないで準備運動するよ」
「「「ほーい」」」
三人から解放され俺も皆と一緒に準備運動を始めた。