準備運動も終わったことで皆んなでゆっくりとジョギングを開始する。
先頭を行くのは赤髪さんでその後ろに緑髪さんがいてその次が俺。
俺の後ろは青髪さん、茶髪さん、山田、金髪さんの順である。
並びについては公園に向かう移動中に話し合って決めたそうで俺に拒否権はなかった。その並び順を俺に伝えた後大まかなコースも教えてくれた。
恐らく女の子が中心っていうのは防犯というかその方が守りやすいからだろう。とは言えそんな簡単に犯罪者と遭遇することなんてないだろうが。
「あ、そうだ。折角だし部活みたいに掛け声とかどうよ?」
ゆっくりとしたスピードであるが故の余裕というわけではないだろうが赤髪さんが目だけを後ろに向けて喋った。
今は直線しかないし死角になるような場所もないのでチラチラこちらを見ることが出来るからこそだ。500mもすれば右に曲がることになるがジョギングなので大したスピードではない。
「私はいいよ〜」
緑髪さんがいち早く賛成し、それに続いて山田と茶髪さんも賛成した。
「犬塚さんに任せるよ」
青髪さんは俺の判断に委ねるそうだ。え、その決定権を俺に渡すの?恐らく俺を気遣っての気がするが……。
「んじゃ俺も犬塚さんに任せる」
金髪さんも俺に決定権を渡してきおった。多数決なら既に答えは出ているけどこの人たちは誰かの意見を無視するような人たちではない。
「犬塚ちゃんはどう?」
赤髪さんが前方を向いたまま優しい声で聞いてきた。それと同時に他の皆んなの視線も俺に集まっている気がする。
前世はバスケをしていたが、今生はスポーツというものに学校での授業以外触れたことがない。中学は虐められてたし、スポーツをやる気も起きなかった。見学することなかったし、掛け声を聞いたことがない。
でもこの人たちは多分俺を少しでも楽しませるために掛け声を提案しているのではないだろうか。
多分仲間意識とかそう言うのではない気がする。いやどうだろう。この人たちは俺と友達になりたいのなら仲間意識も含まれているのだろうか。
それとも一体感?真意は分かりかねるけど多分善意だと思う。
なら答えは決まっている。人の善意は素直に受け取るものだろう。
「やってみたい」
そう言ってみれば赤髪さんと緑髪さんが笑顔になった。他の人はどうだろうか。顔は動かさずに目だけ後ろへ向けて視界の端に後続の人たちを入れる。
全員が嬉しそうな優しい笑顔で俺は正解を選んだのだと認識する。
もしこれが嘘ならばこの人たちはきっと俳優や女優のトップに立てるのではないかと思う。
「それじゃあ決まりだな!」
赤髪がそう言って一瞬だけ俺を見た後掛け声を言い始める。
「犬塚〜ファイッオー!ファイッオー!」
まさかの掛け声に俺はぎょっとする。いや、なんか想像してたの違うんだけど!?それを倣うように次は緑髪さんが。
「犬塚ちゃん〜ファイッオー!ファイッオー!」
二人とも結構な声量で掛け声をしていて、俺の脳内はちょっと困惑している。だってそうだろう。掛け声に賛成したら自分の応援だったのだ。
これ近所じゃなくて本当に良かった。近所なら間違いなく俺の両親の耳に入ってまた殴られることになるだろう。もしくはこうやって皆んなで走っている最中にどちらかが現れて何か言われるか。
どちらのケースだろうと気分も下がるし、場の雰囲気も悪くなるのは確実だ。
まあ遠からず両親の耳に入る気がするけどな。
未来よりも今を楽しんだ方が良いだろう。もしここで俺がこんな掛け声やめてくれと言えば雰囲気が悪くなるだけじゃなくて変な勘繰りが入るだろうしな。
ていうか次言うの俺なのか?と思っていたら青髪さんが掛け声を言ったので俺はスルーなのだろうか。
「無理して言わなくてもいいからね」
青髪さんにそう言われたらちょっと甘えたくなるな。でもそれを抜きにしても自身の名字を結構な声量で言わないといけないと言うのは中々高いハードルである。さらに内容は自分を鼓舞するものときた。
元々高いハードルが更に二段ほど高くなるイメージである。
障害走から棒高跳びに変わるくらい違う。いや、それだと二段どころの話ではないか。
「犬塚〜ファイッオー!ファイッオー!」
続いて茶髪さんが掛け声をしたことによりそれのループが始まった。
公園の周りをひたすら回るわけではなく時折違った道も通りながら俺たちのジョギングは続く。
2周目に入ったところで掛け声が変わる。
「一歌〜ファイ!ファイ!ファイオー!」
赤髪がそう言ったことにより2周目の掛け声はこれになるようだ。
続いて緑髪さんもそれを言い終えたところで俺は少しの間後ろを見る。
後続である青髪さんに視線を合わせて目で語る、なんて事はせず。
「言ってみる」
この一言だけで彼女はきっと分かってくれるだろう。これは信頼ではなく押し付けだ。
青髪さんは頷いてくれたので、俺は視線を前に戻し口を開く。
「一歌〜ファイ。ファイ。ファイオ…」
覇気も声量もないけど、きっとこの人たちには聞こえているはずである。少なくとも俺の前後には聞こえたはずだ。
俺が言うことが意外だったのか赤髪さんがちょっと驚いた表情で俺のことを見ていた。
3周目に入ると掛け声がまた変わる。
「凄いぞ山田ッ。負けるな山田ッ。」
今度は俺ではなく山田へと切り替わったことで俺は吐き出す息と一緒に安堵する。
「俺かよ!?」
後ろで山田の驚いた声がしたが、緑髪さんは構わず赤髪さんに倣う。
「テストも頑張れ!負けるな山田!」
少しアレンジが入ったけどこれも掛け声の醍醐味なのだろうか。前世の記憶を掘り起こしても掛け声をしていたかは定かではないため分からない。
というか山田学業の方弱いのか?良くも悪くも平均的なイメージだが…。
「俺はテストの点数悪くねぇーよ!どちらかと言えば明日花の方だろうが!」
どうやら緑髪さんの方が学業は劣るようだが…。やっぱりこの人たちは中学時代からの付き合いなのだろうか。それとももっと前からだろうか。
おっと次は俺だったな。
「頑張れ山田、さん。…山田さん」
これが俺の限界だ。何せ知り合ったばかりの相手のことだ。よく知りもせずに言えることなんてたかが知れている。
「ありがとう、犬塚さん」
こんなのでお礼言うとは…いや、それ以外言うことがないからだろう。
その後も順調にジョギングを続けた後5周目からはペースを上げ走り込みをし始めた。彼らのスピードたちに追いつけるわけもなく俺はヘロヘロになりながら必死に走っていると赤髪さんに後ろから抱き上げられお姫様抱っこで移動し始めるという珍事が起きた。
俺が困惑し頭の中がクエスチョンで埋め尽くされたところで公園のベンチにゆっくり下ろされた。
「少し休んでろ」
そう言って俺の頭を撫でた後赤髪さんはまた彼らの後を追いかけ始めるのと同時に俺は彼らを目で追いながら息を整える。
まだ春ということもあり空が暗くなるまで時間はそこそこかかるけど今現在は頭上に星空が見えている。
「犬塚ちゃーん!」
星空を見上げていると緑髪さんが俺の目の前に立ち視界を占拠する。
「はい。何でしょう」
「一緒に走ろ!」
緑髪さんはそう言うと俺をお姫様抱っこして走り始めた。再び俺は緑髪さんの顔を見上げながら頭の中がクエスチョンだらけになった。
ーーー
運動も終わり今現在近くのラーメン屋さんに来ています。
来る前にストレッチとかしたり、何故か青髪さんに店に着くまで抱き抱えられていたり。男子たちがよく分からない話題で盛り上がっていたところを青髪さんに止められていたりした。
注文も既に終わらせ冷えたお冷をちびちび飲む。ここまで何も飲んでいない彼らはお冷を直ぐ飲み干しまた注いでいる。
ちなみにそれぞれ注文したメニューだが俺は野菜ラーメンの塩で青髪さんはチャーシュー麺。緑髪さんは味噌ラーメン。山田は醤油ラーメンで茶髪さんは豚骨ラーメン。金髪さんはつけ麺で赤髪さんは油そばだ。
「犬塚ちゃん、一つ気になったこと聞いていいかな?」
お冷をちびちび飲んでいたところ茶髪さんにそう言われて俺はコクリと頷く。
「犬塚ちゃんは休みの日何してるの?」
「ゲーム、絵描き、読書」
「犬塚ちゃんゲームするんだ。どんなゲーム?」
「FPS」
「なるほど。なら最近流行りのペーペックスしてる?」
「してる」
そう答えれば茶髪さんと金髪さんが嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。
「じゃあさ今度一緒にやろうよ!俺と友希しかペーペックスしてないから1枠空いてるんだよね!」
そんなにペーペックスを一緒にやる人が欲しかったのか。というかこの二人しかしてないのかペーペックス。山田とか誘ったらやってくれそうなイメージなのだが。
「うん」
「犬塚ちゃんランクいくつ?俺らプラチナなんだけど」
「マスター」
「…マジ?」
「うん」
「友希、二人でランク頑張ろうな」
「…まさか犬塚さんがマスターとはね」
そんな話をしていると注文した品が続々届き始め会話は一時中断となる。
「「「いただきます」」」
割り箸を割り麺を持ち上げて口の中へと誘う。
あっさりとした味で食べやすく、野菜も摂れるので野菜ラーメンが一番好きだ。
「犬塚さん、あーん」
右隣に座る青髪さんがそう言ってチャーシューを一枚まるまるこちらに差し出してくるではないか。
少し悩んだ末に俺はそのチャーシューを食う。……美味しい。
「お返し」
チャーシューの代わりにはなれないがメンマを一つ青髪さんにあーんする。俺の好物のメンマを一つ渡してしまったが仕方あるまい。何せチャーシューだからな。
「ありがとう、犬塚さん」
そう言って青髪さんは俺の頭を撫でてくる。いや、チャーシューくれたし礼を言うのはこちらだろう。
「こちらこそチャーシューありがとう」
「美味しかった?」
「うん」
「なら良かった」
そこからは他の人たちからあーんをされまくったのだが、些細なことだろう。