…"卓哉の母親"が、拓也の方をチラッと見る。
何だかほんの一瞬、申し訳なさそうな表情に変わったのは…、拓也の気のせいではなかったはずだ。
「…"拓也お兄ちゃん"も…、卓哉とおんなじなの。…夜1人でおトイレに行けなくて、たまにお漏らしをしちゃうんだって。…それに、こっそりお庭でオシッコもしちゃうって…。」
(…はっ?)
「…だからお母さんね、"拓也お兄ちゃんのお母さん"から…、いつも卓哉にするみたいに、お尻ペンペンしてあげてって、お願いされちゃったの。」
(…おっ、おばさん…、何を言ってるのォォォ〜っ!!?)
拓也はまだ状況が呑み込めない。
…一方、"2年生の卓哉"は…、母親が暴露した"お兄ちゃんの秘密"にショックを受けていた。
「…た、拓也お兄ちゃんも…、家でお漏らししてるの…っ!?」
「…そうなの。卓哉とは違って、もう大っきなお兄ちゃんだから…、と〜っても沢山お尻ペンペンされちゃうのよ〜っ?」
「…た、沢山…?」
「…えぇ。大っきなお兄ちゃんになっても…、1人でおトイレに行けなくて、お漏らししちゃうような悪い子はね…?…卓哉がいつもされてるより、もっとも〜っと沢山お尻ペンペンされちゃうのよ…。」
「…えっ、そ…、そうなのぉっ…!?」
…"2年生の卓哉"は、自分が3年生や4年生になれば、もう"お尻ペンペン"は自動的に無くなると思い込んでいたようで…、母親の発言に、驚きを隠せていない。
…そして、その卓哉以上に驚いていたのが…、拓也である。
(…お、おばさんってば…、どうしてそんな話を…!?…ぼ、僕…、さすがにもうお漏らしなんてしないよぉ…!?)
…"2年生の卓哉"にお漏らし癖があるからと言って、拓也まで巻き込まれたのではたまらない。
…すぐに訂正しようとした拓也に、ふと、昼休みの記憶が頭をよぎった。
"…おばさん…、僕、卓哉君と同じで良いよ"。
(…あ……っ!!?)
"…ううん、僕は大丈夫だから…。卓哉君と同じ理由で良い"。
(…あああああ〜っ!!?…ぼ…、僕のバカぁぁぁぁ〜っ!!!?)
…発端は、先程の昼休み。
予鈴が鳴り、焦っていた拓也は…、"卓哉の母親"から、息子の卓哉が叱られる理由を詳しく聞くことなく…、"卓哉君と同じで良い"と断言していたのだ。
…結果、お仕置きの理由は"シモの躾"だったと初めて知らされる拓也。
(…じょ、冗談じゃないよぉ…っ!?夜1人でトイレに行けなくて、お漏らししちゃうだなんて…!?)
…2年生の卓哉の前で、お尻ペンペンされるだけでも恥ずかしいのに…、その理由が"お漏らし"というのは、さすがの拓也も、はいそうですかと受け入れる訳にいかない。
…卓哉の母親に対し、異議を唱えてみる。
「…お、おばさん…、僕、やっぱり…。」
「…えっ…?」
卓哉の母親は一瞬、戸惑ったが…、拓也が家に到着した際に、"最後の確認"で口にした言葉を忘れてはいなかった。
『…僕が"嫌だ"とか"痛い"とか言っても、叩く手を止めないでね?』
(…さっきは拓也君、ああ言っていたし…、これって多分、"嫌がる演技"なのよね…?…さすがは拓也君…、家の卓哉のために、ここまで身を挺してくれるなんて…。)
…私も本気で叱らないと…、拓也君に失礼だわ。
"卓哉の母親"に、勘違いから変なスイッチが入った。
「…拓也君。…おばさんのお尻ペンペンが受けられないなら…、ここにお母さんを呼びましょうか?」
「…えっ…!?」
「…だから、拓也君のお母さんを家に呼んで…、お母さんにお尻ペンペンして貰う?…おばさんは、どっちでも良いけれど…。」
卓哉の母親のこの提案は、ただの思い付きだった。
…そもそも拓也の母親とは親交がなく、連絡先すら知らないのだが…、拓也には効果テキメンだ。
(…ち、ちょっと待って…!!?…そっ、そんなことをされたら…、僕のお母さんだけじゃなく、勇太君のお母さん達にまで伝わっちゃうよぉ…!!?)
…拓也は昨日の"集会"によって、2年生の卓哉の母親のお尻ペンペンには、全面的に協力すると約束している。
…しかも、"10人の母親達"全員の前で誓った約束を、あっさり破ったとなれば…、再び全員から叱られてしまう口実を作ることにもなる。
…さらに、拓也の母親である美由紀まで加わってしまうと、もはや収拾がつかない…。
…拓也には、選択肢など残されていなかった。
「…お、おばさん…、ごめんなさい…。僕…、まだ夜トイレに行くの、すっごく怖くて…、お漏らししちゃうから、おばさんの痛〜いお尻ペンペンで、直して欲しい…。」
「…そうよね?…拓也君のお母さんからも、そうお願いされたんだもの。…お漏らしのことを正直に言えるなんて、拓也君は本当に偉いわねぇ?」
(…ううぅ…っ!?)