「…うぅっ…、ぐすっ…、ひっく…!」
「…ほら拓っくん、もう泣かないの。勇太に見られたら、笑われちゃうわよ?」
「…だ、だってぇ…、ぐすっ…。」
「…仕方のない拓っくんね…。…ふふっ…、でも、おばさんとっても嬉しいわ?」
「…えっ?」
「…あんなにお尻を叩いたのに…、そうやって甘えてくるところなんて、昔の勇太にそっくり。」
「…あ…っ!?」
尻叩きが終わってすぐ、膝の上に抱き起こされた拓也は、奈津子の胸に顔をうずめたままずっと泣いていた。
奈津子にとっては、母性本能を最大限にくすぐる至福の時間だったのだが…、無意識でそうしていた拓也は、気づいて一気に赤面する。
「…ごっ、ごめんなさい…!ぼっ、僕…!?」
「…うふふ…、良いのよ〜?拓っくん。おばさんに甘えてくれても。今日のぶんのお仕置きはもう終わったんだから…。」
「…で、でも…っ!」
友達の母親の胸に、顔を完全にうずめてしまった。
散々尻を叩かれた挙げ句、そんな恥ずかしい慰められ方をされた拓也は、すっかり黙りこんでしまう。
「あら…、拓っくん、おばさんに何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「…うぅ…。」
「…正直に言ってみなさい。おばさんもう今日はお尻ペンペンしないから。…ねっ?」
「…う、うん…。」
拓也は奈津子の膝から起き上がると、積まれた連絡帳の山に手を伸ばし、その中から3冊ほどを抜き取って奈津子に渡す。
「……これ…。」
「…ん?…3年生の時の、連絡帳…?」
「…うん…。」
「…これに何が…、って…、うわっ…。」
これは、凄いわね…。
奈津子が思わず絶句したその一冊には、ほぼ全部のページに、大量の忘れ物マークが記されていた。
「…これも…、こっちも…?…ありゃ〜…、1学期から3学期まで、ほぼ全滅してるのね…。」
「…う、うん……。…3年生の時は、1年間で3、4回しか宿題しなかったから…。」
「…拓っくん。…理由を聞かせてくれる?」
「……。」
「…これ全部をお尻ペンペンするかどうかは一旦置くとしても…、ただの怠け癖で、ここまで忘れ続けるとは思えないわ?…何か、やらなくなった理由があるんじゃない…?」
「…そ、それは…。」
拓也は少しずつ、自分の口から真実を話し始めた。
3年生の担任の先生と、何となくウマが合わなかったこと。
初対面の自己紹介の際に、本当にただ何となく、困らせてみたくなるような印象を持ってしまったこと。
翌日…、宿題を忘れても、担任の先生が拓也を全く叱らなかったこと。
意固地になり、先生が本気で怒るまで忘れ続けてみようと企んだこと…。
…そして、何度も宿題を忘れ続けた結果、その先生を泣かせてしまったこと…。
「…拓っくんは、その先生のこと…嫌いだったの?」
「…う、ううん…?」
「…そう…。」
奈津子も、何となく察しはついていた。
好きな子に、つい意地悪をしてしまうというのは小学生ぐらいの子供には良くあることだが…、拓也はたまたま、それが先生の方に向かってしまっただけであると。
…ただ、拓也にとってはそれが根深いトラウマになっているらしい。
「…拓っくん。」
「…はい…。」
「この3年生の連絡帳…、きちんとおばさんのところに正直に持って来られたのは、どうしてかな?」
「…え…?」
それは…、おばさんが、今までの連絡帳を全て持って来いと言ったから…。
「…ううん、そうじゃないわ。確かにおばさん、連絡帳を全てチェックして、お尻ペンペンすることは後から言ったけれど…、これほど忘れ物マークがびっしり書かれていたら、ほとんどの子は隠そうとするんじゃないかな…って思うの。」
「…それは…。」
「…でも、拓っくんはちゃんと正直に持ってきてくれた。…お尻ペンペンはともかく…、これを見せたら、叱られることは何となくわかっているはずなのに…。」
「…。」
「…拓っくん、違ったらゴメンね?…本当は、ずっとこのことを叱られたかったんじゃない?…その先生を、泣かせちゃったって…。」
「…う…、…ううぅっ…。」
拓也がボロボロと涙を流す。
それを肯定と受け取った奈津子は、拓也の3年生の連絡帳についての処遇をどうするか、すぐにその場で言い渡す。
「…拓っくん。…やっぱりおばさん、この3年生の連絡帳についても1日1日チェックして…、ちゃんと全部反省するまでお尻ペンペンします。…良いわね?」
「…は…、はぃぃ…っ、…ひっく…。」
「…とっても沢山、お尻ペンペンすることになると思うけど…、拓っくんも、その方がすっきりするのよね?…ふふっ、覚悟は良い?」