秋仁による衝撃の告白に、拓也は驚きを隠せない。
「…"身代わり"って言うのは言い過ぎかもしれないけど…、例えば前に…、僕のお姉ちゃんが、部屋のカーペットにジュースをこぼして、染みになっちゃった時があったんだ…。」
「…うん。」
「…すぐ正直に言えば、僕のお母さんはきっとお尻ペンペンなんてしないし、『も〜、何やってるの!』って少し叱られるくらいで済んだと思うんだけど…。」
「…お姉ちゃんは、それを正直に言わなかったの?」
「…うん。…バレないように…、染みの上にしばらく物を置いててね…、…もう洗っても取れないようになってから…、僕を呼ぶんだ。」
「…あ、秋仁君を…?」
「…大変よ、秋仁。カーペットに染みが出来ちゃってる…、って。」
「…ちょ、ちょっと待って…!?…それって…!?」
「…うん。…僕がお母さんに"自分がやった"って言って、お尻ペンペンされて来いって意味だよ。」
「…え、えぇぇ…っ。」
…さすがにそれは、酷すぎない…?
秋仁が語る"姉"のエピソードに、若干引いてしまう拓也。
「…えっ…、そ、そう…?この程度の話なら、一杯あるけど…?」
「…い、一杯…っ!?」
「…うん。まぁ…、きょうだいが居たら、弟が庇うのって、結構普通みたいだから…。」
「…ちなみにそれは、誰が言ったの?」
「…えっ?…お姉ちゃん…。」
…駄目だ、この子は完全に"洗脳"されている…。
姉が悪さをすると、弟が代理でお尻を叩かれる姉弟関係なんて、さすがに聞いたことがない…。
(…ん?…でも待てよ?…今の話って、何か違和感が…?)
姉がカーペットにジュースをこぼして、すぐ正直に謝っても、問答無用で母親のお尻ペンペンが待っているならば…、弟を盾にする気持ちもまだわかる。
…しかし、秋仁の説明によると、正直に言いさえすれば、母親はほとんど怒らないそうだ。
…なのになぜ、わざわざ一旦悪事を隠す必要が…?
「…お兄さん?」
「…あっ、ごめん秋仁君…、僕、1人っ子だから…、あんまり"普通"がわかんないよ…。」
…しかしそんな拓也でも、秋仁と姉の関係が"異常"であることぐらいはわかる。
…ただ、それをこの場で指摘しても果たして良いものか…、拓也はしばらく考え、空気を読んで黙っておくことにした。
(…それにしても…、めっちゃくちゃ怖いんだなぁ…、秋仁君のお姉ちゃん…。)
小さい頃、きょうだいに憧れたこともあったが…、そんな姉なら絶対いらないなと、拓也は思った。
「…つまり…、秋仁君が何も悪い事をしていなくても、そのお姉ちゃんが居る限り…、お母さんのお尻ペンペンが定期的にあるって事かぁ…。」
「…う、うん…。」
「…確認するけど…、それってさ…、お母さんに全部正直に言うのはダメなの…?」
「…え?」
「…ほら、お姉ちゃんが嘘ついてました〜、って…。」
「…ダッ…、ダメだよっ!?それだけは絶対にダメっ!!?」
「…あっ、秋仁君…!?」
「…もし僕のせいで、お姉ちゃんがお尻ペンペンされたら…、それだけは絶対に嫌だっ!!…ぐすっ…!!」
…この子は、本当に良い子過ぎる…。
…こんな扱いを受けてまで、姉のことをまったく悪く言わない。
…拓也は、段々と"秋仁の姉"に対して腹が立ってきた。
(…こんなに純粋な秋仁君を…、"身代わり"でお尻ペンペンされるように仕向けてるだなんて…!?)
…なんだか、許せない…。
突如燃え上がった正義感が、拓也を過激な行動に移させる。
「…秋仁君、お母さんのお尻ペンペンってさ…、例えば、友達が家に遊びに来ていても、される?」
「…えっ…?…う、うん…。…前にも、された事あるよ…?」
「…じゃあさ…、そろそろ今日か明日あたりされそうだなって時に…、僕を呼んでよ。」
「…えっ!?…お、お兄さんを…っ!?」
「…うん。…さすがに今…、見たことも無いのにアドバイスは出来ないけど、どういう感じか分かれば、何か力になれるかもしれないから…。」
「…うっ…、うん!…ありがとう、お兄さんっ!」
(…と、いうのは建前で…、もしかしたら、僕が秋仁君のお母さんに直接言ってやれば、今後は止めてくれるかもしれないし…、そのイジワルなお姉ちゃんがお尻ペンペンされる事になっても、自業自得だよね…?)
拓也は秋仁の事を助けたい一心で…、そんな約束を交わした。
…しかし…、秋仁が望んでいる内容と、拓也がやろうとしている内容に若干のズレがある事に、拓也はまだ気付いていないのだった。
(…待っててね秋仁君…、イジワルなお姉ちゃんのせいで、お母さんにお尻ペンペンされる生活なんて…、僕がきっと終わりにしてあげるから…っ!!)
…新たなトラブルの気配が、拓也に近づいて来ていた。