(…は…っ?)
…思わず、素の反応を返してしまう拓也だが…、あまりに衝撃的な告白に、理解が追いつかない。
「…あっ、間違えないでね?…私が秋仁のことを叩きたい訳じゃなくて…、"お母さんにお尻を叩かれてる秋仁"が好きなだけだから…。」
「…どっ、どう違うの…?」
「…私が秋仁のことを叩いたら、それってただの"暴力"じゃない?…でも、お母さんは違うの。…秋仁に"良い子"になって欲しくて…、でも怪我はさせちゃ駄目だから…、お尻だけを力いっぱい叩くの。」
「…う、うん…。」
「…"母性"って言うのかな…?…私にはまだわからないけれど…、お母さんが秋仁のこと大切に思ってるのはわかるし、秋仁にもそれが伝わっているから、いつも一生懸命に耐えようとしてるの。…そこがまた、すっごく可愛いくってぇ〜…。」
「…へっ、へぇ〜…。」
…拓也には、遥香が何を言っているのかまったくわからないが…、紛れもない事実が1つある。
…遥香は、"母親からお尻を叩かれている秋仁"が世界一好きだと言った。
…それは、つまり…。
(…みっ、"身代わり"ですらなく…、秋仁君がお尻ペンペンされる所が見たくて…、全部、遥香ちゃんが仕組んでたってことォォ〜っ!!?)
「…拓也君?」
「…は、はいっ!?何でしょうっ!?」
「…何で敬語…?…うふふっ、弟の泣き顔が好きだなんて…、やっぱり引いちゃった?」
「…い、いや…、全然…っ!?」
…引いたとすれば、"泣き顔好き"の部分ではない…。
弟のお尻ペンペンが見たいからと言って、わざとカーペットに染みを作ったという話がもし事実であれば…、さすがの拓也もドン引きである。
(…で、でもまだ…、そうだと決まったわけじゃないし…。)
…拓也は、学校の教室でいつも見ている、"真面目で大人しい遥香"のイメージと、目の前の遥香が喋っていることとの落差に、頭が混乱してくる。
(…うっ、うん…。…きっと僕の考えすぎだよね…?…だって、あの遥香ちゃんが…、そんな事…。)
…真面目で、大人しくて…、クラスの友達ともあまり喋らない、内気な少女。
…そんな遥香が…、"弟のお尻ペンペンが見たくて、ずっと裏工作を仕掛けている"など、さすがに信じられない。
…明らかに動揺し始めた拓也を見て、遥香がくすくすと笑う。
「…あ〜あ、こんな話をしちゃったらもう私…、拓也君に嫌われちゃったかなぁ〜…?」
「…えっ!?…そっ、そんなこと…、無いよ…?」
「……本当に?」
「…うっ、うん…。」
遥香はニコニコしながら、本当に嬉しそうに拓也を見る。
「…拓也君、私の事…好き?」
「…えっ?…う、うん…。」
「…じゃあ…、"遥香お姉ちゃん"って呼んで?」
「…えっ!?…な、なんで…!!?」
またしても遥香は、先日、学校の教室で言わせた時と全く同じように…、自分の事を"遥香お姉ちゃん"と呼ぶよう、拓也に強要してくる。
「…でっ、でも…、いまは、おばさん達が家に居るし…。」
「…ふふっ…、拓也君…、"お姉ちゃん"の言う事きけないの〜?」
「…〜〜っ!!?」
…間違いない、"あの時"の遥香ちゃんだ…。
…拓也は、教室で見た"いつもと違う遥香"を目の当たりにして…、どうしたら良いのかわからない。
「…そっかぁ〜、呼んでくれないかぁ〜…。残念…。」
「…あ…っ、あの…、遥香ちゃん…?」
「…拓也君さぁ、…今まで、"お姉ちゃんが欲しい"って思ったことって一度も無い?」
「…えっ…、いっ、いや…、僕、ひとりっ子だし…、無いことは無いけど…。」
「…ほんとに?…じゃあ…、私の"弟"になって?」
「…えっ、そ…、それは…。」
遥香がどうしてこんな悪ノリを続けるのか…、拓也にはさっぱり理解が出来ない。
…おそらくは全て、冗談なのだろうが…、それにしたって、度が過ぎている気がする…。
「…ねっ、ねぇ遥香ちゃん…?」
「ん?」
「…もしかして…、学校で言ってた"お願い"って、この事…?」
「…あはっ、覚えててくれたんだ〜?…うん、そうだよ?拓也君が本当に私の弟になってくれたら、とっても素敵だなぁ〜って。」
「…あ、あはは…っ。」
…女の子から愛の告白でもされたのなら嬉しいが…、"弟になってほしい"はさすがに意味不明すぎる…。
愛想笑いで返す拓也に…、遥香はこんな言葉を続けた。
「…じゃあ、拓也君が一瞬で素直になれる…、"魔法の質問"、しちゃおっかなぁ〜?」
「…えっ…?」
「…言っても、良い…?」
「…な、何…?」
不穏過ぎる前置きに…、拓也はゴクリと唾を飲む。
…数秒ほどの間をとった後、遥香がようやく口を開いた。
「…公民館で…、家のお母さんからお尻を叩かれた男の子って…、拓也君でしょう?」