「…そっ…、そう…。」
…遥香の"お願い"の真意が、拓也にはまったく理解できない。
学校では今まで通りただのクラスメイトで、2人きりの時だけ、"弟"になれということか…?
「…う〜ん…、ちょ〜っと違うかなぁ…。…もちろん、"弟"になるのは私と2人きりの時だけで良いんだけど…、」
「…で、でもさ、それって───、」
『…秋仁ぉっ!!!』
…そのタイミングで、廊下に"遥香の母親"の怒鳴り声が響いた。
拓也と遥香は一瞬驚き、顔を見合わせる。
「…来るよ、拓也君。…多分もうすぐ…、家のお母さんが、秋仁を連れてこの部屋に戻って来るから…。」
「…えっ?…なっ、何…?」
「…あのね拓也君…、拓也君もちょ〜っとだけ、家のお母さんにお尻ペンペンされるかもしれないけど…、我慢してくれる?」
「…え…、ちょっ、ちょっとだけって…?」
「…ん〜…、私の読みだと、ピッタリ30回かな?…駄目?」
「…い、いや…、駄目っていうか…。」
…どうして、僕の叩かれる数までわかるんだ…?
遥香が適当に勘で当てようとしているだけかもしれないが…、なぜだろう…、遥香が口にすると、本当にそうなる気がしてしまう…。
「…う、うん…、30回ぐらいなら、僕も我慢出来ると思う…。」
「…本当に?ありがとう拓也君…。…私も一緒に30回されると思うから、頑張ろっ?」
「…えっ…、はっ、遥香ちゃんも一緒に…、お尻ペンペンされちゃうの…!?」
「…うん。…じゃあ拓也君、私に話を合わせてね?」
…ほら、来たよ。
2人の"内緒話"が済んだ、ちょうどそのタイミングで…、"遥香の母親"が、鬼のような形相で部屋に入って来る。
「…まったく…、秋仁ったらぁ…!!…ほらっ、入りなさいっ!」
「…うぁぁぁぁ〜ん、ごべんなざいぃ〜っ!!」
「…ちょ、ちょっと…、どうしたの、お母さん…っ!?」
…秋仁は、すでに号泣している。
…時間的にも、まだ"お仕置き"はされていないはずだが…、怒った母親がよほど怖いのか、顔が涙と鼻水でベトベトだ。
「…どうしたもこうしたも無いわよ…。この子ったら、拓也君のところへ、"私のお尻ペンペンが痛くない方法"を聞きに行ってたんですって。」
「…えっ…!?」
「…その根性が許せないのよ。悪い事をしたのに…反省をするどころか、痛くない方法をコッソリ探してただなんて…!?」
「…お母さん今まで、秋仁のこと甘やかし過ぎたのかもしれないわね…。」
「…そ、そんなことは…、無いと思うけど…。」
「…遥香は本当に、"優しいお姉ちゃん"ね…?…でもね、その分…、"厳しいお母さん"も居ないと、秋仁が駄目な大人になっちゃうから…。」
…今日は、お尻ペンペン120発です。
"遥香の母親"が下したその処遇には、さすがの拓也も驚く。
(…にっ、2年生の小さな子に…、お尻ペンペン120発…!?…い、いくら何でもやり過ぎじゃ…!?)
…つい先日、"2年生の卓哉"が、"2階の窓からオシッコをした罰"として…、母親からお尻を30回ほど叩かれていた。
…もちろんそれは、"手加減したお尻ペンペン"であり…、"卓哉"にその行為を止めさせる目的で、そこそこ痛い程度になるよう調整されていたが…、それでもお尻の腫れ具合は、やや濃いめのピンク色だった。
…当然、"遥香の母親"も手加減はするつもりだろうが…、卓哉と同じ"2年生"である秋仁のお尻を、120発も叩いたら…、それはそれは無惨な赤一色に腫れてしまうだろう。
「…おっ、お母さん…!?…やり過ぎだよ…!?…120も叩いたら、秋仁のお尻が大変なことになっちゃう…!?」
「…遥香、秋仁はそれだけの事をしたのよ。…だってお母さん、もう少しで…、何も悪い事をしていない拓也君にまでお尻ペンペンをするところだったのよ?」
「…そっ、それは…。」
「…ごめんなさいね、拓也君。おばさん、早とちりしちゃった。…全部、家の秋仁が悪かったのよね…?」
…これはさすがに、"そうです"とも言い切れない…。
…そもそも秋仁は、"お母さんのお尻ペンペンが痛すぎる"と拓也に打ち明けただけであり…、家に向かうことになったのは拓也の発案だ。
…そこがたまたま"遥香の家"であった事は最大の誤算だったが…、とにかく、拓也は秋仁がそんな目に遭うことを望んではいない。
(…でっ、でも…、仮に僕が庇ったとしても…、秋仁君、許して貰えるかなぁ…?)
…今回の件で難しいのは、拓也に明確な非がないことだ。
もし"共犯"であれば、自分が庇ってあげられるのだが…。
…そう躊躇している拓也を尻目に、"遥香お姉ちゃん"が声をあげる。
「…お母さん。」
「…ん?」
「…秋仁のお尻をぶつなら、私のお尻もぶって?…だって私、今回の件…、ずっと前から知ってたもの…。」