…ついに拓也は、その"答え"に辿り着いてしまう。
(…秋仁君の泣き顔を近くで見たいからって…、わざとおばさんを"誘導"して…、隣に並んで一緒にお尻ペンペンされるように、仕向けたってことぉ〜っ…!!?)
「…反省しなさいっ、秋仁ぉっ!!」
…ピッシャァァァァァァッ!!!
「…いやぁぁぁぁぁぁっ!!?」
(…でっ、でも…、さすがに考えすぎかな…?…だって遥香ちゃん…、さっきは、本気で痛がっていたし…。)
…"遥香の母親"のお尻ペンペンも、冗談で済むような威力ではない。
…避けられるものなら避けたいはずだ。
それこそ、弟の秋仁を"身代わり"にしてでも…。
(…なのに遥香ちゃんは、"隣で一緒にお尻ペンペンされる"ことを選んだ…。…や、やっぱり…、僕の思い違い…?)
「…ほら秋仁っ、そんな小さなごめんなさいじゃ、お母さん許さないわよっ!?」
…バチィィィィィィ〜ンッ!!!
「…いだぁぁぁぁぁっ!!?…ごべっ、ごべっ…、ごべんなざぃぃ〜っ!!?」
「…ダメッ!」
…パァァァァァァァ〜ンッ!!!
「…いや゛ぁぁぁぁぁ〜っ!!?…ひっぐ…!…ひっぐ…!」
(…あ、秋仁君…っ、本当に痛そうだよ…。…やっぱり、僕が庇ってあげた方が良いんじゃ…?)
遥香の様子に疑念を持ちながらも…、拓也は、その隣から聞こえてくる秋仁の悲鳴とお尻を叩かれる音のあまりの大きさに、"2年生の秋仁"が心配でたまらない。
やはり自分が庇ってあげようか…と迷い始めたのを察したのか、隣の遥香が四つんばいのまま、ゆっくり首を横に振った。
…必要ない、と言いたいようだ。
(…でっ…、でも…、遥香ちゃん…!?……あ、あれっ…?)
…その時だった。
拓也の耳に聞こえてくる…、"秋仁のお尻を叩く音"が、明らかに小さくなる。
…パァンッ!
「…ああああ〜っ!!?」
「…ほらほら秋仁っ、お母さんまだまだお尻ペンペンするわよ〜っ!?」
…ピシャッ!
「…ひぃぃぃ〜っ!!?」
「…よその家のお兄ちゃんにまでご迷惑かけて…、この子はっ!!」
…パシィッ!
「…あぁ〜ん、痛いぃぃ〜っ!!?」
「…当たり前ですっ!…"痛くない方法を教えて"だなんて…、どこでそんな卑怯な手を覚えて来たのっ!?」
秋仁は相変わらず、口では母親からきつ〜く叱責されているが…、自然な流れで罰の威力だけが弱まり、"低学年向けのお尻ペンペン"になっている。
…その時ようやく拓也は、遥香の母親による"お仕置きの意図"に気付いた。
(…そっ、そうか…っ!…強く叩くのは最初の数発だけで、あとは全部…、"手加減したお尻ペンペン"なんだ…っ!!)
…最初の数発でお尻に真っ赤な手形をつけ、強く叱りながらも、残りは手加減して軽めに叩く…。
一見、子供騙しのようだが…、秋仁には最初の痛みの印象が残っているのか、軽く叩いても号泣しながら謝り続けている。
…パチンッ!
「…うわぁぁぁ〜ん、おがぁざぁ〜ん!!?ごべんなざいぃ〜っ!!?」
「…駄目よ秋仁っ、今日という今日は許しませんっ!」
…ピシッ!
「…うわぁぁぁぁぁぁ〜んっ!!!?」
(…さ、さっきまでと比べたら、全然痛くなさそうだけど…、秋仁君、今まで以上に大泣きしてる…。)
まだ2年生である秋仁のことを気遣った、遥香の母親の"躾のテクニック"に、拓也は人知れず脱帽していた。
(…は、遥香ちゃんのお母さんも…、本気で怒っているように見えて、本当はずっと秋仁君のことを考えていたんだ…。)
…勇太の母親である奈津子も、猛烈に怒りながらお尻ペンペンしているように見えて…、勇太や拓也のお尻に痣が残らないか、常に気を遣っている。
…"子供を一番に想う母の愛情"は…、叱られている側にもちゃんと伝わるものだ。
…これなら放っておいても心配ないかな…、と拓也は思った。
(…どっ、どちらかと言えば…、遥香ちゃんの行動の方が心配だよ…。)
…もしも遥香が本当に、"秋仁のお尻ペンペンを間近で見たい"がために、"わざと一緒にお尻ペンペンされている"だけならば…、巻き込まれている秋仁が不憫すぎる…。
…ただ…、母親からの信頼を勝ち得ているのはどう見ても遥香であり…、弟の秋仁はもちろん、仮に拓也が告げ口したとしても、絶対に信じてはもらえないだろう。
(…うぅ〜…っ、おばさん側から見た僕の印象って、"わざとお尻ペンペンされる悪戯を2回もした子"だもんなぁ…。遥香ちゃんは、"弟に甘すぎる"って怒られただけだし…。)
…まだ遥香が"とんでもない姉"だと決まったわけではないが…、もしもそうだった場合、おそらく拓也には打つ手が無い。
"娘"と"娘の友達"では、立場が圧倒的に不利過ぎるからだ。
「…ほら秋仁っ!お母さんに、こんなにお尻ペンペンされて…、まだ悪い事しようって思うのっ!?」
…パァンッ!
「…いだぁぁっ!!?…おっ…、おぼわないよぉぉぉ〜っ!!?」
「…本当に?…あなた、お兄ちゃんとお姉ちゃんがもし庇ってくれてなかったら…、お尻ペンペン120発の刑だったんですからねっ!?…あとでちゃんと2人にも謝るのよっ!?」
…ピシャンッ!
「…いだぁぁ〜いぃ〜っ!?…おがぁざぁぁ〜ん、もう許じてぇぇ〜っ!!?」
「…駄目っ、あと37発っ!」
…号泣している秋仁は、2つ隣で四つんばいの姿勢のまま…、母親からお尻を叩かれ続けている。
…その音と悲鳴を右耳に感じながら拓也は…、これが終われば次はいよいよ自分なのだと、同じく四つんばい姿で待機したまま、心臓がドクドク響くのを抑えきれなかった。
(…ぼ、僕の場合って、もちろん…、秋仁君みたいに、"最初だけ痛いお尻ペンペン"じゃなくて…、遥香ちゃんと同じような、"本気のお仕置き"だよね…?)
…"たった30回のお尻ペンペン"。
…勇太の母親である奈津子や、綾子の母親などからも今まで散々お尻ペンペンされてきた拓也だが…、すぐ真横で、あれほど痛がっている遥香を見てしまうと…、やはり"お仕置きの順番待ち"の恐怖は消えてくれない。
(…し、しかも…っ、遥香ちゃんの隣で、お尻を出して四つんばいのまま…、おばさんの手のひらで、何回も…。…ううっ…。)
…駄目だ、考えれば考えるほど恥ずかしすぎる…。
…かと思えば、遥香はテキパキと指示が出せるほど、冷静でドライな様子だった。
…本当に、拓也の隣でお尻を出すことなど何とも思っていないのだろうか…?
(…とっ、とにかく…。秋仁君が終わったら、次は僕の番なんだ…。…2人の前だし、痛くても泣かないようにしないと…!)
…パシッ!…パァンッ!…ピシッ!
「…うわぁぁぁん…、もうじまぜぇぇん…、ひっぐ…!?」
「…駄目です、まだお仕置き終わってないでしょう!?」
…パシィッ!
「…いだぁぁぁ〜い!?」
(…あ、秋仁君…、かなり本気で痛がっているけど…、あの程度の強さで許して貰えるなら、僕からしたら本当に羨ましいよ…。)
…ふと、そんな考えが頭をよぎった瞬間…、拓也の脳裏に、秋仁の言葉が浮かぶ。
"卓哉君のお仕置きは、『結構軽めだな』っていつも思ってました。"
(…ん…、んんっ…?)
…おかしいぞ…?
…それは、"2年生の卓哉の母親"と"遥香の母親"の両方から…、もとい、色々な母親達から数々の"お尻ペンペン"を受けてきた拓也だからこそ、浮かんだ疑問だった。
(…今、秋仁君が受けているお尻ペンペンよりも…、卓哉君のお母さんのお尻ペンペンのほうが、強かった…よね…?)
…確かに、最初の数発だけは手加減無しの平手打ちだった。
…だが、急に手加減して60発近くも叩いていたら…、いくら秋仁が幼くても、途中で"痛くない"ことに気が付くのではないか?
…いや、むしろ、既に気付いていないとおかしい気が…。
(…えっ…、じゃあ…、秋仁君のアレって……、嘘泣き…!?)
…パァンッ!
「…うわぁぁぁ〜ん!?ごべんなざいおがぁざぁぁ〜ん!?」
「…駄目よ秋仁っ、…いくら泣いても、60叩くまでは許しませんからねっ?」
…パチンッ!
「…うわぁぁぁぁ〜んっ!?」
(…う、嘘泣きだとしたら、上手すぎるんだけど…。…それじゃあそもそも、何で僕にあんな相談を持ちかけてきたんだ…?)
"母親のお尻ペンペンが痛すぎる"というのが、最初から嘘だったとしたら…、わざわざそんな相談を持ちかけるメリットは何だ…?
…嘘がバレた時に、余計に叱られるリスクはあっても、秋仁に都合が良い事なんて何ひとつ───、
(…いや…、待てよ…?)
…拓也はその時初めて、ある"可能性"に気付いた。
(…もしかして、秋仁君って…、本当は…。)
…パシィッ!
「…いだいぃぃぃ〜っ!?」
「…はぁ…、…秋仁、ちゃんと反省した?」
「…ひっぐ…、…はんぜい、しだぁ…!!…ぐずっ…!」
「…そう。それじゃあ…、最後の1発ね?」
…バッチィィィィィィッ!!!
「…いっっだぁぁぁぁぁぁ〜っ!!?」
「…はい、お母さんのお仕置き終わり。…痛かったねぇ〜?」
「…ひっぐ…!…ひっぐ…!…うぇぇぇぇ〜ん…!!」
(…さっ、最後のは本当に痛そうだよ…!…秋仁君、大丈夫かな…?)
…秋仁を心配する拓也の右後ろから、"恐怖の声掛け"が届く。
「…さ〜てと…、残るは"とっても悪いお兄ちゃん"だけど…、覚悟は出来てますかぁ〜?」