「…あれ…っ?拓也君だけ?秋仁は?」
「…うっ、うん…。…まだお尻が痛いから、1人で少し休んでくるって…。」
「…ふ~ん…?」
…先ほどの"最後の質問"から、ほんの数分。
子供部屋には遥香が戻り…、今は秋仁が居ない状態だ。
…つまり…、またしても遥香と"2人きり"である。
「…拓也君は…、もう平気?」
「…うっ、うん…。」
「…そう?…ふふっ、秋仁も居ないし…、今ならあの"おまじない"、拓也君にも本当にしてあげるよぉ~?」
「…いっ、いや…、本当に、大丈夫…。」
…遥香は"お仕置き"の後に、腫れたお尻をぴしぴしと叩く"痛み止めのおまじない"を、再び拓也に勧めてくる。
…しかし内心では遥香も死ぬほど恥ずかしがっており…、もし拓也君に"やって"と言われたらどうしよう…、などと、本当はずっとド緊張しているのだった。
(…わっ…、私…っ、ずっと"このキャラ"演じなきゃいけないのぉ~…っ!!?)
「…ねっ、ねぇ…、遥香ちゃん…?」
「…なっ…、なに…?…拓也君…。」
「……無理、してない…?」
「…はぇっ!!?」
…なに?…どれのこと?…なんのこと…!?
まさか拓也に"秘密"の大半を看破されているとは思わず…、焦る遥香。
…拓也はそんな遥香の様子を気遣い、なるべくショックを与えないよう…、しかし核心に触れる言葉を選ぶ。
「…遥香ちゃん…、…落ち着いて聞いてね…?」
「……?」
「…僕…、わかっちゃったんだ…。…遥香ちゃんが、一体…、何を隠したがっているのか…。」
「…えっ…!?」
「…秋仁君の、ことだよね────?」
…その言葉を聞いた瞬間…、遥香の表情は一変し、汚いものでも見るような目で拓也を見下す。
「……わかったって…、何?」
「……。」
「…拓也君、何もわかってないよ…。…わかるはずない…。…いくら拓也君でも、踏み込んで良いことと悪いことが───、」
「…違うんだよ、遥香ちゃん…。」
「…違わないっ!…この話は終わり!…だって拓也君は───、」
「…秋仁君は、おばさんのお尻ペンペンを"嬉しい"だなんて全然思ってないよっ!?」
「……えっ?」
「……やっぱり遥香ちゃん、そう勘違いしてたんだ…?」
「…え?…え?…え?……どうして拓也君が…、って…、えっ?…ど、どういう、こと…?」
「…遥香ちゃん、1つずつ、ゆっくり話そう…?」
「……。」
…遥香は何ひとつ状況がのみ込めておらず…、錯乱状態である。
…そんな遥香が落ち着くのを待ち…、優しい言葉を掛けながら…、拓也は、"良い子"でも"演技"でもない、"素の遥香"と初めて対峙する。
「…遥香ちゃん、大丈夫…?」
「…うん。」
「…あのね?…秋仁君は最初僕に、"お母さんのお尻ペンペンが痛すぎる"って相談してきたんだけど…、」
「……うん。」
「…それって、秋仁君自身のことじゃなくって…、いつも半分"身代わり"になってくれる遥香ちゃんが、おばさんにきつ~くお尻を叩かれてるから…、心配になったんだって。」
「……っ。」
「…自分だけ手加減されてるのもわかってるから…、どうしてお姉ちゃんだけあんなにきつく…、っていうのもあったんだろうね。」
「……違う…、違うよ…、拓也君…。私は───、」
「…うん。」
何かを叫ぼうとした遥香を遮り…、拓也は穏やかな声で言う。
「…遥香ちゃんさ…、ずっと、わざと怒られようとしてるよね?…"怒られたい"とかじゃなくて…、"自分は怒られて当然だ"って思い込んでるっていうか…。」
「……あ…。」
……拓也君…、…本当に全部、見抜いてる…?
…遥香には、"秘密"を拓也に見抜かれてしまったかもしれないという不安と、これでもう1人で抱えなくても良くなる…、という安堵感が同時に押し寄せていた。
…だが…、まだ素直には認められない。
「…た、拓也君…、考え過ぎだよ…。…私だって痛いのは嫌だし、怒られずに済むのならそうしたいよ…。」
「…遥香ちゃん。…さっきの話だけど…、"秋仁君がお母さんにお尻ペンペンされて嬉しがってる"って思ったのっていつ…?」
「……えっ…?」
「…秋仁君が心配で…、隣でずっと見てた時じゃないの?…遥香ちゃんは何も悪い事をしていない日でも、秋仁君が可哀想だからって、いつも一緒にお尻ペンペンされて、痛がって…。そこで秋仁君が不意に笑ったのを、嬉しがってるって勘違いして───、」
「……違う…、…違うんだよぉ拓也君…。…私はそんな、"良いお姉ちゃん"じゃないんだよぉ…、ぐずっ…。」
…遥香はついに、ポロポロと涙を流し始め…、溜め込んでいたものを吐き出すかのように、拓也の前ですべて"白状"する。
「…秋仁が"ああなっぢゃっだ"のは…、ぜんぶ私のぜいなんだよぉぉ…、だがらぁ…、…ぐずっ…!!」
「…うん…、…うん…。」