…つまり、事の成り行きはこうだ。
幼い頃の遥香と…、同じく幼かった秋仁は、些細なことから姉弟ゲンカになった。
…姉の遥香が軽い気持ちで…、自分の大事な人形の耳にハサミを入れ、"怒ると噛んでしまう癖"のあった秋仁を陥れようと企んだ。
…結果、作戦は見事に大成功…、いや、遥香の想像していた以上に、あまりにもうまく行きすぎてしまった…。
…ウサギの人形の耳は、秋仁が噛んだ途端にブチッと千切れ…、遥香の母親が、"その瞬間"をバッチリ目撃してしまう。
…言い逃れすらできない"現行犯"である。
…もちろん母親は秋仁に激怒し…、何が起こったのかもわからない秋仁を抱え上げ、お尻を裸にひん剥いて…、何度も何度も"お仕置き"をした。
…痛みのあまり、泣き叫ぶ秋仁。
…遥香は、目の前で起きていることが自分のせいだと言い出せなくなり…、現在に至るまで、ずっと"秘密"にしてきたのだ。
「…ひっぐ……、…ぐずっ…!!」
「…遥香ちゃん…。」
拓也は遥香の"自白"を全て聞き終えると…、再び遥香が落ち着くのを待ち、穏やかな声で"提案"をする。
「…遥香ちゃん…、おばさんに全部、正直に話そう?」
「…え…っ?」
「…だって遥香ちゃん…、最初からそのつもりだったんでしょ?…ウサギの耳だって、こんなわかりやすい場所に隠してあるし…、ハサミだってそう。…まるでおばさんに見つかるのを、ずっと待ってるみたいだ…。」
「……そっ、それは…!!」
「…きつく叱られるのが、怖い…?」
「……うん…。」
…いかに遥香といえど…、これほどの事態が発覚すれば、"本気のお仕置き"は免れないだろう。
…しかもそれは…、"半分この30発"などではもちろんなく…、秋仁がたびたび受けてきた、"いつも通りの60発"でもおそらく許されない…。
「…ま…、待ってよ…、拓也君…。…ほら私って、表向きは"良い子"なんだよ…?」
「…うん。…知ってる…。」
「…こんなこと正直に話したら…、…家のお母さん、絶対に許してくれないよ…。」
「…うん。…きっと…、今までで一番きつくお尻をぶたれるだろうね…。」
「…拓也君…、ひどいよ…。」
「…うん。…僕もひどいこと言ってると思うよ?…"良い子"の遥香ちゃんに…、"お仕置きされに行け"って言ってるんだから。」
「……っ。」
「…でも…、そうしないと遥香ちゃん…、ずっと苦しいままだよね…?」
…遥香も…、心の中では理解していた。
…こんな卑怯な嘘…、いつかはバレる日がくる。
…自分から正直に言った方が、幾分かはマシかもしれない…。
…それでも、母親から本気で叱られるのは心の底から怖い。
…何より、秋仁に嫌われてしまうことが───、世界で一番恐ろしかった。
「…拓也君…、私ね…?」
「…うん。」
「…私…、お母さんに何度もお尻ペンペンされてるけど…、ほとんど"30発"ばっかりなんだぁ…。」
「……うん。」
「…"60発"ってね、今までに1回しかされたこと無くって…。でもね、ものすっごく痛くって…、やっぱり途中で泣いちゃった…。」
「……うん…。」
「…それでも拓也君は…、私が…、正直に言った方が良いと思う…?」
…遥香は、まるで悪戯のバレた幼い子供のように、すがるような瞳で拓也を見ている。
…しかしきっと彼女は、止めて欲しいのではない…。
"最後のひと押し"を求めているのだと、拓也は察した。
「…遥香ちゃん。」
「……た、拓也君…?」
「…僕さ、明日…、秋仁君を連れて、公園に行ってくるね?」
「…え…。」
…この状況で何を言っているのだと思いかける遥香に、拓也が言葉を続ける。
「…暗くなる前に帰ってくるつもりだけど…、それまでは遥香ちゃん、おばさんと2人きりになっちゃうね?…僕と秋仁君は、夕方までず~っと公園に居るから…。」
「…あ……。」
…やけに具体的に、時間と居場所まで伝える拓也。
…遥香もようやく、拓也の"気遣い"を受け取った。
「…も、もう…っ、ずるいよ拓也君…。…そんなこと言われたら私もう…、頑張るしかないじゃない…。」
「…遥香ちゃん、本当に…大丈夫…?」
「……"遥香ちゃん"、って呼んでも良いんだっけ?」
「…!」
…その質問は、遥香の精一杯の"強がり"だ。
「…"遥香お姉ちゃん"…。…おば…、ううん…、"僕達のお母さん"に、すっごく怒られると思うけど…、頑張ってね?」
「…うふふ…、ありがと…。…でも、拓也君は"弟"なんだから…、何も心配しなくて良いわよ?…全部、"お姉ちゃん"に任せておけば良いんだから…。」
…周囲から見れば茶番のようなやり取りを終え、遥香は覚悟を決める。
…先ほどのように、"お尻ペンペン30発"でいつも半泣きになってしまう自分が…、明日、どんな目に遭わされるかを想像し…、静かに目を閉じた。