(…あ、あれ…っ?…僕、寝ちゃってた…?)
拓也がソファーから起き上がると、見覚えのない毛布がお腹の上に掛けられていた。
…お尻はまだ、ヒリヒリして痛い。
どうやら夢じゃなさそうだ…と、拓也は寝起きの頭でぼ〜っと思案する。
(…えっと…、おばさんに、お尻を叩かれて…、それから…?)
いま近くに奈津子の姿はない。
時計を確認すると…、どうやら30分以上は寝てしまったらしい。
どこかへ行ったのかな…?
部屋の外に出てみると、奈津子の居場所はその大きな音ですぐにわかった。
…パァァァンッ!!…ピシャッ!!…ピシャンッ!!
(…こ、これって…!?)
あまり拓也が入ったことのない奥の部屋からは、何度も聞いた"あの音"が、繰り返し響いてくる。
…バッチィィィ〜ン!!!…ピシャァァ〜ン!!!…パァンッ!!!…パァァンッ!!!
(…お尻を叩かれてる音…、だよね……?)
一体誰が…、などと考えるまでもない。
勇太が帰宅して、奈津子から叱られているのだろう。
その部屋に近付くほど、音はどんどん大きくなっていく。
…やがて、悲鳴や泣き声も混じり始めた。
…ピシャァァァァ〜ン!!!…パァァァ〜ンッ!!!…バシィィィッ!!!…バチィィィ〜ンッ!!!
「…うぅっ…!…あっ…!?…うわぁぁ〜ん…、…お、お母さぁん…、もうやめてよぉ〜っ…!?」
「い〜え。…勇太、前にお母さんと約束したじゃないの。もう二度と、お母さんにウソはつきませんって。」
「…そ、それはぁ…。…ぐすっ…。」
「…泣いても無駄。…今日という今日は、絶対に許しませんからね?」
…バッチィィィィ〜ンッ!!!
「…うわぁぁぁ〜ん!!!」
部屋の前まで来たものの…、拓也はすっかり足が竦んで動けずにいた。
自分が叱られている時よりも、勇太のお尻ペンペンを部屋の外で聞いている方がずっと怖いのだ。
「…ほんとにっ、この子はっ、何度言っても…っ!!」
…バチィィィィ〜ン!!!…バシィィィ〜ン!!!…バチィィ〜ンッ!!!
「…痛いっ!?…ああっ!!?…うあああ〜っ!!?」
「…痛いと思うなら…、最初からお母さんにウソつくんじゃないのっ!!」
…バッチィィィィ〜ンッ!!!
「…い、いだぃぃ〜っ!!?…ご、ごべんなざいぃ〜っ!?」
勇太はすでに涙声になっているが、まだ奈津子が許してくれそうな雰囲気は全くない。
(…ゆ、勇太君…、またおばさんにウソついて、バレちゃったんだ…。)
2人のやり取りを外で聞いていた拓也は、すぐにそう理解したが…、ウソをついたのだとしたら、軽いお仕置きでは絶対に済まない。
奈津子のお尻ペンペンをもう何度も食らっている拓也は、友達がどんな目に遭わされるのか、何となく想像することが出来てしまい…、思わず、自らの腫れた尻に手をやっていた。
30分寝ていたくらいでは、まだ痛みは完全に抜けていない。
「…まったく勇太は…。今まで、お母さんのお尻ペンペンが少な過ぎたのかしらね?…今度からもっともっと増やしましょうか?」
…ピッシャァァァ〜ンッ!!!
「…いぃぃぃ〜っ!!?…はっ、…はっ、…嫌だぁ〜っ…!!」
…バッチィィィィ〜ンッ!!!
「…あああああ〜っ!!?」
「嫌だ、じゃないでしょう。…いつもいつも、ウソばっかりついて…。体も段々大きくなってきたし、そろそろ沢山、数を増やさないといけないかな…って、お母さん思ってたところなのよ?」
数を…増やす?
拓也はその時、初めて奈津子からお尻ペンペンの話をされた日のことを思いだしていた。
"ウソついてたからね〜…?…最低でも、100回以上はペンペンするかな〜?"
あれが嘘をついた場合の基準だとしたら…、息子である勇太は、それほどのお尻ペンペンが与えられることを知っていながら、奈津子との約束を破り続けていたことになる。
(…それって…、何かおかしくない…?)
拓也は自分の身に当てはめて考えてみた。
自身も、連絡帳のぶんを合わせれば、奈津子から一度にお尻ペンペンされる数は100どころでは済まない。
しかし拓也の場合…、自分でそうなるように仕向けたからで、想定より増えすぎてしまっただけである。
一度くらい憧れの奈津子に叱られてみたい…、という願望から生まれた自業自得の結果であり、勇太が30〜40回程度のお尻ペンペンを避けるために、100回以上叩かれるリスクを負い続ける…という理由には、拓也も首を傾げるしかなかった。
「…い…、嫌だぁ…、ごめんなさい……。」
「…ウソつきな勇太のごめんなさいは、お母さん聞こえませんよ?…次から何回にする?お尻の右側100回、左側100回くらいで足りるかしら?」