「…ウ、ウソ…っ!?」
「お母さんはウソは言わないわよ?…勇太と違ってね。…じゃあ、次から最低200回で良いわね?」
「…い…、嫌だ嫌だ嫌だぁ〜っ!?…今よりもっと増えるなんて…!!」
「…そんなに嫌?」
「…う…、うん…。…ぐすっ…。」
「…じゃあ…、正直に言いなさい。…ここでもしウソをついたら…、お母さん、勇太の言葉はもう絶対に信用しませんよ。」
「…はい…。」
「…勇太。…ここ最近、わざとお母さんにお尻を叩かれようとしていたのは、どうして…?」
「…えっ…!?」
拓也も思わず、壁に耳をそばだてる。
勇太は顔面蒼白になり…、明らかに動揺していた。
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「…お母さん、気づいてないとでも思ってた?…だって勇太、つく必要のないウソまでつくし…、今日だって、お母さんにバレるのがわかってて、家に帰って来たんでしょう?」
「…な…、何で…?」
「…わかるわよ。…お母さん、ずっと勇太のお母さんだもの…。」
それを聞いた勇太は、数回しゃくりあげた後、わんわんと声を出して号泣し始めた。
「…えっく…、おがあざん…!ごべんなざい……。」
「…良いのよ。…でも、理由を聞かせてくれる…?」
「…だっで…、おがあざん…、だぐやぐん…、ばっがり…、ひっぐ…。」
拓也は、その時初めて気がついた。
勇太は…ずっと拓也に嫉妬していたのだ。
拓也が、奈津子にお尻ペンペンされる勇太を羨ましいと感じていたように…、勇太もまた、自分の母親を拓也に取られてしまったような気持ちが強かったのだろう。
(…僕の…、せい…?)
息子の勇太にとって、奈津子のお尻ペンペンは、恐怖のお仕置きであると同時に、大事なコミュニケーションの一部でもあったのだと、拓也はここで思い知らされた。
(…じゃあ…、僕は…?)
どうしたら良いの…、と悩む拓也に、部屋の中では奈津子と勇太のやり取りがまだ続いていた。
「…じゃあ…。勇太は、拓っくんのことは嫌い?」
「…えっ?」
「…お母さんと仲良くしてる、拓っくんのこと…、嫌い?」
「…ひっぐ……、そんなわけ…、ないよ…。」
一番大事な友達だもん…、その言葉を聞いた奈津子は、それを待っていたように部屋の外へ呼び掛ける。
「…ですって、拓っくん!…そろそろ、そんなところに居ないで、中に入っていらっしゃいな?」
今度は、拓也も顔面蒼白になる。
…気づかれていた…?
一体いつから?
これも、"ウソ"に含まれるのだろうか…?
色んな考えが頭の中を駆け巡り、収拾がつかないでいた。
「…拓っくん〜?…いま正直に出て来たら許してあげるけど…、もし出て来なかったら…、勇太の後で、お尻が今の2倍ぐらいに腫れることになるわよ〜?」
「…ひっ、ひいっ…!?」
拓也は思わず悲鳴をあげてしまい、観念して出ていくしかなくなった。
「…あ、あの…。」
「…起きたのね、拓っくん。…勇太のお尻ペンペンが終わったらお話があるから…、拓っくんもそこで待っていて?」
「…は、はい…。」
…また、お尻を叩かれるんだろうか?
今日はもうお尻ペンペンしないから…、と奈津子に言われ、安心して眠っていたはずの拓也だったが…、不可抗力とはいえ、勇太がお尻ペンペンされているのを外でしばらく聞いていたことへの罪悪感が、拓也をどんどん不安にさせる。
「…さ、勇太。…とりあえず、今日はあと30回ね?…我慢出来る?」
「…ぐすっ…。…はいぃ…。」
「…いくわよ?」
…バシィィィッ!!!パァァァンッ!!!パァァァンッ!!!バチィィンッ!!!パシィィィッ……、
「…ひっ…!!?…あっ…!!?…ああああ…!!!」
…パァァァン!!!バチィィィッ!!!バシィィィッ!!!バチィィンッ!!!パァァァン!!!パァァァンッ!!!
「…うわぁぁぁぁ〜ん!!!…おが…、おがあざん…、ごべんなざいぃぃ〜っ!!?」
「駄目。…動かない。」
「…うわぁぁぁ〜ん!!!」
…ピッシャァァァ〜ンッ!!!
凄まじい尻叩きの連打と、勇太の悲鳴。
見ているだけで拓也は、次に自分がこれをやられたらどうしよう…という恐怖で、ガタガタと震えてしまうのだった。
…バチィィィンッ!!!パァァァンッ!!!パァァァンッ………、
30回がようやく終わったのだと気づいた時には、音がしなくなってから20秒ほどが経っていた。
勇太は相変わらず号泣しており、奈津子も叩き疲れて肩で息をしている。
拓也はその光景を見ながら…、次は自分なのだろうか、と泣きそうな顔で奈津子を見ていた。