「…拓っくん…、もう少し待ってね?…勇太が落ち着いたら"お話"しましょう?」
「…えっ?…あ…っ、はい…。」
どうやら即お尻ペンペンされるという可能性は低そうで、拓也はとりあえず安堵する。
しかし…、"お話"というのがどう考えても叱られる想像しか出来ず、まだ気は抜けずにいた。
「…えっく、…ぐすっ…。」
「…そろそろ落ち着いた?勇太。」
「…ひっく…、…はい…。」
「…じゃあ、そのままで良いから聞きなさい。」
奈津子はゴホン、と一つ咳払いをした後、拓也と勇太に対してお説教を始める。
「…まず2人とも。お尻ペンペン"され過ぎ"です。拓っくんは連絡帳のぶんもあるから、ある程度仕方ないにしても…、それに加えて宿題を忘れるなんて、言語道断。」
「…はい。」
「…それから、勇太。…お母さんが最近、拓っくんにばかりお尻ペンペンしてるから…寂しかったのね?」
「…ぐすっ…、…はい…。」
「…だからウソをついてわざと叱られた、と。」
「…はい…。」
「…だったら最初から、正直にそう言いなさい。…勇太が望むなら、お母さん何回でもお尻ペンペンしてあげるから…。たとえ悪いことをしていなくても、されたくなったならちゃんとお母さんに言うこと。…わかった?」
「…はい。」
「…まったく、甘えん坊なんだから…。」
口ではそう言いながらも、奈津子は勇太の"赤ちゃん返り"のような行動を、本心では愛しいと思っているらしく、尻を腫らした勇太を撫でるその表情は、聖母のように優しく微笑んでいた。
「…それじゃあもう1つ、お説教の続きね?お尻ペンペンされたい時は沢山してあげるから…、ウソをつくのだけは絶対にやめなさい。…お母さん、それは本当に嫌いなの。勇太もよく知っているでしょう?」
「…うぅっ…、はい…。」
「…もし今度ウソついたら…、最低でも右側100回、左側100回…、ううん、さっき言ってたそれは無しにしましょう。」
それを聞いた勇太は一瞬、安堵したが…。
「…300回ね。」
「…は?」
「…お尻の右側を100回、左側を100回…、そのあと、真ん中の割れ目も100回…。…うん、そうしましょう。」
「…えっ…?…ちょっ…、待って待って待って…!?」
「…だから、もし今度ウソをついたら…の話よ?」
「…で、でも…!?」
勇太は動揺を隠せていなかった。
じつはまだ、奈津子に正直に言えていない悪事が幾つも残っていたのである。
母親である奈津子は、そんな勇太の心情を見透かしたように、揺さぶりをかけ続ける。
「…大丈夫よぉ?勇太。…お母さん、勇太がウソさえつかなかったら…、お尻ペンペン300回なんてしないから…。」
「…あ…っ、う…、あっ、あの…。」
「…うふふ、何を焦っているの〜?勇太。…大丈夫、お母さん今日はもう、お尻ペンペンしないからね〜?」
奈津子は、罰が軽いうちにすべて告白してしまおうという勇太の逃げ道を、完全に塞いでしまった。
これで勇太は、"ウソをついたらお尻ペンペン300回"という罰を、強制的に約束させられてしまったことになる。
「…それから…、拓っくん?」
「…は…、はいっ!?」
「…連絡帳のぶんも、なるべく早く消化したいところだけど…、ウソをついたらさすがに、それ以上は叩けなくなっちゃうから…。拓っくんも、ウソついたら駄目よ?」
「…えっ…?…あ、あの…?…300回って、僕も…?」
「えぇ、もちろんよ。勇太と同じ、って言ったでしょう?」
「…ええ〜っ!?…さ、さんびゃく…!?」
「あはは…。だから、ウソをつかなければ良いのよ?…拓っくん。…おばさん、今日のぶんは特別に見逃してあげるから…。」
「…えっ?…き、今日…?」
「…宿題を忘れたことを、おばさんに正直に言ったら…、どのくらいの強さで、何回くらい叩かれるのか…、ってところかしら?拓っくん。」
「…え…?」
拓也の表情が、一瞬で凍りつく。
「…うふふ…、おばさんが気づいてないとでも思った?…昨日あれだけお尻ペンペンしたのに…、今日も宿題を忘れました、なんて普通は言わないものね。…あぁこれは、拓っくんが"実験"してるな…って、すぐにわかっちゃった。」
「…あ、あの……?」
「…連絡帳のぶんを続けて叩いたのは、その罰のつもりでもあったんだけど…。…拓っくんも勇太と同じで、沢山お尻を叩いても痣になりにくい体質みたいだし…、まぁ、300くらいは大丈夫よね?…うふふっ…。」
奈津子は痣になるかならないかの"限界"について話しており、つまりはそれだけのお尻ペンペンを、拓也にも与えるつもりがあるという意思表示だった。