「…拓也君、いま言った通りよ?…おばさんを"説得"出来たら、お尻ペンペンをやめてあげる。」
…ピシャァァァァァンッ!!!!!
「…ああああっ!!?」
「…もし、出来なかったら…。」
…本当に、1時間経っても終わらないからね?
その言葉が、拓也の心を完全にへし折った。
「…うわぁぁぁぁぁん、ごべんなざいぃぃ〜っ!!?」
「…駄目っ。」
…バシィィィィィィッ!!!!!
「…ああああああ〜っ!!?」
「…ほら拓也君、おばさんを説得しないと…。」
「…ぐずっ…、…だっで…、…だっでぇぇ〜っ!!?」
…ピッシャァァァァァ〜ンッ!!!!!
「…うわぁぁぁぁぁぁ〜ん!!!」
…これが、綾子の母親の"本気のお尻ペンペン"だった。
説得出来たら許してあげる、というのは建前で…、実際は、悪さをした子供が泣いて会話が出来なくなるまで延々と尻を叩き続け…、今度はそれを理由に、またお仕置きをするのが常である。
30分や1時間というのはさすがに脅しだったが…、現在進行系で尻を叩かれ続けている子供には、それが本当にしか聞こえない。
結果、さらに大泣きし、お仕置きの効果を高めているのだ。
「…拓也君、おばさん最初に聞いたわよね?本当に痛いよって。…後悔しない?…って。」
「…ひぐっ…、…ぐすっ…!」
「…そうしたら拓也君、"うん"って答えたわね?…おばさん聞いたわよ?…だから拓也君、おばさんに何回お尻ペンペンされても仕方ないわよね?」
「…うぇぇぇぇん…!…ごべんなざいぃ…!!」
「…ごめんなさい、じゃ無いの。…どうしてこんなことをしたのか、ちゃんとおばさんが納得出来る理由を話すまで、おばさんお尻ペンペンやめませんからね。」
…バッチィィィィィィ〜ンッ!!!!!
「…ぞんな…!!?…ぞんなぁぁぁ〜っ!!?」
拓也の尻は、早くも痛みのピークを迎えようとしていた。
勇太の母親に叩かれた時とは違い、いつ終わるのかさえ全く知らされていない。
あちらも途方もない数ではあったが…、ウソをついた時の"お尻ペンペン300回"が最高刑であり、裏を返せば、それさえ我慢出来れば許して貰えるというゴールが見えていた。
ところが綾子の母親は、"30分"、"1時間"という、非常に曖昧で絶望的な指針を示しただけである。
…ピシャァァァァァ〜ンッ!!!!!
「…いだい…、…いだいぃぃ〜っ!!!」
拓也は大泣きしているが、実際のところ、尻に残るダメージは奈津子や美由紀の時に比べるとまだまだ軽い。
ただ…、1発ごとのあまりの痛みと、"自分の言葉で綾子の母親を説得出来るまでは終わらない"という絶望感。
さらには、自らでそれを頼んでしまった後悔に加え…、こんなに痛くて恥ずかしい罰を与えているその相手が、同じクラスの女子の母親であるという現実…。
…色々な感情が拓也の心を支配し、掻き乱していく。
「…もう、拓也君ったら…、…そんなに泣いてちゃ、おばさんを"説得"出来ないわよ〜?」
…バッチィィィィィ〜ン!!!!!
「…いだぁぁぁぁっ!!?…だっで…、だっでぇぇ〜っ!!?」
「…だってじゃありませんっ。」
…ピシャァァァァァァ〜ンッ!!!!!
「…ああああああ〜っ!!?」
拓也はもう完全に、自身で考える力を失っていた。
痛い、痛い、痛い…っ、頭に浮かぶのはその言葉ばかりで…、綾子の母親に許して貰うよう説得するなど、もはや不可能であった。
「…ほら拓也君っ、さっきの…、"どうせされるなら痛くして欲しい"はどこへ行ったのっ!?」
…バシィィィィィ〜ンッ!!!!!
「…ぎゃああああ〜っ!!?」
「"よその子に、本気でお尻ペンペンなんて出来ないでしょ"…だったかしら?…どう?拓也君…、これでもまだ、おばさんにそんなことを言える?」
…バチィィィィィッ!!!!!…パァァァァァ〜ンッ!!!!!…バシィィィィィィ〜ンッ!!!!!
「…いあぁぁぁ〜っ!!?…ごべ…っ、…ごべ……っ!!?」
「…"ごめんなさい"しても、まだまだ許しませんよ〜?」
…ピッシャァァァァァ〜ン!!!!!
「…うあああああ〜っ!!?」
拓也にとって、綾子の母親のお尻ペンペンの威力は完全なる誤算だった。
…ただ、本当に恐ろしいのは…、綾子の母親は拓也を特別強く叩いている訳ではなく、いつも娘や、時にその友達の女子にもそうしてきたように…、"この家では普通"のお尻ペンペンをおこなっているだけだった。
(…それにしても、わざわざ叱って貰いに来るなんて…、…拓也君って、本当に真面目な良い子なのよね…。…本当は、ここまでしたくないんだけど…。)
綾子の母親は、拓也がわざと尻を叩かれに来たこと自体は見抜いていたのだが…、まさか本当に、"ただ叩かれたくて来た"などとは夢にも思っていなかった。
なまじ拓也と面識があるぶん、"この子は真面目だから、お母さんにお仕置きされただけじゃ足りないと思って、私にもお願いしに来たのね…"などと拓也を『真面目で良い子』だと思い込んでいる。
そんな拓也が、自ら決心をして"お尻ペンペン"の痛みに耐えに来たのだから…、自分は絶対に手加減をしてはいけないと、いち母親としての使命感のようなものを、強く感じていたのだった。
「…ほら拓也君!…お尻ペンペン、ずっと終わらないままで良いのっ!?」
…ピシャァァァァァ〜ンッ!!!!!
「…うぇぇぇぇ〜ん!!!…えっく…!…えっく…!」
「…泣いてたら、本当にずっとこのままよ?」
…パッシィィィィ〜ンッ!!!!!
「…あぐ…っ!!?…い、いや…、いやだぁぁ…っ!!」
「…嫌なら…、どうしたらお尻ペンペンやめて許して貰えるか、自分でよく考えて───、」
その時だった。
「…お…、お母さん…?」
「…あ…、綾子っ!?」
「…何、してるの…?…そ、その…、今…、お尻ペンペンされてる子って…。」
…拓也君…、だよね…?
綾子はおそるおそる、母親の膝へ寝かされているクラスメイトの顔を覗き込む。
「…な、何で…?…どうして、拓也君が…、お母さんにお尻ペンペンされてるの…?」
「…あ、綾子…、これはね…?」
「…ひ、酷いよ、お母さん…。…私が悪いことしたならわかるよ?…友達と一緒になって悪いことした時に、皆で順番にお尻ペンペンされるのもまだわかる…。…だけど…、家に帰って来たら、友達がお尻ペンペンされてるっていうのは、さすがに…。」
綾子は、抗議の眼差しを母親に向けながら、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「…はぁ…、仕方ないわね…。ちょっと可哀想だけど…、…拓也君?…綾子に、本当のことを言っても良い?」
「……本当の、こと…?」
「…えぇ。…どうして拓也君が、いまここでお母さんにお尻ペンペンされてるのか…。綾子が知ったら、何よそれ…、って怒るかもしれないけど。」
「……??」
「…じつはね…?」
綾子の母親は…、自らの解釈で、拓也がどのような経緯でこの家にお尻ペンペンされに来たのか、綾子に対して、事細かに説明するのだった。