しかも今回は思いきり尻を叩かれただけでなく…、同じクラスの拓也に、間近でその尻を後ろから見られてしまった。
綾子の感じた屈辱は…、はかり知れない。
(…そ、その上…、僕に"ごめんなさい"って言わせるなんて…。…僕もう一生…、綾子ちゃんに口をきいてもらえないんじゃ…?)
拓也の脳裏に、"絶交"の2文字がよぎる。
先ほど綾子がそう発言した際、母親にたしなめられてはいたが…、尻叩きが終われば、拓也に恨みの矛先が向くことは間違いない。
母親が介入出来ない、"学校内での関係"については、拓也がどう考えても、プラスの方向には動かない予感がした。
(…明日、学校でちゃんと謝ろう…。…それでも、許してくれるかどうかわからないけど…。)
話を聞くどころか、目線すら合わせてくれない可能性もある。
…と言うか、あれだけのことをされたら…、普通は絶交するんじゃないか?
…考えれば考えるほど、綾子から軽蔑されてしまう未来しか見えない。
「…さて、拓也君。…綾子のお尻ペンペンも終わったことだし…、少し、おばさんと2人でお話しましょうか?」
「…えっ…、…あっ…、はい…。」
「…ほら綾子、立ちなさい。…いつまでも泣いていたら…、拓也君に笑われちゃうわよ?」
「…ずずっ…、…はい…。」
…頼むから、これ以上綾子ちゃんを刺激しないでくれ…。
2人のやり取りを見ているだけで、息が詰まりそうになる。
「しばらく休んだら…、ちゃんとお片付けすること。…良いわね?綾子。」
…しなかったら、もう一度お尻ペンペンの刑よ。
綾子の母親はそこまでは口に出さなかったが…、拓也でもそれくらいは予想出来る。
綾子はポツリと「…わかった…。」と呟いたあと、着衣を整え、ふらふらと部屋を出ていった。
…拓也の方を振り返りもしない。
(…うわぁ〜…、やっぱり綾子ちゃん、すっごく怒ってるよ…。)
「…さてと。…拓也君?」
「…は、はいっ…!?」
「…確認だけれど…、拓也君はもう十分に反省出来たのよね?…さっきも言った通り…、おばさんまだお尻ペンペン出来るから、足りないなら正直に言ってね?」
「…えっ…、えぇっ…と…。」
拓也は両手で尻を覆う仕草を見せ、考えているフリをする。
…本当は、これ以上尻を叩かれるなんて御免だった。
しかし即答すれば、反省していないように見えてしまう。
拓也は、綾子の母親の顔色を窺いながら…、今しがた見せつけられた恐怖の尻叩きが自分に向かないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「…ぼ、僕…、おばさんに、わざとお尻ペンペンして貰うなんていう、とんでもない悪戯をしちゃって…。」
「…うん。」
「…それはとってもいけないことで…、おばさんに、いっぱいいっぱいお尻叩いて貰って…。」
「…ええ、そうね?」
「…すっごく痛かったけど…、何て言うか…、それくらい悪いことをしちゃったんだな…って、今は…、思ってます…。」
「…そっか。」
…それはいかにも小学生らしい、拙い感想文のようにも思えたが…、綾子の母親は、ちゃんと自分の頭で考えているわね、と好印象を抱いた様子だった。
「…わかりました。…ちゃんと反省出来たみたいね?…おばさん正直、もう少し拓也君のお尻をペンペンしないといけないかな…って思ってたから、きちんと反省してくれたなら助かるわ?」
「…えっ…、はっ…、はい…。」
(…うわぁ〜っ、…たっ…、助かったぁ〜…!?)
綾子の母親がまだ自分の尻を叩こうとしていたことに驚愕する拓也。
美由紀や奈津子にお仕置きされる時と比べても、1発の威力が尋常ではないため…、たったの20発程度を追加されただけでも泣いてしまうかもしれない。
…ほんの一瞬、安堵した拓也だったが…。
「…でも、さすがにお母さんにはお電話しなきゃね?こんなに沢山お尻叩いちゃったわけだし…。」
(…え?)
「…まぁ、拓也君も反省しているから…、あんまり怒らないであげて下さいねって、おばさんちゃんとお願いしてあげるからね?」
(…ま…、待って待って待ってぇ〜っ!!?)
拓也の額から、冷や汗がだらだらと流れる。
母親に…連絡?
…冗談じゃない、そんなことをされたら…。
「…まっ…、待っておばさん…、電話は…、いい…です…!?」
「…んん?…そういう訳にはいかないわよ、大人同士の事情もあるからね?」
「…だけど…!」
「…どうしたの拓也君?…やけに必死に見えるけど…、はは〜ん、さてはお母さんに怒られるのが怖いの?」
「…えっ…、う…、うん…、そう…、です…。」
「…うふふ、そうよね?お母さんにもお尻ペンペンされるかもしれないものね?…でもそれは、拓也君が悪いことをしちゃった自業自得だから…、お仕置きの延長だと思って我慢するしかないわね?」
「…はっ、はい…。」
拓也が本当に恐れているのは、じつはもっと別のことだった。
母親である美由紀に連絡が行けば…、母親は激昂し、拓也は間違いなく、お尻ペンペン200回の刑に処されるだろう。
…しかし…、それだけで済むならば…、まだ良い方なのだ。
問題はそのあと…勇太の母親である、奈津子にも連絡が届いてしまうことだった。
拓也は元々、自らの意志で奈津子に"自分にもお尻ペンペンして欲しい"と頼み…、それがきっかけでお仕置きされるようになった身である。
…さらに、"もうおばさんには絶対嘘をつかない"ことを約束させられ…、破った場合、奈津子からお尻ペンペン300回の刑が待っている。
嘘に関しては、勇太も同じ扱いであるが…、ほかの母親に悪戯でわざと尻を叩かれに行ったなんて知られたら…、どれほど叱られるか、想像するだけで恐ろしかった。
(…ま、まずいよ…、大変なことになっちゃった…。)
「…拓也君?」
「…ひゃいっ!?」
「…どうしたの?何だか顔色が悪いけれど…、おばさんがお家まで送って行こっか?」
「…え、…いや、いいです、いいですっ!」
「…そう?…今日はおばさんが沢山お尻ペンペンしたから…、少し泣き疲れたのかもしれないわね?帰ったら、お尻を上向きにして、しばらく横になるといいわよ。」
「…は、はい…。」
家になんて来られたら最悪だ。
拓也の母親と鉢合わせして、その場ですぐ尻叩きの刑…なんて事態にもなりかねない。
そう判断した拓也は、何とか送迎だけは回避し、自分で帰るからと綾子の母親と距離をとる。
「…気を付けて帰ってね?…あと、お電話はまた明日にしてあげる。…ふふっ、今日はもうこれ以上、お母さんにお尻ペンペンされたくないでしょう?」
「…あ…。」
綾子の母親は…、"勇太の母親"が"拓也にも"お尻ペンペンする関係であることをまだ知らない。
公園で見たのは、拓也と勇太がそれぞれ自分達の尻を擦っている姿で…、まさかお互いの母親にまでお尻ペンペンされている間柄などとは知る由もなかった。
「…お、おばさん…、ぼ、僕…。」
「…はいはい。お母さんからのお尻ペンペンは明日で良いから…。…それまでに、ちゃんと治してね?」
「…あ…っ、…は、はい…。」
言いそびれてしまった拓也は…、また1つ嘘が増えてしまったような気持ちになり、綾子の母親に対しても後ろめたさを感じてしまうのだった。