(あ〜、どうしよう…。本当に憂鬱だよ…。)
翌日。
学校の教室で1人、机に突っ伏した拓也は…、これから待つお尻ペンペンに関することで頭が一杯だった。
"お母さんにお電話するのは、明日にしてあげる"。
昨日、綾子の母親からそう言われている拓也は、それが一体いつ、何時頃のことなのか気になって仕方がない。
…僕が学校へ行っている間に、電話がくるのかな…?
…それとも…夜?…ご飯を食べている最中に電話なんて来たら、お母さん絶対にカンカンだよ…。
ありとあらゆる可能性を1つずつ考えては、マイナス方面の想像ばかりが膨らんでいく。
…もしもまた同じ日に、自分の母親と勇太の母親2人から尻叩きを受ける羽目になったら…。
…地獄なんてレベルじゃない。
まして今回は2度目なのだ。
先日…、拓也の母親へ指導するような形で、勇太の母親から尻叩きを受けた拓也だが…、あの時とはまるで状況が違う。
美由紀と奈津子…、2人ともがカンカンに怒るであろう、"絶対にやってはいけないこと"を拓也はしてしまったのだ。
(…お尻ペンペン200回の後に…、300回…!?…ああ〜っ、絶対に嫌だよ、そんなの…!?)
"もし家のお母さんにバレたら…、大変なことになるよ…!?"
あの時、勇太の忠告を素直に聞いていれば、こんなことにはならなかった。
…今さら、猛烈に後悔する拓也だが…、もう"お咎めなし"で済むはずがない。
…そしてもう1つ、拓也には大きな心配ごとがあった。
(…綾子ちゃん…、僕と口聞いてくれるかな…?)
昨日、拓也のせいで母親から強烈な尻叩きを浴びていた綾子は…、果たして許してくれるのか。
自分への尻叩きに関すること以上に、拓也はそれが気がかりだった。
(…あっ…、きっ…、来た…!?)
いつも通り、教室へ入って来た綾子は…、机の上に鞄を下ろし、チラチラと拓也の方を気にし始めた。
"絶交"の発言以来…、今後無視され続けることを一番恐れている拓也は、話し掛けるなら今しかないと、綾子の席へ向かう。
…しかし、次に綾子がとった行動は意外なものだった。
「…拓也君、少しだけ…、いいかな…?」
「…えっ…!?…うっ…、うん…。」
何と、先に話し掛けてきたのは綾子の方だった。
無視されるとばかり思っていた拓也は…、向こうからの予想外のアプローチにほんの少し安堵する。
「…あ、綾子ちゃん、あの…っ。」
「…待って、…教室で誰かに聞かれたら恥ずかしいから…、場所を変えて欲しい…。」
「…えっ?…う、うん…。」
昨日はゴメン、と謝ることばかりを考えていた拓也は…、恥ずかしそうにモジモジ赤面している綾子を見て、何だか様子がおかしいことに気付く。
"絶交"を口にするほど怒っているはずの綾子が…、人目を気にしながら、周りに悟られないよう必死に気を遣っている…。
(…そう言えば綾子ちゃんって、学校では"優等生"なんだっけ…。)
「…拓也君。…誰にも言ってないよね?」
「…えっ?」
「…昨日のこと…。」
「…う…、うん…。もちろん言ってない…。」
「…なら、"絶交"は許してあげる…。…はぁ〜…、もう、最悪よ〜。こんなにお尻叩かれたの久し振り…。」
「…ごめん、…凄かったもんね、昨日のお尻ペンペン…。」
「…えっ?」
綾子は、"何を言っているんだ"とでも言いたげな顔で拓也を見る。
「…違うってば。…昨日じゃなくって、"今朝"の話…。」
「…えっ?」
「…だから今朝っ!…家を出るまで、ず〜っとお母さんにお尻ペンペンされてたの!…昨日、拓也君に"絶交"だって言ったからって…。」
「…え…、ええ〜っ!!?」
「…おかげでお尻、パンパンに腫れちゃった…。もうすぐ授業も始まるのに、じっと座ってなきゃいけないだけで憂鬱よ…。」
…まだ、すっごくヒリヒリしてるんだから…。
そう言いながら、恥ずかしそうに両手を尻に当てる綾子。
拓也はその仕草を見てつい…、昨日…、綾子が母親から丸出しの尻を叩かれ、真っ赤に腫れ上がっていた光景を思いだしてしまった。
「…拓也君?」
「…ひゃいっ!?」
「…今、変な想像したでしょ…?」
「…しっ…、してないよ…!?」
「…言っておくけど、私のお尻を見たことはまだ許してないからね?」
ジト目で睨まれ、反射的に背筋が伸びる拓也。
「…はぁ、まぁいいわ。…とにかく、今日も絶対ウチに来てね?」
「…えっ、今日…?」
2日続けて女子の家にお邪魔するなんて、迷惑じゃないかな…?
そう思って、遠慮しようとした拓也だったが…。
「…もうっ!…拓也君が"許す"って言ってくれないと私…、明日も明後日も、お母さんからお尻叩かれちゃうんだよ?…自分で説明させないでよ、こんなこと…!」
「…あ…っ!」