…そういえば、あの時…。
"毎日おばさん綾子のお尻を叩いて、『取り消して』ってお願いしてあげる…。"
…あれは、まさか…、本気だったのか…?
綾子の母親の恐ろしさを再認識した拓也は、自分のせいで綾子がそんな状態になっていることを平謝りする。
「…ご、ごめんね綾子ちゃん…。絶対に、今日も行くから…。」
「…絶対よ?…約束だからね?…もし来なかったら、絶こ…、」
…そこまで言いかけて、綾子は自分がなぜ今朝のような酷い目に遭ったのか…、尻の痛みと共に思いだす。
「…コ、コホン…。…まぁ、ちゃんと来てくれたらもう、許してあげる…。」
「…う、うん、わかった…。」
絶対行くね、拓也が自分にも念押しするように綾子と約束すると…、そこでようやく綾子が笑顔を見せた。
「…あ〜、まだお尻ヒリヒリするよぉ〜、…誰かさんのせいだ〜。」
「…ご、ごめん…。」
「…くすっ、…冗談よ。…まだ痛いのは本当だけど…、私、慣れてるからね?」
今まで何回叩かれたと思ってるの。
拓也にこれ以上気を遣わせないためか、綾子は自らの尻をパシッと軽く叩き、平気だとアピールする。
「…で、でも…、大丈夫…?」
「…痛いけど、平気。…座ってるとやっぱり辛いけど…。」
「…そ、そうなんだ…?」
思えば拓也は、お尻ペンペンの直後に学校の椅子に座った経験はないので…、今の綾子の辛さは想像することしか出来なかった。
「…でも私も…、朝、学校に行く前にお尻叩かれることなんてほとんど無かったから、言われた時はびっくりしちゃった。」
「…そ、そうだよね…。」
「…うん。…学校の授業もあるし、少しは加減してくれるかと思ったんだけど…、逆だった。…授業中もずっと痛いようにします、って。」
「…ひぇぇ…っ。」
綾子の母親のお尻ペンペンを、身をもって経験している拓也は…、綾子の話をつい自分に置きかえてしまう。
…もし、自分がそんなことになったら…。
「…慣れてる私でも、今朝のはさすがにきつかったから…。…拓也君だったら…、お尻が痛すぎて、しばらく起き上がれないかもね?」
「…そ、そんなに…!?」
「…くすっ、…良かったわね、私のお尻だけで済んで…。…でも、さすがに毎日やられたら泣いちゃうから…。…必ず来てよ?拓也君…。」
「…う、うん…。」
もちろん行くつもりだが…、拓也がうっかり忘れて、綾子が明日も続けて母親からお尻ペンペンの刑…なんてことになったら目も当てられない。
…そうなったら今度こそ、"絶交"されてしまう。
「…僕が行って、"許してあげて"って言えばいいんだよね?」
「…うん、お願い…。私が明日の朝もお尻ペンペンされるかどうかは…、拓也君にかかっているんだから。」
「…が、頑張るよ…。」
たった一言、"お願い"をするだけなのに…、相手が綾子の母親というだけで、自分も巻き添えでお尻ペンペンされてしまうことまで想像する拓也。
それが考えすぎでなく…、十分にあり得る展開だということも、拓也は良くわかっていた。
「…じゃあ私、先に教室戻ってるね。」
「…う、うん…。」
綾子と2人きりで話をしていたのがバレたら変な誤解を招きかねないからと、拓也は少し遅れて教室に入ることにした。
(…ん?…あれは…。)
その時、廊下で見つけたのは…、キョロキョロと辺りを見回し、誰かを探している様子の勇太だった。
…表情は、かなり焦っている。
「…あっ!?…た、拓也君っ!?」
「…えっ…?」
どうやら勇太は拓也をずっと探していたらしく…、はぁはぁ息を切らしながら駆けよってくる。
「…たっ…、拓也君…っ、はぁ…っ、…大変…、だよ…!?」
「…どっ、どうしたのさ勇太君、そんなに慌てて…!?」
「…大変なんだよ、家のお母さんが…、拓也君に伝えてって…!」
「…えっ?」
「…"今日、必ず家に来なさい"って…!…た、拓也君…、一体、昨日何があったの…!?」
拓也はその瞬間…、綾子の母親に言われた言葉が再び頭をよぎった。
"お母さんにお電話するのは、明日にしてあげる"。
(…ま、まさか…っ!?)
もし、拓也が家を出たあとで…、拓也の母親である美由紀に連絡が入ったのなら…、すでに勇太の母親へ"お尻ペンペンの依頼"をしていても何ら不思議ではない。
拓也よりも登校時間が遅い勇太が家を出る前に…、全てを知った奈津子が、拓也を呼んでいるとしたら…。
(…も、もうお終いだぁ…!?)
ウソをついたらお尻ペンペン300回…、と公言している奈津子と、お仕置きは絶対にお尻ペンペン200回が最善だと思い込んでいる美由紀。
その2人から…、今日、同じ日にお尻ペンペンされてしまうかもしれない…。
拓也は完全に塞ぎ込んでしまった。